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『に』
人形劇の舞台裏


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―お前は『人形』じゃないか!!!!


ある日、僕に向かって『外の人』が言った言葉。
ママはすごく傷ついた顔をして、お兄ちゃんたちは僕を引っ張った。


僕は、ママを傷つけたあの人を今にも殴ってしまいそうだったから。


必死にお兄ちゃんの手を振り払おうとしながら、じぃっと見る。


「…何で止めるの?!桜おにいちゃん!」
「人は殴っちゃいけないんだよ、玖珂」
「でも!でも!!ママを傷つけた!この人!!!!」


やっと振り払った腕で、僕は、その、ソファーに座っている『外の人』を指差した
一緒に居た桜お兄ちゃんが苦笑交じりに僕の腕をつかんで、そっとおろした。
皇くんも僕と同じく、すごく怒っているけど、なぜか何もしない

「……そうだね。でも、駄目だよ。」
「…なんで?!」
「人を殴るのはいけないことだから。もちろん、傷つけるのもいけないことだよ」
「……謝れ!!!」

桜お兄ちゃんが言い切ったとほぼ同時に、爆発するように、皇くんが叫んだ。
すごく怒った顔で、にらんだ。
それを見て僕も真剣ににらんだ。


そこに、パパが現れた。

「……何の騒ぎだい?」


僕らの声もしっかり聞こえていたらしい。不思議そうに、僕らを落ち着かせるようになでながら
『外の人』をじぃっとにらんだ。


「……………」

一瞬の静寂の後、ママがやっと笑顔に戻ったのが見えた
でも、そのあとの『外の人』に向かったときの表情は見えなかった


「いいの、みんな。お帰りいただけますね?」
「……」


立ち上がって去っていく人に、パパとママが付いていった。
僕らも付いていこうと思ったけど連れて行ってくれなかった。


「…僕も行きたかったな」
「また、ママを傷つけてないよね?」
「パパがいるから大丈夫だよ」


そういった桜お兄ちゃんに、僕も安心して、二人が帰ってくるのを待った。




―人形だなんてことは、わかってるんですよ。
―そう。でも…私たちにはとても大切な子供たちなんです。
―僕らのことを侮辱する人の援助はいりませんよ。もうあなたの会社には何もしません。
―…!
―それが、僕らの決めたことです。たとえ建前でも、傷つけないでいただけたら、それでいい。
―…………二度目もないのですか
―あの子たちは『忘れない』のですよ。
―…あ…
―あなたが言ったように、あの子たちは、『僕が“命”を与えた人形』なのだから。
―お帰りください。そして、もう二度とこないでください。



幕が下りた舞台裏。
僕らが聞こえない舞台裏。


だから僕らは一人に、一度ずつ、傷つけられる。


繰り返される、人形と人の劇。

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桜はすでに二度、体験している設定。一度目は自分だけ。二度目は、皇の時。
そして今。桜は『学習』をしているので、殴ることはありませんし、論理を立てることもできる、というわけです。