橙カプ
-1-
シチュエーション


「みっちゃん」
「…うん」

ぎゅう、と、強い力で抱き締められる。

さっちゃんは、私よりちょっとだけ背が低い。けど、やっぱりなんて言うのか
な、手も足も大きいし、包容力?があるというか。これはまあ、性格みたいなも
んかね。

まあ、身近にいるのが幼馴染の高山『セックスのバケモノ』誠人と双子の弟の
屋代『エロの権化』深幸、加えて父親の屋代『結婚20年今だ妻萌え』功太くら
いだから、ある意味さっちゃんの穏やかな性格は新鮮なものなんだけど。


…さっちゃんと出会ったのは、高校入ってすぐの事。道行くサラリーマンに押
されて、バスに轢かれて入院、留年したという人で、クラスでもちょっと浮いて
いた。元々友達もいなかったみたいだし。

5月頃、屋上で用務員のおばちゃんといちゃこいていた誠人が、自殺しようと
していたさっちゃんを発見・捕獲して、私の所に連れて来たのだ。

後で聞いたら、視力8.0くらいあるさっちゃんが、大分離れた一軒家に空き巣
が入っているのを見ていたそうだが(通報したら間に合った)。

それが元で、仲良くなって、半年くらい前に深幸が金持ちの令息に間違われて
誘拐された事件をきっかけに好きになって、告白して、今に至る。

けど、疑問がひとつ。

会話の45%がエロ話の誠人・深幸と一緒にいても全然普通な顔してて、エロ
関係には全く興味無さそうな…まあ、それはそれで健全な男子学生としては問題
アリなんだけど…そんな感じだったのに。

「あ、あの、みっちゃん、こっち向いて」

そう言って、私の両頬に手を添える。ああ、下向いてちゃったか。私は顔を上
げ、眼を閉じる。すると、すぐにキスされた。触れるだけ。でも、なんだかドキ
ドキしてくる、キス。

でも、どうして?

なんでなの?もしかして、私の事、嫌いなの?

―――なんで、体育倉庫なの?

「…見付かっちゃわない?」

マットの山に隠れるように敷いたマットの上で、私のシャツがはだけられて行
く。そりゃ、明日からテストで、部活も無い。最終の見回りも終わったからもう
誰も来ない。加えて体育倉庫の置くの扉の向こうのもう1つの体育倉庫だから、
ある程度声が出ても大丈夫と。

ついさっき、そんな説明されたんだけど、正直、怖い。

だって、どうしてそんな情報持って…あ、そっか、会話の47%がエロのあい
つらの話を聞いていたから…かな。

「大丈夫…だと思う。一応、鍵掛けたし」

にこ、と、その笑みはいつも通り。悪意の無い笑顔。滅多に笑わなかったのに、
最近は結構笑ってくれるようになった。嬉しい。けど。

「……」

手際よく、ブラのホックを外す。薄明かりの中で、好きな人の前でおっぱい晒
すって、恥ずかしい。恥ずかしいのに、嫌、と言えない。

「綺麗だよ、みっちゃん」

うわ。そんな簡単な言葉なのに、身体中が熱くなってしまう。

「…ありがと」
どうも、慣れない。さっちゃんとエッチするの、もう6回目くらいなんだけど、
やっぱり恥ずかしい。自分の中で、エロとさっちゃんがどうも、上手く繋がらな
いからかな…

さっちゃんを好きになった理由に、どこか中世的、というものがあったと思う。
そりゃ、いつもいつも、会話の48%がエロの弟と幼馴染といたら、さっきも思
ったけど、やっぱ新鮮だし。

…会った当初は、人形みたいにあんまり反応とかしなくて、誠人・深幸のハイ
テンション組、私・さっちゃんのローテンション組みたいになって、それでも、
少しずつ笑って、慌てたり、怒ったり…泣いたりしてくれて。

男の人として見てなかった訳じゃなくて…いやいや、男の人だ、と思ったから、
きっと好きになったんだと思う。

なんだかよくわからなくなって来たけど、早い話が、さっちゃんと付き合うっ
て決まった時、こういう…肉体関係になるのは、大分先だと思っていた。自分の
願望もあったし、身体で繋がるよりも、心で繋がってる時間の方が欲しかった。

