虜囚 三章
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シチュエーション


今はこうして、彼の自宅マンションについてきている。
今日の朝には、まったく考えられない展開だった。
黒澤は、全裸のままビールを煽っていた。
美香は、黒澤の猛々しかったものが、今はもう萎えかけているのを見た。
彼は美香の視線が自分の股間をかすめたのを見逃さなかった。

「……見てたのか?俺のちんぽ……」

卑猥な笑いを浮かべて、美香の側に寄る。
美香は首を振るけれど、黒澤の目は誤魔化せない。

「あんなになってたのに、どうして今はこうなったのか……悔しい。
……そう、顔に書いてあるぜ。……違うか?」

図星、だった。
どうしてこうまでも、美香の考えていることが向こうには筒抜けになって
しまうのか。
美香が軽く手玉に取られてしまうほど、黒澤の経験が深そうなのは
間違いない。
でもそのことを考えると、嫉妬が渦巻いてくるのがわかる。
だから、考えたくない……。
顔が近づいてきて、唇を奪われる。
すると、喉の奥になにか苦い液体が流し込まれた。

「んっ……!」

そのまま、飲み込んでしまう。
ビール……?
美香は、ビールの苦い味もあまり好きではなかった。
飲めないこともないけど、積極的には飲まない。
口移しで酒を飲まされるということも、美香には初体験だった。

黒澤は、黙って美香の様子を見て笑っている。
その顔を見ていると、なんだか馬鹿にされたような、子供扱いされている
ような気分になる。

「私、ビール苦手なんです。…ひどいわ」
「こうすれば、飲めたじゃないか?」

8つも年上の黒澤からすれば、まだ22の美香は幼い存在なのだろう。

「じきに、こうしてれば好きになるさ」

意味ありげな笑いが、なんとなく美香の胸にひっかかる。

いつもこうして、思わせぶりな態度とセリフで美香の心をかき回す。
そのたびに、美香は揺れる。
優しく扱われていたかと思えば、セックスの快楽の最中にはひどいと思える
ことまでされてしまう。
そして、また美香を懐柔するためか優しい素振りを見せる。
どれが黒澤の真の姿なのか、わからなくなる。
それとも、優しげな中にどこか冷たさが混在するのがほんとうなのか。

ビールを飲まされたせいか、美香は腹部に熱のようなものを感じた。
酒類全般に弱い美香は、すぐにも酔いがまわってくる。
気分の悪くなるような量ではないが、今日は既に黒澤と外で食事した時にも
ワインをグラス2杯近く飲んでいた。
いつもの美香なら、とうに限界の量なのに、アルコール分が低いのか
あまりひどく酔わずに済んでいた。

立ち上がると、少し身体がふらつくのを感じた。

「ベッドに、横になっていい……?」
「ああ、いいよ」

黒澤が、リビングで何かしているけれど、美香はそれにかまわずベッドに
身を投げ出した。
なんだか、身体の芯が疼いてくる。
今頃になって、疲れが出てきているのに……。

美香がうつぶせになっていると、リビングの灯りが消えた。
ベッド脇の、淡いオレンジの間接照明がともる。
黒澤が、美香の身体に寄り添うようにベッドに寝そべる。

「疲れたのか?」

背中をさする手が、心地よさとともに美香の性感を刺激する。
美香は自分から仰向けになって、目を閉じた。
キスをせがむつもりでもあった。

案の定、彼の方から唇を重ねてくる。
口をゆすいだのか、ミント系の香りがする。
肩に手を回して、唇を少し開いて舌の侵入を受け容れる。
でもすぐに、黒澤の唇は離れていってしまった。

「おまえが、俺の上になれよ。自分から、俺を責めてみろ」

ここに来てからの美香の積極性を見抜いたのか、そんなことを言ってくる。
でも…今夜は、そうしてもいい。
今まではそんなことも、恥ずかしがってできなかった。
あの事務所の中での淫らな行為が、美香の何かを壊したのかもしれない。

そんなことを考えながら、美香はおずおずと黒澤の身体の上に乗る。
美香の着ているシャツのボタンを、下から外されていく。

黒澤から借りたシャツを脱がされ、全裸をさらす。
まだシャワーとアルコールの所為で火照りが残る素肌が触れあう。
下から、じっと美香の瞳を見つめられる。
責めろと言われても…まずはキスからしようと思ったけど、この視線が
美香の羞恥心を呼び起こす。
 
