蜘蛛の糸(DIO×空条徐倫)
-1-
第六部 ストーンオーシャン


[1]

カーテンを閉め切った屋敷の、隠し回廊に、地下の奥。まるで秘蔵の宝物か
何かのように隠された一室に、娘はいた。
音も無く扉が開き、唯一の明かりである蝋燭の火が、風で揺れた。娘はジジ
ッ……と、僅かに揺れた音に気づき、身を起こし、風の流れて来た方向を見つ
める。そこには月光のような白い肌と、血のように色づいた赤い唇、金糸の髪
を持った、異様なまでの艶と、高貴さとを備えた、一人の男が立っていた。

「気分はどうだい?空条徐倫」

低く、心を解き解すかのような甘い声で、男が娘に語りかける。娘は何も答
えず、ただ、男をぎろりと睨みつける。男が寄る。反射的に身構え、じゃらり、
と娘の両手を縛めている、手錠が鳴った。

おやおやァ、とおどけた調子で、男が語る。

「困ったものだな。これだけ素晴らしい部屋を与えているというのに、君は
どうにも不服らしい。承太郎は相当、君を甘やかして育てたようだ」
「……『部屋』ですって?『檻』の間違いじゃないの?」

男の言葉に、娘は吐き出す。部屋には一流の家具に、天蓋つきの大きなベッド。
ゆうに四人どころか、五、六人は浸かれる巨大浴室。電気は無いが、色とりど
りの蝋燭の明かりが室内の高貴さを高めている。
もしも、これが。
そう、もしもこれが、例えば、愛する恋人だとか、友人だとか、家族だとか
……そういった親しむべき人と一緒で、自由の身であれば、徐倫の心も華やい
だだろう。
だが、今、娘の前には、助けてくれる友人も、家族も、誰もが、居なかった。
ただ、やたらと豪華でふわふわとしたベッドの上に、両手を縛められ、繋がれ
ているだけだ。
唯一自由である両足を引き寄せ、僅かに縮こまる。男が入って来た部屋から
風が流れていた。服を剥ぎ取られた変わりに着せられた裸同然のレースの薄物
では、肌寒い。

そんな徐倫の様子をどう勘違いしたのか、或いは、見透かした上でからかっ
ているのか……男は、徐倫の居るベッドまで歩み寄ると、悠然と、その上に腰
掛けた。柔らかなベッドが、男の重みで、沈む。

「そんな悲しそうな顔をしないでくれ給え。心が痛むよ」

どの面を晒してそんな事を言えるのか、徐倫をこんな状態にした張本人は、
いけしゃあしゃあとそんな事を告げ、徐倫の方へと顔を寄せる。男から、薔薇
のような、甘い香りがした。気持ちが悪い。吐き気がする。

「近寄るな……気持ちが悪い」

吐き気を抑えながらそう告げると、男は、ン?と不思議そうに首を傾げて
みせ、次の瞬間――バァアン!と、高らかな音を立てて、娘の頬を平手打ち
にした。
さして力を入れた様子は無いのに、娘の身体が浮き、ベッドの背に打ち付け
られる。グ、と、悲鳴が洩れる。おやおや、と、男はまるで、飼い犬の粗相を
見たかの様子で、肩をすくめる。

「いやはや、君の我侭にも困ったものだ。処女を捨てると女は変わると言う
が、君もその類なのかな?これでもこのDIOは紳士なのでね、痛いのは嫌だろ
うと、君にも優しくしたつもりだったのだが……お気に召さなかったのかな?」

う……。と、痛みで呻いている徐倫の顎を、DIOはすっと指で持ち上げ、や
れやれ、腫れてしまったねぇ。と、自分が張った徐倫の頬を、優しく撫ぜる。
「処女を捨てると」という言葉に、徐倫は露骨に顔を顰め、嫌悪感を露わに
睨みつけた。ついこの間の事をまざまざと思い返し、また、吐き気に襲われた。

処女は、此処に……この、『世界』に来て、この男と出遭って直ぐに、奪わ
れた。当然だが、合意ではない。力ずくの、強姦だ。抵抗はした。必死にした。
糸になって逃げようともした。だが、時を止められ、抱き寄せられ、圧し掛か
られ……。
本当に、もう、本当に……
手も、足も、出なかった。

