シチュエーション
![]() 熱いシャワーが白い裸身を濡らし、タイルの上にしたたり落ちる。月読瞳子(つくよみ・とうこ) は、虚ろな瞳で壁を見つめていた。 そっと股間に手を這わせると、鈍い痛みが返ってくる。親指とひとさし指で押し開いた花弁の奥 から、どろりとした体液が垂れ落ちてきた。 魔人によって注ぎ込まれた精液の残滓だった。 瞳子が純潔の証を失い、清らかな乙女でなくなった証し──敗北の、証しだった。 「夢じゃないんだ……」 瞳子はかすれた声でうめく。 胎内に信じられないほど太く、たくましい器官が潜り込んでいるイメージがまだ残っていた。自 分が処女を失ったことを実感し、全身が灼熱感に包まれる。 「初めてだったのに──」 夢見ていたロマンチックな初体験はズタズタに引き裂かれてしまった。 憎むべき魔人の体が、自分の胎内に侵入し、蹂躙していった。あまつさえ、意に沿わぬ交わりで 絶頂まで味わわされてしまった。 たまらなく惨めな気分だった。 「あたし、汚れちゃった……」 その場にしゃがみこみ、こらえきれずに嗚咽をもらす。後から後からあふれでる涙は、頭上に固 定したシャワーが洗い流してくれた。 胸の中をドス黒い屈辱感と敗北感が染め上げる。 「百合子さんもこんな気持ちを味わったのかな」 意識は二年前── 彼女が神聖騎士として覚醒したばかりのころへと飛翔する。 * そこは、極彩色の魔力水晶に彩られた華麗な宮殿だった。神聖騎士たちの基地ともいえる『神殿』 内部。その訓練室に、一人の美少女騎士の姿があった。 「第二段階マギ開放──ジャイロブラスト!」 十五歳になったばかりの瞳子が聖剣をまっすぐに構える。掲げた黄金の刃から、龍のように体を うねらせ、氷の竜巻が放たれた。 竜巻を自在に操り、敵を包み込み、氷結・爆砕する──それがジャイロブラスト。氷嵐系のマギ を操る瞳子の必殺技だった。 と、 「──きゃあっ」 集中が乱れ、マギのコントロールが意識から離れる。エルシオンの顔が緊張でこわばった。 同時に天空から氷の竜巻が逆流し、頭上に降り注ぐ。魔人さえも引き裂く、強大な竜巻だ。バト ルコスチュームをまとっているとはいえ、ジャイロブラストを浴びれば、エルシオンとてただでは すまない。 と、 「ペンタグラムブリット!」 横合いから放たれた光球が、氷の竜巻を跡形もなく吹き飛ばした。 光撃系のマギによる破壊の術。あふれるエネルギーとはじけた爆光が周囲を鮮烈に照らし出す。 「怪我はない、瞳子」 緩くウェーブのかかったセミロングの黒髪を揺らし、三十代前半くらいの女騎士が駆け寄った。 夜神百合子(やがみ・ゆりこ)。 大輪の薔薇を思わせる真紅の戦闘衣装が、楚々としていながら妖艶な容貌によく似合っている。 エルシオンにくらべて格段に成熟した体型が、バトルコスチュームを通じてもはっきりと分かる。 楚々としながらも、むっちりとした色香が全身から漂っている。 「魔力の強さは心の強さ──心を強く持ちなさい」 「心の、強さ……」 「失敗を怖がる必要はないのよ。あくまでも練習なんだから」 百合子はどこまでも優しい。暖かな微笑みは、見ているだけで心が癒される。 「ゆっくりでいいの。私がちゃんと側で見ていてあげるから」 「……はい」 笑顔につられてうなずき、瞳子が立ち上がる。 地面に落ちた聖剣を拾い上げ、ふたたび構える。 ちらり、と視線を走らせると、百合子が穏やかな顔で愛弟子を見つめていた。 「あたし、百合子さんみたいなお母さんが欲しかったな」 瞳子がため息まじりに告げた。幼いころ、自分を残して蒸発してしまった両親……そのうちの母 親の面影を、百合子に重ねてみる。 孤児として育ち、現在も奨学金を受けながら生活する瞳子にとって、百合子は理想の母親像と一 致する存在だった。