ダンジョン1
世界観妄想系日常小話◇2009/03/05 日常
昼飯を食い終わると、そろそろ日課のご近所ダンジョン探索に出かける時間だ。
狭いダンジョンで弱いモンスター倒してちまちま経験値を稼ぐなど、天才で英雄の俺様には全く似つかわしくない。
しかし、日々思うがままにだらだら過ごしていると、あっという間にレベルが下がってしまう。
弱っちい俺様など、せこせこ努力する俺様より更に似つかわしくない。
例えば、美女がモンスターに襲われている場面に出くわした時。颯爽と現れた英雄(つまり俺様)が、
さくっとモンスターを倒して助けてやれば、感謝の印に美女の股も開くというものだ。
そのためにも、ある程度のレベルは維持しておかないといかん。チャンスをものにしてこその英雄だからな。
簡単な装備を調えて家を出ようとする俺様に、シィルがおやつ用のおにぎりを寄越してくる。
「シィル、今日の午後は予定があるか?」
「内職は一区切り付いたので、懸賞の応募はがきを書こうかと」
そういえば、シィルの最近の趣味は、懸賞だったっけな。英雄の奴隷にしては、あまりにもささやかな趣味だ。
当選したところで、じゃがいも一箱とか、ピンクうにゅ~ん一ダースとか、何かせこいヤツばかり選ぶんだよな。
どうせなら、世界中の美女を集めたハーレムとか、大陸の王になる権利とか、そういう懸賞に応募すればいいのに。
というか、そんな懸賞があったら、俺様が真っ先に応募するわけだが。
「そんな暇があるなら、今日は俺様に付いてこい」
「というと、ダンジョン探索ですか?」
そりゃあまあ、ロングソード下げてナンパって事はないだろうよ、シィルちゃん。
俺様の計画はこうだ。
近所のダンジョンは、レベルの高いモンスターは住んでいない。
しかし、数だけはそれなりにいる。それなりの経験値を稼ぐためには、何回も戦闘を繰り返さなければならない。
はっきり言って非常に面倒くさい。面倒くさい仕事は奴隷であるシィルがやるべきだと思う。
つまり、戦闘はシィルに任せて、俺様は楽して経験値ゲットだぜ!
「たまにはお前もレベル上げておかないとな」
「懸賞に当たっても経験値になるんですけど……あと、内職や家事とかでもちょっと……」
……えっ!?
そうか、いつもおうちでお留守番のシィルが、それなりにレベルを維持しているのには、そんなからくりがあったのか。
だが、たまには戦闘もこなさないと勘が鈍っていざというとき使い物にならなくなるからな、とか言ってやると、
俺様の言葉に納得したシィルは、ダンジョン探索の支度をするために奥に引っ込んだ。
町はずれのダンジョン。
ギルドのやつらはもちろん、いきがった一般人などもたまに入り込んでモンスター退治に精を出している。
入り口付近のイカマンにすら苦戦しているやつらを尻目に、俺様はシィルを連れて奥へと進む。
「じゃあとはよろしく、俺様は温かく見守っていてやるからな」
「はい、解りました」
シィルは周りをきょろきょろと見回しヤンキーを発見、炎の矢であっさり仕留める。俺様は見ているだけ。
これで経験値はちゃんと入るんだから、楽ちんでいい。
たまに仕留め損ねてダメージをくらい、自分でヒーリングかけている。世色癌も消費しないし、経済的だな。
「ランス様!」
「ハニーです、私には無理ですう」
ちっ。魔法使いはハニーに対して無力だからな。仕方ない、ここは俺様の華麗な剣技を披露してやるとしよう。
鮮やかなステップでハニーをたたき割ると、シィルが感嘆の声を上げる。
シィルにいいところ見せても何の得にもならんが、素直な賞賛は悪くない。
「ほれ、片づけてやったぞ、あとはお前がやれ」
そして、さらに数回の戦闘の後。
「ランス様あ」
またハニーかよ。
一人で来る時はあまり気にしていなかったが、このダンジョンって、結構ハニーが多いんだよなあ。
魔法使いでなければグリーンハニーなんかは格好の経験値の元だが、
こうしてシィルに任せていると、鬱陶しい事この上ない。やれやれと、ひと息つく間もなく。
「お願いしますランス様!」
って……何だ、このハニーの群れは!
そういや、今日入り口付近にいたのは、魔法使い同士のパーティだったような。
あいつらが倒せなかったハニーが、こっちの方に押し寄せているのか。なんて迷惑な。
割っても割っても無限に湧いてくるハニーに、いい加減腹が立ってきたぞ。
「シィルっ、ご主人様ばかり働かせる気か!?」
「あう、でも私ハニーは」
「うるさい、魔法がダメなら素手で割れ!」
えーと、言わなきゃよかった、かも知れない。
さすがに素手ではどうにもならなかったが、その辺で拾った石を手に、ハニーを撲殺するシィル……
今夜は、ちょっとイヤな夢が見られそうだ。