『黄金の砂、白銀の矢』
古ぼけた遠い時代の遺物。
己の部下が手も足も出ないことなど、最初から百も承知だった。
そう簡単にあいつに触れて貰っては、俺が困る。
ただ、その中の一人が知らせてきた。
誰かが泣いているようだ……、と。
そんなものは、あいつしかいない。
なぜなら、俺は未だ、此処にこうしている。
「出かけないんですか?」
「ああ」
「でも、そのうちには、出かけるんでしょう?」
「……」
そうだ、必ず。
まだ、その時は来ないのか。
それとも、もうそろそろ潮時か。
どちらにしても、二度と放すことはないだろう。
「いっそ、跪いてみるか?」
「生涯に一度くらいは経験なさってみればいいかと…」
「鼻で笑われるがオチだな」
いつもの葉巻を咥えて、火を点ける。
揺蕩う煙の向こうに、あいつの横顔を見ていた。
「首長……、ルーカス」
「なんだ」
「そろそろ、けじめを」
「大きなお世話だ」
自分のことは、自分で決める。
あいつのことも、俺が決めるさ。
半年前。
エカナは俺の城砦に独りで乗りこみ、俺の『宝』を奪って行った。
女の衣装を纏い、絹を被り。
砂の風に黒髪をなびかせながら銀の長弓を引き絞るその姿に、
一瞬で灼かれた。
「古城に立て篭もって何を思ってる?」
俺のことだけ、考えていろ。
俺の『宝』を細い腕に抱いて、遥か砂漠の夢を見ていろ。
今夜も、泣き叫んでいろ。
未だ、届かない。
黄金の砂も、白銀の矢も。