面と向かっては恥ずかしくて呼べないが、心の中では幾度となく『お母さん』 と呼んだことがある。 「ふふ、ありがとう」 「あ、その……お世辞じゃないんです。あたし、本当にそう思って」 分かっているわ、と言わんばかりに、百合子は人差し指を唇に当てた。 「私の子供も、あなたみたいに凛とした娘に育てたいわね」 「百合子さん……」 柔らかな手が、瞳子の頭を撫でた。 たまらなく心地のよい感触だった。 神殿の中庭には色鮮やかな花園が広がっている。瞳子と百合子は本当の家族のように肩を寄せ合 い、花園の前に座っていた。 「石板……ですか?」 瞳子の問いに百合子がうなずく。 「私たち五人の神聖騎士の使命よ」 太古の昔──今とは別の文明が支配していた時代。魔界の住人である『魔人』が人間界へと進行 し、激しい争いが起きた。 当初、魔人たちは圧倒的な力で人間たちを蹂躙した。だが人間も黙ってはいない。光のマギを操 る素質を持った戦士──『神聖騎士』が現れ、反撃を開始したのだ。光と闇のマギの激突は、数百 年にも及んだ。 やがて魔人たちは敗れ、『封印の石』にその身を封じられた。全部で百八の『封印の石』は聖地で ある『神殿』に安置されていた。 だが──ある事件が原因で、石は神殿から世界中に散らばり、人間の身に宿った。その人間の欲 望エネルギーである『マギ』を十分に吸収すると、魔人本体は石から開放されてしまう。 それは、魔人たちが跳梁跋扈する世界への逆戻りを意味していた。 そうなる前に──世界中に散らばった百八つの宝珠『封印の石』をすべて集め、ふたたび『神殿』 に封印し直すことこそが、神聖騎士の使命だ。 「本当は、あなたのような少女にまで背負わせたくはないのだけれど……」 「あたしなら平気です」 瞳子がクールに、だがその奥に熱情を込めて告げる。 「だって百合子さんが一緒だから。命懸けの戦いでも平気です」 「瞳子……」 「あたしだって世界でたった五人しかいない騎士の一人だもの。大丈夫ですよ」 小さく微笑する。 と、 「五人じゃない、六人よ」 会話に割り込んできたのは一人の娘だった。 「由真さん」 星野由真(ほしの・ゆま)。彼女もまた、瞳子や百合子と同じ神聖騎士だ。 外国人の血が入っているという、綺麗な紅の髪。思い切りのいいショートヘアには鋭いシャギー が入り、見るものに鋭いイメージを与える。すらりと伸びきった四肢は、日本人離れした抜群のプ ロポーションを誇っている。今年の春に大学生になったばかりの由真だが、そのボディラインはす でに妖艶な雰囲気をかもし出していた。 「たった今、六人目が覚醒したって報告が入ったみたい。名前は日高蛍(ひだか・ほたる)。『ジュ デッカ』の名前を冠する騎士。『神殿』のほうでこれから接触を始めるみたいよ」 紅の髪の毛をかき上げると、清潔なシャンプーの香りが漂ってきた。 「六人目……か」 「あんたと同い年だって話だよ、瞳子。相棒にぴったりじゃない?」 由真が明るく笑う。さっぱりとした、まるで少年のような気性だった。 「あたしのパートナーは、百合子さんだけです」 瞳子が冷然と言い放った。 「いや、冗談だってば。そんなマジにならなくてもいいでしょ」 あまりにも強い口調に、冗談めかして言った由真のほうが鼻白んだ。 「これからもずっと……百合子さんだけなんです」 瞳子は深いため息をついた。 * ──本来なら、負けるはずのない相手だった。 炎に彩られた戦場の向こうに、巨大なシルエットがたたずんでいる。 「俺は魔人スサノオ。マギ数値は十三万」 魔人は無骨な口調で告げた。スラリとした長身に、古代日本の戦士に似た甲冑をまとっている。 