三日三晩バイクを飛ばし続けて、ようやく辿り着いた小さな町。

そこにある、たった一軒しかない寂れた宿屋から、黒衣の男が大あくびをしながらふらりと出てきた。
無精ひげを生やし、煙草を銜え、頭をボリボリ掻きながら歩く姿は、よく言えば男臭い。
しかし悪く言えばちょっとみっともない姿だ。

不機嫌を微塵も隠さないで深い皺を眉間に刻み、男は上着の内ポケットから紙切れを取り出した。
そこには、小さな文字がびっしりと書かれている。 

「何やねんコレ!人の金や思うて滅茶苦茶書きおって、あんガキャア・・・」

衝動的に握りつぶして捨ててしまそうになるのを何とか抑えて、男はそれをもう一度ポケットに
ねじ込んだ。








昨晩、久しぶりにまともな食事とあたたかい寝床を確保でき、男は大層御機嫌だった。
部屋には、出はあまり良くないがシャワーも備え付けられており、頭の先からつま先まで砂塵で
ジャリジャリの身体をようやくさっぱりさせることも出来た。

濡れた頭をぬぐいながら部屋に戻ると、それを見計らったようなタイミングでドアをノックする音が。

「ウルフウッド、いるかい?入ってもいいかな」

他のものならともかく、この男なら気配だけで自分が部屋にいるかどうかくらい判りそうなものだが、
わざわざ所在を尋ねる。

こちらも当然、声など聞かなくても扉の向こうにいるものが誰なのか判るのだが、いちいち言うのも
面倒なのでそのままにしておく。


「おう、開いとるで」

短く答えると遠慮がちに扉が開き、鮮やかな金と赤が部屋にふわりと入ってきた。

「おいおい、鍵もかけずに無用心だなぁ。泥棒でも入ったらどうするんだよ」

男の方をタオルの間からちらりと見ると、何故か手元に荷物をたくさん持っている。

「別に盗られるモンもないしなぁ、大丈夫やろ。ところで何やソレ?」

尋ねると男は、えへへと困ったように笑い、首を傾げた。
聞いてみると、どうやら隣の部屋はシャワーの出が相当悪いのだそうだ。なので、良ければ
こちらの部屋のシャワーを使わせて欲しい、ということらしい。

軽くその事を了承すると、律儀に礼を言って男はシャワールームへと消えていった。



しばらくすると水温が聞こえ、それに混ざって鼻歌まで聞こえてきた。

「・・・呑気なモンやな。オンドレの方がよっぽど無用心ちゃう?」

色々な意味を含ませ、ウルフウッドは笑う。

窓際の椅子に深く腰掛け、煙草に火をつけてゆっくりと煙を燻らせた。
こんな風にのんびりと煙草を吸うのも久しぶりだと思う。

珍しく味わいながら吸った煙草がギリギリまで短くなった頃、シャワールームから男が出てきた。

「あー気持ち良かったぁ。ありがとうウルフウッド」

そう言って微笑む姿を見て、ウルフウッドは思わず煙草を口から落としそうになる。

シャワーを浴びたせいで、いつもはとんがっている頭がしんなりと下りて首に纏わりつき、
柔らかそうな金色の光を放っている。
普段は透けるように白い肌も、ほどよく温められ淡いピンク色に染まっていた。

大きな翡翠色の瞳を細めてほんわりと微笑む姿は・・・

『め・・・めっさ可愛らしいやんけっっ!!!』

ウルフウッドは拳を握り締め、心の中で絶叫した。



念のために言っておくが、ウルフウッドの目の前にいるのは正真正銘、男だ。
しかもそんじょそこらの男ではない。

かつては600億$$の賞金首、人間台風(ヒューマノイド・タイフーン)と呼ばれ、人々から
恐れられていた伝説の男、『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』だ。

しかしウルフウッドの目には、そうは映らない。
『恋は盲目』とはよく言ったものだ。



「どしたの?ボーっとしちゃって。煙草、危ないよ?」

ヴァッシュが、固まったままのウルフウッドに近付いて僅かに屈み、口に咥えていた煙草を
奪って灰皿に押し付けた。

「え?・・・ちょっと何、うわぁっっ!!」

次の瞬間、身体を起こそうとしたヴァッシュの腕をとり、思わず衝動的にベットに押し倒していた。


「おんどれの方がよっぽど無用心やなぁ?」

顔を寄せて囁くと、ビックリしたままの顔が見る見るうちに真っ赤に染まる。

男の肌からふわりといい匂いがした。部屋に備え付けられていた同じ石鹸を使っているはずなのに、
どうしてこの男からはこんなに甘い香りがするのだろう。

「わぁっ!何してんだよ。くすぐった・・・いっ・・・!!」

不思議に思って首元に顔を寄せクンクンと匂いを嗅ぐと、ヴァッシュは慌てて抵抗を始めた。

「・・・ぁ・・・やっ、めろ・・・ってば」

するりと脇腹に手を滑らせ喉元にゆるゆると牙を立てると、組み敷いた身体がビクンと跳ね、
白い喉元が露わになる。
ヴァッシュの敏感な反応に気を良くし、シャツの裾から手を入れようとして途端・・・



