・某国某所(多分足立区辺り)――閑静といえなくもない住宅街の一角に立つ月髭幼稚園。まだ誰も登園してこない朝早く、園庭に怪しげな高級車が乗り付けました。途中の道で脇を摺ったのかちょこっと傷の付いたドアが開き、中から全身黒尽くめの男が出てきます。
「(- -)φ月髭幼稚園……ここか。」
懐から取り出したジャポング学習帳に何かをさらさらと書き付け、男は裏口に向かいました……。
・きんころかーんもっぷんもぷもぷ。愉快なチャイムが8時をお知らせするのと同時に、
「なんぢゃこれわーーーーー!!!!」
園長室からこの世の物とは思えない叫び声が上がりました。園長先生のお髭が真っ赤に染まり、普段の三倍はシャア専用ですが、こんな真っ赤なお髭を押しつけられたら全国のキャスバル兄さn【対象年齢を考えない記述が入ったことをお詫びします/制作部】。
園長先生は、
『髭バーカ』
とでっかく書き付けられた机を睨み付けました。へたくそな字で、しかも油性マジックです。
「許さーんっっっ!! ワシの可愛いお髭の、いったい何がバカだというのぢゃ!!ヽ(`W´)ノ」
髭から湯気を出しそうな勢いの園長先生、まっすぐ職員室へ向かいました。
がらがらぴっしゃーん。カミナリ様もかくやと言う程の音を立てて、扉が開かれます。
「クルーヤ!! この、大タワケがあ!!ヽ(`W´)ノ」
園長先生の一喝で、職員室の時間が止まりました。名指しされたクルーヤさんに至っては心臓も止まっているようですが、それは元からなのであまり気にしません。
怒りのあまりほうぼうへ髭を逆立てた園長先生、ぷんすかずんずかクルーヤさんに詰め寄ります。
「よーもワシの机に落書きしてくれたものぢゃ……覚悟は出来とろーな?W(▽W▽)W」
「………………;;;;(○ ○=○ ○);;;;」
哀れクルーヤさん、声も出せずにただただ首を振るばかりです。
火花がスパークリングな二人の合間に、すかさずゴルベーザ先生が割り入りました。
「ま……っ、待ってください伯父上、一体何があったんですか?」
落ち着いて落ち着いてジェスチャーのゴルベーザ先生を、園長先生はぎろりと睨みます。さすがのゴルベーザ先生も、一瞬気が遠くなりました。
「このタワケが私の机に落書きなぞしおったのだ。日頃からロクな事をせんとは思っていたが、よもやここまでヴァカだとは!(▽W▽メ)」
園長先生、ヴァの発音が完璧です。ようやく震えが収まったクルーヤさん、ゴルベーザ先生に代わって恐怖の髭魔人と対峙しました。
「お言葉ですが兄、……私は先ほど登園したばかりです。(・ ・||||)ρ」
「それでアリバイ工作したつもりか? あの幼稚な文句といい手段といい、お前以外に考えられん!(▽W▽)」
園長先生はきっぱり言い切り、クルーヤさんの髪の毛をむんずと掴みました。
「いたたたっ、か、髪が抜けると髭になる!!(T□T||||)」
「父さんっ;;(○ ○||||);;やめてください伯父上、髭はあなただけで十分だ!」
あまりの修羅場にゴルベーザ先生も錯乱気味です。
「二度とあんなヴァカな真似を思い付けんようにしてやるわ!(▽W▽)」
「私は何もしていません本当です信じてください(T□T||||)」
「伯父上お願いですその手を離してくださいせめて髪だけでも(○ ○||||);;」
なんということでしょう。良い子の通う平和な月髭幼稚園の職員室が、ハシダs【対象年齢を考えない記述が入ったことをお詫びします/制作部】も真っ青な昼ドラの世界に変わってしまいました。月髭幼稚園、大ピンチ!!
・一方その頃……。
バルバリシアさんからプレゼントされた大量の書類整理を泊まり込みで仕上げたルビカンテ君は、早足で職員室へ向かいます。
「何たる失態……この俺が職員会議に遅刻するなど;;(- -)ξ;;」
窓から差し込む朝の光を背に、廊下を早足るルビカンテ君。眩い一瞬の閃光と共に、その姿は頼もしい変質者正義の使者へと変化しました。
「%#&#$%#$%$!!!!(○□○|||)ξ」
真っ白になったルビカンテ君の脳裏に、仮面からの死刑宣告警告が響きます。
『さあ、急ぐのです、脚仮面! 手遅れにならない内に!!』
・職員室。
「私とて慈悲が無いわけではない。遺言くらいは聞いてやるぞ、気が向けばの話だがな。(▽w▽)」
と、園長先生。
「口調が変わっていますが兄ぃいいい(T□T|||)本当に何も知りません俺はやってない!!」
と、クルーヤさん。
「父さんも口調が変わっていますよそれはともかく、誰か助けてくれ、手を貸して――(T T);;」
と、ゴルベーザ先生。
こうして、わくわく☆月髭幼稚園が、泥沼☆ハーヴィ家劇場に乗っ取られかけた、まさにその時――!
