@

 花京院を自分の下に敷き込んで、体の重みで押さえつける。
 勃起のない承太郎のために、あれこれしようとする花京院を、今は押さえ込んで、もがく手足を払いのけながら、膝の近くに残る歯型の上に、自分の歯列を食い込ませる。
 すでに薄黄色く、色を失くしつつあるその痕に、承太郎は新たに自分の跡を残すために、皮膚のすぐ下の筋肉に、ぎりぎりと歯を立てる。
 痛みに耐えて、シーツの上で躯を伸ばしたのに、それが目的ではなかったけれどという振りをして、承太郎は、花京院の両脚の間へ、顔を埋めてゆく。
 ただ触れ合うだけでは満足できないそれは、さっき一度達したというのに、また物欲しげに勃ち上がっている。
 口を使うのにまだ慣れない承太郎は、それでも少しはましな扱いができないかと、今では何のためらいもなく、花京院のそれを舌の上に乗せる。そうして、1度目よりも大きさも硬さも増しているような気がして、ほんの少し瞳を動かした。
 もっと別のやり方など、承太郎が知るはずもない。訊いても、花京院は答えないだろう。
 開いた脚を承太郎の肩に乗せて、花京院は、体をねじって声を耐えるのに必死だ。
 自分がそうされた時のことを思い出しながら、これでいいとも悪いともわからずに、ただ花京院の躯の慄えだけに神経を集中させて、承太郎はできる精一杯で喉の奥を開いた。
 汗の匂いに目を細めて、唇の間で行ったり来たりするそれを、今ではいとおしいとすら思う。形も、熱さも、奇妙に滑らかな皮膚も、粘膜にそれを憶え込ませながら、視るよりも触れるその感覚で、あらゆる部分を思い浮かべることができるような気がした。
 掌に、痛めないように握り込んで、こんな風に傷つきやすさを明け渡されているのは、口にはしない信頼というものなのだろうと思って、そうしてふと、今口の中にあるそれを、噛みちぎってしまいたい気分を味わった。
 別に、それでなくてもかまわない。どこでもいい、花京院の体の一部を噛み切って、そのまま飲み込んでしまいたい。胃の中へ落ちたそれは、いずれ消化され血管を巡り、承太郎の一部になる。
 そうしなければ、ひとつにはなれないふたりだった。
 それを噛みちぎれば、承太郎と同じく、花京院も役には立たなくなる。同じになれる、と思って、いっそふたりで一緒に、片輪になってしまえればいいと、承太郎は思った。
 役に立たないそれなら、切り落として、捨ててしまえばいい。それを使う睦み合いを忘れて、空になった躯を、互いにこすりつけ合えばいい。
 今、ふたりがそうしているように、そんなもののことは忘れて、なかったことにして、触れることさえせずに、ただ抱き合えばいい。
 それでは足りないと、躯が言うだろうとわかっていて、そんなことを考えずにはいられない。
 花京院に触れることをやめられず、触れた時に立てる声が忘れられず、役立たずの自分が、花京院を欲情させているというあかしを、掌や舌の奥に受けて、けれどもうそれだけでは足りない。
 繋がりたいと思った。躯の、もっと奥深くを合わせて、一緒に揺れながら、ほんとうに繋がっているのだと、自分の躯に感じたかった。
 それができない承太郎は、また花京院の躯を噛みちぎって、飲み込んでしまいたいと思いながら、そうはせずに、ただ唇を開く。
 そこもまた、あたたかく濡れた粘膜だ。自分の唾液のなまあたたかさに、花京院の躯の中を想像して、身内の熱がまた疼いて上がるのに、花京院には知らせずに、承太郎はそっと背中を震わせる。
 熱さを分け合いたかった。けれどそれができずに、諦めたように不意に唇を外して、承太郎は花京院の上にのしかかってゆく。
 そうして、驚きに、何か言おうとした花京院の半ば開いた唇に、自分の舌を差し込んで、さっき花京院のそれにそうしていたように、今度は花京院の舌を、自分の唇の内側へ引き込んだ。
 胸と腹を合わせて、手足を絡めて、全身をこすりつける。重なった躯の間にあるふたりのそれが、動きに従ってこすれ合う。硬く張りつめた花京院のそれに触れる、自分の萎えた器官の、惨めな姿から承太郎は目をそらす。
 合わせた胸に響く心臓の音を聞きながら、今誰かが承太郎を撃てば、重なった花京院も一緒に死ねるのだと、そんなことを思う。
 砕けた傷口で交じり合う、血と肉と骨の破片。ちぎれた皮膚が、誰のものとも見極めもつかずに、血の海に浮いている。穴の開いたふたつの心臓が、永遠に動きを止めて、これ以上ないほど近く寄り添っている。
 死ぬなら、一緒がいいと、そう思って、今貪り合う舌を互いに食いちぎればいいのだと、そんな考えが湧いた。
 道行き、という古い日本語を思い出し、その言葉を知っているかと、花京院に訊きたいと思った。思ったけれど、訊くことはできなかった。