CRAZY TAXI
樫村編集長×鳴海遼子


今日は遼子がアンタッチャブル編集部に来て初めての編集部全体での飲み会だった。
名無しの権兵衛がらみの記事が大当たりを続け、アンタッチャブルの部数は伸び続けていた。
そのことの祝勝会と、遼子の遅ればせながらの歓迎会を兼ねて、ささやかな飲み会を開いたのだ。
そこで樫村は遼子に掴まった 。
樫村の隣で、樫村の向いで、アンタッチャブルの編集方針への疑問と、自分が信じるジャーナリズム
への情熱を延々と語った。
遼子の話に適当な相槌を打ち、樫村はただグラスを煽っていた。

自分もあと十歳若ければ、もう少し熱くこいつと語り、討論していたろう。
だがそうするには年を取り過ぎた。
自分の命か、記者としての魂を売るかをヤクザに拉致された時、聞かれた。
その時樫村は前者を取った。だから俺には記者としての魂なんかない。悪魔に売ったんだ。
だから、提灯記事を書くことに何の抵抗もない。ペンを走らせるのは樫村にとってメシの為であり正義の為ではない。
だが、遼子の青臭いジャーナリズム論に眼の奥が熱くなる。それは嫉妬と言うより怒りだった。
死の恐怖に晒されたことのないやつに俺の気持ちなどわからない。
そのくせ理想だけは一人前に語りやがる。
遼子に悟られぬよう、ひとり拗ねた心を抱えて樫村は相槌を打ち続けた。

ジャーナリストなら、論争なら論争で、言葉には言葉で答えるべきだろう。

「まあ、鳴海君、固いことばっかり言っていても、部数が伸びない。そうなったら、君も俺も
食えなくなっちまうだろ。目をつぶる時には目をつぶるのも処世術さ。さあ、飲めって」

だが樫村は酒で遼子を沈黙させることにした。記者としての魂など、もうないのだ。
言葉は酒で封じよう。
延々と酒を勧める樫村と、論争を吹っかけては樫村から酒を注がれそれを煽る遼子を、鷹藤が
眠りこけた城之内の隣から心配そうに見ていた。

「編集長、そんなにそいつに呑ませると、後が大変ですよ」
「大丈夫だよ、酔っ払いの一人や二人」

山奥で俺に人ひとり分の穴を掘らせ、それからその前にひざまずかせ、一晩中死をちらつかせて
脅かし続けたヤクザに比べれば酔っ払いなど大したことはない。

それより、遼子の理想論が耳触りだった。かつて自分が持っていたジャーナリズムへの信頼と理想。
それを遼子が樫村に突きつける。樫村が失ったものをまだ抱え持っている遼子の眼の奥にある光。
そこに嫉妬と羨望を覚えつつ、樫村はあえて陽性の声を出した。

「さあ、部数アップの功労者なんだから、どんどん飲めよお。鳴海君。飲んだらますますきれいに
見えるぞ」

遼子のグラスにワインを注ぐ。

「えっ、もう、編集長ったらお上手なんだから〜」

乗せられた遼子が、またグラスを空ける。

「鳴海さん、いい飲みっぷりだね!」

里香の隣から、中原が声をかける。遼子は調子に乗り、手酌し始めた。
その様子をみて鷹藤が更に心配そうな顔をした。

飲み過ぎて潰れた城之内と遼子を、それぞれ帰る方向が一緒である鷹藤と樫村が送っていくことになった。

「編集長、大丈夫ですか。コイツ、ほんっと酒癖悪いから。なんならコイツ、俺が送っていきますよ」
「大丈夫だって。それより城之内さん頼むぞ」
「でも…」

真っ青な顔をして苦しげにしている城之内の世話の方が、樫村には大変そうに見えた。
樫村がちょうど通りかかったタクシーに気付いて止めると、城之内と鷹藤に乗るように促した。

「そっちの連れの方が具合悪そうだから、早く家に帰してやってくれ。こっちは何とかなるから」

そう言って先に乗せたはいいが、それからタクシーが通らない。

途方に暮れた頃、ようやく一台のタクシーが通りかかった。
運転手に行き先を告げ、樫村はようやく一息ついた。
もう少しでこの女から解放される。後部座席に体を預け樫村は目を閉じた。
その時、樫村の肩に遼子の頭が乗せられ、樫村が驚いて遼子の方を見ると寝息を立てている。

