シチュエーション
放課後。 天空高校の屋上で、瞳子と蛍の体を爽やかな夏風が撫でていく。 「前回の戦いまでで、あたしたちが回収した封印の石は全部で十三」 瞳子が告げた。 太古の昔──魔界の住人である『魔人』と人間との間で争いがあった。戦いは数百年にも及び、 やがて魔人たちは『封印の石』にその身を封じられた。全部で百八の『封印の石』は聖地である『神 殿』に安置されていた。 だが──ある事件が原因で、石は神殿から世界中に散らばり、人間の身に宿った。その人間の欲 望エネルギーである『マギ』を十分に吸収すると、魔人本体は石から開放されてしまう。 それは、魔人たちが跳梁跋扈する世界への逆戻りを意味していた。 そうなる前に──世界中に散らばった百八つの宝珠『封印の石』をすべて集め、ふたたび『神殿』 に封印し直すことこそが、神聖騎士の使命だ。 「他の仲間たちが集めたのをすべて合わせれば、たぶん半分以上の石は回収したはずよ」 「ぐう」 「……寝ないでくれる?」 寝息を返事代わりにした相棒に、瞳子が憮然と告げた。 「……ん?あ、あれ、わたし、寝てた?」 「大事な話をしてるつもりなんだけど」 「瞳子ちゃん、目が怖いよ……」 冷たくにらみつけると、蛍の顔が引きつった。 「封印の石のことなら、わたしだって知ってるよ。そこまでバカじゃないってば」 「あたしが言いたいのは」 瞳子が語気を強くする。 「これからはもっと強力な魔人が出てくるかもしれない、ということよ。……上級の魔人が」 「上級──」 魔将軍クラスや魔王クラス……その中には神聖騎士の力をも凌ぐ個体が存在するという。今まで に回収したのはほとんどが、通常の魔人たちだった。言い換えれば、まだ魔将軍や魔王クラスの魔 人たちは、今も世界中のどこかに存在しているということだ。 戦いが続けば、いずれ彼らが瞳子たちの前に立ちはだかることになるだろう。 「奴らは欲望のままに動く。もし負けたときには、あたしたちだってどんな目に遭うか分からない」 「瞳子ちゃん?」 「危険を感じたらすぐに逃げて。あたしは……あなたが汚されるのを見たくない」 前回の戦いが脳裏をよぎる。 蛍をかばい、瞳子は魔人の肉棒に口唇奉仕を強いられた。あまつさえ、乙女の純潔を散らされる ところだった。 「この前の戦いのことを言ってるの?」 蛍の表情が沈んだ。 いつも明るい少女としては珍しく、暗い口調で続ける。 「わたしのせいで……瞳子ちゃん、嫌なことさせられたよね。ごめんなさい」 「あなたを責めてるわけじゃないよ」 瞳子が首を振った。 「あたしは大切なものを護るため必要なことをしただけだもの。だから謝らないで、蛍」 後悔などしていない。 たとえ清純な唇を汚されても。 かけがえのない仲間を──親友を失わずにすんだのだから。 「瞳子ちゃん……」 蛍の瞳が潤んでいる。 「なんだよ、二人してこんな場所で」 現れたのはひとりの少年だった。短髪を逆立て、大きめの瞳が強い光を放つ。いかにも元気そう な容貌だ。 「立花くん」 クラスメートの立花花太(たちばな・はなた)に、瞳子が振り返った。 「あたしたちの話を聞いていたの」 念のために確認する。 神聖騎士の正体は極秘だ。もしも知られた場合は、その人物の記憶を消去しなければならない。 「ん?アニメの話か?封印がどうの、魔人がどうのって」 花太があっけらかんと笑った。 (まあ、こいつになら聞かれても大丈夫そうね) 「瞳子ってアニメオタクだったんだな」 「誰がアニメオタクよ」 花太の言動に思わず反応してしまう。 「あはは、わたしはアニメ大好きだよ」 蛍の声が弾んだ。 「そっか。まあ、蛍はいかにも、って感じだもんな」 「いかにも、ってどういう意味よー」 「あははは」 二人の楽しげな談笑が屋上に響き渡った。 