「も・・・ダメだってばぁぁぁぁっっ!!!」
「ぐごぉっ!!」

物凄い勢いで顎を押し返された。
首が後ろに倒れた弾みに、ゴキンという大きく鈍い音が耳元で響く。

完全に油断していたので、与えられたダメージは大きかった。

「ご、ごめ・・・大丈夫?」
「〜〜・・・な訳あるかぁ!何すんねん、痛いやろが、ドアホ!!」

流石に悪いと思ったらしいヴァッシュの口から、謝罪の言葉が出る。
そのあたりで何とか立ち直り、怒りのままに大声を浴びせかける。すると形の良い金色の
眉がクイと不機嫌そうに歪み、目元がじわりと赤く染まった。


まだ首から鈍い痛みがして怒りは収まらないのだが、ついそんな表情を見て

『怒った顔も可愛ええなぁ・・・』

なんて思ってしまう自分は、相当腐れている。『恋は盲目』とは本当によく言ったものだ。

「何すんだ!は、こっちだよ。せっかく久しぶりにベットで寝れるってのに!!」

そんな自分の心などまるで知らぬヴァッシュは、無理やり半身を起こして負けじと声を荒げる。
しかしこっちだって、やれ場所がどうの、進行予定がどうの、と散々お預けを食らい煮詰まって
いたのだ。


「ええやん。なぁ、このまま犯らせぇ」
「んっ!・・・やっ・・・」

この昂ぶった下半身をどうしてくれる、といった感じで自分の腰をヴァッシュの下腹に押し付け
耳元で低く囁く。ついでに柔らかい耳朶を軽く食むと、ヒクリと身体が震えた。
覗き込んだ碧の瞳の中に微かな高揚が見て取れる。

よし、このまま押し切ったるで〜!と身を屈めたところで・・・

「うがぁっっ!!!!」

ベッドの上からもんどりうって転げ落ちる。今度は横っ面を叩かれた。

しかも左手の方で、だ。

「何さらすんじゃ、こんボケェーーーーっっ!!!」

あまりの仕打ちに、先ほど以上の勢いで飛び掛ろうとした時、目の前に右の拳が差し出された。

「・・・何やねん。ど突きあいでもする気か?」
「勝負、しよう。ウルフウッド」

怪訝そうにしていると、ヴァッシュはにっこり笑って一枚のコインを差し出した。





ヴァッシュの提案はこうだった。



投げたコインの裏表を当てあう。
外した者は当たった者の言うことを何でも一つだけきく。


普段、賭け事などしない男から持ちかけられた勝負に、一瞬首を傾げたものの、上目遣いで

「もしも、お前が勝ったら・・・す、好きにしろよ・・・」

などと、耳まで真っ赤にして言われた日には、この勝負乗らないわけにはいかない。

賭け事には自信があった。しかし何より目の前に差し出された賞品(?)は自分にとって
最高に魅力的だった。



運命の瞬間。



ウルフウッドが、最後まで迷いに迷った挙句決めたチョイスは『表』。

結果は・・・







「あーっ、クソ!やっぱ裏やったんや。あんまりサラッと言うもんやさかい、逆やと思うたっっ!!!」




残念ながら、腹立たしげに頭を掻き毟る羽目になったのだった。








という訳で今日、ウルフウッドはヴァッシュの<使い走り>をさせられているのだ。
しかも、それらの支払いは全て自分のポケットマネーを使わなければならない。
文句の一つも言いたくなる、というものだ。


宿の主人から教えてもらった店にようやくたどり着いた。あの忌々しいメモを見ながら
一つ一つかごの中に入れていく。

メモに記されているものの中には、自分にとっておよそ必要が無いと思われる日用品(整髪料や
櫛など)が多く含まれているから性質が悪い。

店内はそう広くは無かったが、町に店が一軒しか無い為、商品がそれはもう雑多に所狭しと
置かれていた。食料品も医薬品も嗜好品も・・・そして薬莢やガンパウダーまでもが並べられて
いたのには、流石に閉口した。


「あーっ、クソ!これ何処にあんねん」

見つからないものを探して店内をうろつくのが、だんだん嫌になってきた。
ざっと探して見つからないものは、『店に置いていなかった』と言えば良い。

そろそろ引き上げようかと腰を上げかけた時だった。ふと奥まった場所に置いていた
『あるもの』が目に止まる。それに手を伸ばしてかごに入れたところで、奥から店の主人が出てきた。