「お願い…。目は、閉じてて……」
「ああ」

彼の瞳が閉じられると、美香はそっと唇を近づけた。
軽くキスをして、次にもっと深く、自分から黒澤の唇を求めていく。
なぜだか、今心臓が早鐘を打っていくのがわかる。
目を閉じている黒澤の顔を、上からまじまじと見つめる。
整った、それでいて男らしい容貌をしている……。
彼の耳元を、自分がされているのと同じように唇と舌で舐める。
そう…自分が感じることを、やり返せばいい。

逞しい、筋肉の束が盛り上がった胸元にも唇を寄せる。
小さな、男には何のためについているのかわからない部位…乳首にも
舌で愛撫を加えてみる。
すると意外な反応があった。

「ん……」

溜息をつきながら、顔を動かしている。
もしかして、と思いながら反対の乳首にも同様にしてみる。
今度は明確に、声が漏れた。

「う………」
「乳首が、感じるの……?」

小さく、耳元でそう囁いてみる。

「……ああ。弱いんだ。続けてくれ……」

それは意外な発見だった。
男の乳首なんて、意味なんかないじゃないか、とも思っていた。
そこが感じる男がいるという話は聞いていたけど、まさかこれほど
よさそうにしているなんて……。
しかも、この男に限って。

両方の手の指で、乳首の先をつまんではさむ。
いつも黒澤にされていることを、そのまま彼にしてやる。
声にならない呻きが、黒澤の唇から漏れ出てくる。
彼の下半身に目をやると、萎えかけていたものがすっかり屹立して
いるのがわかった。
そこから、腹筋がうっすらと浮いて見える引き締まった下腹部に
愛撫を移動させる。
手で、筋肉の弾力を楽しむようにさすりながら、顔を寄せる。
そして、逞しい姿を取り戻した男根にも手をのばす。

指先で亀頭をつついてやると、ビクン、と幹が跳ねた。
伸ばした爪の先で、つまむように先端をこすりあわせる。

「うっ……。あ……」

美香の愛撫がもたらす快感に耐えられなくなったのか、腰をわずかに
蠢かせている。
こんなに感じている黒澤を見るのは、今が初めてだった。
そこまで気持ちよくなっているのかと思うと、美香も嬉しかった。
先走りの半透明な粘液がこぼれてくるそこを、美香の舌が舐め取った。
いやな味ではなく、むしろ逆に好きな味と感触だと思う。
本格的なフェラチオに移る前に、それまで黙っていた黒澤が声をかけた。

「待てよ、美香。こっちに尻を向けろよ」
「……え?」

「シックスナイン、しようぜ。お互いに舐め合うんだ」
「……ええ」

これは、負けになるかもしれない……。
美香はちらりとそんなことを思う。
腰を、黒澤の顔に跨らせるようにしてそれに応じる。

先を口にくわえ、激しく吸いはじめる。
それとほぼ同時に、熱いぬめりが美香の股間で蠢く。

「あ……」

つい、口を離して喘いでしまう。
ぬるぬると滑る男の舌が、これまで責めてばかりでいた美香の、征服される
喜びを掘り起こしていく。

「はあっ……」

それでも、美香は快感に溺れていきそうな中で男の肉の棒に奉仕をしていく。

「噛むんじゃないぜ」

からかうような黒澤の声が、既に美香の口唇愛撫の呪縛から逃れたことを
意味している。

「ん、んっ……」

美香は懸命に意識をフェラチオに集中させようとしても、どうしても下半身から
甘く溶け崩れていってしまいそうな感覚に襲われる。
腰に、力が入らない……。
黒澤の舌と唇が、美香のあらゆる襞という襞をかきわけ、クリトリスをそっと
嬲り、膣の口に入り込む。
そのたびに美香は腰を震わせて、あられもなくよがり声をあげた。

「ああんっ……!あ、あん……。ああ、ああっ………」

あそこからじんわりと溢れていく蜜を、男の口が派手に啜りあげていく。
あまりに卑猥な音をたてられて、美香は聞きたくないとばかりに首を振る。

「美香…下りろよ。俺が、上になってやるよ……」

クンニリングスのせいで、フェラチオがほとんどできなくなった美香は
黒澤の言うとおりに彼の身体から下りた。
優しく唇にキスをされると、次に胸を揉まれながら、乳首を舐められる。

