「その後は、何も考えられなかった。ただ、彼女を彼女の実家に送り届けようと……其処でなら、まだ息があれば、助かるんじゃないかと一縷の望みをいだいて、雨の中を走ったんだ」
雨音を聞きながら、フェザーナートが静かにエリクに言う。
「雨が…私の肌を焼いて…彼女を家まで届けたことは覚えているが、記憶が曖昧だ。狂っていたのかもしれないな」
雨戸の方を眺めながら、言葉を続ける。
「狂った中で、彼女を仲間にすべきかどうかずいぶん考えていたように思う。よく、よく……彼女を私と同じ物にしなかったものだと思うよ。それが正しかったのかは、もうわからないがな」
目を伏せて、エリクが口をはさんだ。
「それで……奥さんは?」
フェザーナートは静かに頭をふった。
「わからない。目を覚ましたのか、眠りつづけているのか、死んでしまったのか……。彼女の実家は王都にあったが、目を覚ましたという話は聞かなかったな」
「……生きてるよ」
ふっと笑って、エリクが言った。気休めだとはわかっていたが、それが嬉しかった。
「そうだな、そうだといいな」
フェザーナートも少しだけ笑って応えた。
雨はまだ降り続いている。
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