「今日は頸を絞めないのかい」
笹嶋がずいぶん哀れっぽく問うたものだから、新城はつい魔王と呼ばれるにふさわしい笑みを返した。
「殺されたいのか」
けしてそういうわけではなく、新城の性癖を知ってしまった笹嶋は、頸を絞められないということは、新城にとって自分がもう興味の対象でなくなってしまったのかと思ったのだ。しかしそうではない証拠に、笹嶋の中にねじ込まれた新城のそれは熱いねつを伝えている。
君にならと、戯れ言を吐こうとした唇に新城は噛みつく様な接吻をした。
普段、喉仏を親指で堪能している新城は、徐々に冷たくなることでも期待するかの様に、ちろり、と、唇を舐めてはなぞる様な接吻をする。その時はもちろん、笹嶋の目の前は真っ赤に真っ暗で、はっきりとした意識を保ったままの口付けは珍しかった。
とはいえ、珍しく激しい接吻をしたせいで、結局は酸欠と気分の高揚から意識の朦朧とし始める笹嶋だった。
「今日は本当に殺したいんだ」
そう言った新城の無表情なことを、笹嶋は見逃した。
強すぎる日差しから逃れて書に没頭していた。届いた手紙が現実へと引き戻す。 (「僕笹」より)
14 あした浜辺をゆうべ浜辺を
内容を訳するなら「水練を怠業して水遊びをしよう」新城の脳裏には笑いながらそう言う笹嶋が浮かんでしまった。
裸足になって足を海水に浸しただけでも、十分ここへ来てよかったと思う。笹嶋は海星や巻貝を捕まえて披露し、海に縁の少ない新城にそれらはとても興味深かった。
「夏はあまり会えないね」
別れ際、首筋の汗を拭いながら笹嶋が言う。何か忙しくなる行事でもあったかと思考をめぐらせ始める新城の前で、笹嶋は違うと笑ってみせる。
「ほら、ね。」
「、絞めないことも出来るが」
日差しの明るさで笹嶋から新城の顔色は見えない。
「それはそれで、その。」
笹嶋の顔は日に焼けて赤かった。