「よぉ、兄さん。最近景気はどうだい?」

そう言って暢気に笑う主人の前に、買物かごをドンと置く。

「勘定や」

ウルフウッドがそれだけ言うと、主人は肩を竦めて苦笑し全ての品物の値段をチェックして、
小計を出した。



「・・・は?」

そのあまりの値段の高さに唖然とする。

しかし、ここで文句を言っても仕方が無い。さっさと支払いを済ませ、店を出ようとすると
店主に呼び止められた。

「何や?代金ならちゃんと払うたで」

ぎろりと店主を睨み付けると慌てた様に店主が言った。

「いやいや、兄さんにケチ付けようじゃねぇんだ。たくさん買ってくれたからな。これ、オマケだ」

そうして小さな袋をウルフウッドによこす。不透明な袋に入っているため、中身は見えない。
ちらりと店主の顔を見た。

「ま、兄ちゃんの『コレ』にプレゼントだよ」

と言って小指を立てながら、ニヤリと意味深な顔で笑う。
首を傾げながらもくれるという物ならもらっておくことにした。

「そりゃまぁ、おおきに」

と一応礼を言って、他の購入品を入れた袋の中に無造作に入れる。

「いいってことよ。そんじゃあ、『コレ』によろしくな!」

背を向けて歩き始めながら


実は、ワイの『コレ』は、小指じゃなくて親指の方なんだ・・・とか
でも、そんじょそこらの小指より美人で可愛いて堪らんのやで・・・とか


イロイロ思ったが、言うのは心の中だけにした。








両手に抱えている荷物が多くてドアをノック出来ない。仕方なくガンガンと扉を蹴って合図を
する。すると中から

「は〜い、ちょっと待って、ちょっと待って!」

と慌ててドアノブをまわす音がした。
ひょこりと自分を良いように使い走りにした男がウルフウッドを出迎える。

「お帰りウルフウッド。うわぁ、お使いありがとう!」

荷物を受け取りながらヴァッシュは満面の笑顔で言った。

「おう。でも中には見つからへんかったものもあったで」
「え、いいよ、いいよ。探してくれたんだから・・・ん?」
「あ?どないした」

ガサガサと袋の中身を確認していたヴァッシュが手を止めた。立ち去ろうとしていたが、
足を止めて振り返る。

ヴァッシュの手には小さな袋が握られていた。

「これ、何だい?どうしたの」
「あー・・・それ、オンドレにって」
「えっ!嘘!?キミが僕に?うわーっ嬉しいなぁ、えへへ。何だろう??」

店のおっさんが・・・と言おうとしていたところへ、ヴァッシュの声が被ってしまい最後まで言えなく
なってしまった。

小さな袋に貼られたシールもきれいに剥がして、ヴァッシュはとても嬉しそうに袋を開け、
中身を取りだして・・・・・・


固まった。


「えっ・・・・・・」

ウルフウッドもそれを見て、次の言葉が出てこなくなった。


ヴァッシュの手には小さな布切れが握られている。

その布切れはどう見ても・・・女性用の下着で。

しかもレース付きで赤いイチゴのイラストが散りばめてある、とても可愛らしいものだったのだ。



次の瞬間、ゴォッ!!っとヴァッシュのまわりの空気が舞い上がった。
と、同時に物凄い戦慄がウルフウッドを襲う。


「・・・・・・どういうことだい?」

声だけは穏やかにヴァッシュが問うた。ツー・・・と背中を冷たい汗が流れ落ちていく。
ヴァッシュはにこやかに微笑んでいる。しかし、それが何よりも怖い。

じわりじわりと歩み寄る悪魔(ディアブロ)に魅入られ、身動き一つ出来なかった・・・。








「し・・・死ぬか思うた」

よろよろと宿の廊下を壁伝いに歩く。身体中のあちこちが痛み、歩を進めるごとに呻き声を
あげそうになる。美しい悪魔からの制裁は、それはそれは恐ろしいものだった。
よくこれくらいの怪我ですんだと思う。

「でも、あないに怒らんでも・・・いや、そもそも何でワイがこんな目にあわなあかんねん!」

だんだん腹が立ってきた。自分はあの男の為にわざわざ買い出しに行った。
しかも自分のポケットマネーでそれらを購入したのだ。

そして何より、あの男が激怒した原因でもある『いちごパンツ』は、店のオヤジが勝手に
オマケに付けたもので・・・。



「そうや!ワイのせいやあらへん!!!アカン、むかついて来おった」

だんだん怒りのボルテージが上がっていく。そのままの勢いでぐるりと踵をかえした。
一言ヴァッシュに謝罪してもらわないと、もうどうにも収まらない。

来た道を引き返し、バターン!と思い切って部屋の扉を開ける。気配からして、まだ部屋の中に
ヴァッシュが居ることはわかっていた。


「おい、トンガ・・・!!!」

名前を呼んだ次の瞬間、今度はウルフウッドが完全に固まった。


ぶち破るような勢いで開けたドアをの中、ウルフウッドの目に飛び込んできたものは、
目にも鮮やかな、赤い・・・いちご・・・・・・?


