使用例版権物



21暗転・安定・転落・追従・削除[ハルヒ:古キョン]

ハルヒがにわかミリオタじみてきたとは聞いていたが、まさか突然、いやいつだって当然だがよりによって我が愛しき母校が軍学校に変わっているのは予測できなくなかったとはいえ心をくじきかねない出来事だ。さらに共学だったはずが完全に男女別と来ている。頼みの綱の長門の姿を見かけることも出来ないし、視界に入るのはその視界からはみ出んばかりの古泉で、近すぎる距離も若干回りを見渡せばまだ遠い距離に思えるこの男だらけの空間に俺は何日居座らねばならないのだ。

古泉の眼前でキョンは古泉を見ていなかった。それはよくある彼の癖のようなもので、慣れた古泉は不審にも思わず眺め続けた。古泉にはわからないキョンだけのタイミングで突然彼の瞳に古泉が映る。そうすると決まって驚いた彼は近すぎると暴言を吐き身構えた。それはここがある種平和な共学高校だった頃から変わらない。

いつも気づいたら目の前にある古泉の顔に辟易しながらも、長門がいない今クソでも味噌でも頼りになるのはこいつしかいないとわかっているのでさらに出るため息を抑えたり出来ない。校庭、今は営庭と呼ばれているが、そこにぞろりと並んだ男どもはおおむねまじめに従軍しているようだ。ただ気になるのは一部不真面目な連中でそいつらからすれば俺と古泉の物理的距離などコスモクリーナー取得の道のりほど遠いようだ。夕方になれば兵舎から一歩でも出ればズドンという奴なので何をするにも今しかない。目の前の古泉に声をかけて、不本意ながら本来の俺とまったくかけ離れた不真面目な部類と同じくこそこそと営庭を後にする。

袖口を引かれて彼からの接触は珍しいなどと考えながら古泉は歩いた。キョンが連れて行ったのは兵舎の裏。日のあるうちから兵舎で休むことなど許されていないはずだが、耳を澄ませば不穏な物音も聞こえなくは無い。古泉は思わずほいほいついてきちまって良かったのかなどと口走ったが、キョンはいつに無く不機嫌な顔でにらんだきりだった。「いつものことだが、どうするんだ」彼が古泉に関る理由といえば彼女しかなく、古泉は彼女を恨むべきか彼女に感謝するべきかいつも決めかねていた。機関などは既に口実でしかなかった。

コレまで何度も最悪だと口走った過去の自分を省みるべきかもしれない。そして今このとき耳に入った言葉以外でそれ以上に効果的な対策をひねり出せない自分の無知さ加減にも絶望した。古泉は何事も無いかのようにいつもの薄ら笑いでさらりと口に出してそして俺を見て目で訴えている、決めるのはあなたですと。

にたり、と、。キョンが去った後古泉は微笑の仮面を脱ぎ捨て本能のまま笑った。うまく口車に乗せた、そう思っての笑みか、下衆な自信への嘲りなのかは本人にしかわからないが、いつもの微笑みを脱ぎ捨てた彼であった。その視線の先、見えるはずは無い女子兵舎で何が起こっているのか。古泉はまた仮面の下にすべてを隠した。 おわれ。



22ときに君は、 / 君の死んだ今日を祝おう[皇国:西新]

なんてくだらない、と。新城は眼だけで西田に応えた。
不服な西田は幼いふりをして頬を膨らませる。
「僕が死ぬときに君は泣いたりしないだろう。」
「そりゃ、まあ」
ジト目で、それでもすねた顔のまま復讐だの酸化メチレンだのと不穏な言葉を吐き連ねはじめた西田。
「心配しなくとも、隕鉄が哭いてくれるよ。君と心中でもしていない限り。」
燐棒を擦った新城の興味は既に会話になく、心中するなら先輩とですと叫んだ西田の声は取り残された。

西田は隕鉄を連れていった。哭いたのは千早だった。
大地と同じ色の空を仰いで哭く千早が、新城は誇らしかった。僕の心の全てを表してくれるなんて、ああ、やはり貴女は最高の猫だ。そう思考を切り替えて過去の会話を忘れる。



23おびえない / ヒのサす[皇国:金森と新城]

中尉殿の震える手が、何に怯えていたのか分かってしまった
「大丈夫か、」
彼は行軍中僕にそんな言葉をかける。そういう時は大体が大休止の時で、彼は暖かい茶を必ずといっていいほど僕に手渡した。立ち上がろうとするのを制され、僕は座ったまま大丈夫ですと答える。彼はそうかと答えて僕の隣へ立ったまま、隊を見回す。熱すぎる茶が冷めるのを待つ間(茶が熱いのではなく僕の体が冷えすぎているのだが)見上げた彼と目があった。彼はこんな中であるというのに笑ってそして足早に指揮官へともどった。その腫れ物を触るような態度に僕は何か失敗をして彼に嫌われてしまったのかと思った。だが彼は好悪の感情というものを露骨に出しはしない。臆病だといった指揮官の顔を思い出した。そう、彼は怯えていたんだ、