瞳子は複雑な思いで、親友の少女を見やる。 どうやら蛍は、このお調子者の少年に恋心を抱いているらしい。瞳子には理解できない感情だっ た。 自分なら、こんないい加減な男は好きにならないと思う。 絶対に。 ……と、そのときだった。 瞳子の背筋に悪寒が走る。 「この感覚は」 ハッと周囲を見渡した。 大気がかすかに震えている。ぴりぴりと肌が痛い。 「爆発的にマギが高まっていく……」 蛍がこちらを見ていた。 相棒に対しうなずき、告げる。 「強力な魔人が近づいている」 「また、アニメの話か?」 花太が首をかしげた。 「やっぱりお前もアニメオタクなんじゃねーの、瞳子」 つぶやく花太を置き去りにして、瞳子と蛍は走り出した。 戦場に向かって。 * 決闘場所は公園だった。 周囲には、すでに魔術による結界が張られてある。瞳子たち異能者以外は侵入することもできな い、強力な結果が。 公園の中心部で魔人は挑発するようにマギエネルギーを放ち続け、瞳子たちにその存在を感知さ せた。隠そうともしないところを見ると、最初から神聖騎士に対して戦いを挑みに来たのだろう。 「大した自信ね」 瞳子がつぶやく。 目の前には、身長二メートルを越す巨大な魔人がたたずんでいた。 長大な二本の角。鬼にも似た、禍々しい風貌。甲冑に包まれた巨躯。背中に広がる一対の黒翼。 「お前たち二人が神聖騎士か。まだ十代の小娘じゃないか」 魔人は傲岸そのものの口調で、ふん、と鼻を鳴らす。 「くっ……!」 瞳子は体が金縛りにあったような錯覚を感じた。 帝王の威厳── 目の前の魔人が放つプレッシャーは、かつて感じたことのないほど強大なものだった。 「……お前の名前は?」 込み上げる恐怖を飲み込み、瞳子が問いかける。 いつも通りの、凛とした声で。 「ふん、俺の放つ気に呑まれてはいないか。さすがに神聖騎士だけのことはある」 魔人がふたたび鼻を鳴らす。 「俺の名はアスモデウス」 「瞳子ちゃん、こいつって……」 「魔将軍クラスよ」 不安げな蛍に、瞳子が答える。 先ほど話していた側から、現れるとは…… 不吉な予感がした。 背中にじわり、と汗がにじむ。 「ほう、分かるか」 「今まで戦ってきた連中とはマギエネルギーの桁が違う」 瞳子が言った。 「降参するか?なに、殺しはせんよ。お前たちの体を存分に楽しませてもらうまではな」 舌なめずりの音がここまで聞こえる。淫靡な視線が、瞳子と蛍の体を上から下まで舐めるように 這い回った。 剥き出しの欲望を隠そうともしない魔人に対し、嫌悪感が湧き上がる。 「馬鹿にしないで」 氷の美少女が魔将軍をまっすぐに見据えた。 変身宝具を取り出し、天高く掲げる。 「怖いのなら、あなたは逃げて」 隣の蛍に呼びかけた。 蛍は慌てて首を横に振る。 「こ、怖いけど……」 健気な美少女はまっすぐに瞳子を見つめた。 「わたしも戦う。瞳子ちゃんと一緒に」 「なら──変身よ」 「オッケー、瞳子ちゃん」 いつも通りとはいえないが、蛍の声が返ってくる。二人は輝く宝具を掲げ、謳うような口調で言 葉を紡いだ。 「魔力世界へ精神接続──」 「マギエネルギー封印解除──」 「筋肉強化──」 「神経練成──」 「我が象る姿は壮麗なる騎士──」 「我が象る心は神聖なる乙女──」 呪文に応じて、二人のマギエネルギーが高まっていく。 エネルギーが最高潮に達したところで、二人の少女が同時に叫ぶ。 「武装顕現!ナイトシルエット!」 光の柱が立ち上り、瞳子と蛍を包みこんだ。 淡いブルーの制服が光の粒子となって、はじけ散る。裸身をあらわしながら、瞳子と蛍は神聖騎 士に『変身』した。 