神様に乾杯

花が降る

花が降る。君の上に。全く君の発想には敵わない。君が生まれた日だから花束を用意したというのに。ばら撒いてもいいかだって?一度やってみたかっただって?夜空に花が舞ってから、やっと気付いた。君は、生まれた日に君自身と私が共にいることを祝いたかった…

神様に乾杯 10話

10話.Beauty&Ghost変わらない毎日だけど私は幸せでした。退屈な毎日だけどそれでも満足でした。例え予想のつく未来でも、全部自分で選ぶから、決められた明日じゃないなら夢も希望も持てたから。だから私は幸せでした。 「お父様、…

神様に乾杯 9話

9話.雨の夜に雨が降っている。水滴が屋根を叩く音。風に吹かれた水滴が雨戸に当たる音。それらが伝わって地面に落ちる音。木の葉に水滴がぶつかる音。草がそれを受ける音。それらの雨音をぼんやりと、フェザーナートは聞いていた。足を組んで椅子に座り、机…

神様に乾杯 8話

8話・大嘘つきの懺悔室彼女は思わず眉をひそめた。目の前にあるのは一つの墓標。そこには二人の名前が刻まれている。ある夫婦が、もうこの世にはいないという証明だ。「おかしいわよ、こんなの……」五年前、死んだ日付は五年も前だと刻まれている。「そんな…

神様に乾杯 7話

7話・誰の目も届かない遠く毎夜、私はこの酒場にやってきます。今晩も例外はなく、私はランプが三つあるだけの、薄暗い酒場にやってきました。開け放たれた窓からひんやりとした夜風が染み込むと、ランプで作られた影がゆらゆらと揺れました。影の主である数…

神様に乾杯 6話

6話・常識のものさし「エリク?いないのか?」普段、起きるのと同時ぐらいか、それより早く彼のところにやってきているエリクが地下に下りて来ないので、フェザーナートは不思議に思いながら一階に上った。返事はない。「出かけたのか」納得して、食事用の動…

神様に乾杯 5話

5話・歌おう秘密の約束「……これは夢だ」彼はそれを自覚していた。夢でなければ良い。ずっとこのままでいて欲しいのに。彼の目の前のベッドで、少女が規則正しい寝息をたてている。十代の半ばほど、小柄で、ウェーブのかかった淡い色の金髪の、まるで人形の…

神様に乾杯 4話

4話・魔法使いと花と姫君金貨の入った袋を担ぎ、ホクホク顔でエリクが部屋に入って来た。そこはいつもの地下室ではなく、きちんと整理された台所で、沸かしたてのお湯でフェザーナートが紅茶を入れている。「前払いでその量か?よほど期待されているな」膨ら…

神様に乾杯 3話

3話・ご機嫌なティータイム「フェザーナート」呼ばれて彼は振り向いた。長い黒髪が流れるようにふわりと揺れる。切れ長の紫の瞳を不機嫌そうに細めただけで彼は特に何も言わない。修繕作業の他にその他雑用もやらされ、疲れている上にかなりご機嫌斜めなのだ…

神様に乾杯 2話

2話・現状は上々「くっ!」上体をそらすと鼻先のすぐ上を鋭い爪が通り過ぎた。人狼のもう一方の前足が彼の腹を裂こうと素早く近づくが、彼は後ろに飛び退き人狼と距離を取って剣を構え直す。「おーい。圧されてるよー」呑気な声が後ろから響いた。「うるさい…