 僕 に 

自身の弱さを(それが演技ではないことは確信できる)見せて鼓舞する。それに素直に反応する僕を恐れたんだ。
「どう思う」彼はまた湯飲みを持って僕のもとへ来た。文字通り湯の入ったそれを僕に渡して応えを待つ。村を焼いたことだろうか。
僕は彼がそう望んでいるであろう少し砕けた幼さを装って応える
「この場合、最善だと思われます。」
その応えに満足したらしく(本当は満足していないのだろうけれど、きっと彼は僕がそう応えると思っていたはずだ)大隊長殿は忙しくなると言い残して去った。今のうちに休んでおくようにという命令だと解釈する。僕は無言で敬礼した。
できるか、と。問われて僕はご命令ならばと応えた。
頼むといわれて僕は誇らしい顔を作る。
僕に怯えるこの人へ、僕は彼の望む僕を与えることで罪滅ぼしをしようとしているようだ。兵藤少尉が僕を心配していたが、それ以上に大隊長殿が僕を気遣っていることがわかった。
だが僕は兵だ、死の覚悟はできている。死ぬことに躊躇いはないのだ彼とおなじように。
だからもう、僕に怯えない、で

[処暑企画提出]



24けがすあか / 初色問答[皇国:西新]

雪上に血痕を見ながら
「うわー真っ赤。生娘犯した後みたいですね。先輩。」
「君は少し表現力を身につけたほうがいいんじゃないか。」
「だって、真っ白い上に、転々と赤黒く染みがあるんですよ。想像力豊かな健全男子としてはですね、」
「何が健全だ。僕なんかに欲情するくせに。」
「そういえば、先輩も初めてのとき切れちゃいましたよねー。あの時は酷かったなあ。朝起きて、僕たち大喧嘩でもした後みたいになってましたよ。」
「わかったもう黙れ。」
「男も女も似たようなものなんですね。あ、戦場も。」
「初めてのときは赤く染まる?」
「はい。」
「馬鹿馬鹿しい。血が流れない戦場なんて聞いたことがないぞ。というか君は明日から戦場へ行かないのか?」
「んー、じゃあ死ぬとき、かな。」
「ああそうだな。死んだことのある者がいるなら会ってみたいよ。」
「じゃあ死んだら会いに行きますね。」
「ふう。だが病死なら血は流れないぞ」
「え、死ぬなとか言ってくれないんですか、」
「死んでからも会いに来るのだろう、」
「はいそうですけど!きっと病気の人は体内で出血してるんです。」
「なかなか面白い考えだな。」
「ぜんぜん面白くありません。」
「君から言い出したはずだが。」
「何の話ですか。」



25砂塵一幕[西新]

「ならどうしたいというのだね、」
意地の悪い言葉に副官は睫毛を震わせた。そうして視線をそらしながら僕の右手を取り口付ける。そのままその手を引いて寝台へと誘う副官の赤らんだ首筋には非常に欲情するのだが、右手の思い出させた記憶は少しばかり厄介だ。

寝苦しさに眼を覚ますと、隣に見知らぬ男が寝ていた。酒を飲んだ記憶もなく寝ぼけている自覚もないのだから現実だ。ならば酔っているのはこの男かと思い直すが、酒の匂いがするでもない。
気味は悪いがこのままにする方がもっと恐ろしいので、恐る恐る揺すり起こした。
「ああ、おはようございます。」
男は何事もない様子で眼を覚ます。
何事だと問いただせば夜這いだなどと言うので反射的に手が出た。やばいな、と思ったがいらぬ心配だったらしく男は激昂する様子もない。ただきょとんと僕を見返していた。
しばらく見合った後男は、
「お付き合いしましょう。」
だなどと言う。気がふれているとしか思えない。見ず知らずの人間にそんなことを言われてはい喜んでと答えるような奴が居るなら見てみたいものだ。
「断る」
きっぱりと断ったら、まるでそんな答えを考えもしなかった、ありえないという顔。呆然と眼を丸くする男を僕は部屋から放り出した。

どう考えても甘い対応だったと反省する。今なら迷わず寝ているうちに頭を殴って口もきかずに溝へ捨てるだろう。
取り返しのつかないことを考えている間に副官は僕の着衣を脱がせていった。

営廷の角、満開の桜の下。僕は昨夜の侵入者と鉢合わせた。明るい場所でよく見れば、何度か校内で見かけた事がある。
知らぬふりで通り過ぎようとしたというのに、この男は、前置きもなしに本題について話しかけてきた。
「新城先輩、どうして付き合ってくれないのですか、」
性急過ぎる、怒りも覚えないほどに呆れてそう答えた。
どうしても何も僕はこいつの名前すら知りはしないのだ。ここにきてようやくこの男を不愉快に感じ始め自然と眉根に力が入る。男はしばらく思案した後、ニコリと笑った。
じゃあと言った後輩は、僕の右手を取って唇を寄せた。少しずつと言って、

のけぞった白い首に右手をかけた。この悦びにも記憶は動揺しない。
全く死んだ後にまで土足で閨へ踏み込んでくるとは、良い後輩を持ったものだよ僕は。