使用例
quintet 軽い気持ちで使う。
かってに捏造お題モドキ [初出:Laster,サツキ]
01.しかたなかった 02.アイスの棒 03.すだれ 04.朦朧 05.タイピング
(追加)望む二題 06.可愛いよ 07.傍にいたい
(追い討ち) 08.見切り発車
01.しかたなかった
「文句があるなら、八百屋に言え。」
買い物から帰ってくるなり、仁王立ちで言い放たれた。さっぱり意味がわからず、とりあえずスルーしておいた。
買い物袋を受け取り、キッチンへと移動する。
トマト、アイス、牛乳など、冷蔵庫へとしまっていった。が、肝心のものが無い。
「……西瓜はどうした…」
「?瓜か。」
そいつは流し台で水を飲みながら事も無げに言った。
「あるだろ、それ。苦い瓜。」
今俺の手元にあるのはゴーヤ。苦瓜。
「………」
「八百屋に瓜はもうそれしか…田中っ!?田中!!」
俺は玄関へ向って走った。
苦瓜を握り締めて。
目指すは八百屋。
02.アイスの棒
「見ろ、買ってきたぞ」
ソファーでのびていたら上の方から声がわいてでた。立っていれば俺のほうが背は高いのでなんだか違和感を感じる。
「………」
「アイスの棒!!買ってきたんだ。食わないのか」
「……えっと、何?」
「アイスの棒。」
疲れているのかもしれない。今年は猛暑だ。俺の頭が逝っているのか、コイツの頭が逝っているのか、確認する必要があった。
ソファーから起き上がって、水滴のつき始めているスーパーの袋を奪う。
「………」
「懐かしくね?」
そこにあったのは棒アイス。
そういやぁ、小さい頃よく食った。
03.すだれ
今日も暑い。
スカートのひだをパタパタやりながら教室に入ると咎められた。
「中山ー見えるぞ」
「かってに見とけ。」
机の上に荷物を放り出す。実験室の黒くて広い机の上を指定バッグが滑っていき、落ちるギリギリで止まった。
バッグとは反対側の位置にあるイスに腰をおろす。背もたれが無いのはつらい。しかたないので黒い(どう考えても清潔ではない)机の上へと突っ伏した。うでと、頬とをぴたりとつければ冷たかった。
窓からは風が吹き込んでくる。風自体の温度は低くも無いのだろうが、にじんだ汗が引いていき涼を感じた。
「あのさぁ、今日、何するの?」
「?さぁ。知らんよ。」
素っ気ないなーと思えば、文庫本を読んでいる。本当に何のために集まったのか知らないようだ。と言うか、最初からやる気は無かったらしい。お互い様ではあるが。
暇潰しに持ってきた道具は宿題だけ。数字の羅列を見るくらいなら暇なほうがましなので荷物へ手を伸ばす気力も起きない。
「暑い…」
いい加減、黒い机もぬるくなってきた。
「暑い。」
意味もなく繰り返す。と、救いの声が掛かった。
「廊下の冷蔵庫、アイス入ってた。」
「まじ…つーか、何で廊下に冷蔵庫があるのかね?」
と言いつつも、机から上半身を起こし立ち上がる。目指すは勿論アイス。
「さぁ。でも便利だしいいんじゃないの。」
「ま、ねー。」
背中越しに声を掛けて廊下へと出る。なかなかに年代モノの冷蔵庫、冷凍庫を開けるとスイカのアイスがひとつあった。片手につまんで教室へともどる。
「つかさ、その前にこのアイス誰の?田中のやろ?」
「田中。そういうのは袋開ける前にきけよ」
「は、ひゃっふぁり?」
すでにアイスを口に含んでいたので返事はてきとー。
かじった冷たさは心地よかった。これを食べ終わるまでに始まらなかったら帰ろう。何しにここまできたのだろうか。
「んー。食ったら帰る。」
「何しに来たん」
「知らん。」
一人にする気かよー、とほざくのを無視してアイスを食べた。今度田中に会ったら言っておこう。ゴチソウサマ。
*中山だったらしい。
04.朦朧
炬燵の上には蜜柑がある。
初雪が、積もった。純白の世界を眺めて心を落ち着ける。
落ち着け自分。
落ち着け。
背後から聞こえるガサゴソという音。全神経を集中させてシャットアウトする。
