魔術師とサッキュバスと復讐と
-3-
シチュエーション


四人が横たわっているところから少し離れてベナンはベッドの上に座り、しばし逡巡していた。
ラミィとサッキュバス達は既に去っている。
寝息以外物音一つしない部屋の中で、ベナンは腕を組んで考え続けていた。
ベナンの背を音を立てないように入ってきたエイダがそっと抱いた。

「その人たちの意志を無視して犯すのが嫌?」
「……インキュバスとしては失格だろうけどね、人の時のやり方とか考え方はそんな急には変わらないよ」
「ベナンは優しいね。……じゃあね、私が魅了して操って、外に放り出してあげようか?」
「エイダ?」
「ラミィ様には私が謝っておくから。ああ見えても結構話わかってくれるのよ。それに、この人達のことどうでもよさそうだし」

エイダがふっと笑みをこぼし、すぐに真顔にもどる。

「でもラミィ様から聞いたんだけど、ベナンはやり残した事に、この人達を使うんだって?
ね、それってそんなに悩んでまで、どうしてもしなければいけないこと?」

その言葉にベナンの顔がこの時ばかりは厳しくなった。

「……やらない方がいいかもしれない……そんなことだよ」
「ベナンが望むなら、私の出来ることはなんだってしてあげる。だから……一人で悩まないで、ね?」

背後から顔を寄せたエイダがベナンに唇を重ねる。

「エイダ……また、君の中に入りたい。君に包まれたいんだ」

疲れた顔でベナンはエイダの舌を無心に吸った。

「うん、もう私はベナンのモノだから」

エイダはベナンの前に仰向けに寝転がると、両手を伸ばしてベナンを誘う。
すぐに服を脱いだベナンは、エイダの腕の中に滑り込み、唇を重ねた。
そのまま前戯など全くなしで、ベナンの長大で太いものが、エイダの中に押し込まれていく。
インキュバスにさせられて、陰茎は凶悪な外見を持つようになったが、エイダへは微塵も痛みを与えることはなかった。
形を変え、膣の粘膜を柔らかく押しながら、まるで形が整えられたようにはまりこむ。

「あはぁ、ベナンのが私の中にもどってきたぁ」

入れただけなのにすでに融けきった目で、エイダはベナンを抱きしめた。
ベナンは腰をあえて動かさずに、エイダを抱き上げて、対面座位の形にうつった。
エイダの羽根が広がり、ベナンの背を覆う。
いっしんに口づけを交わしながら、二人は腕で足で羽根で固く抱き合い、柔らかで豊満な胸が男の胸板につぶれながら密着する。

「エイダ、もっと奥に入りたい」
「うん、全部、奥まで」

膣の中で肉棒がさらに伸びた。湾曲する膣壁に沿って、一度も擦られたことのない粘膜を撫でるように伸びる。
長さの関係で普通であればいかなる肉棒も蹂躙できない真の意味での処女壁である奥の壁を、ベナンの陰茎は優しく丁寧にこすりあげながら伸びていった。

「うあ……ほぉぉぁぁぁ、お、奥がぁぁ……あついぃぃぃぃぃ」

目を見開き首をのけぞらせたエイダの口の端から涎が銀色の糸を引いて滴った。
しかし本人の状態とは関係なく、伸びていく陰茎を引き留めようとせんばかりに、膣壁がぞうきんを絞るようにからみつき、ベナンに腰が抜けそうな快楽を送り込む。

「ぜ、全部、エイダの全部を……」

自らを引き絞る膣壁に逆らって陰茎は伸び、先端で子宮口を軽く叩くところまで達し、ついにそこまでの全ての膣の空間を埋めた。

「ベナン……直接……かけて……」

腰を一度も動かしていないにも関わらず、二人の腰はエイダの愛液で濡れそぼり、二人とも荒い息をして全身を紅潮させていた。

「愛してる!エイダっ!」

名状しがたい侵入感、腹の奥まで犯された実感をエイダに与えながら、陰茎先端が子宮口を押し開けてかり首をこじ入れ、しぶくような勢いで子宮に精液がぶちまける。

「……くぁっ……かっ……はっ……」

エイダが白目を向く。腹と脳裏が白い爆発したような快感に襲われたのだ。
喘ぎ声どころか、息すら出来ずに、体を震わせ続ける。
射精はえんえんと続いた。次から次へと噴出する精液が、子宮の天井にぶっかけられ、快楽の爆発は一つ一つが認識できないまま連続して続き、やがてエイダは意識をホワイトアウトさせた。
やがて射精が止まり、陰茎は子宮口にはまりこんだまま少しだけ柔らかくなった。

