魔法戦士シンフォニックナイツ「ジャミング」
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シチュエーション


「皆さん、ここは危険です!どうか避難してください!」
「私たちは二人、とても貴方たちを守りきることは出来ないのですっ」

とにかく彼らをこの場から逃がさねば。
その一心でリリーとシュガーは男たちに呼びかける。
だがその返事として帰ってきたのは眩いフラッシュの光とシャッター音の嵐だった。

「か、格好いい!」
「それに可愛い!シンフォニックリリーにシンフォニックシュガーか、名前覚えたぞ!」
「うお、怪物の死骸がいっぱい…あのコたちが倒したのか?」
「すげえ、強いんだな!」

初めて目にする魔法戦士の姿を記録媒体におさめながら、男たちはワイワイとざわめく。
まるで避難する気はないようだった。
いや、それどころか更に包囲の輪を縮めようとしている気配すら見せている始末だ。
流石に下魔たちの存在にビビッているのか、戦闘の邪魔になる領域にまでは近づいてはこないのが唯一の幸いではあるが。

「くっ…ファルケ!」
「おいおい、そんなに睨まないでくれよ。こういっちゃなんだが、俺は書き込みをしただけだ。
それによって彼らがここに現れたのは自己責任、そうだろう?それに…他人の心配をしている暇はあるのかな?」
「え…」

ファルケがくすりと笑ったのと同時に今まで微動だにしていなかった下魔たちが動き出した。
今までの及び腰っぷりが嘘のように統制された動きで魔物たちは一直線に走り出す。
勿論、その狙いの先はシンフォニックナイツの二人だ。
宣言通り一般人には手を出さないつもりらしく、自分たちだけを狙ってくるその動きに莉々奈は僅かな安堵を得る。

「莉々奈さん!」
「ええ!」

相棒の声を受けてリリーはレイピアを構え、迎撃に跳躍する。
闇夜の下に、ふわりと舞う少女の肢体。
下魔の爪がリリーの身体を引き裂こうと襲い掛かるが、少女は危なげなくそれをかわす。
かわしざまにレイピアを一閃。
その一撃は魔物の胸を深々と切り裂き、怪異の身体から血が噴出する。
それを見ていた男たちは大騒ぎだ。
格好いい、強い、頑張れ!といった賛辞と応援の声が耳に届き、莉々奈は感謝と戸惑いを覚えた。

(応援してくれるのは嬉しいのだけれど、す、少し恥ずかし……ッ!?)
「ギアッ!」

能天気なギャラリーたちにふと気を抜いた一瞬、背後から別の下魔が無防備な背中へと襲い掛かる。
唯一の武器であるレイピアは突き出した状態の為すぐには手元に引き戻せない。
だがリリーは慌てず、腰を捻ると流麗な動きで右足を跳ね上げる。

「やっ!」

すらりと健康的に伸びた艶かしい足をみせびらかしながら少女の脚が下魔の顔面を捉える。
ハイキックをモロに受ける形になった下魔は堪らず後退した。
追撃のチャンス――!
リリーは足を下ろしてレイピアを構えなおそうとし、しかし次の瞬間聞こえてきた声に硬直した。

「うおっ、パンツ丸見えだぜ!」
「……えっ!?」

歓声のようなその声に、莉々奈は反射的に視線を己の下半身へと落とす。
頭の位置まで振り上げた右足のせいで、短いスカートが盛大に捲れ、中身が露出していた。
むっちりとした太腿も、その付け根にある薄桃色の下着も、開脚という恥ずかしい格好で全て見えてしまっていたのだ。

「きゃッ!?」

慌てて足を降ろし、スカートを押さえるリリー。
だが魔物は乙女の恥じらいを意に介することなく、隙を見せた敵に猛然と襲い掛かる。

「くっ…」

どうにか間一髪でその攻撃を回避したリリーだったが、息もつかせぬ連続攻撃が続けざまに襲い掛かってくる。
攻撃の隙がなく、とにかく回避を優先とばかりに魔法戦士の少女は地面を跳ね回る。
だが、その激しい動きによって短いスカートはひらひらと舞い上がり、その中身を周囲の人間に披露する羽目になってしまう。