「史郎ちゃん…」

史郎…?国民ジャーナルの遠山のことか。そういえば、遼子はそいつにストーカーまがいの行為を
して別れられたとか。まだ未練があるらしい。
…どうでもいい。
酒臭いタクシーの窓を少し開け、樫村は新鮮な外の空気の匂いを嗅いだ。
今度は樫村の手に遼子の手が重なる。

「鳴海君…」
「んふふ、史郎ちゃん…」

今度は樫村の首筋に遼子の手が這う。

「鳴海君!ちょっと待て、君、何してるんだ」
「何って、史郎ちゃんに甘えてるの」

遼子が狭い車内で、樫村ににじり寄る。樫村も狭い車内で逃げ続ける。

「俺は樫村だ、鳴海君、目を覚ませ」

後部座席のドアに樫村の背が当った。

「史郎ちゃん…」
「ちーがーう!」

ようやく、遼子がきょとんとした顔で樫村を見た。

「あ、編集長」
「正気に戻ったか…鳴海君…」
「史郎ちゃんじゃないんだあ」

そう言って、突然遼子が樫村の太ももの上に突っ伏した。

「って、お、おいっ」

遼子の肩を掴み上に向けると、遼子はすでに寝息を立てていた。

…なんて迷惑な女なんだ。
飲み会の時は延々と絡み続け、タクシーに乗ったらかつての恋人と間違い続けた。
力の入らぬ遼子の体を引き上げ、後部座席に身を預けるようにしたが、すぐに樫村の方へともたれかかってくる。
また後部座席に座らせる。遼子がもたれかかる。樫村はそれを何度か繰り返した。

その度に、遼子の髪から漂う甘い香りを強く感じるようになっていた。
汗ばんだ肌から立ち上る、女特有の体臭。
そういえば、最後に女を抱いたのはいつだったか。
肩や腕に触れる遼子の柔らかな感触がそんな思いを呼び覚ます。
何度目か、樫村の肩に遼子の頭がもたれかかって来た時、樫村は物憂げに遼子の背中に手を廻し抱き寄せた。
眠る遼子を見つめ、顔にかかったおくれ毛を指で梳くと、樫村は遼子にキスをした。

俺の忘れたい記憶と、忘れたい理想を揺さぶって、その上忘れかけていた男としての本能まで揺さぶっておいて、寝て終わりって訳にはいかないさ。
―――これくらいの迷惑料、いいだろ?

眠りながらも遼子の唇がついばむような動きをした。樫村が驚いて動きを止めると、とろんとした目で
遼子が樫村を見た。

「史郎ちゃん…」

都合良く誰かと誤解しているらしい。
抱き寄せる手に力を籠める。久しぶりの女の躰の感触に樫村の体の熱が上がる。
そしてそのまま、また遼子にキスをした。
すぐに舌が絡んでくる。自分を捨てた恋人としているつもりなのだろう。
女の吐息の甘さ、舌の柔らかさに溺れるように口づけた。

その時、タクシーの運転手がバックミラー越しにチラチラとこちらを見ているのに樫村は気付いた。
樫村は唇を外し、運転手に話しかけた。

「運転手さん、最初の目的の場所まで、あとどれくらい?」

運転手の眼鏡の奥にある神経質そうな目が揺れた。

「あ、あとですか。えーと20分くらいですかね」
「チップはずむから、ここで起こること見ないふりしてもらえる?」
「お客さん、ちょっと、それは…」
「2万円上乗せするよ。20分で2万円。普通に稼ぐとしたらもうちょっと時間かかるだろ」
「ええ、それは」
「犯罪じゃないから安心してよ。俺の彼女だから」

