schole〜スコレー〜
トップページ小説>絶望こたつ

短編物語・絶望こたつ

 僕の家のこたつは人を食う。
 
 初めはこんなに捻じ曲がった奴じゃなかった。このこたつは三年前から置いてあるけど、人を襲い始めたのはほんの
四ヶ月前だ。
 僕の家はその頃、七人家族だった。僕、姉、兄、父親に母親。ばあちゃん、じいちゃんだ。
 最初はばあちゃんが食われた。僕と一緒にこたつでみかんを食べながらテレビを見ていたら、いきなり中に吸い込ま
れたのだ。不思議に思って布団をめくって覗いてみると、こたつの機械の部分でばあちゃんがミンチにされていた。ミン
チにされて、その後、吸い込まれたのだ。僕はすぐに怖くなって逃げ出し、父親にその事を伝えた。しかし父親は僕の
言う事を信じず、こたつの中に入ってしまった。まぁそれで、ばあちゃん同様に父親も食われてしまったわけだ。
 これで僕の家族は残り五人。不幸中の幸いという奴なのか、父親が食われる現場は他の家族もみんな見ていたの
で、こたつの変貌は家族全員に知れた。
 しかし問題が生じた。こたつが人を食うとわかっても、どうする事もできないのだ。動かそうとすると食われてしまうし、
焼こうにも、それでは家が燃えてしまう。道具を使って壊そうとしたのだが、何をしてもびくともしなかった。
 だから仕方なく、僕らはそのこたつをそのまま放置する事にした。
 しばらくの間は僕の家族はこたつを警戒していたんだけど、一週間後、ついついボーっとしていたのか、兄がこたつに
入ってしまった。当然、すぐに兄は食われた。
 僕らはさらに警戒を強めた。僕らはその部屋自体を封印し、一切近寄らないようになった。
 …………でも、やがてある事に気付いた。封印した部屋には、テレビが置いてあったのだ。僕の家にはあまり娯楽が
ない。テレビが僕の家の娯楽の中で大きな位置を占めていたのだ。
 そうすると、そのテレビを取りに行かなければならない。
 姉と母は別の部屋で待機させて、じいちゃんと僕とでその部屋とこたつの様子を見に行く事になった。
 部屋の扉を開ける。
 こたつは暴れていた。その場を動いてはいないのだが、布団がうねうねと動き回り、その周囲の物を破壊していたの
だ。すぐに僕の横にいたじいちゃんは布団に捕まり、食われてしまった。そうするとこたつも満足したようで、暴れるのを
やめた。
 僕の家族は、僕、母、姉の三人になった。
 こたつは周期的に何かを食わなければいけないようなので、僕らはこたつに一日一回、300gの牛肉を与えるように
なった。
 それからまたしばらくすると、何故か僕らはそのこたつに愛着がわいてきてしまった。もうこたつを壊す気などなくなっ
た。今ではもう、こたつ☆ラブだ。彼はすでに我が家のペット的存在。欠かせない存在となった。




 一ヵ月後、僕は小学校でいじめられていた。
 少し前から、僕のランドセルにはいつの間にか落書きがされてたりしだした。僕は傷ついた。何で僕はこんな目に合う
んだろうと思った。何で彼らはこんな事をするんだろうとも思った。それに、新たな問題も生じ始めた。家族の稼ぎぶち
である父親も死に、こたつの餌代も馬鹿にならないため、お金が足りなくなってきたのだ。
 僕の家族は緊急会議を開いた。例のこたつも交えて。うんうんと一晩話し合った結果、素晴らしいアイデアを姉が思
いついた。
 そう、僕をいじめているクラスメイトをこたつに食わせるのだ。そうすれば僕のいじめも解消されるし、こたつの餌代も
必要なくなる。
 本当にすばらしかった。僕の姉は天才だと思った。
 次の日、早速、僕をいじめているクラスメイトを家に呼んだ。新しく発売したゲームをやらせてあげると言えば、一発だ
った。
 例のこたつの部屋まで案内すると、すぐに彼はそのこたつに座った。その日はまだ餌をやってなかったので、クラスメ
イトはぺろりと食われた。成功だった。
 人間ほどの物を食わせれば一週間は何も食わせなくても大丈夫だ。
 その一週間後、また僕をいじめていたクラスメイトを呼び、こたつに食わせた。
 何回もそれを繰り返し、僕をいじめるクラスメイトはいなくなった。僕をいじめると神隠しに合う。そんな噂がいつの間
にか広がっていたのだ。
 そうするとまたこたつの餌代に悩み始める。
 緊急会議だ。そしてまた姉が思いついた。じゃあ近所のノラ猫を食べさせればいい。
 やっぱり僕の姉は天才だった。
 次の日、ノラ猫を一匹連れてきて、こたつの中に放り込んだ。すぐにノラ猫は食われてしまった。これまた成功だっ
た。
 