けど、さっちゃんはある日から急に、変わっちゃった。

いつもは一緒だし、基本的に変わらない。でも、キスしたり、私の身体を触る
ようになって来た。

嫌じゃないし、いつかはこうなるとは思っていたけど…正直、早過ぎた。

口にはしなかったけど、行動は完全に『私』を求めていた。

気付かない振りをしてやり過ごす度に、次からの行動がエスカレートして来た。

…怖くなって、言おうかどうか迷った。だって、さっちゃんだから。もしかし
て、ただ甘えたいだけかと―――人に甘える事が苦手だって、そう言ってたさっ
ちゃんが、私に心を開いてくれたって思った。思い込もうとした。

そんなアフリカの黄色いお菓子くらい甘い考えは、すぐ打ち砕かれた。

ある日、さっちゃんの家でゲームしてたら、どストレートに『抱きたい』って
言われた。あまりの事態にパニックに陥り、これまたどストレートに『お風呂貸
して下さい』と、いつものようにローテンションで言ってしまった。

恐ろしい事に、お風呂の用意はしてあった。コンドームとか、そういう用意も
万端だった。おまけに、家の人がいなかったから、ついでに土曜日だったから、
そのままお泊りする羽目になってしまった。あまりにもあっけなく、あっさりと
初体験をしてしまった。

…それから、頻繁に身体を求められている。

しかも、ありえない場所が多い。今みたいな体育倉庫、物置、旧校舎、野外…
さっちゃんが何を考えているかわからなくて、何も言えずに従ってばかりいる。

自分が思っていた以上にさっちゃんは上手で、行動は強引なのに、喋る言葉や
表情は、いつもみたいに自信無さ気で、可愛い。でもって、好きだって、言って
くれる。私も、気持ちには応えている。流されてる、とも言えなくも無い。

言葉通り好き、でいてくれる…とは、思っている。断った所で、きっと笑って
引き下がってくれる…事を願っている。

…嫌われるのが怖い訳じゃない。

断って、それで別れるとかだったら、そんな奴こっちから願い下げだ。筋肉バ
スターのひとつでも掛けて、さっさと忘れてやる。でも、きっと、さっちゃんは
そういうタイプじゃないと思う。

むしろ、本当はこういう…人に触れるの、苦手な人だったと思っていた。実際、
そんな事言ってたし。

だから、戸惑っている。この、急激な変化に。世捨て人風味だったのが、いき
なり『セックスのバケモノ』『エロの権化』と並ぶ『Mr.マニアックエロス』に
なってしまった事に。

私自身、なんて言うんだろう…興味なかったけど、さっちゃんとのエッチで、
感じるようになって来てる。けど、全て、って訳じゃないけど、さっちゃんに求
めていたものは、少なくともこんな事じゃなかったと思う。

…結局、どうしたいのか、わからない。さっちゃんも、自分自身も。

「みっちゃん、良くない?」

心配そうな顔で、私の顔を覗き込む。そうだ、今は真っ最中だ。少し強く揉ま
れた胸が、いやらしく潰れている。

エッチをしようとしているのに、表情はいつもみたいで、頭がこんがらがって
来る。

「あ、え、ううん、良くなくない、よ」

自分を取り繕う為に、少しつっかえながらも、やはり普通に応えてしまう。よ
かった、と言いた気なほっとした表情になり、おでこにキスしてくれる。

―――本当はこの位で、たまに手を握ったりで、遊んだり、美味しいもの食べ
たりするだけで良かったのに。

熱い手が、身体中を這い回る。極力、声を出さないようにしてしまう。場所が
場所だしが、こうやって考え事をしている間にも、身体は反応して、男の人を迎
え入れる準備が出来てしまう。でも、本当は、怖いよ。

―――さっちゃんは、何を考えているの?