レオタード状をした紺碧のボディスーツと、優美な金色に縁取られた純白の衣装を組み合わせた 騎士のスタイルは瞳子。同じくレオタード状の赤いボディスーツと純白のローブの組み合わせた司 祭のスタイルは蛍。 二人の神聖騎士が魔将軍と対峙した。 「あたしたちは正義の戦士」 「わたしたちは魔人を滅ぼすもの」 二人の美少女騎士が交互に告げる。 「神聖騎士エルシオン」 「神聖騎士ジュデッカ」 「正義のヒロイン参上、というわけか。くくく、心が踊るぞ。強く、美しく、そして清純なものを 俺の手で汚せるかと思うと、な」 (これが魔将軍クラスか……!) 瞳子が目の前の魔人をにらみつける。 かつて感じたことのないほどの緊張が、胸の奥に込み上げる。平然を装っているが、不安と恐怖 で吐き戻しそうだった。 古代戦争の時代、数百数千の魔人を率いたという存在。いわば魔人軍団の大幹部だ。 「それがお前たちの戦闘スタイルというわけか。ならば俺も力を解放させてもらう」 魔人の巨大な体躯から暗黒のオーラがたちのぼる。凄まじいエネルギーが周囲の空間をゆがめ、 陽炎のように景色をかすませる。 「こいつ、なんて圧倒的なマギを──」 エルシオンがうめいた。 これほど背筋が寒くなるのは初めてだ。白いバトルコスチュームの背中に、じわりと汗がにじむ。 「くくく、俺のマギ数値は三十万以上。気を抜けば──死ぬぞ、お前ら」 アスモデウスが哄笑する。 「三十万以上……!」 エルシオンの額からぬるい汗がつたった。 神聖騎士も魔人も、基本的な戦闘方法は同じだ。 マギによって肉体能力を増幅し、攻撃能力を倍化し、特殊能力へと変換する。所有するマギが大 きければ大きいほど、各能力にそのエネルギーを振り分け、強化することができる。 自分自身のマギは数値を把握できるのだが、他者のマギについてはおおまかな数値しか分からな い。 (たしかに圧倒的なパワーを感じるけど……本当に三十万以上のマギを持っているというの?) ごくり、と息を飲みこんだ。 エルシオンとジュデッカのマギ数値は、それぞれ七万二千と五万五千だ。二人合わせたとしても、 アスモデウスには遠く及ばない。 「瞳子ちゃん……」 ジュデッカが不安そうにこちらを見つめている。 「戦いは数値じゃない。いつも言っていることでしょう」 エルシオンが凛然と告げた。 「数値で負けているなら──戦術で数値の差を埋めるだけよ」 「勇ましいことだ」 アスモデウスがふたたび哄笑する。 「少しは楽しませてくれよ。なにしろ久しぶりのバトルだ。あっという間に終わってはつまらんか らな──」 「ジャイロブラスト!」 エルシオンが黄金の剣を振り下ろした。 相手の油断を突いた、一撃。 不意打ちを汚いなどとは思わない。戦いが始まっている以上、油断しているほうが悪いのだ。 ──ずおおおおおおおおおおっ! 氷の嵐が魔将軍の体を飲みこみ、爆風をまき散らした。 「ぐああああああ……あああ……ああ……」 嵐の中で、絶叫がこだまする。 桁違いの魔力エネルギーが吹き荒れ、周囲の空間が歪んでいた。通常の魔人なら、一撃で粉々に できるだけのエネルギー量だ。 「やったか……!?」 瞳子は荒い息をついた。呪文をほとんど省略して神術を放ったため、疲労が激しい。 ゆっくりと氷の嵐が晴れていく。 と── 「くくく、いま何かしたか」 現れたアスモデウスは全くの無傷だった。 「そ、そんな……」 「不意打ちとは、ずいぶん汚い真似をしてくれるじゃないか」 アスモデウスが巨体を揺らして笑う。 「悪の魔人に言われたくない」 エルシオンが吐き捨てる。 「魔剣召還」 アスモデウスの手に巨大な剣があらわれた。 禍々しい漆黒の刀身を持つ大剣だ。凄まじいマギが魔将軍の手から剣へとつたわり、刀身がエネ ルギーの刃でコーティングされる。 