徐倫が住んでいた場所はアメリカでも高級住宅地で、治安は良かったが、そ
れでも、行く場所や時間帯によってはそういった危険に見舞われる可能性はあっ
た。実際、クラスメイトの中には何人か、犯された女子だっている。大体そう
いった子は堕ろすために風評を気にして引越しをしたが、風の噂で自殺を計っ
たり、ノイローゼになった子も居るということは聞いていた。だから、自分に
もその危険があることなんて、一人で行動出来る年頃にはとっくに知っていた。
知って、行動する以上は自信があった。そういった者の毒牙には掛からないと
いう自負があった。

父を助けるために、獄中へと残ってからは、覚悟となった。処女なんて、ど
うでも良い。いや、良くは無いが、父の記憶を、命を助けることに比べれば、
そんな事は踏み越えられる。
覚悟は、力となった。結局、獄中で徐倫を襲える者など一人として居なかっ
た。命のやり取りにも、勝って来た。
あの日、神父が『時の加速』を行うまでは。

「どうしたんだい?徐倫、顔色が悪いぞ……?」

DIOが顔を寄せてくる。金の髪、赤い唇。嫌だ、こいつ。気持ち悪い。

神父が時を加速させた。色々な物が変わって言った。神父は高らかに叫んだ。
世界は変わると、お前達は置いて行くと、この世界は数多くある可能性の一つ
に過ぎないのだと。
その、『数多くある可能性の一つの世界』に、自分は仲間達と、父と離れ離
れとなって、残されたのだ。即ち、『DIOが生き、彼は全てを理解している世界』
に。

最低だった。最悪だった。目の前の美しくも、不快感を掻き立てられる男に
抱かれた時、初めて『女として』恐怖を覚えた。
自分は、男の前では被食者だった。ただ、食われ、良いように動かされる存
在だった。悔しかった。涙が出た。声だけは、どうにかして、歯を食いしばっ
てこらえた。唇を噛締めていると血が流れた。その血さえも啜ろうと、DIOは舌
を伸ばし、弄った。
そこでふと、強姦されて自殺未遂をした級友の話を思い出した。揺す振られ
ながら、ほんの少しだけ、それが分かった。
行為自体は、良く分からないが、優しかったのだろう。貫かれた時、十分に
潤っていたせいか、破瓜の痛みは大して無かった。
だが、セックスする時、紳士であろうとなかろうと、普通、暴れるからと言
う理由で、相手の両手両足を折ったりはしない。貫かれた時に痛みを大して感
じなかったのも、折られた痛みがあった事は間違いない。とにかく、快楽どこ
ろの話ではなかった。加えて、男は徐倫の血までも求めた。星型の痣がある首
筋を舐め、歯を突き立てて血を啜った。
両手両足を折られ、処女を奪われ、血を吸われる。そんな、想像を絶する痛
みの前に、意識を手放し――現在に、至るのである。

「そういえば」

と、彼は言った。今は骨折から回復した徐倫の手を取り、指先にくちづける。
恋人にでもするような動作に、徐倫は眉を顰める。じゃらり、と縛められてい
る鎖が鳴る。

「最近食事を摂っていないようだな。困るぞ徐倫。食事は生きてゆく上で欠
かせないモノだ。私は君には健やかで居て貰いたい」

大人しくトマトジュースでも飲んでろよ、と内心毒づく。『生きてゆく上で
欠かせないモノ』として、徐倫の生き血を啜る。だからそのために食事を摂れ
と言っているのは明白だった。アンタは、と呟いた。其処でぱしん!とまた、
叩かれた。

「悲しいぞ徐倫。私のことをそのように呼ぶとはな。私のことは『DIO』と
呼んでくれて良いよ。私の徐倫」

ぎっ、と唇を噛締める。無駄な体力を、労力を使うなと己に言い聞かせ、「
DIO」は、と問う。

「あたしを栄養剤として、生かすつもり?いつでもどこでも、生き血を吸
うために……」

徐倫の言葉に、ああ、それも勿論、あるが……。そう答えると、DIOはぐっ
と徐倫の身を引き寄せ、その上に、圧し掛かった。

「最近退屈なのでな。『暇つぶし』に付き合って欲しい」

声を上げる間もなく、口づけられた。
逃げようとする徐倫の舌を、DIOの舌が執拗に追う。歯列を舐め、角度を変え、
舌を幾度も出し入れする。大きな手が、胸を揉む。黒いシースルーのベビード
ールでは、ほぼ、身に着けていないも同然で、動きがダイレクトに伝わってく
る。蜘蛛の巣をかたどって付けられたベビードールのスパンコールが、歪む。
蜘蛛の巣が、歪め、られる。DIOの手で。捲りあげられる。恐らくは、男が選
んだのであろう下着を、男の、手で。