かまえた直刀があふれでる魔力によってコーティングされ、薄赤く輝いていた。 「十三万……!」 瞳子が青ざめた顔でうめく。十六歳になったばかりの彼女のマギ数値は五万九千だ。相手の魔人 のほうがはるかに格上だった。 (こんな強い魔人が現れるなんて) 百合子とともに実戦を始めて一年が経っている。その間に、瞳子も神聖騎士としての鍛錬を積み、 一年前とは比較にならないほど腕を上げた。実際に、何体かの魔人を倒し、回収もした。 だが自分よりも強大なマギを備えた魔人に出会うのは、初めてのことだった。両脚が痙攣して止 まらない。勝気な少女が恐怖を覚えていた。 「大丈夫、私がいるわ」 百合子が震える少女の肩に手を置いた。 「でも……今までの相手とはまるで違う。十三万なんて数値、ディーテやコキュートスでも無理で す。まして、あたしのマギ数値じゃ太刀打ちできない」 瞳子はおびえた顔で何度も何度も首を振る。 「ふん、戦う前から臆病風に吹かれたか」 スサノオが哄笑する。 「なんなら、命だけは助けてやらんこともないぞ。代わりにお前たちの体をたっぷりと楽しませて もらうが、な」 「欲望丸出しね」 百合子の眉が険しく寄った。 「瞳子をあなたみたいな下種に汚させない」 「ならばお前が俺の相手をするか?なかなかそそる体をしているじゃないか」 「私には貞操を誓った夫がいるの。丁重にお断りさせていただくわ」 「お上品な顔と違って、鼻っ柱が強いな」 スサノオが一歩前に踏み出した。甲冑に包まれた全身から、黒い炎にも似たオーラが吹き上がる。 物理的な圧力さえ伴った威圧感に、瞳子の全身がすくんだ。 「殺される……!」 「相手の数値に惑わされないで、瞳子。戦いは、数値だけがすべてじゃないのよ」 「でも……」 「私がついているわ。心配しないで。いつも通りに片付けるわよ」 百合子の、優しい微笑み。 理屈ではなく、心が暖かく勇気付けられていく。大きく深呼吸をすると、気持ちが落ち着いてい く。 百合子の存在感は、瞳子にとって絶大なものだった。もしも自分ひとりで魔人に立ち向かってい たら、今ごろはパニックに陥っていただろう。 「いつものあなたに戻ったわね。それじゃ変身よ、瞳子」 「はい!」 二人はともに変身宝具をかまえた。 瞳子の掲げるサファイア色の宝具と、百合子の掲げるルビー色の宝具が鮮烈な輝きを放つ。 「魔力世界へ精神接続──」 「マギエネルギー封印解除──」 「筋肉強化──」 「神経練成──」 「我が象る力は討魔の閃光、我が象る姿は裂界の戦士、我が象る心は神聖なる淑女──」 「我が象る姿は壮麗なる騎士、我が象る心は神聖なる乙女──」 呪文に応じて、二人のマギエネルギーが高まっていく。強大な波動があふれだし、大気を震わせ、 大地を揺らす。 エネルギーが最高潮に達したところで、美女と美少女が同時に叫んだ。 「武装顕現!ナイトシルエット!」 光の柱が立ち上り、瞳子と百合子を包みこむ。 百合子の着ていた白いブラウスとロングスカートが光の粒子となって、はじけ散った。人妻なら ではの肉感的な裸身が現れる。たっぷりと肉の詰まった乳房も、熟れきったカーブを描く腰周りと 臀肉も、そして両足の付け根に翳るおんなの茂みまでもが…… レオタード状をした深緑のボディスーツが豊満な肢体を包み込む。優美な金色に縁取られた純白 の衣装は露出度が高かった。胸元が大きく開き、深い谷間が惜しげもなくさらされている。ロング スカートには深いスリットが入り、なまめかしい太ももがあらわに覗く。神聖でありながら、妖艶 な雰囲気をも併せ持つ騎士のスタイルとなって、百合子はその場に降り立った。 瞳子も、百合子とよく似た騎士のスタイルでその側に並ぶ。 二人の神聖騎士が、オレンジ色の爆炎を背景にして魔人スサノオと対峙した。 