bullet to the heaven
-1-
シチュエーション


鬱蒼と木々が生い茂る森の中。日の光はまばらに差し込むだけで、あたりは薄暗い。
周囲の音に異常がないか警戒しながら、私はスタート地点として指定された切り株に腰
を下ろした。

「……さすがにお金に目がくらみすぎたかな」

過去の自分の軽率な判断と、着用を義務づけられたソレの感触に、少しばかり後悔する
が、再度お金の額を天秤に掛けてその感情をゴミ箱に捨てる。二十歳にも行かない女が簡
単に手に出来るはずがない額が、このゲームの勝者に与えられる。多少のいかがわしさ(
といってもかなり多に偏っているが)は致し方ないのであろう。肌に直に接しているソレ
は今はなんの動きもないが、最初に説明を受けたときの“脱落条件”から類推すると、ま
あろくなことをしてれなさそうである。
渡された銃を眺める。もちろん実銃ではないのだが、実際の銃と同じような性能になる
ように作られているらしく、両手でしっかり持たないと構えるのも大変である。もう少し
軽いやつにすればよかったのだが、社会主義国でおなじみのこいつは、少し眺めの射程距
離と連射できる点が向いてるだろうと判断したのだ。そしてなにより、普段から使ってい
る愛用の銃である。間違っていないことを祈りたい。

とあるFPSの世界で、割と上位に食い込んでいた私の元に招待状が届いたのは一ヶ月ほ
ど前のことである。そこには、疑似FPSをリアルで体験して、賞金を獲得しないか云々と
書かれていた。小さく書かれていた注意書きには性的にどうこうだとか撮影どうこうとあ
ったので、ろくでもないゲームであることには気がついていたが、獲得賞金1000万円
(2位で500万円、3位で100万円)を見てしまうと、目が離せなかった。「肉体に
は危害を加えません」との注意書きを信じて応募してしまったのだ。
同じような招待状は、私と同じような年齢の女性にのみ送られていたようで、指定され
た会場には全部で20人くらいの10代・20代の女性が集まっていた。みんな同じく金に目が
くらんだ、自分のプライドをどこかに捨ててきた集まりである。あの注意書きを読んで集
まる物好きなんて1人2人かと思ったが、そうではないらしい。一歩間違えれば痴態を公開
中継されてしまうのに、それでもやってくるのはよっぽど自信があるか、あるいは気にし
ないかのどちらかであろう。

ゲームの内容は、FPSとほぼ一緒だった。違うのは、これはゲームの中ではなくリアル
で行われるということ、実弾ではなくレーザー銃の類で行うこと、そして“見えない弾丸
”による被害は肉体の損傷ではなく性的な被害である、ということだ。
説明書きによると、銃で撃たれた場合、身につけたレーザー感知装置がどの部分にどれ
だけの損傷を与えたのかを計算し、それを同じく身につけた装置に送信する。この装置は
それぞれブラジャーとショーツをメカニカルにしたようなもので直接肌、というか敏感な
部分に触れている。それで、先ほどの送信された計算結果を基に、性感帯を刺激するとい
うわけだ。腕とか足とかなら弱く、胴体ならやや強く、そしてヘッドショットなら強烈な
刺激を与えてくれるそうである。ちなみに武器の種類、距離あるいは支援砲撃などでも異
なってくる。そのあたりはゲームと変わらないらしい。
脱落条件は、履いたショーツ状の装置が30秒間に規定以上の液体を感知したら、である。
ようは弱い刺激で垂れ流し状態では脱落と成らず、絶頂を迎えて派手に潮を吹くなり、あ
るいは失禁するなりでアウトになる。
ゲームの世界ならヘッドショット、あるいは至近距離のフラグ爆発で一発アウトだが、
この“ゲーム”なら、耐えられればアライブとなる。自分の感度とやらが人様に比べて敏
感鈍感かはわからないが、それは敵となる他の人たちも共通だ。まあ最悪イカされてしま
ったとしても、服が破れたりすることはないそうで、自分の痴態は生放送されても裸体は
守れる。この当たりの微妙なさじ加減が小憎たらしい。