「あっ……。あ、ああ……。」

さっきから、触れられたくてたまらなくなっていたそこは、黒澤の手と唇に
かかるともうひとたまりもなかった。

柔らかく、優しく…文字通りの愛撫に、美香は声を放って悶えまくった。
これで、今まで何度焦らされてきたか……。
事務所での電話の最中にイかされたこと、そして電車内で痴漢の真似事。
浴室でも、こうしていながらセックスには至っていなかった。
美香の肉体が全身で男の攻撃に応え、秘所が知らず知らずに蠢いて
勝手に愛の蜜をこぼしてしまう。

これ以上、焦らさないで……!
美香はそう叫びたかった。
お願い、もう入れて…!突いて、あなたの太いので、固いので。
そんなことを考えていると、美香の秘所に再び黒澤の顔が近づいた。
足を開かされる。
無防備になったそこに、男の熱い舌のぬめりが伝わる。
クリトリスの近くを上下に微動を加えられて、美香はついに達してしまった。

「あ!ああっ!!あ、あんっ!!ああ、いくぅっ……!」

美香は顔を思いきりのけぞらし、足のつま先までも突っ張らせて、快感を
身体中で受け止めた……。
意図的に膣を締めつけ、ひくつかせて深い快感を貪る。
首を横に向けて余韻にひたろうとしても、黒澤は美香に休息を許さない。

さきほどと変わらない調子で、達したばかりの美香を責め苛む。
ねっとりとした男の舌先が、唾液を塗り広げながら確実に美香の弱点を
突いていく。
そうすると、すぐまた二度目の大波にさらわれていってしまう……。

「ああっ!ああ、あああっ!…いや、いや……ああ、ああ〜っ!!」

美香はうわごとのように叫び声をあげた。

美香のまだ息が静まらない唇に、黒澤のものが押し当てられた。

「いや……」

さすがに、それをしゃぶる気にはまだなれない。
それでも避けようとするところにこすりつけられ、ついに美香は屈した。
亀頭の周囲とカリ首のくぼみに舌を激しく使った。
また、精液の上澄みがこぼれてくる。
入れて…と、美香は口の中で小さく呟いた。

「今、なんて言った?」

黒澤は明瞭な声で美香に尋ねた。

……聞かれた……?!

美香はぎくりと身体を震わせた。
まさか、あんな小さな声で言ったのに。聞こえるわけがないと思ったのに…

「お願いしたいなら、はっきり言わないとだめだろう。
言わないでいると、ほら…いつまでも、このままでいるぞ。いいのか?」

美香のイったばかりの秘所を、また指が執拗に這い回る。

「あっ!もう、だめ……!もう、いけないの。いやっ……!」

さすがに、三度目にそこで達するにはまだまだ時間がかかる。
自分でする時にも、気持ちいいにはいいけど、それから先へは進めない。
時間をおかなければ、二回以上はイクことができない。

「いやじゃなくて、言うことがあるだろう?」

黒澤は笑みを浮かべながら、美香の足を開かせた。

「どうやってほしいんだ?…後ろからか、それともこっちからか?」
「………うしろから……お願い、バックから……して……」

体位をこちらから望むなんて、それだけでも恥ずかしかった。

「後ろから、どこに、どうしてほしいんだ?」

「……うしろから、あなたの…ちんぽ、わたしの…あそこに、入れて
ください……!ああ、もうだめ……」

最後は羞恥心と激しい欲情のために、思わず出た言葉だった。

「ほしいのか?そんなに、入れてほしいのか?」
「ください…。入れて、ください……。」

まともに、黒澤の顔を見ることができない。
目を半分閉じかけて言うのが精一杯だった。

黒澤はベッドの引き出しからコンドームを取り出すと、美香の前に
男根を見せつけるような形で、ゆっくりと装着させた。
美香はそれを薄目で見ながら、腰をひねってうつぶせになりやすくした。
男の手が、軽々と彼女の腰をひっくり返した。

「好きなように、ポーズをとってみろ」

肘から先をベッドについて、尻を男に向かって持ち上げる。
大きな手が、美香の白く丸い尻のふくらみを引き寄せる。
亀頭が、美香の秘裂をそっとつつきにくる。

「はあっ……」

熱い吐息が、美香の口から自然にこぼれる。
浅く先だけが入り込むと思うと、すぐに抜かれた。
次にはもう少し深く、棹の部分までが押し入れられるが、じきに出ていく。
そして次にはもっと深く入るけれど、少し動いただけで抜かれてしまう。

