『 es 』




「・・はぁっ・・・んっ・・・ぁ・・・」

濃密な空気が漂う真っ暗な室内に、五番目の月の光が差し込む。
ほんの一瞬、白く艶かしい裸体が、うすぼんやりと浮かび上がった。




「あ・・・ぁっ、もぅ・・・ウルフ、ウ・・・ド・・・」

揺さぶられる度に、その口からは自分を支配する男の名前が零れ落ちる。
名を呼ばれた男は、下からその狂態を見つめ、口端を吊り上げた。

漆黒に近い瞳が、妖しい輝きを帯びる。獰猛な肉食獣が、
獲物を喰らおうと舌舐めずりするように、ウルフウッドは、殊更ゆっくりと上唇を舐めた。

「・・・う・・・はぁ・・・くぅっ!・・・」

そんな仕草も性感にダイレクトに結びつき、ヴァッシュの背筋をゾワリと焼け付くような
生々しい感触が立ちのぼる。

ついウルフウッドと繋がる部分を無意識に締め上げて、より一層彼の雄の部分を
その身の内に感じてしまい、ヴァッシュは身悶える。

先端の窪みからは、濃厚な蜜がトロリと溢れた。

「やっ・・・触る、なっ・・・ウル・・ああぁっっ!!」

その言葉を無視してヴァッシュの欲望へと伸ばされた手は、その根元を握りこむ。

そして、開放を求めてぶるぶると震える肢体が落ち着くのを待って、
その指を上下に動かし始めた。

しかし、その動きはあまりにも緩やか過ぎて、行過ぎた絶頂感がその刺激を
最後の極みまで引き上げることができない。

ヴァッシュは、眉根を切なげに歪めながら、ウルフウッドを見下ろす。
濡れた碧い双眸は、雄弁にヴァッシュの滴り落ちそうな情欲をウルフウッドに伝えた。





「・・・イキたいか?」

「ひぃっ!!」

ウルフウッドは、ヴァッシュの欲望の先端に人差し指を突き立てた。
一気に高まる射精感に、ヴァッシュは嬌声を上げる。

そのまま、いやらしい音を立てながら指を小刻みに動かしていくと、次々に蜜が溢れ、
ウルフウッドの指を濡らしていく。
このまま軽く先端を爪で引っかいてやれば、ヴァッシュはあっけなく吐精するに違いない。

しかし敢えてそれをせず、指を先端から離し、ヴァッシュに見せ付けるようにゆっくりと
蜜に濡れた手を舐める。

勿論、視線はヴァッシュを捕らえたまま。

「・・・あ・・・ふぅ・・んんっ・・・・・」

ぴちゃぴちゃと淫猥な音が、静かな室内に響き渡る。紅い舌が蠢くのを見て、
ヴァッシュは自分がまるでそれに弄られているような気がした。

押さえ切れない喘ぎ声が、口から漏れる。

「あっ、やぁ!・・・ど・・・して・・・」

我慢しきれず、ヴァッシュが自身に手を伸ばそうとすると、ウルフウッドは簡単にそれを振り払う。

ふるふると首を振ったヴァッシュの大きな瞳から、堪え切れずに涙が零れ落ちた。

「あっ!・・・ぁっ・・・あっ・・・」

軽く突き上げてやると、ヴァッシュが身体を震わせる。細い腰が誘うように揺らめくのを、
ウルフウッドはしばらく楽しそうに見つめていたが、その後、急に身体を起こした。

「ひっ、あぁんっっ!!」

座ったまま、正面から抱き合うような体制になる。ウルフウッドから打ち込まれた楔に、
抉られていた内壁があたる角度が変わり、ヴァッシュは悲鳴を上げた。

ウルフウッドは、ゆっくりとヴァッシュの左耳へと唇を寄せる。

ピアスをしているせいで敏感になったのか、こちらを嬲ったほうが悦い反応を返すことを
ウルフウッドは知っていた。




「もっと・・・欲しいか?」

「・・・んっ・・や・・・」

耳朶の奥へと甘く低い声を落とした。舌先で中を舐め、唾液を送り込む。
ぐちゅり、という音がして、脳髄まで痺れるような感覚に、ヴァッシュの肌がぞわりと粟立った。

自分を翻弄する男の背にきつく爪を立てる。

「なぁ、欲しいか・・・ヴァッシュ?」

「・・・ぁ・・・・」  

その声に犯されて、ヴァッシュはとうとう・・・堕ちる。

必死に、目の前にある顎に噛み付いて、下肢を男の腹に擦り付けた。
ヴァッシュは激しい羞恥に耐えながら、それでも額をウルフウッドの肩に擦り付けて、
ようやく懇願する。