「や、やめやがッツ……!!」

スタンドを出す。殴りかかる。正面からではなく、糸となって回って、背後
から。フン!と、男が嗤う。徐倫の上に跨って、見下ろして、嗤う。
無駄だ。という囁きと共に、DIOのスタンドが現れ、掴まれ、動きを封じら
れる。本体と同じように、スタンドも、縛められる。DIOは囁く。徐倫の耳元で、
甘い声で。心を溶かす、声の響きで。

「諦めろ」

ぐじゅ!と、DIOの太い指が、秘所に押し入った。歯を、噛締める。指が出
し入れされる。周りを撫ぜられる。心に逆らい、中は蠢く。びくり、びくり、と
DIOの指を締め付けていることが、自分でも分かる。

「時代の変化と言うものは面白いものだ。衣服も変われば下着も変わる物だ
な。この……割れている下着は、実に無駄でなく、色気があって良いものだ。
そうは思わないか?」

言いながら、DIOは指を動かす。オープンショーツがどんどん愛液で濡れて
ゆく。感じたくも無いのに、身体はしとどに濡れて行く。びくん!と、とあ
る箇所で背中を震わせ、吐息が甘くなったことを見、口の端だけに笑みを浮か
べて、DIOは裸身を露わにし、己の肉棒を、見せ付ける。
DIOのそれは、肌が白いというのにそこだけ赤黒く、使い込まれ、逞しくいき
り立っており、あんなものが入れられたのだと、改めて徐倫に悪寒を感じさせ
た。あの時は腕の痛みで誤魔化せた。本人は優しくした言っていたが、こんな
ものを身に入れるなど、冗談ではない。
思わず上へと逃げようとする身体を引き寄せられる。無駄だ。という一言と
共に、剛直が、挿入した。

「――ッ!!」

ぎりっと、歯が、鳴る。痛い。熱い。痛い。いたい。イタイ。
甘い匂いがする。頭がくらくらする。胸焼けがする。嫌いだ、この、匂い。
大嫌いだ。あたし、こいつの、匂い。嫌だ。嫌だ。いやだ。

「……嫌、ッだッ!」
「直に好くなる」

言って、DIOは動く。意志を無視して。好きなように。自分の好いように、
身体を揺さぶる。歯を食いしばる。苦しい。辛い。好くなんか、ない。なれる
わけが、無い。
ふいに、そこで、ふっと耳に息を、吹きかけられた。閉じていた目をぱっと
開いた。

「ああ、やっぱり、徐倫は耳が弱いのだな。好いことだ」

言い、軽く、耳を噛む。胸を揉まれる。きゅと乳首を抓られる。きゅ、と、
身体の、どこかが、おかしく、なった。

「……おや、此処が、これが、好いのかい?」

ひッ!ァ……ッ!と、堪えきれずに声を上げる。ぐんぐんと、腰を進め
られる。目が、ちかちか、する。腰が浮く。ひあ、駄目、だ。駄、目。

「ダ……だ、めッ!」
「知らないな。ほら、子種だ!有り難く受け取れ!空条徐倫!」

ぐあり、と、何かが襲って来て、意識は、飛んだ。

下腹部がずきずきする。頭がぼんやりする。花の香りがする。薔薇の、匂い
だ。この匂いは好きじゃない。気障ったらしくて、嫌味で、高慢で。香りがす
るなら石鹸だとか、海の匂いがするのが良い。ママと、パパの香りだ。大好き
な両親の香りだ。ああ、そういえば……。
海に、潜って、神父と闘って、それから一体どうなったっけ?