それが焦らしを加えられていることに気づき、美香は失望と哀願の
声をあげた。

「いやっ……抜かないで!お願い、もっと……」

髪を振り乱して喘ぐ美香に、黒澤は嘲笑を浴びせた。

「そんなにいいのか?もっと、なんだ?」
「……抜かないで、中で…動いて!突いて……!お願いだから……」

半分泣きかけているような声で、美香は訴えた。

「いいぞ……。ほら。もっと泣け。もっと、もっといい声を出させてやる……」

ようやく、焦らされきったあげくに、それは深く美香の内部に突き刺さった。

「あああっ……!ああ!ああっ!…あっ…あっ…!」

黒澤のものがGスポットに突き当たり、美香は感泣の声をあげてよがり狂う。

「ああっ、いい……!ああ、そこ、いいのぉ……。もっと、お願い……」

もう、恥も外聞もなく、美香は男に与えられる快楽だけを追い始めた。
ゆっくりとした動きがあると思えば、素早く何度も突き引きをされる。
ときどき奥の子宮口近くの感じる部分までを突かれる。

男の腰が、自分の尻に当たる。
黒澤も、背後で息を弾ませている。
もう、彼も時間をかけて美香を弄んだあげくの挿入に、長くは保たないかも
しれないと思った。
乳房がベッドのシーツに擦れて、それが刺激になっていく。
突然美香のクリトリスが、黒澤の指でいじられる。

「あっ……あ!ああ!ああ、だめ、いき……そう……」

その一撃だけで、美香の内部は急速に絶頂へ向けて収縮を始めた。

「よし…いけ。ほら……いかせてやる。ほら、声出せ。
もっとよがれ。いいならいいって言え。ほら、いいか……いいのか!」

畳みかけるように、黒澤の欲情に掠れた声が後押しする。

突然、黒澤の言葉が変わった。

「俺のことが好きか?」
「……好き!好きよ……ああ……。好き……」

美香は息も絶え絶えにそう言った。
心底から、そうだと思った。
だから素直に言葉にもした。
そう、自分はこの男に惹かれている。
好きになりかけている。
はっきりとは言えなくても、今ここでそれを認めてしまわなければ……。

「……好き……!あっ!ああ!いく……いっちゃう!」

美香はそう叫んで、全身を激しく震わせていった。
瞬間、美香は心の中で“貴征さん……”と強く念じてしまった。

黒澤が低く呻いて、美香の内部に熱いものを放出する。
それを感じたあと、彼女の意識は薄れかけていった……。



どれくらいの時間が経ったのか、美香にはわからなかった。
ふと横を見ると、黒澤の姿はなかった。
寝室の灯りは変わらずに点いたままだった。
やがてシャワーの音がしていて、黒澤が浴びているのがわかった。
なんとなく、気恥ずかしい。
あんなにも乱れて悶え、叫び、あげくには黒澤に誘導されたとはいえ
好きだとまで言ってしまった。
そして美香はよがり狂い、自分からバックをねだった。
そういえば、まるで好き同士の恋人のようなセックスだった……。

おそるおそる浴室へ向かうと、ちょうど彼が出てくるところだった。

「ああ、目が覚めたのか。汗かいたから、シャワー浴びろよ」
「ええ…」

美香はそう言うと、黒澤と目を合わせられなくて、逃げ込むように
浴室内に入っていく。
彼が行為を終えてからシャワーを浴びたとして、どれくらいの間
眠り込んでしまったのか。

好きだと言ってしまった。
詰問されたからだけではなく、彼に強く惹きつけられているのは
確固たる事実だった。
さっきの、ここでの戯れを思い出す。
フェラチオの体験を告白させられていたときのことを。

「好きだったから」だから苦くても精液を飲んであげていた。
そう言ったあとに、美香の乳房を責め立てていた黒澤は突然愛撫をやめた。
…もしかすると。

嫉妬……したんだろうか。

誰に?
その男に対して?
それとも、美香に対して?