「・・欲し・・ぃ・・・よ・・・・ウルフ、ウッドぉ・・・・」

ヴァッシュがそう口にした瞬間、ウルフウッドはヴァッシュをベッドに組み敷いた。

「あぁぁぁっ!!!・・・あ・・んんっ・・ふっ・・」

今まで届いていなかった深い部分までウルフウッドに抉られた上、腹で自身を激しく擦られた
ヴァッシュは、ようやく絶頂を迎える。

自分やウルフウッドの腹部を汚しながら断続的に身体を震わせて全ての欲望を吐き出した。

しかし、弛緩した身体がその余韻に浸る間も無く、また極みへと追い立てられ始める。
ウルフウッドの欲望は、未だヴァッシュの中に深く埋め込まれていた。

激しくウルフウッドが動き出す。
ヴァッシュの両脚を抱え込み、ぎりぎりまで引いた腰を一気に突き入れた。

「・・・やっ、うあぁっ・・・!!!」

ヴァッシュの喉元が限界まで反り返り、ウルフウッドの眼前に、真っ白いそれが曝される。

「・・・もっとや」

内側からヴァッシュを突き崩すように、何度も深く抉る。

ヴァッシュの下肢に手を這わせるとそれはまた、すでに熱を持って潤み、濃厚な蜜を
滴らせているのが分かった。

再び、ウルフウッドは、ヴァッシュの耳元でゆっくりと淫靡な呪文を囁く。

「もっと・・・ワイを・・・欲しがれ」

「・・・ひっ・・あぁっ!・・・」  

そうしてヴァッシュの首筋に、強く牙を立てた。
ぷつり、という音と共に肉が裂け、鉄の味が僅かに口内に広がる。

いきなり与えられた衝撃に耐え切れず、ヴァッシュの内壁がウルフウッドの雄を激しく締め付けた。

「・・・くっ・・・」

「ああぁーーーーーっっ!!!!」

短い呻き声をあげて、ウルフウッドがヴァッシュの最奥に精を放ち、その刺激で
ヴァッシュ自身もまた、あっけなく弾けとんだ。

二度、三度と腰を突き上げ、全ての欲望をヴァッシュの中に注ぎこんだウルフウッドは、
ゆっくりと身体を引く。

ごぷり、という嫌な音を立てて、ウルフウッドが中から出て行くのを、ヴァッシュは
歯を食いしばって耐えた。

ウルフウッドは、欲望で汚されたヴァッシュを見下ろす。幾度となく交わせた情交の深さを
物語るように、ヴァッシュの身体は、ウルフウッドが放ったものと自分の放ったものとで、
ぐちゃぐちゃになっていた。



人間台風と呼ばれる元賞金首を、

月をも穿つ伝説のガンマンを、

人間の形をした異形の天使を、

この手で堕としたという、征服欲と満足感で満たされる。



しかし、まだ霞がかかったような碧い瞳がウルフウッドを捉えた瞬間、
それは跡形もなく消し飛んだ。

ヴァッシュの瞳に宿る意志の光に、視線が心ごと奪われる。

体内にドクリという音を響かせ、ウルフウッドの欲望が、再びゆっくりと鎌首をもたげる。

「・・・ぁ・・・・・」

それを目にしたヴァッシュは、ビクリと肩を震わせ、まだまともに動かない身体を、
それでも懸命に動かして逃げようとした。

だが、それよりも速く足首を掴んで引き寄せることで、その抵抗をあっさり封じ込めた
ウルフウッドは、口端だけを引き上げてニヤリと笑う。








いつも綺麗事ばかり言うその口が、自分の名前だけを呼び、








他人の代わりに無数の傷痕をその身に刻む身体が、自分の前にだけ全て曝け出される・・・。
















――――   本能が理性を喰らい尽くす。  その瞬間が見たかった。  ――――

 

 

 

 

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