「目が覚めたかい?良かった。やはりどうにも、気を失っている状態とい
うのは抱いても面白くないものだな。反応が無くてはどうにもつまらん」

きゅっと、胸の頂を抓まれ、耳に息を吹きかけられた。眼前には厚い胸板が
ある。薔薇の芳香が漂っている。其処で一気に意識が覚醒し、逃れようと身を
捩り、下身に挿さった、肉の楔に呻いた。

丁度向かい合い、子供を膝に抱えるような格好で、DIOは徐倫を抱いていた。
互いに裸身のままで、太い両腕が徐倫の身を逃さぬように囲っている。
徐倫は自分の状況にさっと顔を青ざめ、次に羞恥で赤くして、抱き締められ
た小さな空間で、精一杯両の腕を動かした。

「ストーンッ!フリィイーッ!!」

スタンドを解き放つ。イメージを実像化した徐倫の分身が集まり、糸となっ
てDIOの首と、両腕とを縛め、キリキリと締め上げた。おや?と、DIOが僅か
に眉を上げた。

「本当に元気なお嬢さんだ。先ほどあれだけよがり、意識を手放していたと
いうのに、こう来るとはな。これは、まだまだ満足し足りない、ということで
良いのかな?」

「……フザけんなよ。アンタが時を止める能力を持ってるってコトは、父さ
んの記憶のDISCで分かってる。でも、この状況でどう逃げるつもりだ?一寸
でも動いたら、アンタの首は、切断されるッ!時を止めようとッ!どうし
ようとッツ!状況は変わらないッ!!」

「やれやれ、『状況が変わらない』のは、君の方じゃないかな、徐倫。君の
下の口は、私のモノを咥えたままの状態なのだからね。それに……」

カッと、眼が光った。ちりっと、徐倫の頬を何かが走り、ぬるり、と血が流
れた。

「私の持ってる力は、『世界』だけでは無い。そして徐倫、君はまた、私の
ことを『アンタ』と呼んだね……?」

優しい声に、肌が粟立った。ずくん!と、中に挿れられた物を、突き上げ
られる。

「ひゃア……ンッ!!?」
「好い声だ。その調子で啼いてくれたまえ、徐倫」
「ゃッ!ぁッ!ぃやっ!!」

激しい突き上げに堪らず、DIOの胸にすがる。徐倫の、けして大きくは無い
ものの、白く、形の良い胸がDIOの身体に押し付けられ、ぐにぐにと形を歪め、
頂が擦れ、快感からまた声を上げる。

「……っくしょう!畜、生ッ!」
「言葉が悪いなぁ〜〜〜。徐倫、君は……」

ずずん!と腰を動かす。あぅ!と短い悲鳴を上げて、徐倫が喉を反らせ、
白い首筋を露わにする。その様に、舌なめずりをする。ストーン・フリーの糸
は、解かれない。

「さぁ、徐倫。良い子だから、この糸をほどッ……!?」

べしっ!と徐倫の手が、DIOの目に掛かった。全体重を乗せたのか、DIOの
身体が傾ぎ、倒れる。徐倫の手が首に掛かった『糸』を引く。カッと、DIOの目
が光る。肉の破ける音と、血の匂いが溢れる。DIOの首筋から、血が、流れる。
赤い唇が動いた。蝋燭の火が、止まった。

「あたし……は、助け、るんだ。父さん、を……」

荒い呼吸と共に、丁度胸の辺りで声がした。倒れたDIOの上には、徐倫が乗っ
ている。沈黙と同時に、首筋の拘束が、解けた。どうやら完全に気を、失った
らしい。
フン!とDIOは息を吐くと、身を起こして己の首筋に手をやった。ぬるり、
と流れる血が手に触れる。あと一息、もしも、『世界』の時を止めるタイミン
グがずれていれば、確実にDIOの首と、腕をこの娘によって落とされていただろ
う。
自分の上に倒れ付す娘を見る。娘の手からはDIOの眼を受け、どくどくと血が
流れている。DIOはその手を取り、血を、舐めた。

ジョースターの血は、他の人間の血液とは違い、実に身体に馴染む。そうし
て体内に入れると、気が昂ぶり、最高級のワインを飲んでいるかのような錯覚
さえも引き起こす。
ジョースターであれば、老いぼれであろうと男であろうと大差無いが、どう
せ飲むならば見目共に麗しく、飲んでいて楽しい方が良いに決まっている。
DIOからしてみれば、この娘は最高級の嗜好品だった。一度は自分を死に至
らしめた承太郎は幾度殺しても飽き足らないが、この娘をこの世の中に生み出
したことに関しては、感謝さえもしても良い。
何と言ってもジョースターであり、生娘であり、憎むべき承太郎の娘であり、
スタンド使いであり、自分の親友であるプッチを追い詰めた程の娘なのだ。そ
の娘が、自分の為に最高の『食事』と快楽を提供し、自分の名を呼ぶ。
――それは何と、甘美なものだろうか!