「えっ・・・・・・・」

完全にドアに背を向けていたヴァッシュは、背中を丸めたまま振り返る。
そしてまた、ヴァッシュも凍りついたように動かなくなった。

「おんどれ・・・ソレ」

僅かばかり早く正気に戻ったウルフウッドが、先に言葉を発する。


「・・・・〜〜〜〜〜〜っっっ!」

それに呼応するように、ヴァッシュの頬が真っ赤になった。

トレードマークの真紅のコート。

ふわりと翻るそのコートのスリットから見えていたのは、例の・・・『いちごパンツ』。

ヴァッシュはそれを何故か身につけていたのだ。




「何で・・・」

ボソリと呟いた声が耳に届いたのが、ヴァッシュは耳や首まで赤くして慌ててそれを脱ごうとした。
それを羽交い絞めにして止める。

「放せ、よぉ!・・・い、やだぁっ!!」
「そのまんま脱ぐなや。もうちっと楽しませぇ」

大暴れして必死に逃れようとするのを、力でねじ伏せた。

「嫌だ嫌だっ!も、放せぇっ!!うわーん、バカアホマヌケ変態ーっっっ!!!」
「変態〜!?オンドレ人のこと言えるんか!そんなモン進んで身につけとる時点で
おどれの方がよっぽど変・・・!」

カチン、ときて思わず強く言い返してしまった。
その言葉にヴァッシュは身体をビクンと震わせる。一気に抵抗が弱まり、俯いてしまった。



「あー・・・も、泣くなや」
「泣・・・いて、な・・・」

言った途端、ヴァッシュの瞳から大粒の涙がボロリと零れ落ちた。それを唇で受け止めてやる。
頬を伝う涙の跡を追って、頬をぺろりと舐めた。

「おんどれ、あんなに怒ったやないか。そやのに、それ自分から穿いとるからやなぁ」

頭をボリボリ掻きながら困ったように言うと、ヴァッシュはますます俯いた。
しかし、観念したように小さな声でポツポツと話し始める。

「だって・・・初めてだったから・・・」
「は?何がや」
「初めてお前が・・・くれたモン、だった・・・からさぁ」

最後は消え入りそうな声で呟く。
とにかく驚いた。ということはつまり・・・

「なぁ、もしかしてワイが・・・やったモンやから、か?」

未だ俯いたままの黄色い頭が、ピクリと小さく動く。

「嫌で嫌で堪らんかったけど、ワイの為に穿こうと思うたん?」

しばらく間を置いて、僅かだが小さく頭が縦に動いた。





「・・・え、なっ?・・・んっ・・・ん、んん〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

気づいたら深く唇を重ねていた。

驚いて引こうとする身体をガッチリと捕まえて離さない。
湧き上がる雄の衝動そのままに、ヴァッシュの唇を激しく貪り、強く舌を吸う。
甘い口内を存分に味わいながら強く抱きしめると、ヴァッシュもおずおずと両腕を背中に回してきた。

長い口付けから解放すると、エメラルドグリーンの瞳が、霞がかったように揺れている。
熱い吐息を漏らす唇は赤く色付き、まるで自分からの更なる口付けを求めているようだ。