ここが実家だという事も忘れろ。
帰郷して安心していた自分が悪いんだ、諦めろ。
ご先祖よ、許してくれ。責めるならそこで仏壇を荒らしている奴にして欲しい。
「もう。蝋燭くらいかっとけよ。」
「何で仏壇あさってまで蝋燭がいるんだよ」
いや、返事なんか期待してなかったけどな。
窓の外の雪が眩しい。今朝方俺が作った雪だるまの上に、更に雪が積もっていた。
「ん。いってくる。」
中山が玄関から出て行く音がした。嗚呼何処へでも行ってくれ。
と、少しでも思った俺が悪かった。しばらくして表を見ると、無残にも穴だらけで煤けた雪だるまの残骸が…
慌てて表へ出る。もちろん寒かった。冬独特の雪の匂いに、煙の匂いが混ざっていた。
そして見つける。
「…何だそれは」
「見て解らんのか。花火だ。」
「夏の風物詩だな。」
「いや、でも楽しいし。」
手持ち花火の鮮やかな炎が真っ白な雪を溶かしていた。そりゃ楽しそうだな。本当。
だからって俺の雪だるま……
05.タイピング
良くぞ耐えた、俺。
今日は卒業式だ。この(忌まわしい生物を収容している)学校ともおさらばである。
遠足当日の小学生のように、俺はベッドから飛び起きた。内心の喜びを隠すように、静かに階下へと向かう。落ち着いて朝食を取り、顔を洗う。後は、バタバタと準備に追われる親を尻目に、身支度を整えて登校するだけだ。
…ったハズだ。
「何をしている」
クローゼットを前に、真剣な顔つきの奴が居た。
「おば様に、服を選んでって頼まれたの」
ここは俺の部屋で、クローゼットの中身も当然俺のものだ。しかも、まだ荷物をほどき終わってないので、その中にあるのは早急に必要な衣類のみ=制服だけだ。
「母さんの分は、和室の箪笥だ。」
行け、とばかりに和室の方向を指差してやったのに
「知ってるよ」
どうして他人の実家に詳しいんだお前は…
どうやら吟味が終わったらしく、俺は見慣れた制服を突きつけられた。選ぶと言えばワイシャツくらいしかないのに、一体何を悩んでいたのだろうか。とにかく、登校時間も迫っているので、おとなしく差し出されたそれに着替える事にした。目の前に中山が居ようが居まいが関係ない。嫌なら目を逸らすなり殴るなりしてくるのだろう。そうでなければじろじろと見て、オヤヂ発言か。
色々深読みしてみたが、中山は無言だった。着替え終わった俺を見て、何故か誇らしげだったのが気持ち悪かったくらいだ。
不意に手が伸びてくる。思考がバレて首でも絞められるのかと思い、後退る。が、その手はネクタイを軽く掴み、左右にずらして満足したようだ。
「そのタイピン、グーだね」
やっぱりオヤヂだ。何がグーだ。学校指定のタイピン(校章入)だぞ。
望む二題
06.可愛いよ
家事の分担が、悪いとは言わない。当番制度にも一切文句は無い。
ただ俺は、一人暮らしをしていたはずなのだ。
「おい、まだか」
「…見て分かれ。まだだ。」
鶏のから揚げは好きだ。そりゃあ揚げ物は面倒だが、出来ない事は無い。だが相応の時間がかかるという物だろう。
「まだか…」
「っおい、火強くすんなよ!」
何度教えたら分かるんだ!?火力を上げた所で早く揚がる物でもないだろうが。
やっぱり、焦げた。可愛そうな第一陣を菜箸で摘んで上げる。さっそく手を伸ばす人間に釘をささねば。
「今触ったら痛いぞ」
小さくうっ、とうめく声が聞こえる。そこまで絶えがたいことなのか?今度こそはと、第二陣を油の中へ投下した。じゅわぁっと、小気味いい音がする。
「…もういいか?」
「駄目だ」
たとえ冷めた所でまだ食わせてたまるか。俺は胸焼けしそうになりながらまだまだある大量の揚げ物を揚げないといけないのだ。何で貴様だけ先に食う。俺だって食いたいって。
「何で。」
「………」
言ったらどうなるのだろうか
「答えろや」
「……皮…良いよ。」
途端、サクサクサクと軽快な咀嚼の音が聞こえた。本当に皮の部分だけ食べているのを褒めてやるべきなんだかどうだか。