「じゃあね、ばいばい」

根っからの意地っ張り、というか、弱みを見せるのがとても苦手な為に、結局
今まで思っていた事を、1度も話した事が無い。きっと、受け入れて、喜んでく
れていると思っているんじゃないか、と思っている。

さっちゃんはいつも通り、何を考えているかわからない顔で、手を振ってくれ
た。学校から、私の家とさっちゃんの家は逆方向。ここでお別れ。

「また明日。テスト頑張ろうね」

私も、人から見たら何を考えているのかわからないであろう表情で、そう言っ
た。聞けないでいる言葉を、胸にしまったまま。

「……」

明日からテスト。でも、全然頭に入りそうに無い。元々頭、良くないし、数学
苦手だし、地理は絶望的だし…さっちゃんはエッチだし…

ぶんぶん、と、頭を振る。歌舞伎よろしく。でないと、他の教科までえらい事
になってしまう。

「…どうしよう」

ぽそ、と呟いた。

まだ、身体も熱い。さっちゃんの匂いや、顔に掛かった、ちょっと鬱陶しい髪
の毛の感触とか、大きい手とか、全部覚えてる。

…怖い。

気持ちいいのに負けて流されるのも、何も言えないのも、さっちゃんの豹変も。

のろのろと歩きながら、今後の対応を考える。

まず、聞かないと。なんでこんな事になったのか。それだけは、いつも思って
いる。後、どう対応するか決めなきゃ。どういう答えかによって、言わなきゃい
けない事とか、変わって来る。ちょっとした事で、ボロなんてすぐ出てしまう。

…私は、一見さっちゃんのように何を考えているかわからないマイペース野郎
だけど、それはそう見えるようにしているだけだ。でもって、年々引っ込みがつ
かなくなって来ている。もう、どっからどこまで嘘かわからない。本当は相当の
ヘタレ野郎だったりする。

原因は、凶悪コンビと名高い弟と幼馴染からの被害を絶対に被らない為だ。こ
いつらのせいで、私はこんな不思議系にならざるを得なくなってしまったのだ。
いや、これは単なる八つ当たりだけど。

もうあいつら覚えてないだろうけど、相当私は弱気で泣き虫だったからなあ。
あいつらの玩具+なにかあった時の保健にされるのは、もうやだったし。

…あーあ、泣きたいよ。いやマジで。はあ…ていうか、泣いちゃおうかな…

「あ、ミッキーだ」
「お、誠人。何か用?」

そんな事を思っているのに、条件反射でいつも通り応えてしまう。誠人が自転
車に乗って現れた。しかし、この呼び方やめてくれないか。美咲でミッキー、深
幸でミッチー、幸男でサッチーっての。

「どこ行くの?」

明日はテストなのに、どう見ても遊びに行く格好。まあ、こいつは絶望的な程
のアホだから、今更勉強してもしなくても変わりゃしないだろうけど。

「えー、サッチーん家。ノート写させてもらう。サッチー、いい子だからきちん
とノート取ってるし」
「…深幸に写させて貰えよ。心の友だろうよ」
「ふん!アイツなんかトモダチジャネーヨ!1人でばっかいい成績取りやがって、
跳び箱4段飛べねー癖に!あ!ミッキーのでもいいや、コピーして来い!!」

1人で、ハイテンションではしゃぎまくる。うーん、馬鹿丸出し。

「やだよ」

速攻断ってやる。ついでに電話でさっちゃんに絶対写させないよう、コピらせ
ないよう、ついでにさっちゃんに写させないように頼んでやった。さあ、これで
袋のネズミだぞ、今のこいつはクラス中の男の彼女寝取って、女子更衣室覗いた
のバレて、協力者はほぼいない。

「くそうううう、お前、卑怯だぞ!」
「かっかっかっ、潔く学年ビリの座に着くが良い」

そう言うと、勝ち誇ったように笑ってやった。暫くウンコ座りで頭を抱えて唸
っていたが、不意に顔を上げ。

「あ、そうだミッキー、お前って昨今の萌え市場についてどう思う?」

と、急に話題を変えた。現実逃避にも見えるけど、こいつはいつもこんなんだ。
流石、会話の54%がエロなだけある。

…私も今更勉強しても仕方が無いし、お互いまだご飯を食べていないという事
で、とりあえず家に帰ってご飯を食べる事にした。


「おなかすいたー!」
「オナカスイター!」

家に帰れば帰ったで、いち早く家に帰った癖に、未だごはんを食べていない双
子の馬鹿弟、深幸が玄関先にいた。でもって、こんなお言葉。調子に乗って誠人
も片言で言う。

生まれた時からの幼馴染で、全員誕生日が一緒。加えて誠人の家は徒歩15秒。
お互いの親同士がなんか、4人でゲーム作る仕事してるから、殆どこの3人でご
はん食べたりしている。勿論私が財布を握っている。