幸せそうに気絶したエイダをベナンは丁寧に寝かし、陰茎を抜かないまま髪をなで、エイダに体重を掛けないように側に寝ころんだ。
がさりと物音がしたのは、そんな時である。
ベナンが見上げた先に、セルディアがベッド上に膝立ちでいた。全裸でサッキュバス達の体液で皮膚をてからせたまま、だが目だけが暗い光を宿していた。

「その女を抱いて、私を抱かなかったのは、私が抱くに値せぬ女だからなのか?」

開口一番に出た言葉はそれで、ベナンは驚いてエイダから離れて身を起こした。

「覚悟を決めた敗者を自ら蹂躙する気もないほど、私を蔑み、嫌っているのか?」
「何を言っているのです?あなたを陵辱して私に何の得があるというのですか?」

ベナンは当惑していた。迷いの原因をセルディア自身が否定してしまい、とても心外だった。

「あなた達は、私をそして男性を嫌悪しています。聖処女竜騎士団に属していることもあります。だから彼女らに任せたのです。
殺されかかったとしても、私があなたを犯すことは、やりすぎです。そんな復讐は誰も幸せにしません。
むしろ痛みを与えず殺す方がまだ慈悲があるのではないですか?」

ベナンは初めて真剣に向き合って、セルディアに説いた。卑屈さも対立を回避する逃げも忘れて、セルディアの暗い目を見据えて語った。
「それに殺されかかるのは、初めてではありません。復讐したこともです。だから私は知っています。
怒りに駆られて復讐しても、残るのは何もありません。それどころか間違った復讐ややりすぎた復讐は、新たな怨恨を産むだけです。
セルディア様達は、失礼ですがただの手先です。剣を捨てさせ、やる気を失わせれば、それでいいのです。犯すことも殺すことも余計なのです」

語るベナンの目に、再び疲労と空しさが漂い、それを見ていたセルディアの目から暗い色が落ちて、そして優しい色が浮かび始める。

「……セルディア様、私を死んだことにして、騎士団にお帰り下さい。首が欲しいというなら、そこらの死体から似たようなものを持たせます。
それで、全てを忘れて終わりにしましょう。私もあなた達を忘れます」

ベナンは口を閉じて、セルディアを見つめて、そしてまたもや驚く。
いつも厳しかったり表情を消していたり嘲笑を浮かべていたりしていたセルディアが、透明で憑き物が落ちたような笑みを浮かべていたのだ。

「私は、あなたに完全に負けた」

セルディアは、ベナンの顔が触れんばかりの距離に近寄って、真正面に座った。

「何もかも負けた。誇りも度量も技術も女としても」
「セルディア様?」
「騎士が謀殺の手伝いなどと、命を受けた私が馬鹿だった。女の体で誘って事を終わらせようとしたのはもっと愚かだった。
だが、ベナン殿」

セルディアの微笑みが、より優しくなった。だが妖艶な色も混じり出す。

「私はあなたに忘れられたくはない。忘れて終わりにされれば騎士として女として、立つ瀬がなくなる」
「セルディ……」

ベナンの唇にセルディアの唇が重ねられ、そのままベナンはゆっくりと押し倒された。
柔らかくしがみつくセルディアにベナンは呆然としたまま、されるがままになった。

「私には手も触れず、あの女にだけ心を寄せて、忘れて済ませようなどと……、それでは私が惨めすぎる。
ベナン殿は、人として魔術師として確かに優れておるが、女の扱いはご存じないな」

唇を離したセルディアが、ベナンに甘い恨み言を言うのをベナンは信じられない気分で聞いた。
思わず罠を疑い、ベナンは厳しい目でセルディアの体や辺りを見回す。それを見てセルディアは笑った。

