第五話

お色気どっきり?! アタシはバルバリシア!
・某国某所(多分足立区辺り)――閑静といえなくもない住宅街の一角に立つ  月髭幼稚園。レースのカーテンがそよぐ麗らかな午後、園児達はお昼寝の時間です。日頃の喧噪が嘘のように静かな園内で、バルバリシアさんはぼんやりと溜め息をつきました。目の前では、パソコンのモニターが意味不明の文字列を吐き出しています。
「おっかしいわね……ここをこうして、エンター押すでしょ……何でこうなるワケ?」
 とにもかくにも画面一杯に拡がる宇宙語を止めようと、バルバリシアさんは適当にキーボードを叩きました。するとどうでしょう。パソコンがギャーと悲鳴を上げたではありませんか。
「ひ、ひぇっ!? ななな何?! 一体何なのよーっもーいやーーー!!(T□T)」
 バルバリシアさんは一目散に、用務員室に駆け込みました。
「木偶ーっちょっと来なさいよどうせヒマなんでしょアンター!!(T□T)」
 開口一番金切り声を上げるバルバリシアさん。鶏小屋の図面を引いていたルビカンテ君は、驚いた拍子に余計な線を引いてしまいました。
「娘……ノックぐらいせんか、一体何用だ(- -);」
「なに呑気してんのよ! 信じらんない! 仕事しなさいよ仕事今すぐ!!(T□T)」
「だから一体何用だと……(- -);;」
「うるさいわね! アタシが来いってんだから黙って来りゃいいのよ!」
 ルビカンテ君が優しく尋ねても、バルバリシアさんは泣きじゃくるばかりで一向に要領を得ません。仕方なし、ルビカンテ君は自分の仕事を中断して事務室に向かいました。
「見なさいよこれ! いきなり壊れたのよ?! 直しなさいよアンタ用務員でしょ!」
 事務室の扉を開けバルバリシアさんは指さします。そこには、意味不明の文字列と悲鳴じみた声を交互に吐き出すパソコンがありました。部屋に入ろうとしないバルバリシアさんに背中を蹴られたルビカンテ君、画面をちらりと覗いた後、エスケープキーをぽちっと押します。
 するとどうでしょう。さっきまで聞き分けのない駄々っこのようだったパソコンが、ぴたっと泣きやんだではありませんか。
「……で? 何をするとどのような症状が出るのだ? (- -)?」
 ビープ音を止め作業可能状態に戻したルビカンテ君。バルバリシアさんの次の指示を待ちます。
「(@ @)……。」
「バルバリシア? 不調はアプリか? それともOSか? ……おい、聞いておるのか。」
 目をまんまるくしたまま仁王立っていたバルバリシアさん、ルビカンテ君の声にはっと我に返りました。
「あっ、ああ、あのね、もういいわ。帰って。後は自分で出来るから。」
「は? だがまだ何もしておらんぞ? (- -);」
「ええいいの。アンタも仕事忙しいでしょ、悪かったわね、ハイご褒美。」
 ルビカンテ君の頭をぽんぽこ叩くと、バルバリシアさんはでかい図体を廊下へ押し出しました。ちょうどそこへゴルベーザ先生が通りかかります。
「ルビカンテ、どうした? ここは事務室……(・ ・)」
 言いかけてはっと気付いたゴルベーザ先生、ルビカンテ君と、彼を追い出そうとその背中を押しているバルバリシアさんを交互に見つめます。
「……ルビカンテ……(メ- ー)」
「は、何でしょう」
 か、を言う前にハリセンが飛んできました。スパアアーーーーンという素敵な音が爽快にこだまします。ルビカンテ君はばったり倒れてしまいました。
「これ以上見損なわせてくれるな、ルビカンテ…(メ- ー)w」
 憂い顔でハリセンをしまうゴルベーザ先生。バルバリシアさんは慌てて、意識をぶっ飛ばされたルビカンテ君の元に駆け寄りました。
「(@ @)ああっ; ゴルベーザ様、違うんです、私がで……ルビカンテに来てって言ったんですわ;;」
 抱き起こしながらフォローするバルバリシアさん。ゴルベーザ先生はびっくり顔をさーっと青くしました。
「何っ?! そ、……そうだったのか……てっきり放送が深夜枠へ移動するものだとばかり(@ @|||)」
 ゴルベーザ先生、案外おっちょこちょいさんなんですね。
「はっ。……ああ、わ、私はもう行くから。気にせず続けてくれ、ではな(((((  *@);;」
 これ以上二人の邪魔をするまいと、ゴルベーザ先生はそそくさ引き返して行きました。
 気絶したルビカンテ君と廊下に取り残されたバルバリシアさんは途方に暮れます。
「ちょっと木偶……いつまでノびてんのよ、起きなさいよこのっ」
 周囲に人目が無いのを確認したバルバリシアさん、でかい図体をげしっと蹴りつけました。白目のルビカンテ君はごろごろと廊下を転がります。と、その懐から何かがぱさっと落ちました。
「……何コレ? ……お面……? (・ ・)?」
 不思議に思ったバルバリシアさんが手に取ってみると、それは女王様g【一部不適切な発言があったことをお詫びします/脚仮面制作部】仮面でした。
「なぁにコレぇ~、ヤダちょっと、コイツ変態だったワケェ~~~? (@□@||||)」
 思い切りげんなりと顔をしかめるバルバリシアさん。すると突然、手にした仮面が眩く輝きはじめました。
「えっ嘘っ何!? きゃああああああーーー!!! (○□○||||||)」