「…ご飯は炊いてあるでしょ…ふりかけでも掛けて食べればいいじゃん」

冷たく言うが。

「馬鹿!馬鹿馬鹿、このうんこ!僕等は育ち盛りなんだぞ!肉だよ!野菜もバラ
ンス良く取らねぇと、大きくなれねぇんだぞ!」

地団太を踏む深幸。ああ、そうだな、この168cm。

「そーだそーだ!このままじゃ、でかいのはチ○ポだけの大人になっちまうぞ!」

便乗してエロトークに行く誠人。そういえばそうだな、167cm。

「…ま、そのままじゃあ…ね」

プッ、と、笑い、2人を見下す私。コンプレックスですが、169cmで、こ
の中じゃあ一番背が高い。因みにさっちゃんは166cm。どんぐりの背比べだ
な、私等。

「くそおおおおおおおお!なんでお前ばっか!ズルイ!」
「ズルイー!うわーん!横暴ダー!モチロンソウヨー!!」

各々罵詈雑言(負け惜しみとも言う)を浴びせるが、全く気にならない。どう
してこいつら、こんなにアホなんだろか。しかも深幸は勉強が出来るのにアホだ
から、始末におえない。

「…親子丼と、野菜スープとサラダでいい?」

でもって、揃って家事が出来ない。お馬鹿2人は顔を輝かせ『うん!』と頷い
たのだった。


「なーなー、美咲と深幸は、女の子縛るなら、後ろ手と、前で縛るのどっち?」

かっかっ、と、威勢良く食べながら、そんな質問をする。

…いつもの事だけど、食事中にする話だろうか。

「僕は、当然後ろだな。女の子の乳が触れねー!」
「私は前が萌える。なんか、断然萌える」

普通に応える。うんうん、と、何の参考なのか、メモっている。

「…しかし、最近質問形式が多くないか?この間だって『萌えシチュはどっち?
A:男子トイレでB:旧校舎』って…なんだその二択」

そう言いながら、一瞬、何か引っ掛かったような気がした。が、思い出せない
ので気にしない事にした。

「え、えー、そういうの興味無い?今、流行だよ」
「そうそう、そんな事より美咲、誠人、初めての道具はローターとバイブとどっ
ちがいい?」

…こりゃまたストレートな…うへぁっ、という顔をしそうになるけど、しない
方がいいと、無意識で判断したのか。

「両方加えてアナルバイブ」
『マジっすか!?』

と、ちょっと豪気な応えに、声を合わせて驚かれた。

…なんなんだ、この団欒…

ちょっと現実から逃げたくなったけど、やっぱり気にしないでしれっとした顔
でいる事にした。


「さっぱりわかんないや」

はあ、と、ため息をついて教科書を閉じる。

…さっきから、さっちゃんの事ばっかりチラ付いて、全然勉強が身に付かない。
ダメだな、本当に泣きそう。私、これからどうなっちゃうんだろう…ん?

「開いてるよ」

こんこん、と、ノック音。あーあ、1人感傷に浸る暇もないのかい。誰かと思
えば、深幸。テスト期間に私の部屋に来るなんて、まあ珍しい。

「お腹空いたの?一応夜食にサンドイッチ作って…」

「それもう食った」

…おいおい、まだ9時にもなってないじゃんか…つい笑ってしまう。深幸は私
の方をじっと見て、ベッドに座った。

「お前って、動じないよな」

誰のせいでこうなったと思ってやがる。ちょっとムッとしたけど、勿論表には
出さない。はあ、とため息をついて、寝転がる。

「…お前って、どうしたら、慌てたり怯んだりするの?」

…ん?意図がわからない。意味は、わかるけど。

「それを聞いて、どうする」
「どうもしない。けど、お前ってやたらと枯れてっからさ」

じー、と、位置的に天井の、何故か笑いながら怒っているように見える顔の染
みを見ながら、言った。

「別に、枯れてるなんて思わないよ」

そりゃそうだよなあ、だって、今完全に泣けるもん。お前が出て行ってくれれ
ば、速攻泣くぜ。不安だし。

「そういうとこだよ。で、どうしたら、お前の感情は動くの」
「某型月に某竜騎士が入社したら、なんともいえない気持ちにはなる」

さらりと、言ってみる。

「…確かに。あ、いやいやいやいやいや、そうでなくて…」

がば、と起き上がる深幸。馬鹿、敵に弱点教える奴がいるかよ。

「んー、じゃあ、おま…」

言おうとして、やめる。

お前と誠人が、切り立った崖にぶらさがっていたら驚く、なんて言ったら最後、
後先考えない馬鹿だから、本当にやりかねない。親も時間無いのに、葬式なんて
やってられるか。