だが、娘は手強かった。処女を頂いた時など、余りにも暴れるものだから、
仕方ないので手足を折った。これは、「食事はスマートに」と思っているDIOか
らしてみれば、かなり心外な行動だったが、反抗的なのだから仕方ない。誰の
下にいるのかということを、ハッキリと分からせておくには必要なことだ。
行為中も、せめて甘い声で鳴くとか、弱弱しい声ですすり泣くとかしてくれ
れば、もう少し征服感もあったかもしれない。だが、娘は声を噛締め、殆ど上
げなかった。これでは余りにもつまらない。だが、殺してしまっては血が飲め
ない。それは惜しい。

何、時間はたっぷりあると、暇があれば娘を犯し、血を啜ることに決めた。
実際少しずつ、娘の肉は馴染み始めた。実際、先ほど上げた甘い声は中々好か
った。早くあの声で自分の名を呼び、縋って欲しいものなのだが、精神が堕ち
るまでには、まだまだ時間が掛かりそうだ。

「……男であれば、確実に殺していたな」

再度、己の傷つけられた首筋をなぞる。帝王は一人で良い。だから、男はい
らない。だが、女は別だ。女はいても困らない。血なり、肉なりを己に提供し
てくれる。そして何よりも子を産む。子は、いつかこのDIOを助け得る存在とな
る。優秀な「手下」として。だから、女は必要だ。自分のためにも。

「さて、しかし……どうすれば君を完全に堕せるのかな?空条徐倫」

呟くと、DIOは徐倫の腕に有る、蝶の刺青にキスをした。


[2]


目が覚めた。己の身を見ると、清められ、今日は何やら、乳首の部分だけを
露出したイエローの刺繍が施されたオープンブラとオープンショーツを身に付
けていた。ご丁寧にガーターベルトまで付いている。
変態めと、心から思った。
両腕と両足を確認する。今日は、手錠を掛けられていない。どうしたのだろ
うと首を傾げる。普段であれば手なり足なりを縛め、手洗いまでは立てる距離
に繋がれているというのに。

「趣向を変えたとか?……まさかね」

逃げ回った方が燃えるとか思ったのかもしれない。あのドSなら有り得そう
だと、渋面を作って部屋を見回る。多分、この部屋からは出られないようにな
っているのだろうけど、と思いながら。

蝋燭の明かりを頼りに、普段DIOが入って来ている扉のノブを回す。鍵が、掛
かっている。

「ストーン・フリーッ!!」

叫び、扉を殴りつける。ばぁん!と高い音が響いたが、やはりというか壊
れない。溜息をついて、天井を眺める。

それにしても随分と高い天井だ。そして、四角い部屋だ。

「まるで鳥篭……いや、虫篭みたいね」

光が届かないところからすると、此処はきっと地下なのだろう。しかし、酸
素はある。どこかしら通風孔がある筈だ。だとすれば、きっと、あの暗闇で覆
われている天井にある筈だと、見当をつけて、糸を伸ばした。しゅるしゅると
糸は伸びてゆく。天井へ、地上を目指して、片腕分ほど糸を伸ばした頃、漸く
「糸」が何かを掴み、ぱっと徐倫は顔を輝かした。

「何を、しているんだい?」

声が、響いた。
慌てて後ろを振り返った。その間も無く縛められる。肌に触れられる感触で
分かる。DIOだ。顎を掴まれ、耳元で、囁かれる。いつの間にと思うと同時に、
時を止めて入りやがったと理解する。ぎしぎしと身体が軋む。ガーターベルト
を付けた脚が、圧し掛かる力の上に、震える。