「ふふふ、そんなに身構えなくてもいい。確かに今回も色仕掛けだが……」

言葉を止め、ベナンの手を股間に導く。そこは既に潤みきり、滴りさえしていた。

「挑発ではなく、……本気だ」

挑むような目つきで迫るセルディアにベナンは焦った。

「セ、セルディア様!お待ち下さい!今の私は、人ではありません。インキュバスなのです」

ベナンの言葉で、セルディアの顔がぴたりと止まり、ベナンは内心で安堵した。

「あの毒刃は、確かに効いて私の命を奪いかけたのです。
それをエイダが、――サッキュバスなのですが――、私をインキュバスに堕とす事で助けてくれたのです。
だから私と交われば、セルディア様もサッキュバスに堕ちます。ご好意は嬉しいのですが……」

実を言えば、相手をサッキュバスに堕とさないやり方にベナンはまだ自信が持てなかった。
成り立ての上に女性経験が少ないベナンは、対象への影響を「魅了」から、「堕とす」までを使いこなせる自信に乏しかった。
ラミィが楽しめという意味は、ベナンのインキュバスとしての力の使い方をマスターしろという意味もあった。
セルディアはベナンの言葉を聞いてしばらくの間、そのままでなにか考えていたが、やがて一つ短くため息をつく。

「今さら人の身のまま、騎士団に戻ってなんになる。……また、新たな汚れ仕事を押しつけられるだけであろうよ」
「セルディア様?」
「あなたが言ったではないか、我らはただの手先と」

ベナンは、セルディアの目に自嘲と悲しみの光が宿ったように思った。

「その通り、駒だ。我らは便利な捨て駒だ。……それでも騎士団と、誓って掲げた剣のために戦ったが……。
そのあげくが、魔術師一人を色仕掛けでたぶらかし、謀殺する任務だ」

一滴、セルディアの頬を涙が伝う。

「ベナン殿、どうか、敗者に慈悲を。……淫魔に堕ちてもよい。……いや、私にはそれがふさわしい」

また一筋涙が伝い、やがてそれは小さな流れとなって、ベナンに滴り落ちる。
わずかな沈黙の時間を挟んで、ベナンは指でセルディアの涙を拭くと、体を入れ替えて、セルディアを組み敷いた。

「セルディア・デュ・ミルドレッダ……、私はあなたを蔑んだことも醜いと思ったこともありません。
ただ、世には触れるのがためらわれる美しさというものがあります。
決して、蔑んでいるわけでも、嫌ってるわけでもなく、ただただ触れて損ないたくないがゆえに触れるのをためらうのです。
はっきり言えば私は臆病なのです。だから何も出来なかっただけです。……でももうためらいません。あなたを奪います」
「あ、あああああ、ベナァァァァァァン」

ベナンの目に、覚悟と喜びとそして優しい獣をみて、セルディアは泣いた。

「先に謝っておきます。私はインキュバスとして未熟ですから、与える快楽の手加減が出来ません」

その言葉と共にセルディアの局部に太く固く熱いものが滑り込んだ。

「あああああ、やっとぉぉ、やっとぉぉぉぉぉ」

男を知らないはずの膣を満たしていく肉に、セルディアは涙を流して歓喜した。
その肉がずるりとうごきながら、さらに奥に入ってくねり、媚薬によって無性に熱くうずいてたところをごそりと削りこそげ落とした。
途端にセルディアの頭の奥で、無音の炸裂が起きた。
女陰の中でベナンが動いてくねる度に、背筋を雷が昇降し、腰が跳ねて、意識せず体が反り返った。

「ひぃぃあああああ、うわぁぁぁぁぁ、くるぅぅぅぅぅぅ、ふかいのがぁぁぁぁぁ」

快感によって瞬時に宙に浮いたセルディアの意識に、分厚く巨大な暗黒がせまった。それはかつてないオルガスムズの塊だった。

「こわいのぉぉぉぉ、変になるぅぅぅぅ、なっちゃうぅぅ、こわれるこわれるこわれるぅぅぅぅ、ああああああああああああああ」

セルディアの意識の外で反射的に足の指が強く曲げられ、手が硬く握りしめられる。
足首も肘も脱臼しそうなほど伸ばされ、ベナンの腰に巻き付いた足が痛みを感じるほど締め付けた。
美しい黒い瞳の瞳孔がすっと縮まり、顔から表情が消える。愛液が小便のごとく吹き出て、ベナンの股間を濡らした。
反り返った体から唐突に力が抜け、ベッドに倒れ込む。
力なく横たわるセルディアの体からサッキュバスの証である黒い羽根や尻尾は出てこず、ベナンは安堵のため息をついた。
そして陰茎を抜こうとして、腰にしっかりと巻き付いたセルディアの足が離れていないのに気付いた。
そっと外そうと試みたが、足はがっちりとベナンの腰を締め付け、容易に外れない。