そんなことを考えながら、ぼうっとしてシャワーを浴びている。
だからこそ、イク寸前のあのときに好きか、と訊いてきたのか。
好きだとは言ったけれど、まだ何も知らない。
探偵としての彼の仕事ぶりのほんの一部しか知らないし、ここに
今日連れて来られたのも成りゆきにすぎない。

ただ、美香に触ってきたあの中年男に対して怒りを露わにした黒澤に
ときめきに似たものを感じていた。
それは彼とのセックスに対して積極的になってしまうほど、美香を
高ぶらせていた。

どうかしている…私。
いいえ、もう…とうの昔に、どうかしてしまったのかもしれない。
あの日、黒澤と出会い、彼に囚われた日から。

美香はそうひとりごちると、脱衣所に用意されていたタオルで身体を
拭った。
寝室の方を見ると、黒澤がベッドに寝そべっているのが見えた。
タオルで胸から下の身体を巻いて隠し、テーブルに置いてある
ポカリの残りを飲む。
やがて黒澤の静かな寝息が、美香の耳に届く。
まさか…ほんとうに、寝入ってしまったの?
この前みたいに、寝たふりをしているのかもしれない。
ベッドの近くにそろそろと足を忍ばせて近寄り、彼の顔を見つめる。
目を閉じて、下半身を布団で覆っている。
両腕を頭の下で組んで、上半身を少し浮かせている。

エアコンが効いているとはいえ、裸の胸をさらしている彼が寒さを
感じるのでは、と思った。
寝息はあくまでも静かに、そして規則正しく続いている。
眠り込んでしまったのは確かなようだった。
きっとこのあとも、続けざまに抱かれるとばかり思っていたのに。
美香はベッドの脇に腰を落として彼を見ている。
他の部屋を見て廻りたい気持ちもあるけれど、それではこそ泥みたいで
どうにも気が引ける。

妙に静かな時間が、二人を包んでいる。
ふと、美香は黒澤に対してある衝動にかられた。

眠っている彼の顔にそっと、息を殺しながら近づく。
引き締まった唇に、美香の薄くルージュを引いた唇が触れる。
ほんの少しだけ触れて、それでも彼は目覚めそうな気配を感じない。
胸が急にドキドキと早く鼓動を始め、もう一度美香は唇を重ねにいった。

キスをしながら、耐えきれない吐息が唇から漏れてしまう。
唇の表面だけを触れさせる、まるで少年と少女のようなキス。
それなのに、彼が眠っている隙に、知られないようにするというだけで
美香はたまらない興奮を味わっていた。
これだけのことなのに、もう濡れはじめているのがわかる。
腰がじんとして、クリトリスの周囲がしびれるような快感が走る。
彼に抱きついてしまいたいとも思った。

数秒間続いたのちに、唇を離そうとしたその時。
彼の舌が、美香の口内に入ってきた。
同時に、腕が美香の上体を押さえつけて引き寄せられる。

「ん………!」

たちまち美香の身体はねじ伏せられ、あっという間に黒澤に組み敷かれる。

「おまえのほうから、キスを仕掛けてくるなんてな。思ってもいなかったよ」
「……眠ってたんじゃ、なかったの?」

驚きに目を見開きながら、美香は黒澤に尋ねた。

「眠ってたさ。おまえがキスしてくるまではな。
二度目は、ずいぶん長くしてくれたんだな。……俺が眠り続けてたら、
あとはどうするつもりだったんだ?寝たふりで確かめてみりゃよかったな」

笑みを浮かべながら、彼は美香にそう言った。

どこまでも、この男にはかなわない……
美香は戦慄と快楽の余韻に同時に襲われる。

黒澤は美香を見下ろしてにっと笑ったあと、激しいディープキスを迫ってきた。
舌先を立てて美香の軟口蓋に擦りつけるようにして這い回らせる。
そのまま左右に幾度もゆっくり、時には素早く移動させる。
唇の合わさるあたり、互いの舌が絡み合う淫らな音が響く。
美香が溜息をついても、逃れようとして顔を反らそうとしても、執拗に黒澤の
唇に追われ、吸いつかれてしまう。

やがて美香の身体から力が抜けていき、黒澤のなすがままになる。
虚脱したように横たわる美香の様子を見て、ようやく唇が離される。

そのまま黒澤は、ベッドサイドに落ちているものを拾う動作をした。
そこに、なにが落ちていたっけ…?
確か、服とか…下着とか……
美香は虚ろな目で黒澤を見ていた。
そして彼の持っているもので、何をされるのかを瞬時に察した。

「いやっ!」

飛び起きようとした身体は押さえつけられ、腕を片方ずつ掴まれて
バンザイの格好にさせられる。
そこから彼の手が美香の細い手首をまとめて掴み、頭上で固定される。
身体の上に跨られ、男の体重をかけられるとどうにもならない。