「終わりだ」 アスモデウスが黒い剣を振りかぶった。 「くっ……!」 慌てて黄金の剣を頭上にかかげ、防御体勢を取る。 ──ぎいんっ…… 鈍い音とともにエルシオンの聖剣が砕け散った。 「終わりだ」 魔将軍アスモデウスが漆黒の大剣を振りかぶった。巨大な刀身はマギエネルギーによってコーテ ィングされ、薄い輝きを放っている。 「くっ……!」 エルシオンは慌てて黄金の剣を頭上にかかげ、防御体勢を取った。 大気を切り裂き、大剣が打ち込まれる。正義の聖剣が邪悪な魔剣を受け止め、激しい火花を散ら す。 次の瞬間、 ──ぎいんっ…… 鈍い音とともに聖剣が砕け散った。 「剣が──」 半ばから真っ二つに折れた刀身を見つめ、エルシオンは愕然とうめく。今まで幾多の敵を切り裂 き、幾多の危機から身を守ってくれた愛用の武器だった。 瞳子にとって絶対の頼りとも言える、切り札。 それがこんなにも脆く…… 暗い絶望感で目の前がドス黒く染まっていく。 対するアスモデウスは、黒い巨剣を肩に担いだ姿勢で勝ち誇った。 「聖剣がなくては戦えまい」 「ま、まだよ」 エルシオンは唇をかみ締め、顔を上げた。 と、 「瞳子ちゃん!」 横合いからジュデッカが叫ぶ。 いつのまにか巨大な弓を召還し、かまえている。エネルギーの矢が出現し、一直線に放たれる。 「ブレイズキャノン!」 ごおおおおっ……! 一撃必殺の威力を持った炎の矢が、魔将軍の体を直撃した。 オレンジ色の爆光が周囲をまぶしく照らし出す。 第二段階のマギを開放した、ブレイズキャノン。 エルシオンの『ジャイロブラスト』と同等の威力を持ち、フルパワーなら魔人を一撃で消し炭と 化すほどの術。 蛍にとって最強の神術だった。 漆黒の爆炎に包まれ、アスモデウスの巨体が完全に覆いつくされる。 だが── 「ぬるい」 直撃を受けた魔将軍の第一声は、馬鹿にしたような嘆息だった。小うるさそうに体を揺すり、体 を覆う爆炎を振り払う。 甲冑に覆われた巨体には傷ひとつない。 「バケモノめ……!」 瞳子がうめいた。 アスモデウスは、圧倒的だった。 あまりにも──圧倒的だった。 「引っ込んでいろ」 魔将軍の大剣が旋回する。剣の一振りが衝撃波を生み出し、蛍の小柄な体を跳ね飛ばす。 「ジュデッカ!」 瞳子が悲鳴を上げた。 ジュデッカの体は激しく地面に叩きつけられ、数回バウンドする。弱々しく上体を起こしたジュ デッカをアスモデウスがにらみつけた。 「ひ、ひいっ……」 小動物のように怯えた、悲鳴。 蛍は地面にへたり込み、上半身を起こした姿勢のまま硬直した。尻餅をついた場所から、小さく 湯気が立ち上っている。 あまりの恐怖に失禁したのだ。 可憐な顔は恐怖にゆがみ、頬からは血の気が失せていた。 無様に尿を漏らしながら、股間を隠すこともできない。幼児のようにお漏らしをしながら、ただ 怯えて── ただ、恐れることしかできない。 (蛍……) 瞳子は苦い思いで蛍を見つめた。 相棒の美少女騎士は……すでに戦意を失っていた。 「恐ろしくてお漏らしか。ふん、他愛ない」 魔将軍が、金縛りにあったジュデッカに嘲笑を送る。 「そこで見ているがいい。大切な相棒が汚されるところを、な」 「…………」 蛍は無言だった。 か細い両肩を哀れなほどに震わせて。 青ざめた顔で瞳子と魔人を等分に見つめている。 「これで邪魔者はいない。いよいよ、無敵の美少女騎士を我が手で汚せるというわけだ」 アスモデウスの顔が喜悦に彩られた。 「たっぷりと楽しませてもらう」 「うう……」 エルシオンは地面に倒れたまま呻くことしかできない。 アスモデウスは下半身の甲冑を脱ぎ捨てた。がしゃん、と重々しい音とともに甲冑が地面に落ち る。 あらわになった下腹部から長大な肉茎が垂れ下がっていた。 