その言葉に納得はしていなさそうだが、運転手は前を向いた。

「ほどほどにしてくださいよ。それと」
「チップは渡すよ」

運転手がタクシーの速度を緩めた。時間通り楽しませるつもりか。

20分。
それが樫村が買い取った時間だ。忘れたい記憶を揺さぶった部下へのささやかな復讐のための時間。
そして自分の欲望をほんの少しだけ充たす為の時間。

樫村が遼子を自分の膝に乗せると、後ろから遼子と唇を合わせる。

「んっ、史郎ちゃん駄目…見てる」
「大丈夫。あの人なら忘れてくれるし、だったら見せつけてやればいい」

シャツの下に手を入れ、ブラジャーの上から柔らかな肉を揉む。

「史郎ちゃん、いつも、こんなことしないのに…今日は…あんっ」

いつも。後ろ髪を横に流して、露わにした遼子の首筋に唇を落としながら樫村は思った。
…遠山と別れたのは国民ジャーナル時代のはずだ。

いつも。いつも、こうなった遼子を送っていたのは…。
鷹藤。
あいつも相棒の酒癖の悪さにつけ込んだ口か。
だから俺が送ると言った時、心配そうな目をしてこちらを見ていたのか。

「今日はいつもより楽しめるかもしれないぞ」

樫村が膝に乗せた遼子の右足を抱えて、開かせる。

「きゃっ…。やめて」

少し声が出たが、運転手の存在に気付いて遼子が声を呑みこむ。

「鳴海君の家に着くまでだけだ。その間だけ楽しもう」

遼子に囁き、首筋に口づけた。右足を抱えていない方の手が、遼子のスカートの下へ入れられた。

「駄目…」
「鳴海君のはミニじゃないから、脚を上げたくらいで運転手さんから見えたりはしないさ。でも、見られたいのか?
見られて興奮したいのか」
「ち、違う…」

指先が下着に触れた。そのままその下に潜り込ませる。

「ひゃっ」

樫村が耳たぶを舐めると、遼子からまた小さな悲鳴が上がる。

「鳴海君…すごいことになってるぞ、ここ」

指を細かくふるわせ、遼子のそこから溢れそうになっているものの音を立てた。
猫がミルクを舐めるような音が車内に響く。

「やめ…止めて…」
「声出すと、聞かれちゃうよ」

そう言いながら、樫村は遼子の亀裂に中指を侵入させた。

「…ひぃっ!!!!!!」

遼子の背が一瞬のけぞり、息が止まる。狭い車内で、しかも誰かに見られている行為が更に遼子を煽るのか、
たった指一本で相当感じているようだった。遼子の熱く潤む感触に気を良くして樫村は指を縦横に蠢かす。

バックミラー越しに、運転手が二人の痴態を見ていた。樫村と運転手の眼が合う。
それは非難している眼ではなかった。覗き見ることで共犯者となった者の眼だ。
だが遼子は目を閉じ、自分を襲う快楽からそのことに気付いていない。
右脚を抱えていた手をはずし、その手で樫村が遼子の顎を持つ。
そしてミラーへと目を向けさせた。

「いやっ」

運転手の視線に気づいた遼子が目をそらそうとするが、樫村が顎を押えているので顔が動かせない。

「この運転手さん口が堅いんだよ。見せつけてやれって。それに、見られてるのがわかった時、君のここ、
凄く締まったんだぜ」
「もう…やだ!やめて…史郎ちゃ…っっ!!!」

遼子が言い終わらないうちに、今度は突き上げるようにして指二本で掻き回し始めた。

「いやぁあああ…んっ」

拒否の言葉を吐くが、口を半開きにしてのけぞりながら遼子が快楽に呑まれ始める。

「はぁっ、あっ、あんっ」

下から突き上げられ、捏ねまわされる遼子の腰が蠢く。狭い車内に、遼子の水音が響く。

「運転手さんが事故らないように、声、もう少し堪えたらどうなんだよ」
「で、でも、出ちゃうの」
「見られて感じるのか。理想や正義を語る癖に、こんな風にして腰振るなんて、ただの変態だよ鳴海君は」

遼子の奥がまた体温を上げ、樫村の指に肉が絡みつく。
運転手が後部座席の窓を少し開け、充満した雌の匂いを外に逃がす。

「お前の匂いで運転手さんもおかしくなりそうだって。窓、開けられちゃったぞ。声を出したら、外のみんなに聞える。
そうしたら、みんなが淫乱なお前を見るんだよ」
「や、止め…」