 しかし、そんな生活が長く続くはずもなかった。
 ノラ猫が消えたことで僕の家に疑問を持つ人間が現れたのだ。隣の家の田中さんだった。ある日突然、田中さんは僕
に訝しげに訊ねてきた。最近、この辺りのノラ猫がいないような気がしないか? ちょっと前に君がノラ猫を抱えている
所を見たんだけど……。
 緊急会議だ。天才の姉が思いつく。じゃあ田中さんを食べさせてしまおう。
 次の日、田中さんはこたつに食べられた。
 でも、どんどんどんどん僕の家に疑問を持つ人間が現れ続けた。その度に僕達はその人間をこたつに食べさせてい
った。
 僕がいじめられ始めた頃から三ヵ月後、つまり今、限界が訪れた。警察の人間が僕の家に訪れたのだ。彼らは強引
に家の中に侵入してきて、例のこたつを見つけた。
 僕のこたつ!
 僕らが警察に捕まるという理由だけではない。こたつを守るため、僕はこたつの前に立ち塞がった。
「僕のこたつをいじめるな!!」
 僕は叫んだ。
 警察の人達は僕を押しのけ、こたつを動かそうとした。
 しかし、突然、彼らは消えた。
 こたつが彼らを食べたのだった。
「あああああああ!!」
 こたつが初めて声を上げた。もしかしたらこれは警官達の叫び声なのかもしれない。だけどそんな事は気にしない。

 そっか、こたつ。僕を守ってくれたんだね。ありがとうこたつ。

「ああ、ああああああああああ!!」
 こたつは僕の心の声に応える。
 こたつ…………………………………。



 愛しい愛しい僕のこたつは、僕をその中へと招き入れた。










 どのくらい時間が経ったろう。

 何だか頭がボーッとしてるなぁ。周りの輪郭もぼんやりと薄れていく。
 これは何なんだろう? こたつはどこにいるんだろう?
 朦朧とする意識の中で僕は考えた。
 元はと言えば、こたつはどうして、僕らを襲い始めたんだっけ?
 ………………襲う?
 いや違う、こたつは僕の家族だったんだよ。僕らを襲うわけがない。
 ホント、ホントに。……………ホントに?

 ――――――姉が微笑んでこちらを眺めてる、ような気がする。僕がそんなに面白いのかな? それに、母の姿が見
えない。さっきまでは姉の隣に居たのに。
 
 えーっと、そうだ。そういえば兄はどうしてこたつに入ってしまったんだろう?
 危険だって知ってたのに。
 ……………あれ? 危険って一体何が? あれ?

 ――――――僕を見つめる、姉の瞳は、どこまでも深い、吸い込まれそうな鈍色をしてて、それはまるで、人形のよう
で。

 あぁ、そうだ、そうだった、僕らは7人家族だったんだ。
 えーっと、僕と、兄と、母親と、父親と、じいちゃんとばあちゃんと…………あれ? もう一人、誰だっけ? あれ? あ
れ? あれ?
 
 ――――――じゅくじゅくと何かを咀嚼する音。女の人の甲高い笑い声。生ぬるい臭気。


 7人目を思い出す前に僕の意識は途絶えた。






【トップへ】
戻る