「私たちは正義の戦士」 「あたしたちは魔人を滅ぼすもの」 二人の神聖騎士が交互に告げる。 「神聖騎士トロメア」 「神聖騎士エルシオン」 「聞こえたぞ、トロメアとやら」 スサノオが刀を肩に担ぎ、不遜な態度で顎をしゃくった。 「戦いは数値じゃない、か?ふん、俺のマギ数値を聞いても、そんな減らず口が叩けるとはたい したものだ」 「たかが十三万程度じゃ、自慢できる数字じゃないわね」 トロメアが、艶やかなセミロングの髪をかき上げる。朱唇に浮かんでいるのは、余裕すら感じさ せる、優雅な笑み。 「たかが人間ごときが吼えるな!ならば教えてやるぞ、圧倒的な力の差というものを!」 スサノオが咆哮とともに地面を蹴った。巨体を揺らし、爆発的な勢いで突進する。圧倒的なスピ ードに大気がかすんだ。 (速い!) 瞳子は驚きで瞠目した。 重々しい甲冑をまとっているとは信じられないほどの速度で、スサノオがトロメアの背後に回り こむ。 ──ずんっ。 振り下ろした直刀が神聖騎士の体を真一文字に切り裂いた。 「ゆ、百合子さん!」 瞳子が思わず悲鳴を漏らす。 次の瞬間、切り裂かれたはずの神聖騎士の姿が虚空に溶け、消えた。 「なっ……!?」 「残像よ」 いつの間に移動したのか、妖艶な女騎士が魔人の背後に現れる。 「貴様っ」 スサノオは即座に振り返り、直刀をたたきつけた。 魔人ならではの反応速度……竜巻のごとき勢いで繰り出される刀の先から、ふたたび神聖騎士の 姿がかき消えた。 舞うような動きで旋回する。 華麗なステップで地面を蹴って、鋭い斬撃をかいくぐる。 「馬鹿な、ヤツの動きについていけない!?」 わき腹の下に潜り込んだトロメアが、掌底を突き出した。 肉と肉がぶつかり合い、はじける音。 スラリとした腕から放ったとは信じられないほどの威力を持って、スサノオの巨体が浮き上がる。 「がっ……!」 苦悶の声を上げた魔人の頭部に向かって、トロメアの白い脚がひるがえる。空中に美しい軌道を 描き、回し蹴りを繰り出した。 体重の乗った一撃をまともに受けて、スサノオが吹き飛ばされた。盛大な土煙を上げて、魔人は 地面に倒れ伏す。 「き、き、貴様ぁっ!」 怒号とともにスサノオが立ち上がった。兜が裂け、額から青黒い鮮血が流れ落ちている。 「あら、随分とタフなのね。並の魔人なら、数日は立ち上がれないほどの力を込めたつもりだった のだけど」 トロメアが上品に微笑んだ。戦闘中とはとても思えない優雅な笑みに、瞳子は思わず見とれてし まう。 「なめるなよ、女!最終段階マギ開放っ!」 大刀を上段にかまえて、スサノオが吼えた。 「カラミティエッジ!!」 ごおっ……! 大気を軋ませながら巨大な三日月形の衝撃波が放たれた。 「無駄よ」 トロメアが軽く鞭を振る。空気を切り裂き、鞭がしなやかに旋回する。ただその一振りだけで、 魔人の渾身のエネルギー波が受け止められ、はじかれ、跡形もなく霧散した。 「お、俺の最強術が……!」 「すごい──」 瞳子は呆然と立ち尽くしていた。 「私のマギは二十七万」 トロメアは穏やかな表情を崩さず、優しい口調で告げた。 「っ……!」 初めて聞かされた師匠の魔力に、瞳子は言葉を失った。 戦いは数値じゃない──それが彼女の口癖だった。だからなのか、今まで百合子のマギ数値を教 えてもらったことは一度もなかった。 「安心したでしょう、エルシオン。だから、もうおびえないで」 教え子の不安を取り除くためだけに、百合子は自分の数値を教えてくれたのだ。瞳子は安堵の表 情を浮かべて、深くうなずく。 圧倒的な力の差── これが神聖騎士の中でも最強と呼ばれるトロメアの実力なのか。 「勝てる」 思わず拳を握り締める。 