「ん、これは……」

困ったベナンの腕が引かれて、ベナンはベッドに倒れ込んだ。

「ベナン様は何をしておられるのだ?」
「え?」

ベッドに寝ころんだベナンの目の前で黒髪黒目の麗人が笑う。

「まだ、私の中に放っておられないではないか?サッキュバスにもなっていないが?」
「……セルディア様?」
「セルディアと呼んでいただきたい。……様を付けられると、距離を置かれているようで胸が痛む」
「……あの?」
「私の子宮は、ベナン様の征服に値せぬのか?サッキュバスにするに値せぬか?」
「……どうしたのですか?」

尋ねるベナンの胸を、セルディアは上目遣いでもじもじと指でついた。
ベナンはそれを何か妙にかわいく感じてしまい、倒錯感に囚われる。そんなベナンに構わずセルディアは言葉を続けた。

「ベナン様以外は……どうでもよくなってしまった」
「……はい?」
「なにか、立ちこめていた重い雲が去り、晴れ渡った空のような気分なのだ。私は本当にくだらないものに囚われていた。
ベナン様に、誠心誠意お仕えする、それだけで充分なのだと気付いたのだ。なのにベナン様は、まだ私に冷たい」
「え、ええ?」
「わ、私の胸を好きに嬲り、腹の中に思う存分出していただけないのは、私への罰なのだろうか?」
「罰?そ、そんなことは。……どうしたというのです?」

セルディアの唐突な変化に戸惑い、ベナンは魔術や呪術の痕跡を探った。だがなにもない。

「そうか、ベナン様はまだ私を信用されておられぬのだな。……だが、無理もない。我らのしたことを考えれば……」

セルディアは、体を起こすとベナンの上に乗り、上体を倒して、足をベナンの足に絡ませた。
そしてベナンの胸の上にそっと頭をのせ、幸せそうに目を閉じ、語り始めた。

「ベナン様、私はあなたを怖れ、しかし頼っていたのだ」

その語り口は、様づけ以外はいつものセルディアだった。ベナンは黙って腕でセルディアをそっと抱いた。

「初めて会ったときは、こんな任務、すぐに片がつくと思っていた」

『タワー』で紹介されたとき、彼女達は顔で笑いながら、目が笑っていなかったことをベナンは思い出していた。
別にどうってことはなかった。信頼とは、術をつむいで作るもので、外見で作るものではないと信じているからだ。

「迷宮の中層に入って、気がついた。剣の走りが格別冴えたわけでもないのに、魔物を容易に倒せることに」

魔術師とは、元来そうあるべきだ。ベナンは心の中でつぶやいた。
生き延びるための、魔術の使い方というものがある。魔術師が死ぬときは、魔術の過信が原因だと師は常々語っていた。
例えば派手な魔法は反撃を集めてしまう。協調を欠けば、魔術師は魔物に対して裸同然の状態になる。
魔法を無効化する方法は珍しいものではなく、魔法を跳ね返す術すらも存在する。
ゆえに術は、仲間の剣を鋭くし、守りを厚くし、動きを速くし、敵に全力を出させないことを優先する。
敵を倒すためではなく、ミスや不幸な偶然を乗り越えて、仲間を生き延びさせ、自分も生き延びるのが、目的なのだと。
例えどんなに膨大な魔力があろうとも、このことを意識して術をつむぐべし。
それが魔術師の心得と、師はこの言葉を事あるごとに繰り返し、ベナンは修行でこれを血肉とした。
だが師の方針は一定の支持を集めるも少数派ではある。なぜなら世間から評価されにくいからである。
世間は、派手な魔法で敵を一掃する魔術師を好む。わかってくれるのは、剣をふるう玄人のみ。
色々と苦労をしていると思われるこんな女騎士のような人たちだ。