「悲しいな、徐倫。私と君との間には、最早あのような縛めは必要無いと思
ったのだが……どうやら、それは私の思い違いだったらしい」
「ハナから、アンタの思い違いでしょ……DIO」

唸りながらの徐倫の言葉に、DIOは口角を歪めながら、徐倫の身を引き寄せる。

「君はどうしてそんなに私から逃げようとするんだい?徐倫。気持ちの良
いことは嫌いかい?君の身体は悦んでいるのに?」

言いながら、やわやわと乳首を撫ぜる。ぴん、と直ぐに反応をみせる己の胸
に舌打ちを堪えながら、徐倫は身を捩った。

「あたしは、人とベタベタすることが好きじゃないの。父さんの宿敵なら、
尚更だわ!」
「強情だな。だが其処が良い。征服欲を掻き立たせる」

ぐん!と引き寄せられ、そのまま背を壁に押し付けられる。ぎりぎりと押
し合っているが、話にならず、せめて眼だけでもと睨みすえていると、フッと、
DIOは嗤って、徐倫のうなじに顔を埋めた。舌が這う。背中が、震える。

「感度は上々だな。喜ばしいことだ」

フゥっと耳に息を吹きかけられる。「ぁ!」と小さい声が、洩れた。羞恥で
頬が染まる。想像以上に、肉体を「馴らされて」しまったこの身が恨めしい。
鋭い犬歯でブラジャーの紐が裂かれる。白い胸が、ふるりと揺れる。首筋に、
甘噛みするかのように牙が立てられ、頂が抓まれる。震える両足の間にDIOの太
い指が入れられ、中をぐちゃぐちゃと掻き混ぜられる。

「やッ!ぁッ!」

声が出る。震える足が膝を膝をつきそうになる。駄目だ。やはり、身体が、
馴らされている。

「良い子だ徐倫……良い子だ……。ほら、こんなにも濡れている。気持ち好
いのだろう?好いと言って、ご覧」
「ディ……DIOッ!!」

きゅっと、徐倫の指が、拳を作り震えながらDIOの胸を押す。ちゅっと、DIO
は首筋にくちづけをする。胸を揉む。頂を抓む。爪で引っ掻く。んぁ!と、
徐倫の声が洩れた。唇に深々とキスをする。まるで恋人同士のように、息継ぐ
間もなく唇を食べ、取り出した肉棒を、潤った中に、挿し入れる。

「――ン!――ッぁ!あ、ぁん!!」

震える徐倫の手を自分の太い首筋に回してやる。より深く繋がるために片足
を持ち上げる。パン、パン!と、互いの肉壁がぶつかるほど、激しく腰を動
かす。ぐちゅぐちゅと、徐倫の中のものはDIOのものを受け入れる。柔らかく
包み込み、きゅう、と締め付ける。

「ふぁ、や、ゃん!あッ!やぁ!」
「DIOと、呼んでおくれ、徐倫」

耳元で、囁く。快感から酩酊している筈だというのに、ぶんぶんと徐倫は頭
を振る。

「や、呼ば、ないッ!アンタ、なん、かぁッ!」

強情者め!という声と共に、徐倫はビクン!を背を反らした。くたり、
と身体が弛緩し、DIOの身に寄り掛かる。荒い息を互いに吐く。ゆっくりと徐倫
を床に降ろし、自分のものを、引き抜く。どろり、と混ざり合ったものが、垂
れる。

徐倫は頬を紅潮させ、呆けた目で遠くを見ている。口元からはDIOと徐倫の唾
液が流れ、脚は引き抜いた時そのままの状態で、淫らにM字に開脚しており、赤
い口はてらてらと光り、未だ、物欲しそうに蠢いている。

――ふと、徐倫の紅潮した頬と同じく、赤く色づいたその口に自分のものを
奉仕させたい欲求に駆られた。あの、ぷっくりとした唇に自分のものを含ませ
るのは、なんと官能的だろう。
早速やらせてみようかと、前に屈んだ所で、徐倫の目がDIOを見た。眼は潤
んでいる。とろりと、とろけそうな様子で。頬は上気し、唇は、何か物言いた
げだった。徐倫からは、柔らかい、温かい、香りがしていた。顎を掴んだ。引
き寄せた。何も言わずにくちづけた。
くち、くちゃり、と舌を合わせながら、奉仕させるのはまたで良いと思った。
何と言っても、男の象徴だ。下手に奉仕させて噛み切られたら冗談ではない。
そういった事は、他の女にやらせればいい。
そう思いながら、二人の影は再度、床に沈んだ。