だが──このときのエルシオンは知らなかった。 悲劇が間近に迫っていることを。 最愛の人との別離が、迫っていることを── 「最終段階マギ開放」 トロメアの鞭が空中に螺旋の軌跡を描いた。 鞭全体が白い光に覆われ、鮮烈な輝きを放つ。 スパイラルグレイヴ── 光撃のマギと鞭の打撃による多重攻撃で、魔人を跡形もなく粉砕するトロメアの最強術。幾多の 魔人を屠ってきた必殺技だ。 輝く鞭が空中で複雑な起動を描く。 スサノオは反応もできずに、棒立ち状態だった。 滅びの一撃が、まさに放たれようとした瞬間、 「ま、待て、待ってくれ!」 突然、魔人が刀を地面に放り捨てた。 「降参する。だから、命だけは──どうか、命だけは助けてくれ!」 武人の誇りをかなぐり捨てた情けない懇願だった。トロメアの足元に平伏し、地面に額をこすり つける。 トロメアの手がぴたりと止まった。 「くだらない。私がそんな芝居に騙されるとでも思って?」 「俺はどうしても生き残らなければならないんだ。大切な人のために」 「大切な人?」 「俺にも家族がいる。妻と、子がな」 スサノオが顔を上げた。 真摯な表情がまっすぐに女騎士を見つめている。 家族。 百合子にとって最も強い響きを持つ言葉を発したのは、偶然か。それとも魔人の、生き残りたい と欲する本能なのか。 トロメアの顔に明らかな動揺が浮かぶ。 「おかしいか?魔人に家族がいるのは」 「おかしくなどないわ。だけど──」 トロメアの動きが止まった。 「いくらなんでも、戦場でそんな芝居を……」 優しげな表情がこわばる。 ほんの少しだけ、こわばってしまう。 そのとき、唐突に──スサノオが立ち上がった。 「うおおおおっ!」 大気を震わせるような怒号が響き渡った。 地面に放り捨てた大刀を拾い、振りかぶる。 「カラミティエッジ!」 今までで最大のエネルギーが籠もった衝撃波を放った。 ずおおおおおっ! 空間を歪め、地面を削りながら三日月形のエネルギー刃が突き進む。 「それで不意を突いたつもり?」 魔人の攻撃を予見していたのだろう、トロメアは余裕たっぷりに鞭をかまえる。 先ほど同様、鞭の表面が閃光のマギでコーティングされた。カラミティエッジを迎撃すべく、ト ロメアの鞭が虚空に螺旋を描く。 「無駄よ──」 言いかけて表情が硬直した。 エネルギー刃が、トロメアの眼前で大きなカーブを描いたのだ。 「衝撃波が──曲がった!?」 大きく弧を描いた衝撃波は標的を変更し、まっすぐにエルシオンへと向かう。 「マギを使えばこういう芸当もできる。油断したな、神聖騎士」 スサノオの哄笑が響き渡った。 「ちっ!」 舌打ち交じりに、トロメアは地面を蹴ってダッシュする。 一方のエルシオンは反応することもできない。足が棒のようになっていて動けなかった。 トロメアだけではない、エルシオンもまた油断していた。 百合子の圧倒的なマギ数値を聞かされて。 スサノオに負けるはずがない、と。 自分の出番はないのだ、と。 気を緩め、戦いを傍観していた。 (なんて、未熟な……) 唇を激しくかみ締める。 今さらながらに悔恨し、眼前に迫る衝撃波を見つめ── そして、寸前で百合子が体に覆いかぶさってきた。 直後、爆光が周囲を照らし出す。 体がばらばらになりそうなほどの突風が吹き荒れた。 「ゆ、百合子さん……」 瞳子は恐ろしさのあまり声も出ない。一歩も動くことができなかった。レベルの違う戦いに、介 入することさえできなかった。 ただスサノオが突然攻撃の標的を自分に変更し──トロメアがそれをかばって、身代わりに攻撃 を受けたのだ、ということだけは理解できた。 「ぐっ……!」 華麗な真紅のコスチュームから煙が吹き上がっている。女騎士は苦悶の表情で、その場に膝をつ いた。 