「それに気付き戦っていくと、いままで戦ってきたどんな時よりも、安心することが出来た。
守られている感覚が、とても嬉しくて、そして……怖かった」

セルディアが言葉を切った。

「あなたを殺さなければいけなかったから」

ベナンは何も言わなかった。

「このような恐るべき術者を怒らせれば、我々は殺される。かといって殺さなければ、我々が……」
「まさか命をなさざれば死あるのみ、ですか?」

こっくりとセルディアはうなずいた。

「聖処女竜騎士団などどいっても、内部は我らに謀殺の命を下すほど腐っている。正義、団結、純潔の誓いが聞いて呆れる。
だがそれが現実で、命に違えば、難癖を付けられ、死地におくられるか、自害を強いられる。
それでも私だけが死ぬのならまだいい。だが、ディーナとフィリアは、死なせたくなかった」
「ディーナさんが言ってました。絆があると」

「うむ。だからベナン様、あなたを軽蔑して殺そうと思った。卑しい醜い男だと断じて殺そうと思った。
卑怯な殺し方をしなければならなかったから、あなたに憎まれ軽蔑され、我らもあなたを死んで当然の男として殺したかった。
……尊敬すべき、そして愛するにふさわしい男と認めれば、殺せなくなる。
あなたを認めれば、我らこそが真に卑しい女達であることに耐えられなくなる。だから、だから!」

ベナンは自らの胸にまた熱い滴が滴るのを感じた。そっとかわいそうな女騎士の頭をなでる。発すべき言葉はない。

「……でも、もうそんなことはいい。やっとこうして抱き合える。
あなたがサッキュバスのものになってしまった時には、絶望したけれども、でも……こうして抱いてくれて……ありがとう。
私はあなたのものだ。偉大なる魔導師殿。純潔と共に……体の全てを捧げる。
私の腹をあなたで満たしてくれ。私はあなた共に闇に堕ちたい」

その言葉と共にセルディアの胸がベナンの手に覆われて、セルディアは心が喜びに満ちるのを知った。
はまりこんだ陰茎が優しく強くセルディアの中で動き出す。
先ほどとはまったく違う優しく温かな快感が、腹と胸から足へ手へ広がり、脳髄に染み渡っていく。
声を上げるよりも唇を重ねたくなって、ベナンの首を抱きながら、舌を絡ませあう。
ベナンの上でセルディアの腰がはげしく踊った。
だが、足も手も胸も唇も、そして見つめ合った目も離れることはない。
セルディアは自らの中が奥の奥までベナンに肉で満たされていく事に、激しく喜びながら安堵した。
脳裏を快感に灼かれながら、手足も胸も腰も温かいものがあふれ、魂が満たされていく喜びをセルディアは初めて知りつつあった。
セルディアの子宮口をベナンの陰茎が貫いた時、彼女は頭も体も心も魂も全てが白く燃え上がる感覚に襲われた。
やがて、奥の奥まではまりこんだベナンがぶるりと震え、セルデイアの膣と子宮を揺らす。
来ると彼女が思った瞬間、ベナンの体液がしぶき、子宮の壁を叩いた。
熱く言葉に出来ない快楽と幸せが、セルディアの下腹で無数にはじけ、染み通っていく。
快感にむせび泣く声がでたことすら自覚できなかった。喜びの涙が滝のように滴ったことなど知ろうはずもなかった。
ましてや、背から黒い羽根が生えたことも、尻から黒い尾が伸びたことも、犬歯が牙のように尖ったこともわかろうはずもない。
ただ温かさは限りなく温かく、満たされるべきは、どこまでも満たされ、
……そうしてやっと、セルディア・デュ・ミルドレッダは、自分が居るべき場所に行き着いたことを知った。

「セルディア様に何をしたぁぁぁぁ!」
「セルディア様ぁ!」

抱き合って満足げに体をすり寄せるセルディアの髪を手で撫でていたベナンは、いきなりむしゃぶりつかれた。
セルディアにではない。
それは銀髪の女戦士ディーナとすけるような金髪の女僧侶フィリアにである。
腰も定まらずよろめきながら近寄って、倒れ込みつつ、それでも彼女達はなんとかセルディアを突き飛ばして、ベナンから引きはがした。
だが、後が続かない。サッキュバスに塗られた媚薬が効いていた。
目だけを敵意に光らせて、やっとのことで体を起こし、二人の女はベナンをにらみつける。全裸であることも忘れて。
少し驚いたベナンは、だがすぐに落ち着きを取り戻し、二人を落ち着いた目で見据えた。