「おっ、おま…!?え!?なに!?」

うわあ、すっげぇ喰い付いてる。正真正銘の馬鹿だ、こいつ。

「シモの方じゃないよ。お前が死んだら、って言おうとしたけど、想像したら何
ひとつ感情動かない事がわかったし」

眉ひとつ動かさず言う。

深幸の顔が、キョトンとしている。でもって、3、2、1。

「ひで――――――!!超ひで――――――!?ひどくな――――――い!?」
「別に」

大騒ぎし始める深幸。

もう眠いし、お風呂も入ったし、ちょっとスッとしたし。

早々に馬鹿弟を部屋から放り出し、眠る事にした。



―――でもって。

「YO!どうだった!?俺は最低!!」

びしっ、と親指を立てながら、晴れやかな顔をする。お前も留年するのか?

「普通」

と、それだけ答えて立ち上がる。私と誠人が3組、さっちゃんと深幸が5組だ。

これから馬鹿2人で隣町に女漁りに行くそうだ。私は、さっちゃんとデートす
る約束をしている。因みに、さっちゃんと付き合っている事を、こいつらは知ら
ない。教えていない。理由は知らないけど。

「ごはんは自分等で食べなよ」
「オケーグー!いやっほ―――う!」

テスト終わったのがそんなに嬉しいのか、えっらいテンションで教室を駆け抜
けて行った。私は5組の方に向かう。同じようなテンションで走る深幸とすれ違
った。こいつと身内、という事実を抹消したくなった。

…勉強できるのに、顔はブサイクに近いけど、眼鏡が似合うから基準値に達し
てるのに、なんでこんな馬鹿なんだろう、と首を傾げる。5組に到着したと同時
に、さっちゃんが出て来た。

「あ、みっちゃん」
「あそぼー」

そう言うと、にこ、と笑ってくれた。ま、約束してたんだけどね。

テスト4日間は、何も無かった。ある意味、当然だけど。だから、来るな、と
思ってる。予定としては、コンビニでお昼買って、さっちゃんの家で大○笑!人
生○場大○戸日記をするんだけど…多分、その後…かな。怖いな…

4日間色々考えていて、ふと気付いた。傍若無人、傲岸不遜に振舞えるのは、
あの2人の前でだけで、何故かさっちゃんには、そんな風に振舞う事が出来なか
った。思えば、最初からそうだったかもしれない。

もうずっと、2人からさっちゃんを贔屓してる、と言われてた。

さっちゃんには、優しくしたかった。さっちゃんの、無表情に隠された中身を、
自分だけに見せて欲しかった。何故なら―――

「みっちゃん?」
「あ、あああ、あはい?」

にょっ、と、さっちゃんが顔を覗き込んで来た。

なんだか、最近下を向く事が多くなったな…

「ごはん、買おうよ。コンビニ着いたよ」

人の気も知らんと、ボーっとスパゲッティか蕎麦か悩んでる。

因みに、私はこのコンビニの場合はスープスパ一択だ。何故なら好きだから。
悩んだ末にさっちゃんはカップ麺を買った。なんでやねん。

お菓子やアイスも買って、お喋りしながらさっちゃんの家に行く。不安だけど、
やっぱり好きな人と2人きりになれるというのは、嬉しい事だ。さっちゃんの家
は洋風で、部屋は2階の奥。なんだか、秘密基地みたいな場所だけど、あまり物
が無い。私が持ち込んだゲーム機とか、本とかが、元の部屋にあった物より多い。

「じゃあ、さっちゃ…」

早速食べようか、と、言おうとした、その時だった。

「―――え、え、ええ!?」

コンビニの袋置いて、私の事を思い切り抱きし…え、もう!?もうなの!?