瞳子はごくり、と喉を鳴らす。 巨体に比して、肉棒もまた巨大だった。茎の長さは三十センチほどもあるだろうか。胴部には血 管が不気味に脈打ち、切っ先は透明の粘液で濡れ光る。 (あんなに、大きいの……!?) これまでの戦いで魔人のペニスを見たことが、何度かある。だがこれほど大きく、太く、たくま しいイチモツを目の当たりにしたのは初めてだった。 (あんなモノをあたしに挿れる気なの?) グロテスクな生殖器官を前にして息を飲んだ。アスモデウスがこれから彼女に何をするつもりな のかは、あまりにも明白だ。 犯される── 絶望感がドス黒い波動となって、全身を鉛のように重くする。 アスモデウスがゆっくりとのしかかってきた。 「美味そうな身体じゃないか」 純白のコスチュームの上から乳房を鷲づかみにされた。 「処女なのか?くくく……今、『男』の味を教えてやる」 耳元で舌なめずりが聞こえる。 「い、嫌っ……!」 瞳子は狂ったように身をよじるが、押さえ付ける腕はびくともしない。 両脚をつかまれ、強引に開かされた。ミニスカートがめくれて、蒼いボディスーツに覆われた股 間が露出する。 アスモデウスは右手を伸ばし、股間を撫でた。青い布地の上から、割れ目をなぞるようにして指 先をスライドさせる。 「うっ……」 ボディスーツ越しとはいえ、無防備な性器を撫でられて、思わず背筋が粟立った。 魔将軍が指先に力を込める。 パリッ……! 聖と魔のマギエネルギーが反応しあい、小さな火花が散る。 「聖なるマギに守られた防護衣装か。全部破るのは、ちと骨だな」 アスモデウスは顔をしかめて、右手を引っ込めた。指先にかすかな焦げ目が見える。 「まずはお前の防護をはがしてやろう」 いったんエルシオンから離れると、魔剣を地面に突き立てた。 「マギ開放──」 重々しく呪言を告げると同時に、漆黒の刀身が自ら振動する。 瞳子は驚いて、剣を見つめた。 「こいつはただの剣じゃない。魔界の魔物が剣に姿を変えたものだ」 魔将軍がにやりと笑う。 「こいつの能力は、捕虜をいたぶるのに重宝する。くくくく、たっぷりと楽しませてもらうぞ」 刀身が分解する。 いや──鋼の刀身に見えたのは、無数の触手が寄り集まったものだった。 柄が頭部に、刃が触手に。 無数の脚を持つ蛸にも似た魔物がにじり寄る。 「ひっ……!」 あまりの不気味さに、エルシオンは短い悲鳴を上げた。 慌てて距離を取ろうとしたところで、黒い触手に両足を絡め取られた。細いように見えて、強靭 な力でエルシオンの両脚を締め付ける。 「動けない……」 氷のような美貌に焦りが浮かんだ。上半身をよじって、触手の拘束をはがそうとする。だが和が あまりにも多かった。 あとからあとから押し寄せる触手群が、両脚に続いて両腕も縛り上げる。 「あぁぁっ……」 蒼いロングヘアを振り乱し、瞳子は絶望の声を上げた。大の字の状態で地面に固定され、完全に 抵抗を封じられたのだ。 魔物は歓喜の声を上げ、触手を全身に這い回らせる。 何本かが、バトルコスチュームの上から豊かな乳房に巻きついた。敏感な肉球を締め付けられ、 思わずため息が漏れる。 「んっ……!」 別の一群が双丘の先端を突く。コスチュームごと乳首を押しつぶされる。ぐりぐり、と押し込ま れると、かすかな痛みと痺れが走った。軟体動物のようにうねりながら、あるものは乳首をさすり、 あるものは布地越しに乳肉を撫で、またあるものは肉球を締め上げる。 執拗に責められているうちに、敏感なバストは否が応でも反応し、性感の火照りを見せ始めた。 (駄目……気持ちいい……!) 嬌声をあげないように、必死で声を押し殺す。 触手の責めは上半身だけではなかった。 