「・・んっ!」

今度は軽く唇を舐めてやると、金色の睫毛がふるりと震えた。



『・・・・・・堪らん』

きっとこの男のこんな貌を見ることが出来るのは自分だけだ。

独占欲、支配欲、次から次に腹の底から噴き上げる激しい欲望。

欲しい。

でもそれ以上にこの男に欲しがらせてみたい。
泣いて懇願するまで追いつめて、限界にまで高めて。

決して逃げ場がないように。



「なぁ・・・」
「ひっ・・・ん、んっ!!」

吐息が触れるほど耳元に顔を寄せて、抵抗の意思を奪っていく。そうしておいて、
ねっとりと鼓膜を愛撫するように耳朶の奥へと囁いた。


「死ぬほど気持ちよぉしたるさかい、よぉ見せてみ・・・な?」


その甘い呪詛に逆らう術を知らぬヴァッシュが、ゆっくりと身体の力を抜くのを喉の奥で小さく笑った。





「これ、持ってみ。こっちもや。そんでこれは口・・・開けぇ?」

まるで魔法でもかけられたように、ヴァッシュは素直に従ってきた。

「お利口やな。ホンマええ子や・・・」

褒められてボーっとなったヴァッシュは、今、自分がどんな格好を自分の眼前に曝しているか
まだ気づいていないようだ。

何もかも従順というのもいいが、どちらかといえば抵抗して恥らう姿の方がより一層そそられる。

ウルフウッドはヴァッシュのコートの端を左右の手に持たせ、前面を覆う一番際どい部分を口に
銜えさせた。

そして自分はヴァッシュの前に跪く。


「・・・んくっ!・・・んんーっ、んんん〜〜〜〜〜っっ!!!」

流石にここまで来たら、ヴァッシュも自分がどんな状態か、どんな風に見られているか
ハッキリと気付く。

「おっと!離すなや?もし離したら・・・わかっとるやろうなぁ」

暴れようとした肢体がビクンと跳ねる。

「んっ・・・んっふ、んん〜!!」

口にコートの端を銜えたままでヴァッシュは激しく首を左右に振る。

「ああ、そうやなぁ。ワイも酷い事はしたないねん。気持ちよぉしたりたいだけやもんなぁ」

不安そうに見下ろす澄んだ碧を深い蒼が捉える。引き締まった尻を引き寄せ、鷲掴みにすると
全身が痙攣した。

「そやから・・・絶対離したらアカンで?」

そう言いながら目の前にある股間に舌を伸ばした。そっと下着の上から舌を這わす。

直接的な刺激に比べれば、きっともどかしいくらいなのだろうが、ヴァッシュにとってみれば、
そのもどかしさも全て快感に結びつく。

「ふっ・・・んっふ・・・ん、んっ!・・・」

ヴァッシュの中心は下着の中で熱く昂ぶり硬度を増していった。ゆらゆらと腰が揺らめいている。
身体は解放されたくて高みへ向かっていこうとするのだが、最後に残された羞恥心がそれを
寸でのところでせき止めているようだった。

そんな貌が堪らなく淫らで、堪らなく愛しい。

ヴァッシュが理性と欲望の狭間で揺れ動く様を、ウルフウッドは下からじっくり眺めた。
時々思い出したように、下着の上から舌を這わす。

次第にヴァッシュの欲望の形がそこにクッキリと浮かび上がってくる。次々に先端から溢れ出る
先走りで、下着を濡れてしまっているからだ。
その形をなぞるように唇で挟み、牙で甘噛みするとますます蜜が溢れる。



「エロい眺めやなぁ・・・」

元々薄い素材で出来ていた下着はますます透けて、ヴァッシュの欲望の形だけではなく
色まで滲ませている。可愛らしいイチゴの色といやらしい欲望の色が絡み合って、ウルフウッドを
喜ばせた。

ヴァッシュは何かに縋ることも膝をつくことも出来ず、延々と切なげで艶めいた声を噛み殺している。
限界が近いことを悟り、更にヴァッシュの腰を引き寄せた。

下着の隙間から指を滑り込ませ、奥まった部分を指の腹でゆるゆると撫でる。
途端に大きく跳ね上がり逃げをうつ下肢を、肘で締め付けて押さえた。


突然、その均衡は破られる。


大きく張り詰めたヴァッシュの屹立が下着の上部から僅かにはみ出した。

それまで下着の上からしか愛撫を加えなかったウルフウッドが気まぐれにその先端へと
舌を這わせる。軽く吸い上げ、割れ目に牙を突き立てた。

「ひぃあっ!・・・あぁぁぁぁーーーっ・・・は、あ・・・ぁっ・・・」

劈くような痛みとそれを上回る悦楽に、ついにヴァッシュの口からひらりとコートが舞い降り
ウルフウッドの頭を覆う。

ヴァッシュは白濁した液をウルフウッドの口と下着とコートの裏に撒き散らしていた。

 




「なーんや、まるでイチゴミルクみたいやなぁ?・・・イテ!」

下着に付いた液体をそんな風に例えてベロリと舐めると、後ろ髪を引っ張られた。
コートを除けヴァッシュを見上げたままニヤリと笑う。

「なぁ、絶対離すなて言うとったよなぁ?」
「え・・・それ、は・・・」

ゆっくりと立ち上がって正面から見つめると、ヴァッシュは必死に引き攣った笑いを浮かべた。

「まだ終わりやないで。これからやろ」
「そ・・・んな・・・」

じりじりとベッドの端まで追い詰めた身体を、くるりと反転させて背中をドン、と押す。
前につんのめって倒れたヴァッシュが慌てて起き上がろうとするのを、後ろから体重をかけて
圧し掛かることで遮った。

「うわっ!ちょっと何す、・・・あ、あっ・・・!」

肩口を片手で押さえつけ、思いのほか細い腰をもう片方の手で抱え込む。
奥まった部分に己の硬く熱を持っている部位をぐりぐりと擦りつけると、僅かに抵抗が弱まり
短い声があがる。