口では嫌がっても、樫村のズボンが濡れるほど、遼子のそこから蜜が滴っていた。
さらに出し入れのスピードを上げる。

「きゃっ、んっ、んんんっ」

嫌がりながらも遼子の腰も一緒に跳ねている。
運転手の視線と、声を堪えなければならない状況に遼子の理性は溶けはじめていた。
理性が消えうせた先にあるのは悦楽に溺れる本能だけだ。
遼子の息が上がる。遼子の背中の筋肉が強張るのを、抱きかかえた樫村は感じていた。

「いきそうなのか」
「だめっ、もう止めて…お願い…きゃああぁっ」

遼子の亀裂に押し付けるようにして更に強く指を叩きつける。激しくぶつかる肉の音と
はしたない水の音が樫村と遼子の耳を打つ。

「お前のいくところ、運転手さんに見せてやれって」

その言葉に遼子は強く反応した。樫村が遼子の中で指を曲げる。絶頂へもうひと押しするポイントを突いた。
指を叩きつけ、濡れた遼子を追いこむ。

「ほら、いけって」

指と遼子の肉がぶつかる場所から、飛沫が後部座席に飛び散る。
遼子の子宮に当たるほど、樫村は激しく指を突きあげる。

「…こんなところで…あっああああんんっ」

一際高い声で啼くと、樫村の膝の上で遼子は果てた。
のけぞり荒い息をしながら遠山の…樫村の舌を求める。
御褒美がわりに、樫村はたっぷりと舌を絡ませるキスをしてやった。

遼子のアパートについた。
時刻は3時を廻っている。
タクシーを止め、遼子に肩を貸すとアパートの部屋の前までようやく辿りついた。
あれからタクシーの中で遼子は眠りについた。絶頂のなごりか、紅潮した遼子の横顔を見て樫村は思った。
もし、兄さんがいなかったら…。その時はこの続きをしよう。

だが樫村が鍵を差し込む前に、玄関の扉が開いた。

「遼子、おかえり。あなたは…アンタッチャブル編集部の方でしたね」

ジャージ姿の遼子の兄、鳴海洸至が樫村を見て言った。

「編集長の樫村です。遼子さん少し飲み過ぎたようなので、送ってきたんですよ」

動揺をさとられないように、樫村は笑顔でそう言った。

「遼子、お前また飲み過ぎたのかあ」

樫村が遼子の躰を洸至に預けると、洸至はこともなげに遼子の体を抱き上げた。

「こちらこそすいません、妹がご迷惑をおかけしたようで」

と、洸至が遼子の服の乱れに気付いた。
洸至の眼が一瞬細くなる。

「本当にお前は酒癖が悪いからなあ。また悪い癖が出たか」

また…。
…この男ももしかしたら妹のあの癖を知っているのか。

「鷹藤君だって、俺だって迷惑してるのになあ。樫村さんにまで迷惑かけちゃだめだろ」

洸至が笑みを浮かべて樫村に同意を求めた。
だがその笑顔を見て、樫村の背筋が粟立つ。
口元は笑みを浮かべているが、眼もとは全てを見透かすように樫村に据えられていた。
そしてその奥の瞳には、光をも呑みこむような昏さがあった。

「タクシーで絡まれて大変でしたでしょう。樫村さんも」

樫村はぎこちなく笑って、どうとりつくろったかわからぬまま、タクシーに乗っていた。

「大分楽しんだみたいですねえ、お客さん」

運転手が樫村を冷やかす。

「ああ。あんたのおかげだ」

楽しんださ。久しぶりに女の肌を味わった。女を自分の指で乱れさせた。
だが、洸至の眼で見つめられた時、やくざに自分の墓を掘らされた時の感覚も久しぶりに蘇った。
その感覚を打ち消すには家で理性を失う程飲み直すしかなさそうだ。
車内に籠る、遼子の放った雌の匂いに包まれながら樫村はひとり震えていた。

続編:CRAZY TAXI 兄編(鳴海洸至×鳴海遼子)






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