「やめて、お願い…乱暴にしないで!」

美香は怯えた瞳で黒澤に哀願した。
さきほどまでの静寂に満たされていた部屋の空気が、なにか灰色に
染まっていくような気さえする。
黒澤の手には、美香の履いていたストッキングが握られている。

「心配するなよ。この前みたいに、跡はつかないからな。
……もっとも、おまえが暴れなけりゃの話だ」

黒澤はにんまりと笑いながら、美香の両腕を押さえつけてストッキングで
拘束する。
手早く、慣れた様子で縛る彼を、美香は呆然としながら見つめていた。
手首を結ばれたそのあとで、もう片方のストッキングで、今度は
肘関節の下あたりを縛られてしまう。
こうなると、両方の腕をバンザイさせたまま頭上から動かせなくなる。

美香は自分の身に起きていることを信じがたい思いだった。
さきほどまでの甘いセックスとは対極の、彼本来が持っているだろう
サディズムに無抵抗にその身をさらしている。

「いやっ……!こんなの……」

美香はそう言いながら、身をよじろうとしたが黒澤の身体で押さえつけ
られていて、上半身しか動かせない。

「縛られてするのは、いやか?」

黒澤の顔が、美香の顔の30pほど近くにまで寄せられる。

「いやよ……いや!自由にさせて!」

美香がそう言っても聞きはしないだろう。
それでも、抵抗が男を燃え立たせるとわかっていても、言わずにはいられない。

「この前、ネクタイで縛られた時もあっただろう?
まんざらでもなさそうだったぜ。あの時、一生懸命しゃぶってくれたよな。
……今度も、そうしてもらおうか?」

美香を言葉でもいたぶりながら、冷笑を浮かべて卑猥な行為を口にする。

「おまえだって、さっき眠ってて身動きもできない俺に…何をした?
それと同じさ。抵抗できない状態でやられることを、好きにさせてやるよ」

眠っていた彼の唇を奪った…そのことを言われると、美香は反論出来なかった。

重ねて黒澤は美香に言いつのる。

「ほんとうにいやなら、バイブ突っ込まれた時みたいに、なぜ泣かない?
おまえも楽しみたいんだろう。そういう気持ちがあるんだろう。
……俺が、おまえのマゾを引きだしてやる。縛られるのが好きな女に
変えてやるからな」

美香は黒澤の言葉を聞かされながら、身震いしていた。
それでいて頭の芯と身体の奥底が熱く、熱くなっていくのを感じた。
腕が動かせない。
それだけで熱泥のような粘液が、下肢から分泌されていくのがわかる。
美香の身体を覆っていた水色のバスタオルが、男の手で引き剥がされる。
黒澤の下で、美香の白い裸体がさらけ出された。
恥じらって隠そうとしても、手が動かせなくてはそれもできない。

美香を見下ろしながら、黒澤が両手を彼女のウエストのあたりに這わせた。
ビクッ、と美香の身体が反射的に動く。

「おまえは、ほんとにきれいな身体の線をしてるな。
胸の大きさも、ウエストの締まりも…尻の膨らみ具合も、均整がとれてる」

そう言いながら手でそっと撫で回されていき、美香は声を出すまいとして
唇を噛みしめた。
身体を拘束して、言葉で嬲っておきながら今はこうして誉めてくる。
これが、噂には聞いていたけど…ソフトSMとでもいうのだろうか?