「ワイ、まだ達ってへんのやで。おどれだけ気持ちようなってズルイやん」
「お前が勝手、にっ・・・ぁっ・・・触、ん・・・な」

腰から手を滑らせ、赤い布をくぐり、もう一度濡れた小さな布部分に触れた。
確かめるように指を滑らせると、背が反らされウルフウッドの目の前で綺麗な弧を描いた。

「ココは触ってもらえて喜んどるみたいやけど?」
「う、そ・・・ん、んっ!・・・」
「嘘?どこがや」

必死に振り返ろうとするヴァッシュの耳朶を、わざと音がするようにピアスごとしゃぶる。
そして耳の奥を軽く舐めた後、低い声を落とした。

「今また、じわぁって濡れよったで」
「やっ、言・・・うな、ぁ、あっ・・・」
「言われんの好きなくせに。どないするん?こんなにしてもうて」

下着の上からヴァッシュの欲望をそろりと撫でると、それはまた歓喜の雫が溢れさせた。
薄い生地から染み出した液体は、長い指を存分に濡らしていく。

舌を伸ばして閉じられた瞼の形をなぞると、ゆっくりと目が開き潤んだ翡翠が現れた。
そこには抑えきれない情欲が深く色づいていて、見ているこちらも煽られていく。


「・・・っふ、あ・・・」

自分の上唇を舐めて湿らせると、押さえた身体がブルリと震えた。
赤い舌の動きが先程与えられた官能を呼び起こしたらしい。目元が更に赤く染まっている。
堪え切れず緩んだ隙に、噛み締めていた薄い唇から甘い吐息が漏れた。

「ウ・・・ルフっ・・・」
「ちっとは我慢せぇって」
「ひぅっ!」

嗜めるように首筋をきつく噛むと、ビクンとヴァッシュの身体が大きく跳ね上がった。
受け止め切れない淫液が指の間からポタリポタリと零れ落ち、シーツに染みをつくっていく。

「・・・こんなんも感じるん?」
「〜〜〜〜っっ!!!」

耳元で揶揄した後、濡れそぼって糸を引く指をゆっくりと広げ、目の前で舐めて見せる。
ヴァッシュはこれ以上ないくらい顔を真っ赤に染め、シーツに顔を伏せた。



「なぁ、こっち向けて」

縮こまって貝のようになった赤コートに声をかけるが、首を横に振るだけで顔を上げようとしない。
羞恥に耐え切れなくなったのだろう。


このまま我慢するつもりだろうか。


その時、ふと思いついたことがあった。ニィっと口端だけを引き上げて笑う。

もしもヴァッシュが見ていたら、危機感を覚えたであろう表情をウルフウッドは浮かべていた。
しかし顔をシーツに押し付けたままのヴァッシュには、それが分からない。

「ほな、そんままでもええわ」

後ろを覆っている邪魔な布を摘み上げ、ひらりと捲り上げた。ビクンと身体が揺れるが、
声は発せられない。横に垂れている部分もゆっくりと前の方に避ける。


すると目の前には再び、可愛らしいイチゴパンツが現れた。傷だらけの、それも男の尻に、
何てミスマッチな組み合わせだろうか。


丸い形に沿ってするりと撫でると、また小さくビクリと震える。
ゴムに手をかけ一気に膝近くまで下着を下ろした。上着の内ポケットをあさり、小瓶を取り出す。
片手で器用に蓋を開けると、その容器を傾けた。

ヴァッシュの上に、とろりとした粘性の液体が零れ落ちていく。


「ひっ!冷たっ・・・なにし、て!?」
「何て、好きやろ?」
「えっ?」

声を抑えるのを忘れたヴァッシュの叫びをさらりと受け止める。

「これなぁ、香りつきのヤツやねんで」

言いながらすこしずつ液体を垂らしていった。尻の割れ目に沿って僅かに色がついた
液体がゆっくりと流れていくのを眺める。部屋中に甘い香りが充満していった。


買い物した店で偶然目に入り、つい衝動買いしてしまったものを、こんなにタイミングよく使えて
笑いが込み上げる。

それは正しく、ヴァッシュが今身につけている下着の模様である、赤くて小さな果実の香りがする
ローションだったのだ。

「おんどれ・・・いちご、好きやろ?」
「す・・・好きじゃな・・・」

小瓶を持ったまま、中指だけを伸ばしヴァッシュの奥まった部分に触れる。

「そうか?ココは好きて言うとるみたいけど」
「っや・・・くぅっ!あ、あっ、は・・・」

くるくると周りをなぞって放射線上に爪で引っ掻いていくと、紅く色付いた果肉のような部位が、
ひくひく蠢いて誘うような動きをみせた。

「強情なやっちゃなぁ。下の口はこんなに素直やのに」
「んんっ!・・・」

ローションで更にぬめりを増した秘所に、指先をほんの1センチほど挿入する。
すぐにゆっくりと抜き取り、今度は2センチほど挿し込む。また抜いて、今度は3センチ・・・。