ミニスカートとレオタード状のボディスーツに守られた股間へも、数十本の群れが押し寄せる。 ねちゃ、と粘着質な音を立てて、ヒルのような先端が股間に吸い付いた。股布ごと内部に押し込 もうとする。 「くっ……!」 上半身でも下半身でも、聖と魔のエネルギーが接触し、火花を散らしていた。大半の触手は一分 も立たないうちに、瞳子のエネルギーに焼かれて消滅してしまう。 だが、多勢に無勢だった。 消し飛ばす端から、触手が押し寄せてくる。七万二千のマギエネルギーを誇るエルシオンといえ ども、その力は無限ではない。 おまけに女の急所を責められ、嬲られ、体力がどんどんと削られていく。 「はあ、はあ、はあ……」 呼吸が自然と荒くなる。体が鉛のように重く感じた。 やがて魔のエネルギーが上回り、触手を消し飛ばすことさえできなくなる。無数の触手に胸も股 間も覆われてしまった。 ずるり、ずるり…… ずるり、ずるり…… ナメクジのような感触が乳房と秘処を這い回った。バトルコスチュームに守られ、直に接触して いるわけではないが、瞳子とて健康的な乙女である。 性感への刺激を繰り返され、さすがに体が反応を示していた。 膣と子宮が燃えるように熱い。 甘痒い痺れが、背筋から四肢にまで響き渡る。 「ああ……あああっ……」 瞳子は溜まらずに声を上げた。 理性も屈辱感も、押し寄せる快楽の波には無力だった。 「気持ちいいか、エルシオン」 アスモデウスの手が美少女騎士の顎をつかむ。凛とした美貌をゆっくりと仰向け、アスモデウス が顔を近づけた。 「ち、ちょっと──」 紫の瞳を抗議に見開く。 魔人は待たなかった。 抵抗する間もなく、瞳子は魔人に唇を奪われてしまう。 「ん、ぐっ……!」 ぬめった肉塊を唇に含んでいるような感触だった。リップもつけていない桃色の唇を、肉厚の唇 が覆っている。あまりにもあっけないファーストキスの喪失に、視界が真っ白になるほどの衝撃を 受けた。 (こんなの嫌っ!初めてのキスなのに──) 神聖騎士とはいえ、十七歳の高校生の少女にとって、あまりにも残酷な現実だった。 普段、他人には決して話さないが……本当は甘い恋愛に憧れていた。 いつか、魔人との戦いが終わったら── いつか、素敵な人と恋に落ちたら── そのときのために、大切に取っておいたファーストキスだった。 それをあっさりと、力ずくで。 乙女の夢を打ち砕かれてしまった。 怒りと屈辱で、美少女騎士の体が痙攣する。 と── (これ……は……!?) 紫の瞳を愕然と見開く。 体中から力が抜けていくような感覚。 魔将軍はディープキスを通じて、瞳子のマギを吸い取っている。 (駄目、これ以上は──) 嫌々をするように首を左右に振ろうとする。だが顎をがっちりとつかまれていて、ほとんど動け ない。 清らかな唇を思う存分吸われ、舌を差し込まれた。ぬめぬめとした舌が歯茎を舐め、口蓋も裏側 までもしゃぶっていく。 気持ちが悪い、と眉をしかめるが、口の中のいたるところを舐められているうちに、とろりとし た快感を覚え始めた。 (どうして……?こんなヤツに、無理やりキスされてるのに) 舌を深々と差し込まれると、半ば無意識に自分の舌をからめてしまう。最後には自分から魔人の 唾液を受け入れてしまう。 こく、こく、と嚥下すると、ようやく。アスモデウスは唇を開放してくれた。 「くくく、ファーストキスで痺れるほど感じたか」 鬼にも似た顔が勝ち誇った表情を浮かべ手、美少女騎士を見下ろす。 「くっ……!」 「口づけだけでは物足りないだろう。男というものを教えてやるぞ、神聖騎士」 魔将軍の口元に淫靡な笑みが浮かんだ。 二メートルを超える巨体が少女の体にのしかかる。ミニスカートをまくり、太ももに手をかけら れた瞬間、瞳子はこらえきれずに悲鳴を上げた。 