ちなみに、招待元のFPSとシステムは似通っていて、メインウェポンのほかサブウェポ
ン、アタッチメント、ギア、装備、パーク、キルストリークと呼ばれるオプションを選ぶ
ことが出来た。ほとんどをゲーム内と同じにするが、3つ選べるパークのうち自分の移動
速度を上げるのと足音を消せるものがなくなっているほか、普段は敵を何体か連続でキル
することで発動させられるキルストリークが、「規定回数のヘッドショットの連続」か「
感知させた愛液量の合計」での発動に切り替わっている。無駄に細かい設定だ。

『まもなく競技開始です。各自構えてください』

どこかに設置されたスピーカーが、開始準備を告げる。出来ることなら、あえぎ声とか
を漏らしたくはない。だがまあ、ゲームシステムはFree for All。一位でない限りでは悶
える姿を見せてしまうことになる。

『3・2・1……Start!』

開始の合図で、私は足音を忍ばせながら動き始めた。

このゲームの舞台は、内海に浮かぶ無人島だった。事前説明によると半径1kmほどの広
さらしく。中心部が少し丘になっている以外はは平坦らしい。ただ、半分以上の面積が人
の手が入っていない森であること、そして所々くぼみのようにへこんだ地形やため池のよ
うになっているところがあるらしく、身を隠すことに関して不自由はしなさそうだった。
だがそれは、他の19名も同じである。私はゲームと同じように、慎重にクリアリングし
ながら進んでいく。
一カ所にとどまっていてやり過ごせば多少なり有利になりそうだが、そこはちゃんと考
えてあるらしく、30分を過ぎると例のアレが勝手に作動し始めるらしく、以降は時間が経
過する事に刺激がどんどん強くなるそうである。主催者はスリリングかつエロティックな
ゲーム展開をのぞんでいるというメッセージ性が強く感じられる(そしてたちが悪い)。

これでもかと言わんばかりに各所に設置されたビデオカメラにうんざりしながらも、頭
を低くして見つからぬよう進んでいると、遠くで一発、続いて二発三発と銃声が鳴り響く。
ゲーム同様、打つと派手に銃声が鳴り響くようになっているのだ。音の聞こえ具合からし
て反対側での出来事のようだが、念のため木に隠れ当たりを警戒する。
脱落者のアナウンスは流れながった。どうやら先ほどの発砲は当たってない、ないしは
“天国へ昇らせる”ほどではなかったということか。だが、聞こえてきた銃声が否応なし
に自分の五感を高める。

ピキ……

近くで枝を踏みしめた音に反応して、私はすぐに身をかがめる。どうやら見つかった様
子はなく、一定の間隔で足音が聞こえてきて、少し距離のあるところを通り過ぎそうな気
配である。
音を立てぬよう、私はAKを構え、茂みの中から音の発生源へ向けていく。
銃身の先には、私よりもさらに若そうな女の子が、ハンドガンを握りしめ、不安そうに
歩いていた。ゲームの中では名手なのかもしれないが、もしかしたら運動神経に自信がな
いのだろうか。
少し、心が痛む。だが、ヤらなければヤられるのはこちらだ。幸いなことに、未だこち
らに気づいておらず、周囲に他人の気配もない。打ち終わった後、“このゲームだからこ
そしなければならない追撃”の動作のイメージを強く持ち、左手を銃身に添え、狙うは、
頭。

パスッと、気の抜けた銃声が一発。ターゲットの頭に必中。そして。

「ひああああっ!!?」

ヘッドショットに相当する性的快感を胸部に、あるいは秘部にたたき込まれた少女は、
甲高い嬌声とともにハンドガンをこぼし、膝から崩れ落ちた。どういう仕組みで感じさせ
るのかはまだわからないが、口の端からだらしなくよだれをこぼしている様から、相当に
残念な出来であることには違いない。

だが、脱落のアナウンスはまだ流れない。想定の範囲だ。
すぐさま身体を起こし、目を虚ろにさせた少女に掛け寄りながら、懐に忍ばせたナイフ
の柄を握りしめる。三歩、二歩、一歩とその距離は消え去り、ゲームの様に首をかききる。
このゲームでは、ナイフに刃は備わっていないが、およそ25センチの長さでレーザー状の
当たり判定を発生させているらしく、首をかききったらヘッドショット相当である。
もう既に銃の段階でその威力はわかっていたのだが、残念ながら相手を脱落させるため
には、30秒間に規定以上の液体を感知することである。首を真横に凪いだあと、そのまま
肩口から斜めに振り下ろす。