[3]

抱かれるのに、まだ慣れないと言えば嘘になる。黄色いシースルーのベビー
ドールに身を包んで、徐倫はひっそりと溜息を吐いた。隣には、父の宿敵が眠
っていた。キングサイズのベッドの上で、徐倫の事を抱き締めながら。

あたし、と、徐倫は自問自答した。
どうしてコイツのこと、殺そうとしないんだろう。いや、そりゃ、確かに、
この状況でも、コイツはきっと殺気を抱いたその瞬間に、本気で殺そうとする
んだろうけれど。
勝てないからなのだろうか?強引に抱かれた時の恨みの念も、消えてしま
ったのだろうか?父を、皆を助けたい。この『世界』を終わらせたい。その
ためには、このひとを殺すしか、きっと、無いのだろう。

情が移ったのだろうか?
そう考えてみる。そりゃあ、確かに、顔立ちだけは良い男だ。だが、殺して
おかねばならない男だ。この男は、徐倫の愛する人々を苦しめる。そもそも、
徐倫を投獄したのもこの男が起因となっている。許すべきではない男だ。

どうして、この男はこんな風になっちゃったんだろう?
ふと、そこで、そう思った。
父のDISCからは、そんな事は分からなかった。ただ、悪の帝王で、酷いこと
を沢山やってて、自分の事しか考えていなくて、人をひとと思っていなくて、
傲慢で……

「……こどもみたい」

ぽつり、と呟く。

いつからこの男はこうなったのだろう。生まれてからこうだったのか?いや、
それは無い。生まれて間もない者に、善も、悪も、あろう筈は無い。
父の記憶では、彼の肉体は徐倫の父の、母方の曾祖父の物なのだと言う。肉
体を乗っ取ったのだと、祖母のホリィは、その為命の危機に晒されたのだと。
それを思えばひとしおに、この男を許しては駄目だと思う。だが、『許さない』
それで、果たして本当に解決出来るのだろうかと、思う。

これは言い訳なのだろうか。勝てないことへの詭弁なのだろうか。だが、こ
の男を許さず、憎み、恨む。……それで本当に、救われるのか?自分達は、
否、『彼』は――。

「……って!え!?」

救われるって何だ!?と自分の考えに徐倫は目を白黒させた。相手は敵だ!
救うとか、救われないとかの考え以前に、許してはいけない相手なのだ!!
それを、自分は一体、何を、考えているのだ!!
息を吸って、吐く。呼吸を整える。

――でも、と徐倫は自分を抱く腕に、そっと触れて、思う。
自分が世に逆らっていたのは、父親の愛情を理解出来なかったからだ。不器
用で、荒っぽいのに、妙な所で繊細な、そんな父を分からなかったからだ。
このひとは、と、目の前の鼻梁が整った男の横顔を見て、思う。

本当に、父の記憶の通り、愛とか、そういったものは、いらないのだろうか。
自分を認める人間だけを集めて、それで楽しいのだろうか。自分にのみ賛同し、
自分に対し甘い言葉で囁き、利益をもたらす――それは、一体なんと、ちっぽ
けな『世界』だろう!!

――この男を愛せるだろうか、と考えた。
分からない、そう思った。
少なくとも、プライドの高いこの男は、徐倫が同情していることを知れば激
怒するだろう。徐倫としても、同情するつもりは無い。この男はこの男だ。そ
して、自分は自分だ。
この男を愛することが、イコール、『自分』を磨り減らす事だとは思わない。
この男はこの男であり、自分は自分である。
ジョースターを支配することがこの男のアイデンティティだというのなら、
きっと、道は、交わらない。着いて行く事は、愚かだ。

でも――……

ふぅ、と徐倫は溜息を吐いた。どうせ、他にやる事は無いのだ。だったら、
ただ機械的に抱かれるよりは、相手の事を考えた方がマシというものだ。反対
のことをした方が、良い事だって有るのだ。
そう結論に達すると、自分を抱いている腕を、以前緑色の赤子にそうしたよ
うに、そっと、撫ぜてやった。








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