やがて彼の手が、美香の乳房をそっと撫ではじめた。
外側から内側に向けて揉みしだくようにして、ときおり力を入れられるけど
すぐにまた緩められる。

「もう、こんなに乳首が立ってるぜ。…感じてるんだろう?もっと感じさせて
やるよ……」

乳首が彼の指、人差し指と中指で挟まれる。そのままこすりあわされる。

「……んっ………ん………」

感じまいと身を固くしていても、うっかり押し殺した声が出てしまう。

「ほら。見ろよ、自分がされてることを。……乳首がこんなにいじくられて
固くなってきてるぜ。声出せよ。その方が、俺も感じるんだよ」

黒澤は上に反らしていた美香の顔を、ぐっと顎を掴んで下に向けさせる。

「見てろよ。今、たっぷり舐めてやるからな……」

下から美香の瞳を見据えながら、舌先を突き出して、わざと派手に音を
立てて乳首を吸い立てる。
幾度か吸い続けたあとに、爪の先で乳頭の部分をこすられた。

「あっ……。あっ!ああんっ!」

途端に、美香は顔をのけぞらせて大きく喘いだ。

「いいぞ……。もっと声出せ。もっと悶えろ。感じさせてやる」

右側の乳房を愛撫されたあと、左側も同じようにされる。

もう、声を放たずにはいられなかった。
乳首をじっくりと舐めているところを見ているように命じられる。
男の舌先が、美香の敏感な小さな蕾を弄び、吸い、つつく。
そんなところを見させられているだけで、秘唇が疼いていってしまう。
乳首への快楽は、秘所へと直結している。
美香は自分自身で膣を締め付けて、より深くクリトリスとその周辺の
快感を味わおうとしてしまう。
ここで、クリトリスへの刺激を与えられたら、すぐにでもいってしまいそうに
なるほどの快さだった。

腕を拘束されて、乳房を舐め回されただけなのに、こんなにも感じる……
思うように抵抗もできないというもどかしさが、快感を増している。

そのことに、美香はうすうす気づきはじめていた。
いや……!
ほんとうに、黒澤の言っていた通りにされてしまう。

縛られて、犯されるということが無上の快楽というような女にされてしまう。
自分自身の心の奥底、深く暗い闇の部分を彼は丹念に掘り起こす。
愛し愛されるだけの普通のセックスよりも、身体を、そして心の自由を
奪われて嬲られ、そして燃える……
その事実を決定的に美香の眼前に突きつけられる。

乳房だけへの愛撫で悶え狂う美香の痴態を見ながら、黒澤は満足げな
笑みを浮かべている。

「だいぶ、感じてるみたいだな……ここは、どんな具合だ?」

美香の足を広げさせると、彼はくっと低く笑った。

「汁が、太ももまで溢れてきてるぜ……。どれ」

美香の尻の下に手を滑り込ませると、腰を浮かせる形にさせた。

「凄え……。後ろの穴まで、垂れてるぞ……」

言いながら、美香の股間を覗き込む。

「いやぁ……。見ないで!」

美香は顔を桜色に染めながら、足を閉じようとした。

「閉じるな」

黒澤の声に鋭さがこもった。
足がビクッと震え、美香はうっすらと涙を浮かべてそのまま広げていた。

「よし……広げてたら、気持ちよくさせてやるからな。そのままでいろ」

美香の股間を指で押し広げ、息をそこに吹き込む。

「あ………」

思わず、甘い声が出てしまう。

「見ろよ……ほら。見ろ。おまえのおまんこ、ようく舐めてやるから。
俺が舐めてやるところ、よく見てろ。顔を反らしたら、やめるからな」

そう言いながら、黒澤は美香のはざまに唇をつけた。

「ああっ……」

感じているのに、顔を反らすなとは酷な命令だった。
美香がたっぷりと分泌させた愛液を啜りながら、黒澤は舌を使いはじめた。
舌の先で、クリトリスを根元から下へ舐めていく。

「ああっ……!あっ!あっ!」

美香は断続的に襲う快楽の大波に、叫び声をあげ続けた。

いってしまいそう……。
もうだめ、これ以上…耐えられない!

「あああっ!ああっ、ああんっ!あ、いくっ!いくぅっ……!」

鋭い快感が、クリトリスから腹部を貫いて胸へ、そして頭を突き抜けていく。
顔を反らしても、彼は愛撫をやめなかった。
イった直後の、まだひくついているそこを執拗に舌でねぶっている。
その様子を、潤んだ瞳で美香は見下ろしていた。
まさか……また、このまま……

「もう、イったのか?」

黒澤はにやりと笑いながら、美香の顔を見つめてくる。

「また、イかせてやるよ。……ふふ、これで今日何度目だ?」

舌の蠢きは、また一段と激しさを増した。
クリトリスのわきをつつき、舌全体を使って大きく舐めながら、浅く膣口へ
入れられる。
それを繰り返されると、もう美香の二度目の絶頂は間近に迫っていった。

「ああっ、ああっ……!いや、ああ!ああ、いっちゃう!」

叫びながら、美香は縛られている腕を頭上に突っ張らせながら、激しく
昇りつめていった。

「ああ………」

声を震わせながら、身体をくの字に曲げて横たわる美香を、黒澤は
ほくそ笑みながら見つめている。







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