「ぃぁあああああああああっ!!」

反撃を受けぬよう、距離を取る必要もなかった。

『No.16、dead』

目の前の人物の“死”を告げるスピーカー。もっとも、その声を聞くまでもなく、例の
装置どころか迷彩服の股間部分からもしみ出した液体が、彼女が派手に絶頂を迎えていた
ことを現していた。地面に仰向けに倒れ、身体は未だひくつき、目は何も見ていない。す
ぐ近くの木に設置されたカメラは、確実に彼女のよがる様を悪趣味な方々に見せつけてい
たことであろう。もっとも、悪趣味だと嘆いていても、金目当てにこうしてかわいそうな
結果に導いた私だって相当に悪趣味であるのだが。

後18人。私は脱落せずに、このゲームを生き残れるのだろうか。

少女を1人天国に追いやって以降、私は誰にも出くわすことなく森の中をさまよう事が
出来た。ワンキル以上の成果を上げていないということはすなわち、タイムオーバーによる装置の作動に近づいていることになるが、幸か不幸かいくつかの銃声、爆発音と共に、
6名の脱落者がアナウンスされていた。私以外に残り13名。タイムオーバーまで後21分。
念のために、例の少女からは装備品一式の内、奪うことの出来ないパークを除いて頂い
ておいた。ゲームならリスポン時に弾丸補給があるのだが、こちらだとサバイバルよろし
く補給がない。弾切れは防御手段の喪失をも意味するので、出来るだけ武器を持ち歩いて
おきたいのだ。同じ理由が、最後ナイフでとどめを刺したことにもつながっている。
歩いている間に、事前に見た地図を元にこの島の地形を記憶していく。真ん中の高い丘
は、頂上付近は茂みが多いものの、そこにたどり着くまでの遮蔽物が少なく、下手に上っ
たらあっさりとイカされる欠点があった。麓の森林はというと、所々に沢による線引きが
あり、森から森に移る際にはこちらも遮蔽物の少ない空間に身をさらさなければならなか
った。
このゲームの場合、即死がない分森の中で不意に出くわす方が怖い。闇雲に撃たれたと
しても、一発当たってしまえば動きが大きく制限されるのは先ほどの少女の痴態で明らか
だ。かすめただけでもそれなりに感じてしまうことは覚悟しなければならない。
ゆっくりと、慎重に歩を進めていく。
だが、相手も、私も、ゲームの中ではプロでも実際はずぶの素人なのだ。

『っ!?』

神様は微笑んではくれず、サブマシンガンらしき銃を構えた女性と、30m程の距離で相
対してしまう。問答無用でフラッシュバンのピンを引き抜いて投擲、即座に爆心地に背を
向けて屈む。

「いやぁぁぁっ!」

先手を取れたはいいが、相手は視界を奪われて混乱していた。むやみやたらにサブマシ
ンガンを振り回しては発砲していく。でたらめに放たれた銃弾の内の一発が、私のふくら
はぎをかすめた。
刹那。

「いっ!?」

身につけた例の装置が稼働する。胸部のソレは乳首にぎゅっと絡みつき、股間のソレは
私の秘唇を下から上へとなめ上げた。どんなハイテクなんだ!と突っ込む間もなく、じん
わりと私の性感帯に熱を灯していく。どうやら、刺激と同時に媚薬のようなものも塗られ
たようで、ぬめった感触は残り、弱くではあるのだがしびれにもにた甘い感覚が全身へと
伝わっていく。
これは、マズイ。かすっただけでもスイッチが否応なしに入れられる。
これ以上の被弾はたまらないので、未だ錯乱する敵から距離をとり、木の陰に隠れる。
幹を貫通するほどの能力はないはずなので、射線に気をつけながら、半身を乗り出して狙
いをつける。
1発目は胴体だった。彼女の身体がびくんと跳ね、硬直したところをもう1発胴体へ。2
発の銃撃。