・きんころかーん、もぷっ、もぷ。ヒップホップ調のお洒落なチャイムがお昼寝時間の終了を報せました。良い子たちは仲良しグループごとにまとまって教室へ戻ります。
「あれ。ねぇねぇはにー、あそこに人が倒れてるよ。」
「んまっ、大変!」
 園内一のらぶらぶかっぷる・セシル君とローザちゃんが、ルビカンテ君を発見しました。
「うわっ、ルビカンテじゃないか。ひどい傷だ……一体誰が?」
 ルビカンテ君の腹に黒々と残った足形を見て、セシル君は顔をしかめます。
「見るに堪えん。 おい、ローザ。」
 少し遅れて現場に駆けつけたカイン君、ローザちゃんに回復するよう促します。
「はァいお任せ♪ケアルラ!」
 ぴろりらぴろりら。暖かい光が降り注ぎ、ルビカンテ君はうーんと目を覚ましました。
「……はっ。お、俺は一体……?」
「やぁ、大丈夫かい? 園内でこんな事件が起こるなんて、物騒な世の中だねぇ。」
「そうね、……わたし怖いわだーりんっ(T T)」
「ははっ、大丈夫さはにー。君にはナイトがついてるじゃないか(・ -)☆」
「フッ……」
 繰り広げられるドラマをしばし呆然と見入っていたルビカンテ君、ふと気付いて懐を探ります。
「……っ、無い!(@ @);;」
 すっとんきょうな声を上げるルビカンテ君に、お子様三人の視線が集まりました。
「財布でも盗られたか?」
「いや、財布はある・・・……;;;;」
「じゃあ、ていs」
「いやんだーりんったらぁvvvvv」
 どぐしゃーっ。ローザちゃんがセシル君のお鼻をツンvします。真っ赤に染まったセシル君、そのまま言葉を失いました。微笑ましいらぶらぶっぷりですね。
「……あああとにかく手間を焼かせてすまなんだ遅れぬように教室へ向かえ廊下は走るなよそれではなっヾ(@ @);;」
 口早に色々述べたルビカンテ君、早足でその場を去りました。

・一方その頃……。
 園内のプールでは、体育指導員のカイナッツォさんが今にも固形塩素剤を投げ入れようとしていました。
「クカカカカー、消毒消毒消毒でげすよ~!」
「きゃーっ、エンソザイいやー!(>□<)」
 怯えたリディアちゃんがプールの中を逃げ回ります。パロムくんとポロムちゃんが、勇敢にもカイナッツォさんに立ちはだかりました。
「物を投げちゃいけないってじっちゃんも言ってたぞ!」
「そうですわそうですわ、私たちが入る前にお掃除すべきですわ!」
「クカー、うるせぇガキどもでげすな~、オレにも昼休みってもんがあるんでげす食らえ消毒ぅー!」
 カイナッツォさんが塩素剤を集めはじめました。
「きゃーエンソザイなんてだいっきらいー!(>□<)」
「ちくしょー、怖くないもんねそんなのっ!(>×<)」
「ど、どなたか助けて下さいませ~っ(>△<)」
 魔のプール消毒が良い子達を襲わんとしたまさにその時!
「お待ち!!」
 鋭い声がこだましました。皆の視線が一所に集まります。
 そこには、ミニの下から覗く長い脚が艶めかしい、赤い仮面の金髪美女が立っていました。
「ストッキングもタイツも邪道だってのよ!! 生脚が美しけりゃ飾りなんていらないわ!!」
 正義の美女は、ピンヒールでコンクリを踏みつけ声高らかに決め台詞です。
「ア……アンタ誰でげすか。」
「アタシが誰かですって? アタシの名は生脚レディ! 今サイッコーに腹が立ってンの、覚悟なさいカイナッツォ!」
「ひぃぃ~~~!!」
 生脚レディの鬼気迫る勢いに、カイナッツォさんは甲羅に閉じこもってしまいました。そこへルビカンテ君が駆けつけます。
「……バ、バルバリシアか!? 何を……」
「うるさいわねこの木偶ーっ!! ヒールストーム!!(▽□▽)ノ」
 【説明しよう! これが生脚レディの必殺・ヒールストームだ!! 一秒間にピンヒールキックを百連打して、敵を天高く吹き飛ばすぞ!】
 ぐわー!という悲鳴を上げてフェードアウトするルビカンテ君。邪魔者を葬り去った生脚レディ、改めてカイナッツォさん(甲羅)を睨み付けました。
「何よそのチャチな防御態勢! 出て来なさいよこの亀!!」
 げっしげっしと蹴りつけるたび、カイナッツォさん(甲羅)はコンクリートを滑ります。
「痛くはないけど響くでげす割れるでげす勘弁してほしいでげす~~~(T□T)」
 カイナッツォさん、マジ泣きで赦しを請います。もう二度と子供達をいじめるようなことはしないでしょう。
 新たな美脚戦士の見事な活躍により、幼稚園の平和は守られたのです。

・翌日。着地点である千葉浦安からほうほうの体で戻ってきたルビカンテ君が、バルバリシアさんに壮絶にボコられたという噂が立ちましたが、定かではありません。

 真実を知るのは、脚仮面仮面ただ一つ……