「……彼女は……彼女には堕ちていただきました」

少しだけ言いよどんだ後、ベナンはかすかに口を歪ませて、言い切った。
女二人の目が怒りでつり上がり、そしていきなり快楽で融ける。
翼を仕舞って外見は人間に戻ったセルディアが背後から両腕で二人のそれぞれの胸を覆ったのだ。
セルディアがどのように手を動かしたかはわからない。だが、ディーナとフィリアは魔法にかかったように顔を紅潮させ体をくねらせてもだえた。

「心配するな。私はおまえ達を見捨てたりしない。ほら、こんなに愛おしいぞ」

セルディアはのけぞったディーナの胸の先端をついばみ、フィリアの股間に手を差し入れる。

「はぁぁぁぁぁ、セルディア様ぁぁぁぁぁぁ」
「セルディア様、ひゃああんん、セルディア様ぁぁぁぁぁぁ」

泣きながら二人の女は体をくねらせ続け、そんな彼女らにセルディアは手で愛撫を行いながら、両方にキスを降らせていく。
ベナンの目から緊張が消えて、苦笑いが浮かぶ。

「じゃあ、セルディア様?」
「セルディアだ。……どうしてそんなに水くさい呼び方をするのだ?」

ディーナやフィリアと戯れていたセルディアが、ベナンの呼びかけ一つに、本気で傷ついた目をして、にらみ返した。

「あ、えーと、せ、せ、……そのセルディア?」
「はい、ベナン様?」

頬を染めてなにかもじもじをセルディアは返事をした。しかも両脇の女達への愛撫はいっこうに止めずにである。
ベナンはわき上がるむずがゆさを必死に押さえ込んで、ぎこちない笑顔を浮かべた。

「ディーナさんとフィリアさんはお任せしてよいですね。私は……」
「だめだ!ベナン様、この娘達も私と同じに」

ベナンの額をたらーりと冷や汗が流れ落ちる。
精力に不安とかそういうものではなく、ディーナやフィリアのこれまでの態度を考えての話だった。
自らを心底嫌っていそうな女を犯すというのは、ベナンにとっては苦行である。
ベナンの征服欲は、魔術や未知の事柄などに向き、サディズムは女を喜びでとことんまで舞いあげる方に向いていた。
泣いて嫌がる女をどうにかする、そういう性癖をベナンは持ち合わせていなかった。
だからこそ、インキュバスになったのに、セルディアを犯す前に悩むようなインキュバスとしてはおかしな神経をしているのである。
黙り込んだベナンを見てセルディアが興味深げに笑い、二人から手を離した。

「あああ、セルディア様ぁぁぁ」
「いやですぅぅぅ、どうしてぇぇぇ」

突然の中断で苦しむ二人にセルディアは悲しげな顔を見せた。

「すまぬ。だがベナン様が、おまえ達はいらぬとおっしゃられる。私だけでよいと」

途端に、とんでもなく凶悪な視線がベナンを射抜いた。

「ラメインの砂漠も、リングラーの激戦も私はセルディア様にお供したというのに!」
「全てが凍り付いた冬のルーデンでも私達は体を寄せ合って生き延びました」
「「なのに、なぜ、私達がここで捨てられるのですか?」」

二人の声が重なって、ベナンの耳を貫く。その怒気にベナンは顔をしかめたが、セルディアは気にした風もなく受け流した。

「仕方あるまい。ベナン様はおまえ達を好いておられぬ」

セルディアの説明に銀と金の女のすごい目付きが、一転して優しくなった、表面だけ。
ベナンにとっては、余計に嫌な目だった。

「ベナン様はなにか考え違いをしておられる」
「ほんとうに」

そういうと女二人が笑顔を浮かべ、寄ってくる。ベナンはぜんぜん嬉しくなかった。

「お三方に絆があるのはわかりますが、堕とすことは別問題です。
セルディアは特別です。お気持ちを頂きましたから。答えなきゃいけないと思いましたから」

その言葉で二人はぴたりと止まり、泣きそうな顔でセルディアに振り返った。

「ベナン様は律儀だな。側女の一人や二人構わないと思うのだが?」

セルディアが少し困ったといわんばかりの顔をする。

「その一人や二人の側女の子供だった私は苦労しています。
王であればまだしも、一介の男が、気持ちがあるならともかく、軽い気持ちでそういうものを作るべきではないでしょう」