「はああぁぁっ!」

1人目の少女と同じように、彼女は銃を落とし、身体を抱きしめながら崩れていく。背
後へ駆け回ってナイフを一閃すると、ぶしゃっと派手に潮をまき散らした音と共に、彼女
は地に伏せった。

『No.8 dead』

脱落アナウンスが流れる頃になっても、私の奥はじんわりと、熱を持ってしまっていた。

あたりの気配を伺いながら呼吸を整えることで、少しばかり火照りが取れた気がする。
タイムオーバーまで後18分。残り12名。これから先は、戦いになれてきたものしか残ら
なくなる。簡単にはいかなくなるであろう事は、想像に難くない。無駄に撃って残弾ゼロ
という事態は避けなければと、奪ったものも含めて自らの装備を確認する。
カラシニコフの残弾は87。打ち合いさえしなければまだまだ大丈夫だろう。ハンドガン
のマカロフはまだ1発持つ勝っていない。グレネードはフラグ2とセムテックスが1、それ
にフラッシュバン1、スタングレネード2。そしてクレイモア2とC4が1。これらをどう使う
かをゲームと同じメリット・違うメリットを探りながらしまい直す。例えばクレイモアな
んかは、本来ならば通路において一撃必殺を狙うが、今回の場合一発で仕留められるとは
限らない。近くにいて追撃を行わなければ、相手をイカせるのは厳しいかもしれないのだ。
もっとも、身を守る手段としてならば同じように使えるだろうが。

森の中を、足音を忍ばせて進んでいく。物陰から射撃や飛び掛かられてナイフキルをさ
れぬよう、クリアリングは欠かせない。家のような建造物の類はないので、壁越しにスナ
イプ、というのはなさそうだが、岩陰やくぼみの近くは気を抜けない。
しばらく歩くと、獣道沿いの木の麓に、クレイモアが仕掛けられているのに気がついた。
目をこらすと赤い光が作動範囲を示してくれているので、引っかからないこと自体は簡単
だ。問題なのは、前述の通り“一撃必殺”たり得ない部分なのだ。
息を潜め、辺りをうかがう。隠れることが出来そうな茂みが2カ所ほど。気づかれてい
る形跡はない。このまま静かに通り過ぎるのも手なのだが、残り時間のことを考えると先
に倒しておかねばならない。
設置されたクレイモアから少し離れた窪地に、やや上向きにクレイモアを設置。向きは
茂みからクレイモアへの直線ルートの延長線上。設置後はさらに離れた木陰から、隠れ家
と思われる茂み、そしてクレイモアが見える場所で、静かにAKを構える。狙いは、既に仕
掛けられていたクレイモア――
パスッと気の抜けた銃声が聞こえるまもなく、クレイモアは“爆発”した。ほぼ同時に
スモークグレネードを投げ込んでから、再びAKを煙の中へ横に凪ぐように6発撃ち込む。

「いっ!?」

ビンゴ。やはり隠れて獲物を待ち構えていたらしい。スモークグレネードの煙が晴れる
と、そこにはナイフ(の柄)を構えた女性が、足をくゆらせながら立ち止まっていた。致
命的な感覚は与えられていないようだが、かすった程度でもないらしい。内股になって震
える太もも。彼女が感じてしまっているソレが、先ほど自分の足をかすめたときの何倍の
強さなんだろうと考えてしまうと、落ち着いていたはずの劣情が身をもたげてくる。
荒い吐息にならぬよう、息を止め、サイトを覗いて1発、2発と身体に撃ち込む。ゲーム
と違い、相手の姿が見えてなければ“どの方向から撃たれているか”というのはわからな
い。混乱している相手は、倒れそうな身体を抱きすくめながら(右手は明らかに股間に向
かっていたが)、ふらふらと予想通りの歩みをみせ、そして。