あまりにびっくりして、何も言わないのをオケーグーと取ったのか、さっちゃ
んは更に強く抱き締めて来る。

「え、あ、さ、さっちゃん…」

どうしよう、いや、どうするかは決めて来てる。でも、こんな早いなんて、思
ってもみなかった。だから、余計に怖くなった。10年以上にも及ぶ、押さえて
いたヘタレ貯金が、ここに来て満期になってしまったのか。

「え!?」

さっちゃんの、物凄く驚いた声。結構レア。

…出てしまった。涙が。いや、もうなんで今なんだよ。まあ、泣こうと思えば
邪魔が入るし、予定外の行動取られる事が何よりも苦手だし。

最初に言ってさえいれば、こうならなかったのに、と、今更後悔する。

「み、みっちゃん、や?やだった?ごめん、俺―――」

私の顔を見て、どんどん蒼褪める。最早、修正が効かないくらい、泣いていた。

「ごめ、あ、ごっ、ごめ、んなさい、そ、うだよね!こんなの―――」

大パニックだ。正に鼠目前にした青い猫型ロボ、犬目前にした白いオバケ、生
放送の音楽番組で歌詞全部飛んだ某アイドルの如くだ。泣いている割に、よくこ
んな事を思い付くものだ。が、泣いてしまったんだから、仕方ないって、もう思
ってる。

「…ごめん、なっ…泣いて、あ、あの、ね…」
「うん、なに?ごめんね、ごめんねっ俺、酷いよね…ごめん」

私の肩を掴んで、顔を覗き込む。最早、さっちゃんも泣きそう。

…なんだ。

こんな事なのに、もう、安心してしまった。とりあえず、私が心配していた事
の70%以上は、杞憂だった事が、判明した。

さっちゃんは、こんなに私の事、大事にしてくれてる。私が泣いたから、とい
う事の方がでかいんだろうけど、2年近く付き合ってれば、なんとなくわかって
来る。でも、とにかく、今は言わなきゃ。事態が余計こんがらがる。意を決して、
私は考え考え、口に出した。

「…あの、ね、あの…先に、言っておけば、良かったの。あの、私…さっちゃん
とするの、怖いの。だって、違うの。さっちゃんじゃないみたいで、私、怖いの。
本当は、もっと、こういう事の前に、したい事、一杯あったの」

―――さっちゃんの、無表情に隠された中身を、自分だけに見せて欲しかった。
何故なら―――自分の中身を、見て欲しかったから。

…2人きりになって、もっとさっちゃんを知りたくて、私の事、知って欲しく
て、お互いの事、もっと理解して、それから。

早過ぎた。お姉さんぶって、そう振舞って、実際は小さい頃から大して変わら
ない、情け無い自分を知って貰って、本当に好きになって貰ってから、そうして
欲しかった。

「…怖かったの。私、いつもみたいにする以外、どうやっていいかわかんなくて、
だから、さっちゃんが、そういう事したがるの、怖かったけど、受け入れるしか
無くって、すっ、好き、だよ?でも、でも―――」

自分でも、一体何を言っているのか、どんどんわからなくなっている。

さっちゃんも、物凄く戸惑って、少しずつ、私の言葉を噛み締めて、理解しよ
うとしてくれて、そして理解して―――


「っ…ごめん…なさい」

ぼろ、と、ぶっちゃけ私より大きい瞳から、涙が流れた。

部屋には、温めて、少し匂いが漏れてるスープスパの匂いと、鼻を啜る音。

お互い泣いてしまって、どう収拾つけるんだろう。考える…考える。

…ダメだ。今の私は、全然頭が働かない。どうしていいか、全くわからない。

「…ごめんね…ってか、ダメだよね…なんで俺、みっちゃんが傷付いてるって、
思わなかったんだろ…そうだよ、よく考えなくたって、こんなの…」
「いや、やりすぎ!」

年下の恋人に向かって土下座しようとするから、とりあえず、突っ込んだ。

「でも、俺、みっちゃんの事…」
「…いいよ、じゃあ、抱っこしてよ。私の事、まだ好きでいてくれてるんでしょ」

そう言うと、必死だな、と笑いたくなるくらい、高速で頷き始めた。でもって、
さっきより乱暴に、でも、さっきより確実に安心できるような、そんな感じで抱
き締めてくれた。