「じゃあ、皮だけ先揚げてや。」
「無理だ我慢しろ」
くそ、相手にしてたらまた焦がしたじゃないか……。
07.傍にいたい
「何!?貴様も裏切ったというのか!」
「フッ…愚民ども、慌てるでない」
ここ化学教室は、なにやら支配層と下々の者の争いが繰り広げられているようだ。
「違いますよ。良い領主と悪い大臣との争いです。
……だ、そうだ。後輩のありがたいお言葉。
「ハハハ。その程度でこの私を出し抜いたつもりかっ。片腹に痛いわ!!」
役に入りきっている中山。全ての元凶。
一体全体、どういう思考回路を持てば、クラブ員勧誘で芝居をするというところにたどりつくんだ。
例年通りなら、「もう失敗しない!ふっくら美味しいカルメ焼き講座」または「君も鳥●明!スライムのつくり方」だったはずだ。確かにこのネーミングセンスは色々疑うべき余地があるのかもしれないが、何せうん年前からの伝統なのでそれなりに重んじているのだ。(決して考え直すのがめんどくさいとかじゃない。)
「行け、愚民ども!農民は鋤を。商人は算盤を。鍛冶屋は自慢の刀に鎚に。パン職人ならば麺棒を。さあ行くのだ愚民ども!その手に持った誇りたかき武器で敵を蹴散らすがいい!!」
芝居はそろそろクライマックスを迎えそうだ。
高笑いが聞こえる…中山のは演技でなく地ではなかろうか。そもそも、脚本から演出まで中山だ。つまりは中山のやりたい放題。しかも化学クラブらしさなんてモノはひとかけらもあるはずがない。
それにしても何だ。最近の良い領主はアレか、自分が治めてる土地の人たちを愚民呼ばわりするのか。しかも武器が地味すぎる。むしろリアルすぎる。算盤は攻撃力低いだろ。メガネ職人は何で攻撃するんだ、メガネか?メガネなげつけるのか、あ?
「そうか。酌量の余地なし、と言うわけか。」
そして敵弱っ!いつのまにやら縛られて領主(中山)の前に並んでいる。某時代劇で言うなら、印籠を出した後の状態。どうして騎士団がメガネやら算盤やらに負けるのだろう…。
「仕方ない……成敗!!」
王冠は人を殴る物ではアリマセン。確かに鈍器っぽいけどな。
中山が王冠を振り下ろした後、勝利のポーズ。急ごしらえの幕(元暗幕)が手動で下ろされ茶番劇が終了した。観客はstanding ovation。
今年は新入部員無し、か。
大体こんなのに拍手しているような奴が入ってきたらおおごとだ……
08.見切り発車
一体何が悲しくて実行委員長なんてやらなきゃならんのだ。
教員達からすれば体のいい雑用で、委員からすれば責任をなすりつける相手でしかない。
そもそも委員にさせられた時点で気付くべきだったのか。
「おーい未樹、リハ」
「しゃべるな!!」
リハーサルはどうしたんだ中山。しかも用があるのは貴様じゃなくて未樹だ。
「何やってる」
「じぇんが」
ドガッサー
中山が答えた途端積み木の山が崩壊した。え、まて、何で俺が睨まれてんだ。今の俺が悪いのかよ。
どうにもならないのでふてくされた顔の中山は放っておく。教室の隅においやられた未樹を発見した。哀れな1年生は先輩に逆らえないらしく、中山に言いつけたはずのしおり折りをコツコツとやっている。
「未樹、リハーサルは…やってないな、」
「う、はい……」
うわあ可哀相だ、相当気にしてるよ。
仕方ないんだぞ、後輩。こいつには逆らえないんだ。というかどうにもならない。真剣に相手するだけ損で無駄で疲れるんだ。
「今からやろう。中山、かわってやれよ、」
「えー、」
いや、えーって、最初からお前の仕事だろ。
「じゃあ司会やるか?」
「イヤ」
即答か。じゃあ未樹がやるしかないじゃないか。当日3年は居ないから、俺には出来ないし。
「誰が椅子並べたと思っとん」
「お前」
が、体育館で体育したくないがために集会の1週間も前から準備と言い張って並べたんだろうが。
一体何人のスポーツ少年少女が苦い思いを味わったと思ってるんだ。