ピッ――

「ひいぃぃぃっ……」

私の設置したクレイモアにも引っかかり、彼女は電流を受けたように一瞬硬直した後、
目をむいて倒れこんだ。ぴくっ、ぴくっ、と身体は小刻みに痙攣し続けている。だが、ア
ナウンスは流れてこない。傍目にもだらしなく絶頂に上り詰めたのはわかるのだが、どう
やら“キル判定”を受けるほどには愛液がこぼれおちたりしていないらしい。
ここまで来て放置するのもなんなので、私はナイフを片手に近寄った。今回だけで6発
使っているのでこれ以上は銃弾がもったいないこと、それとどれだけイカせれば潮を吹い
てくれるのかわからなかったのだ。
だが、結果その判断は私に不幸をもたらす。

未だ痙攣を続けるその身体にナイフを突き付けようとした刹那、そのそばにとあるもの
が転がっているのが目に入った。
私があわてて飛びずさった刹那。

「やああぁあああっ!!?」

何かの拍子でピンの抜けたフラグの爆発音、私の胸と秘部への強烈な刺激、そして喉か
ら嬌声が毀れてしまうのはほぼ同時だった。遠くで『No.11 dead』と聞こえたのだが、も
うそれどころではない。私は飛んだ後まともに着地もできず、腹からべちゃっと地べたに
転がってしまうが、そんなのもどうだっていい。
歯を強くかみしめないと、“どうにかなって”しまいそうだった。すでに例の機械は作
動していないものの、敏感な神経の塊に、直接快楽信号を叩きつけられたような衝撃は大
きかった。先ほどのかすり傷とは比べ物にならない。見えも触れてもいないのに乳首が勃
ってしまっているのが自覚できるし、深部への入り口はうめき、濡れぼそり、クリトリス
はさらなる刺激を求めてひくついているのもわかる。

「あ、ああぁっ……」

力が入らない。だらしなく声を漏らしてしまうのもこらえきれない。このままだと誰か
に見つかってしまって、天国への片道切符を渡されてしまうのは明らかなのだが、動きよ
うもない。ややもすれば、今この場で全部脱ぎ去って、自分の手で濡れたソコをかき回し、
上り詰めてしまいたいくらいなのだ。それくらいに私は感じてしまっていた。
スタート前、私はパークの一つに「フラックジャケット」を選択していた。この装備の
効果はゲーム中なら「爆発物によるダメージを65%軽減する」というもの。本来であれば
即死扱いになるフラグの爆発も耐えられるようになるシロモノだ。すなわち私は、「フラ
グによる即死クラスの刺激の35%の刺激」を受けたことになるのだが、冗談じゃない。こ
れの約3倍増しなんて、どうにかしているとしか言いようがない。私のクレイモアに引っ
掛かって、今派手に股間を濡らしているであろう彼女へのソレは、いかようなものだった
のか――想像したくもないが、考えてしまい、余計に刺激を求めたくなる。作動した機械
の刺激とともに塗布された媚薬が、私の思考回路を花畑に向かわせようとする。
食いしばりながら、深呼吸してなんとか落ち着かせようとする。そして、少しでも影に
隠れて回復せねばと、這いずって茂みに隠れようとする。
だけども、神様は私をどうしても天国に招待したいようだった。