「パンチラキター!」
「あの短いスカートは反則だよな。モロ見えじゃんか」
「それに見ろよ、あの下着、よく見れば凄い大胆なデザインだぜ」
「やぁ……っ」

周囲から聞こえてくる卑猥な会話にリリーは耳まで赤く染めて動揺する。
こういう時、どんな小さな音でも捉えてしまうほど強化された己の耳が恨めしい。
だが、攻撃がやまない以上動きを止めるわけには行かない。
リリーは時折反撃をまじえつつ、露出する下着に恥じらいながら戦い続ける。
その動きには、最初の頃よりも明らかにぎこちなさが加わっていた。

「莉々奈さんっ……くぅっ」

それを見ていたシュガーはなんとか彼女の援護をしようと試みる。
だが、仲間に気を取られていた魔法戦士を彼女と相対していた下魔は容赦なく襲う。
頭上から振り下ろされる強烈な一撃。
シュガーはかろうじてそれに反応したものの、回避は不可能と判断し、両手のボールで爪を挟み込むようにして攻撃を受け止める。
ザザザ…ッ!
いくら身体能力をスーツや魔力で強化しているといっても、元はかよわい女の子の菜々芭。
なんとか爪の一撃は受け止めたものの、力負けして後方に鍔迫り合いの状態で押しやられてしまう。

「おい、あっちも見ろよ!もうちょっとで見えそうだぜ!」
「うはっ、お尻をあんなに突き出して…」
「見えそうで見えない、チラリズム万歳!」
「えっ……あっ、ああっ?」

自分に向けられる声に後ろを振り向いたシュガーは狼狽の声を上げる。
爪の圧力に耐えるために、いつの間にか腰を下ろして両脚を大きく開いた体勢になってしまっていたのだ。
それは確かに後ろから見ればお尻を突き出しているように見える状態だった。
リリーと違い、シュガーのスカートはタイト型なので多少激しく動き回ったとてめくれる心配はない。
しかし、タイト故に腰を落として両脚を開いた姿勢になると、スカートがずり上がってしまうのだ。
かろうじて下着は露出していないようだったが、男に見られるには恥ずかしい格好なのは間違いない。
パシャパシャとシャッター音が鳴り響き、フラッシュ光がシュガーの下半身を覆う。
恥ずべき格好を記録された少女魔法戦士は羞恥に頬を赤らめた。

「ククッ、可愛いものだな……」
「彼女らも花も恥らう乙女なのですから、当然の反応ではあるのですが」
「ま、その通りではあるんだけどね」

ファルケとヘルメはシンフォニックナイツへとの攻撃を下魔に任せて観戦と洒落込んでいた。
魔法戦士二人は遠巻きに周囲を取り囲む男たちの視線を気にして動きに精彩がない。
一応生死をかけた戦いの最中だというのに気楽なことだ、とファルケは半分呆れながらも少女たちの恥じらいを楽しむ。
既に幾度となく自分たちにその柔肌を犯されているというのに、相変わらずシンフォニックナイツは清純な少女そのものだ。
まあ、羞恥心のない女など興ざめだし、今回の作戦は彼女らが純情な乙女だからこそ意味があるのでむしろ喜ぶべきことではあるのだが。

「しかし人間というものは愚かしいものですね。自分たちに被害が及ぶとは考えていないのでしょうか?」
「野次馬ってのはそんなもんさ。それに、今回の作戦ではそれくらいバカな奴らのほうがいい」
「確かに。彼らがいるからこそシンフォニックナイツの勝利は遠ざかっている」

眼鏡をキラリと光らせながらサラリーマン風の格好の上魔はウンウンと頷く。
視線の先では集まった男たちが無邪気にシンフォニックナイツに声援を送っている。
だがそれは、純粋にヒロインを応援しているわけではなかった。
勿論全くその気がないというわけではないのだが、彼らからすればそれはアニメの中のヒロインに声援を送るのと大差のない行為だ。
凛々しく戦う魔法戦士も、無残にやられる下魔も、彼らにとっては非現実の世界でしかない。
ハッキリと現実として目にしているにもかかわらず、彼らは自分らを完全な第三者としてとらえている。
だからこそ、すぐ傍にある危険を感じることも出来ずに場に留まり続けているのだ。