魔将軍の巨体がエルシオンの両脚を広げて腰を割り込ませた。隆々とそそりたったイチモツが先 端から体液を垂らし、地面に白濁した液だまりを作る。 瞳子の表情に、絶望の色が浮かんだ。 「助けて……」 最後の望みをこめてジュデッカを見つめる。 か細い悲鳴にも彼女は動かなかった。 いや、動けないのだろう。 蛍の顔には恐怖だけがあった。 それはもはや戦士の顔ではない。どうしようもないほどの力の差を見せつけられ、戦う心を折ら れてしまった、か弱い少女がいるだけだった。 魔人が上体を倒してのしかかる。 「い、嫌っ!」 瞬間──瞳子は残り少ないマギを全力で燃焼させた。 「アイシクルブリット!」 ──きんっ! 澄んだ音が響き渡り、アスモデウスの頭部が凍りつく。 詠唱も魔力増幅も無視した、緊急のマギ発動。 通常の術式に比べて、大幅に体力を消耗する技だった。その代わり、発動スピードはまさに刹那 のごとし。 瞳子の放った術がアスモデウスの頭部を蒼い氷で覆っていた。 完全な不意打ちに、さすがの魔将軍も反応できなかったのだろう。 「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」 慌てて魔将軍の体の下から抜け出し、距離を取る。 「に、逃げるのよ、蛍!」 失禁し、へたりこんでいるジュデッカに声をかける。相棒の美少女騎士は虚ろな表情をこちらに 向けた。 と── 「ふん、一度ならず二度までも──よほど不意打ちが好きらしいな」 凍りついたままの魔将軍の頭部から、嘲笑が漏れた。 煩わしげに巨体を揺する。 ぱりん、と乾いた音を立てて、頭部を覆う氷はあっけなく砕け散った。 「くっ……!」 エルシオンは慌てて身構える。 剣を抜こうとして、ハッと表情をこわばらせた。 頼みにしていた聖剣は、すでに存在しないことを思い出す。 アスモデウスの一撃で折られてしまったのだ。さらに、神術を使うためのマギエネルギーも、先 ほどの緊急発動でほとんど使い果たしてしまった。 エルシオンは──もはや戦う術を失っていた。 絶望感が、少女の心をドス黒く染め上げていく。 「最後の最後まで抵抗するとは。本当にイキがいい獲物だな」 両肩を震わせて笑いながら、魔人の将軍がゆっくりと近づいてくる。 「う、うわあぁぁぁっ!」 瞳子は反射的に拳を繰り出した。 少女の細腕から繰り出されたパンチを、アスモデウスは避けようともしない。なおも蹴りを繰り 出し、手刀を打ち込むが、いずれもダメージすら与えられない。 「まあ、嫌がるなよ。お互いに楽しもうじゃないか」 全力の抵抗をアスモデウスはまったく意に介していなかった。 華奢な両肩をつかまれ、あっさりと地面に押し倒される。 「くっ……!」 「今度こそ逃げられんぞ、エルシオン」 アスモデウスが股間に手を這わせ、指先で敏感な部分をまさぐってきた。瞳子のマギが底をつい たことに伴い、コスチュームの防護反応もまた弱まっている。先ほどまでのように聖なるエネルギ ーで敵の体を弾いてくれない。 太い指の腹が、ぐっ、ぐっ、と股間を圧迫した。ボディスーツ越しにクレヴァスをなぞられると、 腰の芯に電流のような刺激が走る。 すでに度重なる愛撫で少女の体は鋭敏になっていた。体の芯が熱く燃え、腰の奥からドロリと したものが分泌される。 「どうした、濡れてきてるぞ」 アスモデウスはにやりと笑い、指の圧迫を強めてくる。股間を襲う幾重もの刺激に、瞳子の背が 大きくのけ反った。 「ん、ああっ……」 切れ長の瞳が見開かれ、快楽に潤んでいく。感じては駄目だと思いながらも、生理的な反応を止 めることができなかった。 SS一覧に戻る メインページに戻る |