そう言いながらベナンはセルディアと交わす会話の奇妙さに倒錯した気分を感じていた。
これではどっちがインキュバスなのかわからない。

「ともかく……」
「この者達もベナン様に対する気持ちはあるぞ?」

頭を振って会話を打ち切ろうとしたベナンをセルディアは遮った。

「ディーナ、おまえはベナン様に挑発した後に限って、よく乱れていたな?」

二人の後ろからセルディアの手が尻を滑り降りて、女陰をおおった。
派手な水音が上がり、銀髪の女戦士の顔一面が紅潮する。

「ベナン様に無理矢理されるところを思っていたのか?」

顔をそむけた動作とは逆に、股間から銀の筋を引いて太腿を滴が垂れ落ちていく。

「抗うことも出来ずに組み敷かれて、叫びをあげて、そう、私もおまえと共に、犯されて……」

水音が重く淫らになり、ディーナはただ尻を振るわせながら、なすがままになっている。
セルディアがそれを満足そうに確認すると、呆然としているベナンをちらりと見て、フィリアに目を移す。

「フィリア、おまえも挑発を嫌がらなかった。むしろ襲われそうな役目を良く引き受けていた」

うつむくフィリアの顔はすでに紅潮している。

「ベナン様をよく口でけなしたが、しかしベナン様を避けないどころか、ベナン様の近くにいることが多かったな?」
「ああっ、そ、それは」

女僧侶は首をふってイヤイヤした。金髪が顔にまきつきさらさらと流れる。

「そして、ベナン様の着替えをいつも見ていた」
「え?」

フィリアの股間でも水音が湧き、ベナンは思わぬ事を指摘されて、まじまじとフィリアを見た。
直視されたフィリアは顔を手で覆ってしまったが、股間でうごめくセルディアの手ははねのけられなかった。

「私もだが、この者達は男に慣れていない。なのに今回のような仕事になって、いろいろとあなたに過剰反応をしてしまった。
……私の未熟故だ」

セルディアがベナンに頭を下げる。

「ディーナ、フィリア。私がついている。そしてベナン様ならなにも問題はない。魂が震えるような快楽を下さる」

そうして頭をあげた後、セルディアが二人の手を己の股間に導いて触れさせると、二人の目が驚きに丸くなった。ベタベタに濡れ、滴りさえしていたのだ。

「……三人で愛されて、三人で快楽に溶けよう。ベナン様の魔術に守られ、ベナン様の懐で三人固まって眠りにつこう。
ずっと、三人で……」

ぞくりとベナンの背になにかが走った。女達のどろどろに溶けきった目がベナンを捉えたからだ。
ベナンが事態の理解に努めようとしている間に、寄ってきた女達の手がベナンを捉え、またもベッドに押し倒される。

「ちょ、ちょっと!」
「我らは色々と非礼なことをした。ご奉仕で少しなりとお返しをしなければな」
「……先ほどからずっと気になっておりました。これがセルディア様の中で……」
「こんなに熱くて、こんなに太くて……すごく長い」

いつのまにか、ベナンの陰茎が再び立ち上がっていた。そしてディーナの言葉に自らがずっと全裸であったことにベナンは気付かされる。
ベナンを押し倒した三人が、ベナンの下半身に顔を集めた。
まず真ん中のセルディアがなんの迷いもなく、先端を口に含みなめ回す。嫌悪どころか陶酔の表情を浮かべていた。
そのセルディアの唇にキスをするかのようにディーナとフィリアが唇を寄せ、セルディアの唇ごと先端を含んだ。
ディープキスとフェラチオをごったまぜにしたような動きで三枚の舌が陰茎と女の唇をはいずり回った。
そんな二人の様子に満足したらしくセルディアが笑みを浮かべ、またもや両脇の女達の尻に手を伸ばす。
淫靡な水音が先ほどより深く激しく起こり、女達は腰を振りたくってもだえる。
そして女達も小さな声を漏らし、一心不乱に陰茎と唇と舌をまとめて舐めあげながら、それぞれセルディアの尻に手をのばした。
やがて三つの尻を激しく震わせながら、尻の間から起こる盛大に水音が鳴り響くようになった。

「くうっ……、どうしても……三人一緒に堕ちたい……というのですか?」

責めれて快感に煽られながら、ベナンは三人を見つめる。
答は、完全にただれて溶けきった目だった。
ベナンの迷いは消えた。








SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