・某国某所(多分足立区辺り)――閑静な住宅街の一角に立つ月髭幼稚園。ゴルベーザ先生がいつものように、良い子の園児達をお迎えに行きます。
「ルビカンテ、留守を頼むぞ。」
ゴルベーザ先生は、見送りのルビカンテ君にいつものご挨拶です。ほうきを抱えたルビカンテ君は、深々と一礼しました。
「御意。……お気を付けて。」
にっこり笑うゴルベーザ先生を乗せてバスは出発。ルビカンテ君はぼんやりホウキを抱えます。
「ゴルベーザ様……(*- -*)⊥」
ルビカンテ君、実はゴルベーザ先生のことが大好きなのです。
でも、ゴルベーザ先生はバス運転手のクルーヤさんと大の仲良し。
シャイなルビカンテ君は二人の仲を気にして、なかなか自分の想いを告げることが出来ません。
・今日も良い子の園児達を乗せて幼稚園に向かう送迎バス。 と、そこに忍び寄る黒い影……
「車を止めろ!」
キキーッがっしゃん。
突然バスの目の前に人が飛び出しました。びっくりしたクルーヤさん、思わずアクセル踏み込んでしまいます。
「む、何者かを踏む胸騒ぎの予感。」
「父さんっ、止めて下さい!!!!」
慌てるゴルベーザ先生の声に、クルーヤさんは迷わず急ブレーキ。バスが止まったのを確認して、ゴルベーザ先生は飛び降ります。
「大丈夫か?」
さっきバスに轢かれたばかりで大丈夫なわけがありません。しかし、抱き起こされた男は口から血をたらし、胸ポケットから拳銃を取り出しました。
「ぐは……か、金を出せ……」
今彼に必要なのは金ではなく救急車です。案の定、ゴルベーザ先生はムッとしました。
「馬鹿を言うな、金なんか無い。 大体、何故幼稚園バスを襲うんだ? 金が欲しいなら働けば良いだろう。」
「うるせぇぇ!!」
大怪我をさせられた上金も取れないでは、さすがの犯人だって逆ギレです。瀕死の体に鞭打って、ゴルベーザ先生を羽交い締めにして拳銃を突きつけました。
ゴルベーザ先生、大ピンチ!
大事な息子の危機に、クルーヤさんが黙っていません。
「む、私の許可無くゴルベーザに抱き付くとは言語道断水色模様。離すが吉。」
「黙れ!」
パァン! 強盗犯の銃が火を噴いて、クルーヤさんのお顔に大穴が空いてしまいました。
「ヽ(・○・)ノ む、顔面に小洒落な通風口、この秋イチオシの新作です。」
「ぎゃああ!! 人間じゃねえ!!」
自分が引き起こした大惨事に、犯人は青ざめました。
「失礼な。父さんは少し変わっているだけで、一応人間の部類だぞ。あれでも。」
「う、うるせえうるせえ!! ととととにかくバスを出せ! こいつの命が惜しくねえのか!」
半泣きになってしまった犯人、支離滅裂な要求をヒステリックに叫びます。ゴルベーザ先生を人質に取られてしまっては仕方ありません。クルーヤさんは犯人の要求を飲むことにしました。
・一方その頃……
園庭の一部分だけ異様に綺麗に掃き終えたルビカンテ君。滑り台でおかしな仮面を見つけました。
「……何だこれは。全く、私物を持ち込むなとあれほど言うておるのに(- -;;)」
きっと園児の誰かの忘れ物でしょう。しょうがないなと拾った瞬間、いきなり仮面が輝きだしました。
「……~~~~!?!?!?!?(@ @||||)」
驚きのあまり硬直するルビカンテ君。仮面はふわっとその手を離れ、顔にびたっと張り付きました。
途端、全身に脚パワーが漲ります。着ていた服は弾け、白タイツに赤マントというコスチュームに変わりました。
あまりの事に真っ白漂白されたルビカンテ君の脳内に、不思議な声が響きます。
『ルビカンテ、貴方は今から疾風迅雷・怪傑脚仮面として人々を悪の手から守るのです。』
「……何を勝手な!」
悲鳴に近いルビカンテ君の声などまるで聞こえないかのように。謎の声は語り続けます。
『耳を澄ませてご覧なさい、貴方を呼ぶ声が聞こえるはず。』
「聞こえて堪るかァァァ!!!!」
そう言った矢先、ルビカンテ君の耳にゴルベーザ先生の助けを求める声が聞こえました。
「はっ! ゴ……ゴルベーザ様!?」
『行きなさい脚仮面、輝く正義と脚のために!!』
「言われずとも……っ」
慌てて駐輪場の自転車を引っ張り出す脚仮面。しかし、何故か鍵が外れません。
『脚仮面、徒歩こそ美脚の秘訣ですよ。』
「……戻り次第、跡形もなく焼き尽くしてくれる……」
物騒な決意を胸に、脚仮面は泣く泣く走り出しました。アスファルトの道路にビニールサンダルのぺったらぺったら音が響きます。
・一時間後。
警官やら野次馬やらを振り切った脚仮面は、ようやくバスを見つけました。随分なのろのろ運転ですが、それでも人間の足で追いつけるものではありません。
「其処のバス、待て!」
息を切らせてようよう叫ぶ脚仮面。三十路に慣れた身には少々辛過ぎます。
ふとバックミラーを見たクルーヤさん、後ろから追い掛けてくる影に気付きました。