「ひぎぃぃいぅ!?」

またしても装置が作動し、私は意識を手放しそうになったのだ。

→※←※→※←

前回、思いっきり痴態をさらしてしまったことに懲りもせず、あたしは再度届けられた
招待状を見てすぐに参加を申し込んだ。賞金をもらえもせずにあっさりとイカされてしま
った揚句、あろうことか失禁してしまう様をも世界各地で劣情に駆り立てられていたこと
であろう雄猿(もしかしたら頓珍漢な雌猿も)に見られたわけだが、ここで引き下がった
ら「あいつはお漏らししながらもよがったメス」という烙印を消し去ることができない。
そんなのは、あたしのプライドが許さない。賞金よりも、自分のプライドをかけて、もう
一度このゲームに飛び込んだのだ。
ゲームの中では凄腕でも、リアルでのサバゲー経験などあったわけでもないのに、前回
のあたしは勘違いして公開オナニーと相成った。あの屈辱を晴らすべく、トレーニングと
ともに武器の取り扱い、自分のとるべき戦略をずっと思い描いていた。同時に、ゲームの
中では憂さ晴らしのようにひたすらキルレートをあげて、時折ボイスチャットからわけの
わからない言語で罵倒される程度にはなっていた。
機械の作動まで20分あるかどうかのところまでに、あたしは2つの戦果をあげていた。
相棒はソ連製狙撃銃ドラグノフ。ゲーム中でも狙撃銃を使うことが多いあたしだが、癖の
強いこの銃はあまり使ってこなかった。だが、これはリアルでの戦いである。他の3つの
狙撃銃よりも所持弾数が多いのが重要だった。トレーニングをつんだものの、元の運動神
経があまりよくないあたしがこのゲームで生き残るには、極力茂みに隠れ、相手に見つか
らぬよう遠距離からの狙撃で落としていくのが最善だと考えたのだ。
ゲーム中の補正にほとんど準拠しているこのゲーム。狙撃銃はサイレンサーをつけた状
態でも頭か首に着弾させれば“ワンキル”相当になる。それを2発も食らえば、簡単にデ
ッドエンドになるのは、なによりもあたし自身が身をもって経験している。ここまでの消
費弾数は4発で、想定通りだった。残り26発もあれば、先に見つからない限りは戦ってい
ける。
あたりの気配をうかがいながら、慎重に行動していたあたしだったが、装備しているパ
ークの一つ、「ハッカー」のおかげもあって、道端に設置されたクレイモア、続いて茂み
に隠れている敵を見つけたのがつい先ほどのこと。狙撃銃の特性を生かして、結構離れた
茂みまで戻り、その様子を窺う。見つけた相手は茂みの中なので、障害物越しのダメージ
低下の可能性から狙わない。あたしの本命は、あのクレイモアの罠に気付いて、茂みの中
に隠れた敵を倒そうとする、さらなる敵だった。
望めば叶うのかはわからないけど、ほどなくして別の女性があの罠に気付き、行動を起
こした。まるでこのようなものを実際で何度も体験しているかのように、その女性はスム
ーズに罠をしかけなおし、茂みの中に隠れている敵をあぶりだした。
あたしにとって幸運だったのは、とどめを刺そうとした彼女が、すでに天国にのぼりか
けの敵が取りこぼしたフラグの“爆発”を受けて、派手に機械を作動させたことだった。
脱落アナウンスは一人分しか聞こえなかったので、おそらくそばに転がっていたもう一人
だけしか脱落していない。フラックジャケットを装備していたのだろう。残念ながら頭や
身体は木々に隠れてしまっているものの、時折ひくつく足があたしの射線上に残っていた
のだ。

スコープを覗き、動いて回る“目標物”に狙いをつけ、あたしは引き金を引く。

「ひぎぃぃいぅ!?

見事に着弾したらしい。足の場合ワンキル相当にはならなくとも、手前のフラグ直撃を
加味すれば十二分に感じてしまうことだろう。
一瞬、前回受けてしまったアレを思い出し、股間が疼く。派手にのたうちまわりながら、
“天国には行きたくない”と耐えている彼女が受けたであろう刺激。二度とあんなことは
ゴメンなのに、女としての身体は痴態をさらしかけている彼女の姿をみて興奮してしまっ
ていた。
落ち着け、落ち着けと深呼吸。次いでスコープを覗く。先ほどよりも更に狙える部分は
せまくなっていて、おまけに動きまわるものだから狙いを簡単に付けられない。残念なが
らフラグを投げ込んで届く距離でもないので、あたしに残された手段は、動き回るターゲ
ットをとらえきることだけ。
自然と、呼吸が止まる。狙いをつけ、引き金を――

バンッ!バンッ!バンッ!

「あああああ!」

引く事は、できなかった。至近距離で聞こえた銃声3発は、間違いなくあたしの致命的
な部分をとらえていた。3回分、きっちりと機械の作動をうけ、あたしは相棒を放り出し、
乳首とクリトリスから神経をつたってくる快楽にのまれていた。

「あ、あああ……」

耐えろ、耐えろと願うが、強烈な余韻は数秒経過しようが消えることはなく、媚薬を塗
られた部分は熱くなり、地面にすらすがってしまいそうだった。徐々に視界が白くぼやけ、
ああ、あたしまた負けそうだ……というところで不意に蹴り飛ばされ、あたしはわき腹の
痛みで天国から現実に引き戻される。