「ごめん、本当にごめんね、俺、焦り過ぎた。みっちゃんが俺から離れて欲しく
なくて、みっちゃんが喜ぶっていうから、その通りにして、あーもう!俺の馬鹿!」

…珍しく、本当に珍しく、自分を激しく罵るさっちゃん。

が、なんか、今、引っ掛かった。ん?と、思ってしまった。

「…その通りって、どういう意味?」

どうにもこうにも気になって、すっげぇ嫌な予感がして、聞いてしまった。す
るとさっちゃんは黙るかと思ったら、あっさりと。

「え、ちぃちゃんとまっちゃんに。こうしないと、みっちゃんにすぐ見限られる
から、って」

でも、間違ってたんだよね、と、暗い顔で、そう言った。因みに深幸と誠人の
さっちゃん流の愛称だそうです。

「―――はぁ!?」


‐3ヶ月程前‐

「…あの、ね。俺、みっちゃんと付き合ってるの」

私はあいつらに言う気は無かったし、さっちゃんもそうだと思ってた。けど、
どうやら私と生まれた時から一緒にいるこいつらに嫉妬して、それを言ってしま
った。馬鹿だなあ、私とこいつらに恋愛感情は何があっても発生しないのに。

『マジっすか!?』

当然、男に興味が無いと思っていたであろう2人が、驚くのも無理は無い。し
かも、相手は人畜無害の権化、さっちゃん。

しかし、話はそれで終わらなかった。奴等は親身にさっちゃんに接してくれ、
普段の私―――これは私が悪かったんだけど、私の性格を慮って、奴等はさっち
ゃんにとんでもないアドバイスをしやがった。

『早く、肉体関係を作れ』

と。

親の職業や、こいつらの会話全てに冷静に反応し、うろたえさせるのが目的で、
ウケ狙いの発言ばかりしていたのが災いとなり、気付けばなんと奴等の中では、
私は『エロい事が何よりも好きなハイパー女王様で、並の男じゃ相手が出来ない』
と思われていたらしく、どう見ても人苦手、女子もっと苦手、童貞のさっちゃん
じゃ、ボロボロにされて捨てられるのが関の山だと、そう判断した奴等は…

さっちゃんに、徹底的なまでのエロスパルタ教育を施した。

後は、本番を残すだけ、という事になり、私を誘う技も見に付けさせられたが。


‐そのちょっと後‐

「は!?ミッキーキスされて、乳揉まれてんのに気付かんの!?」
「…もしかして、幸男がどの程度か計っているのかもな、よし、次は―――」


‐その少し後‐

「ウッソ、くっそぉ、僕等程度の教えじゃ、あいつの足元にも及ばないのか!?」
「もういいよ!押し倒せ!そこまですりゃあ後はミッキーから誘うだろ!」


‐その直後‐

「…え、処女!?マジで!?えー…あ、でも、ミッキー理想高そうだしね…」
「喜べ幸男、お前は美咲の眼鏡に適った、という事だ。それが幸せかどうかはし
らないけどな」


‐今より大分前‐

「ミッキー結構マニアだからな、さっき聞いたら、旧校舎でやりたいってよ」
「男子トイレとの二択なら、僕も旧校舎だけどね」


‐今より少し前‐

「ねーねー、野外プレイがいいみたいだよ、僕もこの季節はオススメだ」
「マジで!?いーなー、俺もしたい!ヤリタイ!!」


‐今より、ほんの少し前‐

「いいスポットあるんだけど。体育倉庫の云々」
「へー、そういえばあそ(以下ry)



「…という訳で…今日も、これ…」

紙袋を取り出す。中身は―――

「…さっちゃん、ちょっとこっち来なさい」

当然、バイブにローター、アナルバイブにスパイク棒…

馬鹿な弟と幼馴染の完全に間違った心使いに、なんともいえない感情を抱く。

そうか、やりすぎたか…と。話を聞く限り、本気のようだったし…

さっちゃんはさっちゃんで、何の危機感も抱かずに私のすぐ側まで来た。あー
あ、まだ修行が足りない。奴等なら、声の調子で自分の生命の危機が察知できる
ぞ。つい、にやけてしまう。








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