「む、何者かがバスに乗りたそうな目でこちらを見る予告編。」
キキーッがっしゃん。分解しそうな音を立ててバスが止まります。年代物なんですね。後部に何やら柔らかい衝撃が来たのもきっと気のせいでしょう。ややあって、扉の前に人影が見えました。
「む、焦らず急がずドアが開きます。ヽ(´▽`)ノ」
親切なクルーヤさんは、扉の開閉レバーをぎっこんと思い切りよく倒しました。すると、
「ぐわっ;;;(@×@);;;」
という元気な声と共に、不思議な格好をしたルビカンテ君が乗り込んで来たではありませんか。正確にはドアに挟まれているようですが、細かいことは気にしません。
幼稚園で留守を守っているはずのルビカンテ君がここに現れたことを不思議に思いながら、クルーヤさんは何とか扉から解放された彼に声を掛けます。
「脚君どうし」
「別人ビーム!!」
【説明しよう! ”別人ビーム”とは、脚仮面の正体をばらそうとする不埒者に天誅をくわえるために開発された必殺の熱線である! 火焔流をあたかも目から発射するビームのように直線で放つ高度な技だ!】
クルーヤさんの言葉が終わらない内に、脚仮面の必殺技が文字通り火を吹きました。
出会い頭に正体をばらそうとした不届き者を屠った脚仮面、改めてバスジャック犯に向き直ります。
「其処な不埒者! ゴルベーザ様から離れよ!」
「っ父さん!! ;;;(@ @||||);;;」
バスジャック犯が一喝に怯むより早く、ゴルベーザ先生はあっさり羽交い締めを振りほどきました。ゴルベーザ先生、なにげに強いのです。
相次ぐ不可思議事件にほとんど壊れかけだった犯人、人質に難なく逃げられたショックも相まり、ここに来て遂に吹っ切れてしまいました。
「何だテメェは! 正義の味方気取りか変な脚しやがって!」
悪口にしたって人の身体的特徴をあげつらうのはいけません。
ただでさえ、大好きなゴルベーザ先生とこんな格好で会わなければいけないという恥ずかしさと、何十キロにも及ぶ全力疾走で身も心も疲弊しきっていた脚仮面、頭の中で何かがぷつっと弾ける音を聞きました。
「俺が誰かと? 知らぬば答えてやろう。」
風も無いのにマントがなびき、逞しい胸板が露わになります。
「東に白い脚あらば、行ってオイルを塗ってやり、西に長い脚あらば、厚底ブーツの底を斬る。疾風迅雷ずばっと怪傑! 脚仮面!! ¬(□Υ□)/
」
【説明しよう! 片脚を頭上に高々と掲げるY字バランスに良く似たこのポーズこそ、脚仮面の決めポーズだ! 別名視界の凶器とも言うぞ! 覚えてお友達に自慢しよう!】
決めポーズのあまりの輝きに燃え尽きたバスジャック犯など敵ではありません。電光石火脚仮面、バスジャック犯に拳銃を撃つ暇も与えず手刀で叩き伏せました。
白目を剥いて悔い改める犯人を肩に担ぎ上げ、脚仮面は爽やかに汗を拭います。
「悪は倒した。犯人の始末は私に任せ、貴方は安心して子供達を幼稚園に連れて行きなさい。」
クルーヤさんの手当を終えたゴルベーザ先生、脚仮面に微笑みかけました。
「ありがとう……せめてお礼を」
「さらば!」
マントをなびかせバスを降りる脚仮面。哀愁漂う後ろ姿を見かねて、クルーヤさんが声を掛けました。
「脚君、幼稚園へ戻るなら一緒に乗」
「別人ビーム!!!!」
口は災いの元とはこのことです。クルーヤさんは再び焼き尽くされてしまいました。
*思わぬアクシデントを脚仮面の活躍で救われた送迎バスは、無事幼稚園にたどり着きました。
「はぁ……あれは一体誰だったんだろう……」
子供達を教室に連れていったゴルベーザ先生、教壇に座ってぼんやり考えます。丁度そこへ、ルビカンテ君が返ってきました。
「お帰りなさいませ、ゴルベーザ様(^^)」
「ああ、ルビカンテ……聞いてくれ。今日、不思議な正義のヒーローを見たんだ。きれいな脚をしていた……お前と同じくらいかもしれない。」
「……そう…ですか……左様な者はどうぞお忘れなさいませ……(○ ○||||)」
哀れルビカンテ君、顔色が真っ青です。そこへ、バスを駐車場へ置いたクルーヤさんが顔を出しました。
「お帰り脚君。大変だったろう、あんな荷物を担いで警察へ」
「べつっ…っっっ、火焔流!! (@ @)ノξξξ」
うっかり口を滑らせたクルーヤさんに、ルビカンテ君の炎が襲いかかります。乱暴を目の当たりにしたゴルベーザ先生は、ルビカンテ君をきっと睨み付けました。
「ルビカンテ! ……もう良い、下がれ!」
「ゴルベーザ様……!!(T□T)」
大好きなゴルベーザ先生に怒られてしまったルビカンテ君。がっくり肩を落として用務員室へ戻って行きます。
こんがりキツネ色に焼き上がったクルーヤさんの手当をしながら、ゴルベーザ先生は呟きました。
「それにしても、あの仮面のヒーロー……誰なんだろう。不思議な人だった……」 |