「その喧嘩、待った!!」
高らかな声と共に、赤いマントが靡きました。
園長室から、引き出しの一つも無いくせにやたらと重い机を引きずって持ってきた脚仮面は、額に煌めく汗を逞しい二の腕でぐいっと拭います。
訪れた救世主に、ゴルベーザ先生がほんやり笑顔を浮かべました。魔性n【けしからない表現を修正しました/制作部】
「騒動の原因はこれだな? お父上を犯人と決めつける前に、しかと見よ!¬(□Υ□)/」
バランスばっちりな決めポーズに、一同の視線が集まります。
「あ、いや、俺でなく……この机の文字を良く見よ、と。(*- -);;」
仮面に隠した正義のフェイスをほんのり赤らめた脚仮面、どっかと机を横倒して、『髭バーカ』の文字をみんなが見易いようにしました。一同わらわらと机の周りに集まります。あっという間に、飴を売り歩きたくなるくらいの人だかりができました。
登園時間でないのに全員揃っている園児や、部外者のはずのエッジ君までいますが、気にしないのがグッドチャイルドのプロミスです。
「皆集まったな。それでは解説しよう――まず、ここを見てくれ。( ..)φ」
脚仮面は、『髭バーカ』の”髭”という字を指しました。
「へぇ、髭って難しい字を書くんだねぇ。(・ ・)」
ちゃっかり最前列で体育座りをしたセシル君が発言します。脚仮面はセシル君をビッと指さし、大きく頷きました。
「その通り! 流石はゴルベーザ様の弟君……問題は其処だ。果たしてお父上に、斯様な難解な文字が書けるであろうか?」
「そういえば……父さんが五画以上の漢字を書くのを見たことがないな……(・g・)」
クルーヤさん通であるゴルベーザ先生の言葉に、一同うーんと考え込みます。
ところで、ここまで言われたらクルーヤさんは怒った方が良いと思います。
「と言うことは、……結局誰の仕業なんぢゃ?(・w・)」
通常モード髭に戻った園長先生、はてなと首を傾げました。深紅のマントをばさりと翻した脚仮面は、隆々たる胸板を張って腕を組みます。
「察するに、普段より書き物を頻繁に行う人物……そして、園長殿に個人的な恨みを持つ人物に相違あるまい。(- -))」
するとその時――
「クックック……バレてしまっては仕方ない(- -)φ」
怪しい笑い声が響き、園庭を臨む窓の外に眩い影が現れました。眩いのに影というのは甚だしく矛盾しているような気がしますが、それはきっと気のせいです。カゲスターにだって失礼です。
「お主は――!」
「貴様は――!」
「あなたは――!」
「アンタは――!」
「お前は――!」
「てめぇは――!」
【解説しよう! これは”兵隊点呼”という禁断の秘技だ! 原稿用紙何枚と決められた作文の宿題が苦手な良い子は要チェケラッ!!】みんなが口々に叫びます。
クックックックと笑い続ける怪しい影は、窓の桟から覗くスキンヘッドをキュキュッと撫でました。
「クルーヤの仕業に見せかけ内部分裂を誘うつもりだったが、とんだ邪魔が入ったものだ___φ(- -)」
職員室に騒然をもたらした男は、愛用のジャポング学習帳にさらりさらりと何事か書き付けます。
「ゼムス! 全てはお主の陰謀か!(▽W▽)」
園長先生のお髭が再び逆立ちました。クルーヤさんを先頭に、ざざっと音を立てて総員退避が行われます。
窓を挟んで向かい合う園長先生と謎の男。髭と禿の二重奏が世界を圧倒します。
「机に落書きなどしおってからに! 一体どういうつもりぢゃ!W(▽w▽)W」
「クックック、この青き星に住まうゴミどもを一掃するための輝かしき第一歩だ。」
輝かしいのはむしろ頭の方のような気がしますが、怒りに震える園長先生はそんな細かいことを気にしないようです。
「愚かな……素晴らしい力を持ちながら、邪悪な心に躍らされおって!!wW(▽w▽)Ww」
髭をごうごうと逆立て、園長先生が一喝します。世界の終わりの日があるとしたら、こんな光景でしょうか。
「クックック、今回は失敗に終わったが、手はまだいくらでもある。せいぜい用心することだな。___φ(- -)」
ジャポング学習帳をぱたん!と閉じて脇に挟むと、禿男は車に乗り込みました。
「脚仮面とやら……次こそ邪魔させん。覚えておれよ。φ(- -)」
要約すると『また来週!』な台詞と共に、車のエンジンがかかります。バックするとき花壇のお花をぐしゃっとやってしまったのは、きっと故意ではないのでしょう。
民家の壁をがりがり傷付けながら遠ざかる車を見送り、園長先生はふぅとため息をつきました。
「むぅ、ゼムスめ……。養毛剤と偽って脱毛剤をくれてやったことをまだ恨んでおったとは。(-w-)」
「当たり前だ!(○□○)」
ぬれぎぬを晴らしたクルーヤさん、いつもよりちょっぴり強気です。
「まぁ、何にせよ、とりあえず一件落着ぢゃな。礼を言うぞよ脚仮面とやらv(・w・)v」
晴れ晴れとした顔で、みんなが振り返ります。
しかし、月髭幼稚園の危機を救った正義の使者の姿は、風のように消えていました。
「脚仮面……。また、お礼を言う暇もなく行ってしまった……。(・ ・)」
ゴルベーザ先生は、寂しそうに呟きました。
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