「いくら二十七万ものマギがあろうと、俺の最大術が直撃したのは痛かっただろう?」 「卑怯な……」 「戦いは数値じゃない、か。確かにそのとおりだ。相手のマギがどれだけ巨大でも戦う術はある」 スサノオが勝ち誇った。 「仮にも神聖騎士が、あんな三文芝居に引っかかるとは思わないさ。だが心に隙ができれば十分だ。 ほんの少しでも隙ができれば、俺はそれを突く。くくく、見事にハマってくれたな」 振りかぶった大刀から連続して衝撃波がほとばしる。 耳をつんざくような爆音と、顔をしかめたくなるような爆圧。 「容赦はせんぞ。どれほど強いマギを誇ろうとも、攻撃を受け続ければダメージは蓄積する。どこ まで耐えられるか、見ものだ!」 トロメアは防護の姿勢すら取れず、攻撃をまともに受けた。 「だ、駄目、百合子さん」 「私が避ければ、瞳子が犠牲になるわ」 トロメアが悲壮な表情で告げる。 「大丈夫、あなただけは護ってみせるから」 「だけど──」 「なんとか、反撃のタイミングを……ああっ!」 体勢を立て直す暇もなく、次から次へと衝撃波が飛来する。それらを鞭で叩き落し、あるいは光 撃のマギで迎撃するが、あまりにも数が多すぎた。 無論、背後にエルシオンがいなければ、体術を活かして反撃に出ることが可能だろう。だがトロ メアがこの場を離れれば、その瞬間にエルシオンは狙い撃ちにされる。 衝撃波の嵐の前に、トロメアのダメージが見る見るうちに増えていった。 「いや、こんなことって」 自分のせいで仲間が傷ついていく。視界が涙でかすんで見えなかった。 攻撃のたびに紅のコスチュームが裂け、はじけ、破れていく。豊満なバストの谷間が、より深く あらわになる。スリットの裂け目が広がり、太ももからふくらはぎまでが完全に露出する。 何十回、何百回、何千回と衝撃波を受け続け── 「くぅっ……!」 切なげな声をもらして、トロメアはその場に倒れこんだ。 「いやっ、百合子さん……!」 エルシオンの顔が悲痛に歪んだ。 「作戦行動中はトロメア、でしょう。忘れては駄目よ、エルシオン」 体中に激痛が走っているはずなのに、いつも通りの笑顔で──いつもとまるで変わらない笑顔で トロメアが微笑む。 「終わりだ、神聖騎士」 スサノオが刀をだらりと下げて、歩み寄った。 「敗者がどうなるかは、無論わかっているだろうな」 劣情のこもった視線がトロメアの肢体を這い回る。 熟れた人妻の体を覆うコスチュームはあちこちが破れ、白い肌が露出していた。深い胸の谷間に は鮮血がにじんでいる。コスチュームの腰のあたりも真一文字に裂け、引き締った腹部やへそが丸 見えになっている。 「そそる体をしているじゃないか。さすがは人妻だな」 「犯したいなら犯せばいい」 むき出しの欲情をあびせられながらも、凛とした表情は崩れない。トロメアは毅然とした口調で 魔人に言い返した。 「だけど、この子だけは私が護る」 「見上げた決意だ。なら遠慮なく犯させてもらおう」 魔人が腰布を外し、下半身をむき出しにした。 ドクドクと脈打つ肉茎はすでに隆々とそそり立っている。鈴口から先走りの液がほとばしり、性 器全体を白濁に濡らしている。 人妻ならではの豊満な胸元を、無骨な両手が鷲づかみにした。 真紅のバトルコスチュームの上から強引に揉みしだく。鉤爪のように曲げた十指を、柔らかな双 丘に食い込ませる。量感のあるバストが両手で揺さぶられ、ダイナミックに震えた。 「ああっ……!」 百合子の顔が苦悶に染まる。 「いい揉み心地だぞ、トロメア」 「ああ、あなた……」 トロメアは天を仰ぎ、夫と娘の名前を呼ぶ。 何度も、何度も。 「ほう、娘までいるのか。だが子供を産んだとは思えないほど見事な体をしているな。くくく、乳 も腰もまだまだ若々しいぞ」 「ケダモノ……!」 