「フッ」
今日は。さて、今日の講座は「フッ」の多段活用についてご説明します。
「フッ」
良い言葉ですね。
何やらこう、孤高の戦士と申しましょうか。
俺に任せておけと言わんばかりの不思議な自信。
寂しげな背中から漂う哀愁。
決して負け惜しみじゃない。――けれど、捨て台詞のような。
たった二文字の中に、これだけの感情を見出すことが出来るのです。
何と素晴らしい言葉でしょう!
是非この言葉を、日常生活の中でかっこよく使ってみたい!
きっとそう思われることでしょう。そうでしょうとも。
では、早速活用方法の一例をお見せしましょう。


ある日の昼下がり。
Bクンはは幼なじみのCさんに喫茶店へ呼び出され、
悩みを相談されました。
「どうしたの? 真剣な顔して。」
「うん、あのね、あたしAクンが好きなんだけど……」
「え!?」
Bクンは仰天しました。
AクンBクンCさんは仲の良い3人組で、幼い頃から何をするにも一緒でした。
特に、一才違いのCさんとは家が近いこともあり、まるで本当の兄妹のような関係です。
小さな頃から”お兄ちゃんお兄ちゃん”と慕ってくれていたCさん。
Bクンにしてみれば、やはり、一生この可愛い幼なじみと暮らすのかなぁ、とか、
まぁ、なんちゅうか、うまーくこう、友達みたいな夫婦っていうか、
全然知らない女口説くより遥かに楽だし、
あの、それに、そこらの女より錯覚無しに数百倍可愛いし、
Cさんだってきっとやっぱりそこそこ思ってくれてるわけだし、
……ウハウハ?
人生勝ったも同然?
と、まぁ、多分思っていたわけです。
それが突然”Aクンが好きなの”
これは青天の霹靂です。
Bクンの将来設計の根底が崩れてしまったわけですね。
かようにして、顔では平然を装いその実今にも倒れそうなBクンに、
Cさんは無邪気な相談は続けます。
「それでね、あのね、Aクンにそれとなく伝えて欲しいの。」
もちろん、Cさんに悪気は全くありません。
女の子にとって、”良い人”はあくまで”良い人”なワケですから。
「お願い、直に言って嫌われたら、あたし……」
目に涙を溜めてCさんは言います。
Bクンとしては、言わないわけにいかないのです。
「ああ、任せとけよ。大丈夫。Cなら即OKさ!」
ああ、この口が憎い。
「Aか……良いヤツだもんな。あいつになら安心してCのこと任せられるよ。」
心の二枚舌!
冷え切ったコーヒーを啜るBクンに最高の微笑みを残して、
Cさんは帰っていきました。
斜めに射し込む夕日がBクンの顔に影を落とします。
「……フッ」
寂しくなんかないさ。
A、ぶっ殺スなんて微塵も思ったりしないさ。
好きな子の笑顔が見れればいいじゃないか。
俺は良いことをしたんだ。多分きっと絶対。


いかがですか?
日常生活の中で、思いもよらぬ衝撃を味わったとき、
「フッ」
は、こんなにも貴方を演出してくれるのです。
今日から早速使いましょう!!
そして、挫折だらけの人生を逆恨みしましょう!!
心のままに八つ当たりしても、結局幸せにはなれないもんです。
幸せ……って、何だろう?