「いっ、あ、あんた直接相手に、触れるのは禁止なはずでしょ!」

仰向けになったことで、あたしに引き金を引いた敵の姿が見える。切れ長の目、長くの
ばされた黒髪、ぱっと見20才前後に見えたその容貌の中、唇の端が食いっと持ち上がる。

「あら、たまたま転がってた人に足が引っ掛かっただけよ。何、残念だったの?イクこ
とができなくて」
「ち、ちがっ……」
「まったく。あんなこれ見よがしにジャマーが置いてあったら、すぐ近くに潜んでいるな
んて簡単にわかるのはゲームと同じなのにねえ」
「っ……!」

指摘されるまでもなかった。この女の言うとおり、ジャマーをただの敵探知に使うとば
れる可能性があったのだが、前回のことを考えたあたしは、臆病な行動に走ってしまって
いたのだ。

「さあて、どうしようかしら」

一歩も動けない。銃を突きつけられて、反撃の糸口もつかめない。このままだと、また
……
前回のことが頭をよぎり、心とは裏腹に、愛液が染み出してしまう。

「あら、こんなに濡れちゃって。待ち遠しいのねえ。ならお望みどおり、天国に連れてっ
てあ・げ・る」
「くうっっ!」

手足を投げ出して無防備なあたしを、そいつは長い脚で踏みつけてきた。それも、たっ
た今刺激を受けた股間部分を。足の裏全体をずっ、ずっと上下に動かされ、ひいっとたま
らずに声を漏らしてしまう。くちゅくちゅと水音が聞こえ出し、あたしはサブウェポンを
取り出すことすら叶わないくらいに、機械の刺激とは違う、生の辱めに身を悶えていた。

「ねえ、知ってる?こんなくだらないゲームを考え付く馬鹿な人たちでも、少しの倫理
感は残っていたらしくてね」

遠くで、何か聞こえてくるが、あまりよくわからない。足は未だ動き続けて、頂点に達
しそうなぎりぎりをあたしは行ったり来たりさせられている。

「身につけてるその機械、作動時はちょっぴり肌から浮くように設計されてるのよ。なん
でも、直に触れた状態では“天国に行ったきりになりやしないか”ってね。まあもしかし
たら、あなたのように戻ってくるおバカさんが減らないように、なんてことかもしれない
けど」
「あ、ああっ」
「でもね、所詮機械は機械なのよ。こうやってね、ぐいっと押さえれば、離れることはで
きないのよね」

おぼろげに聞こえる声。まだ一度も受け入れたことはないのに、恥ずかしげもなく、だ
らしなく愛液をたらし流しているであろうあたしの大事な部分が、強く押さえつけられる。
かすかに見える先には、パイソンが、あたしの頭を狙っていて――

「まあ、体験してみてよ。“オーバーキル”を」

バンッ!

「ひぎぃぃぃああぁぁぁぁぁぁぁあぁ!」

→※←※→※←

『No. 14 dead』
「感想は……言えるわけもないか」

支給されたブーツの裏にすら、ぶしゃっと派手に飛び出す液体の感触が伝わる。浮かせ
てみると、実弾を受けて血を流したかのように、ソコを中心に周りに液体が広がっていた。

「押さえてなかったらこっちにもかかってたじゃない」

つんつんとブーツの先で“傷口”をつつくたびに、びゅっ、びゅっと液体が飛び出てく
る。機械どころかミリタリーパンツを越してまで飛び出してくるのだ。ちょっと面白くな
って何度かつついてみたが、あえぎ声に聞きあきたところで止めることにした。

「ねえ、せっかくだからひんむいてもいい?」

無線越しに許可を求めてみるが、答えはノーだった。

『ダメだ。そんなことしたら“お得意さん”が減ってしまう』
「いいじゃない、彼女以外にもお得意さんはいっぱいいるでしょ?」
『問題はそれだけじゃない。裸体を見せないことで、関係各所へ流している“あの液体は
機械が流しているもので、本人が性的に感じて出した液体ではない”という建前が通用し
なくなる』
「めんどくさいわね。どうせお偉いさん達だってこの馬鹿げたショーで劣情を湧きたてら
れてるわけでしょ?」
『建前と本音は重要なのだよ、“ハンター”。さあ、さっさと次の標的に移れ。お前だっ
て一応は機械の作動を受けるのだからな』
「わかってるわよ、“主催者”さん」