欲情をあらわにする魔人を、百合子がキッとにらみつける。 「私には夫がいるのよ。それを、平気で汚すつもり!?」 「人間どもの『貞操観念』とやらか。なに、気にすることはない。亭主の短小チ×ポなどすぐに忘 れさせてやる」 「やめてっ!」 エルシオンが剣を手に突進する。 憧れの女性がこれ以上、侮辱されるのは耐えられなかった。魔人と自分との実力差は分かってい たが、走らずにはいられなかった。 「第二段階マギ開放──」 百合子が教えてくれた術を放とうと、聖剣を振り上げる。黄金の刃に青白いエネルギーが収束し ていく。 だが、術を放つまでのタイムラグを魔人は見過ごしてくれなかった。 「邪魔をするな、小娘」 カラミティエッジ──斬撃が衝撃波を生み、美少女騎士を弾き飛ばす。 「その子に手を出さないで」 百合子がうめいた。 「私があなたの相手をするから──」 「ふん、最初から素直になればいいんだ。それじゃ、股を開いてもらおうか」 「!」 「自分からオマ×コを広げて、おねだりするんだ。スサノオ様のチ×ポを突っ込んでください、と な」 「馬鹿な……言えるわけがないわ」 「言うんだよ。大切な仲間を護りたいならな」 トロメアが倒れたエルシオンに視線を走らせる。 瞳子の胸が、引き裂かれるように痛んだ。 自分のせいだ。 自分のせいで、トロメアが苦しめられている。 本来なら勝てるはずの相手に、信じられないほどの屈辱を強要されようとしている。 「駄目よ、百合子さん」 エルシオンが叫んだ。 「あたしのせいで……そんなやつに従わないで」 そのとき百合子が向けた表情を、瞳子は一生忘れないだろう。 百合子は微笑んでいた。 あまりにも儚く、あまりにも切ない笑みだった。 そしてそれは──瞳子が最後に見た、百合子の微笑だった。 「感動のシーンはもういい。そろそろ凌辱の宴を始めるぞ」 スサノオが傲然と言い放つ。 「くっ、あなた程度の魔人に、この私が……!」 大きく開脚したまま、神聖騎士は両肩を震わせた。信じがたいほどの屈辱のせいか、トロメアの 美貌は血の気を失っている。 「悔しいか?自分よりも数字の劣る相手に敗北するのは」 「下衆め……!」 「ははははは、心地いいぞ。最高だ、神聖騎士!それでこそ犯しがいがあるというものさ!」 魔人の口元が愉快げに釣りあがった。 「そら、おねだりしろ。あまり待たせるようなら、先にそっちの小娘から犯してやってもいいんだ ぞ」 さすがに百合子の顔色が変わった。 「待って、言います!言いますから……」 コスチュームの股部分に自ら指を食い込ませる。渾身のマギを込めているらしく、バチバチと白 い火花が散った。 やがて衣装の一部が破れ、その下のショーツが露出する。黒系統のセクシーな下着は、妖艶な百 合子の肢体によく似合っていた。 「す、スサノオ様の……」 トロメアの唇が血の気を失い、蒼白になっている。 「チ×ポを突っ込んでください……この子にだけは手を出さないで、お願い……」 「ふふ、よく言えたな」 スサノオが舌なめずりをする。 「なかなか色っぽい下着をつけているじゃないか。最後の一枚は俺が脱がしてやる」 無骨な指がショーツの縁にかかる。 びり、と音を立てて、黒い下着が取り去られた。 むき出しの股間を、スサノオはよだれを垂らさんばかりの顔でのぞきこんだ。 「人妻にしては綺麗なオマ×コをしているな。形も崩れていないし、色も美しい」 「くっ……!」 薄汚い魔人に、自分の最も秘められた場所を品評される屈辱で、トロメアの頬が紅潮した。 無骨な指が鮮やかな赤に色づいた性器に触れた。 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