(だが、シンフォニックナイツからすれば、彼らはただの一般人でしかない)

周りにいるのが無力な一般人である以上、シンフォニックナイツは彼らを気にする必要があった。
だがそれは戦闘からほんの僅かであれ気を散らすことを意味する。
流石に戦闘に支障をきたすようなことはないが、彼女らの思考にはしっかりと周囲の男たちの存在が根付いているはずだった。

(一度気にしてしまえばその存在は頭から離れない。そして、それだけならばまだしも……)

男たちはただの一般人ではあるが、彼らは今までのようなたまたま巻き込まれただけの被害者ではない。
自発的に、自らの意思でこの場にやってきているのだ。
戦う魔法戦士の少女たちを目にし、その姿を記録するために。
そしてそれは今のところ狙い通りの効果を発揮しつつあった。
清純な乙女であるシンフォニックナイツからすれば、応援はともかく、自分たちの身体に絡みつくような色欲の視線は毒になっているはず。
まあ、元々彼女らの衣装は肌の露出が多く、健康的な男ならば目を取られて当たり前なのだから自業自得ともいえなくはない。
とはいえ、折角ギャラリーがわざわざ足を運んで来てくれたのだ。
その労いはしてやらねばならないだろう――と、ファルケはゆっくりと手をかざした。

「それではそろそろ始めるとしよう―――ジャミング、発動!」

「やあっ!」

ズバシュッ!
レイピアの剣閃が下魔の一体を小さく切り裂く。
踏み込みが足りないため、剣に威力を込められないのだ。
別に疲労があるというわけではない。
だが、大きく動作すればするだけスカートが翻り、その中身を晒してしまう。
それは年頃の女の子である莉々奈にとっては恥辱以外の何者でもない。
しかし、周りにはその瞬間を待ち望む多くの異性がいる。
普段の戦いでは気にすることなどありえないはずのことに、少女は翻弄されていた。

「エンシェント・ファイヤー!」

リリーの掌から炎の球が発射される。
魔力によって生み出された必殺の火球は下魔の一体を飲み込み、爆散させた。
爆風が黒焦げになって沈黙した魔物を中心に広がり、シンフォニックリリーのスカートを煽る。
その魔法の威力と少女の下着の開帳に、男たちがワッと沸きあがった。

「きゃあっ……お、お願いです。どうか、皆さん避難を!」
「凄い、凄いよシンフォニックリリー!」
「ああ、まさか本物の魔法戦士を目にする事が出来るなんて」
「しかもパンチラいっぱいでサービス満点だし、サイコーだね!」
「ちっ、違います……これは、サービスなんかじゃ……」

莉々奈の弱々しい抗議が響くが、男たちは意にも介さない。
確かに、魔法戦士のスーツは大胆なデザインをしている。
スカートは少しめくれ上がっただけで中身を露出してしまうほど短いし
スーツは身体にフィットする造りになっているため柔肌のラインがモロにでている形だ。
胸元は大きく開いているし、リリーの場合可愛らしいおへそまでが露出している始末。
下着に至っては通常のものよりも明らかに小さく、莉々奈の清純そうな雰囲気に反して、なんともいえない色気を醸し出している。
だが、それは決して彼らがいうような破廉恥な目的でデザインされたわけではない。
自分たちの先駆者たる魔法戦士、スイートナイツを模しているだけ。
下着とて、ただ動きやすさを追い求めた結果小さなものになってしまっただけなのだ。

(なのに……こんな、いやらしい目で見られてしまうなんて…っ)

いかに初心な莉々奈とて、周囲の男たちが自分をいやらしい目で見ていることくらいは分かる。
だが、それは魔法戦士としてはまるで想定外のことだった。
まさか正義のために一生懸命に戦う自分たちをいやらしい目で見る人間がいるなどと想像するはずもない。
けれども、現実として男たちの視線は自分の身体に集まっている。