じわりじわりと抜き挿しを繰り返しながら、少しずつ奥へ奥へと秘肉を掻き分けていった。
その度に小瓶を傾けて液体を指先に滑らせ、中へと送り込む。

ヴァッシュが無意識に腰を揺すり始めるのを見て、口角を上げた。
絶対的な刺激が足りないのだろう。

右手は未だヴァッシュを押さえつけているので使えない。唯一自由に動く左手には小瓶が
握られていて何本かの指しか動かせないのだ。
最奥まで分け入ることは勿論、ヴァッシュの悦いところにすら上手く届かない。

入口近くで僅かに指を曲げ、内壁をゆるく引っ掻いたり浅く出し挿れしたりしたぐらいでは、
身体中にじくじくとした疼きを与えるだけに違いないのだ。


「ふぅ、んっ、んっ・・・ウル、フ、ウッドぉ・・・」
「何や、もう貝になるのはやめたんか」

何とか首を捻ってこちらを見たヴァッシュの瞳が、雄弁にその次の行為を求めて熱く潤んでいても、
わざと知らん振りをした。

もう一度身体を倒して覆いかぶさり、乾きかけた唇を舐めて潤してやる。

「・・・ッルフ・・・ぁっ・・・」

深い口付けを欲してヴァッシュが口を開けても、舌先を軽くちろりとなぞるだけで顔を離した。

「・・・欲しい、か?・・・ん?」

猛烈な非難と希求の篭った眼差しを受け止め、答えが分かりきっていても返事を強要する。
答えが分かりきっていても、だ。

問うた途端、ヴァッシュの秘所がヒクリと蠢き、中指を更に深く飲み込もうと内襞が熱くうねった。

「上の口よりこっちの口が先に返事しよったわ。ホンマここは、素直で可愛らしいなぁ」
「んやっ!・・・ぁ・・・あぁ、あっ・・・ひっ!」

左手を小刻みに震わせると、くちゅくちゅと湿った音が響く。秘所から溢れ出した粘液が、
前できつく張り詰めているヴァッシュのモノを、とろりと伝う。

「なぁ・・・ヴァッシュ?」

これ以上ないほどに、低く甘く耳元で囁き、わざと情事の時にしか言わない呼び方をする。

「・・・ぁ・・・」

ヒクリと身体を震わせ、翡翠の瞳を一度きつく閉じた後、ヴァッシュはついに陥落した。
消え入りそうな声で返事を口にする。

「もっ・・・欲しぃ、よ・・・ウル、フ・・・」
「・・・!」

ゾクリ、と首の後ろが総毛だった。

ヴァッシュが後ろ手を伸ばして脚をつかみ、スラックスの中で硬く張り詰めている部分に、細い腰を
揺らめかして擦り付けたのだ。淫らで可愛いおねだりに、思わず破顔してしまう。

「じゃあ、自分でええようにやってみ?ワイ、両手塞がってんねん」

そう告げると、ヴァシュはゴクリと息を飲み、後ろに回していた腕を持ち上げた。
完全に後ろを向くことが出来ないので、手探りでジッパーを探している。

ようやく目的のものに辿り着き、ジィッ、と音を立てて金具を外す。そこから中へと手を伸ばして・・・
一瞬驚いたように手を引く。

「どないしたん」
「ぁ・・・お前・・・も?」

熱く潤んで壮絶な色香を醸し出している瞳が、うっとりと見上げてきた。
ニィッ、と笑って返事をしてやる。

「そや。おんどれのコトが早く欲しい欲しいて、さっきから泣いとるわ」

碧の瞳がふわりと満足そうに細められる。スラックスから取り出された欲望は、
硬く勃ち上がっていた。


「また・・・おっきく、なった・・・?」

不安定な体制からでも手を伸ばし、愛撫を加えてこようとする。それを手助けしようと、
自分の屹立に残りのローションを全部垂らした。空になった容器を横に放る。

「素直なええ子には、ご褒美やろな」
「・・・んぁ・・・ふっ、あ・・・ああぁぁぁぁーーーっっ!!」

滑りをよくした後、双丘の間に一、二回擦り付けて一気に貫いた。
そのあまりの衝撃に耐え切れず、ヴァッシュは絶叫し、先に達してしまう。
白濁した液が、シーツに撒き散らされた。

