届けない声/ヒキチギル
練兵場では趙雲が50人位をまとめて指導していた。まだ新参の兵達らしく、そろいの緑色した鎧はつけていなかった。端っこ借りるぞ、趙雲の方なんて見ないで声をかける。返事も聞かない。壁際で振り返って槍を構える。一拍待ったら岱が構える前でも戦闘開始だ、斬りかかる。岱は稽古だと思っているのか知らないが、俺は一度も稽古をつけてやったつもりは無い。いつだって殺すつもりで斬りかかる。死なないということは生きるということで、生きる術はすなわち強さだ。それを彼の地で教わった。あっという間に岱は尻餅をついて倒れる。倒れこんだ鳩尾、石突をめり込ませた。苦しむ岱をしばらく眺める。もう一撃喰らわせてやりたい衝動抑えながら、立ち上がるのを待った。
「若にはかないません。」
槍にすがって上半身だけ起こした岱が、若と呼ぶ。それは昔の名残。なあ、それ取って。緑の兜かぶったまま若なんて呼ぶな、今の俺なんてギリギリの矜持で生きてる只の負け犬。お前だけが最後の砦なんて言ったらきっとお前は俺に失望するだろ。兜の下から現れた汗に濡れてぐちゃぐちゃの、色素薄い髪同族の証。それに恥じぬ男にしてやるために、もう一度槍を構えて見せた。岱はあわてて兜を被りなおす。
(お 前 は こ こ で 、)
Fine.