無線が切れ、やれやれと肩を回す。

「ごめんねえ、今回もまた無様におしっこもらさせちゃって。まあ、またイキたいなら参
加してちょうだいな、って聞こえてるわけないけど」

オーバーキルの直撃を受けて、白目をむいた彼女はもはや人形だった。口もとからもだ
らしなくよだれを垂れ流し、何も言わないし、何も見えていない。ただし、下半身はまる
で何かを求めるように動き、少しの刺激が彼女に伝わるたびに、ちょろちょろと液体が零
れていく。無事生活に復帰できるのか、それともこのままダッチワイフと化すのか、どらにせよ興味の範囲外である。

「残りは15分、か……サクッと今回も、ハンターとしての責務をまっとうしましょうかね
ぇ」

次の獲物にと考えていた、このスナイパーに狙われたものの姿はもう見えない。あれだ
け感じさせられててまだ動けるのだとしたら、大したタマである。楽しい戦いになりそう
だ……そんな相手を屈服させ、衆目の下イカせることができるなんて、ああ、たまらない。
考えるだけでイケる。

「ま、考えてるだけじゃつまらないもんね。さっそく探しますか」

奥が熱くなり、少しだけ濡れるのを感じながら、“ハンター”は狩りを再開した。

「ふう、ふうっ……」

荒い息を吐きながら、私は木々を伝うようにゆっくりと歩いていた。未だ膝は笑いを止
めず、派手に“攻撃”を受けた個所から液体が時折こぼれ出し、足を伝ってミリタリーパ
ンツを不快なものに仕立て上げていく。判定が「30秒間限定」なことに救われた形だが、
股間から恥ずかしいものを垂れ流しているこの状態が果たして救われているのか否か、と
もすればせしめたフラグ類を大量に爆発させて、早くダウン(という名の絶頂)してしま
いたいところだが、そういうわけにもいかない。何より、まだ10人も残っているのだ。こ
のまま朽ちてしまえば、ゲームに参加した意味はなくなる。
先ほどの銃撃以降、攻撃してくる敵はいない。脱落アナウンスは2人分増えていた。銃
弾を放った相手がどうして追撃をかけてこないのか知るすべはない。どちらかというと誰
かに天国に連れて行かれた、よりかはただ単に臆病なだけにしておきたい。なぜなら前者
だと、こちらを追ってきている可能性があるからだ。とてもじゃないが、今迎撃する余裕
がないのは私自身が知っている。

「くうっ」

なんせ、歩く振動そのものが凶器と化しているのだ。媚薬をたっぷり塗られた秘唇と突
起物は、今は作動しない機械にぴったりとくっつき、地面との接触の度にほんの少し、じ
れったい刺激を甘受している。ねちゃねちゃと卑猥な水音が、皮膚を伝わって聞こえてく
る。ゲームなら体力回復は時間の経過で行われるが、私の劣情は時間が経つにつれ高まる
一方だった。
甘く見ていたわけではないのだが、こんな風になるとまでは想像していなかった。気を
抜いたら、木の枝にすら見境なく求めてしまいそうだ。機械がもたらす刺激もたちが悪い
がそれ以上に媚薬の効果がたちが悪い。裸になってぬぐい去ってしまいたいが、各所に仕
掛けられたカメラの前で公開ストリップをするわけにもいかない。
朦朧とする中で歩き続けた先に沢を見つけて、私は心の中で助かった、と叫ぶ。
沢には当然遮蔽物がないので、格好の的になりやすいのだが、それどころじゃない。ま
だ新緑の季節、水は冷たい。一応あたりを見渡した後、腰をかがめ、水のかからないとこ
ろに装備品を置いて、ゆっくり沢に入っていく。沢は足首少し上までの深さだったが、十
分な深さだ。岩陰のよどみを見つけ、そのまま私は水の中に身を横たえた。冷たい水が全
身を包み、火照った身体はゆっくりと静まって行く。








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