内襞が一気に収縮し、自分の昂りをきつく締め上げるのを、奥歯を食い縛って耐える。
十分慣らしたそこは、抵抗なく切っ先を飲み込み、奥深く誘い込むような動きをみせた。

ヴァッシュの身体がゆっくりと弛緩していくのに合わせて、ようやく深い息をつく。

「何や、挿れただけで、イッてもうたん?」

荒い息をつきながら、放出の余韻で呆けていたヴァッシュの顔を間近で覗き込んで笑う。

「お、お前が・・・焦らすからっ、我慢、できなか・・・ひぁうっ!」

緩く腰を回すと、ヴァッシュの口から悲鳴が上がった。イッたばかりでまだ苦しいらしい。
しかし、こちらもそろそろ我慢の限界だ。

「まだ・・・アカンか?」

訊ねると、グイと身体を押しのけられた。仕方なく身を離そうとすると、前髪をグイと引っ張られる。

「痛ッ!いきなり何や・・・」

驚いて文句を言おうとした口が、柔らかいもので塞がれた。

「んんっ!」
「っ・・・く」

その後、ヴァッシュがいきなり体勢を変えたので内部が捩れ、甘い痛みが走る。
向かい合う形になって、ようやく一息ついた。

「おい?」
「・・・いいよ」

驚いて固まっていると、ヴァッシュは両腕をこちらに伸ばしてきた。身体を屈めてやると
嬉しそうに微笑む。

「もう、大丈夫だから。キミの好きにして・・・いいよ?」
「〜〜〜〜っっ!!!」

その言葉で完全に箍が外れた。ドクン!と身体の内側で音がする。

「え・・・あ!?・・・ひぁっ!!!」
「可愛いコト言うなや。もう、止まらへんで」
「あ、あっ・・・ふ、・・・んんっ・・・く、ふっ」

無意識に逃げようとする腰を強引に引き寄せ、何度も激しく出し挿れを始める。前にも手を這わせ、
先端から溢れ続ける先走りを指で絡めて弄ってやると、ヴァッシュは一層甘い声を上げた。
自分の手の中で激しく痙攣するそれを更に扱いて絶頂を促す。

「は・・・ヴァッシュ・・・っく!」
「ウ、ルフ・・・ウルフッ・・・やあぁっ・・・あぁぁああああーーーっ!!!」

低く呻いて、ヴァッシュの内部へ限界まで高めた熱を放出する。ヴァッシュもまた、熱い飛沫を
手の中に放っていた。


クタリ、と腕の中で力を抜く愛しい者に、そっと口付けを落とした。








「おい、大丈夫か?」
「ぅ・・・大丈夫、じゃな・・・い」

どうやらベットに突っ伏したまま、動くことが出来ないらしい。

それもそうだ。

昨夜は何度コトに及んだか覚えていないくらい、絡み合い、与え合い、溺れ込む、といった
濃密すぎる時間を過ごしたのだ。いくらこの男が、不死身のタフネスがウリとはいえ、
ダメージが残っても仕方が無いだろう。

「朝食、持ってきたで。食えるか?」

少しは責任があるような気がしたので、今日一日くらいは甘やかしてやってもいいかなぁ、
なんて思っての行動だ。

「え、ホントに?ウルフウッドが優しいなんて気味悪・・・」
「食わんなら、返してくるわ」
「わーわーっ、ごめん!ごめんなさいっ!!食べます、食べます、いっただきまーす!」

そう言って、ヴァッシュは嬉しそうに手を合わせ、トレイに被せられたペーパーナフキンを
外して・・・・・・


またもや固まった。


いつまで経っても動こうとしないヴァッシュを不審に思って、部屋を出て行こうとした足を止め、
踵を返す。

「・・・・・・は???」

その手元にあるトレイの上を覗き込んで・・・こちらも固まった。

『いちご』ジャムをたっぷり塗られたトースト、『いちご』入りのフルーツサラダ。
デザートには『いちご』のムース。

極めつけの一品は、練乳をたっぷりかけた『いちご』が丸ごと・・・。


「や、ちょお待て。おかしいやろ?不自然やろ!?こんなタイミングで『いちご尽くし』なんざ・・・!」
「キミは・・・俺をからかって、そんなに楽しいのか!?」

ヂリッ、と前髪が焼けるような音がする。

こ、これは・・・・・・このパターンは、まさかっっ!?

次の瞬間、ゴォッ!!っとヴァッシュのまわりの空気が舞い上がった。
と、同時に今まで感じたことが無い、物凄い戦慄がウルフウッドを襲う。

「ちゃうねん!落ち着け。これは誰かの陰謀や!!待てって・・・ぎゃああああああーーーーっっっ」





・・・合掌。








それ以来、ウルフウッドは、いちごが大嫌いに。

ヴァッシュは、いちごがちょっぴり嫌いになりましたとさ。











                          (おしまい)

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