理性ではわかってはいるのだ。
視線など無視して戦うべきなのだと。
今は生死をかけた戦いの真っ最中、しかも今は周りに無力な一般人たちがいる。
もしも自分たちが負ければ、彼らは魔物たちに殺されてしまうかもしれない。
そう考えれば、恥じらってばかりなどいられるはずがない。
だが、一人の女の子百合瀬莉々奈としてはどうしても羞恥心を捨てきれなかった。
正義感と羞恥心が葛藤となって、正義の魔法戦士の動きを阻害する。

「ハアッ!あと、七体……!」

それでもリリーはなんとか下魔を屠っていく。
多少動きが落ちたとしても、下魔と魔法戦士では基本スペックが違う。
恥じらいによって効率こそ落ちても、それが敗北に繋がることはなかった。

(待っていなさい、ファルケ。すぐに貴方を…!)

下魔の後ろに控える諸悪の根源を睨みつけながらリリーは一旦距離をとる。
見れば、シュガーも下魔を一体撃破した様子だった。
これで残りは六体、まだファルケと上魔が控えてはいるものの、余力は十分。
周囲の人たちを人質に取られないよう気を配りながら、リリーは油断なくレイピアを構える。

「莉々奈さんっ」

そこにシュガーが合流してくる。
彼女にも怪我はなく、消耗も大してしている様子はない。
このままならばいける――!
と、その瞬間。

「おおーっ!!」

大きく場がどよめいた。
見れば周囲の男たちが興奮して撮影機器を構え、狂喜乱舞しているではないか。
一体何が?
突然の事態にリリーもシュガーも困惑する。

「……え?な、菜々芭ちゃんっ!?」

だが次の瞬間、莉々奈はその原因に気がついた。
相棒たる魔法戦士、シンフォニックシュガーの姿に異変が起きていたのである。
そう、彼女の下半身を覆っているはずのスカートが、いつのまにか消失してしまっていたのだ。

「莉々奈さん、どうし……なっ、え……あ!?」

莉々奈の視線を追って目線を下げたシュガーは困惑の声を上げた。
そこに見えるのは、つい先程まであったはずのスカートが消失し、露出した黒のパンティストッキングに覆われた自身の下着。

「い、いやっ…!見ないで、ください…っ」

突然の下半身の惨状にシュガーは慌てて手に持っていたボールで前後を覆い隠す。
だがそれよりも先に男たちの構えていたカメラはシャッターを切っていた。
パシャ!カシャッ!
薄いパンストに覆われた純白の下着が容赦なく記録媒体に保存されていく。

「こ、これはいったい……あっ、り、莉々奈さんのスカートも!?」
「えっ……そ、そんなっ!?」

必死で下着を隠す菜々芭の目が、光の粒子になって消えていくシンフォニックリリーのスカートを捉えた。
意識する間もなく綺麗さっぱり消えさったスカートの下からは、やはり莉々奈の下着が覗く。

「や、やン……っ!」

リリーはたまらず下半身を隠すように地面へとしゃがみこむ。
だが、しゃがむだけでは前はともかく後ろからは下着は丸見えだった。
リリーの後ろに陣取っていた男たちが喝采を上げ、我先にとレンズを向ける。

「だ、駄目っ!撮らないで……くださいっ!」

慌てて後ろに手を回す莉々奈だったが、とても手だけでは隠しきれるはずもない。
両手の隙間からはぷりっとしたお尻が、薄桃色の下着に包まれている状態で晒される。

「うひゃっ!どうなってるんだいったい!?」
「なんかいきなりシンフォニックナイツのスカートが消えたぞ!?」
「そんなことはどうでもいい、撮れ撮れ!」

無数のレンズが少女たちの下着を写そうと迫ってくる。
リリーとシュガーはどうにかそれを避けようとするが、逃がさないとばかりに二つのライトが彼女たちを照らし出した。

「な……!?」

暗闇の中、眩い光がそれぞれの魔法戦士を捕らえ、その姿をはっきりと曝け出す。
見れば頭上のビルの屋上にあるライト投射機らしき機械が動いているではないか。

「ハハハッ、どうだい?お気に召したかな?」
「ファ、ファルケ!これは一体…」
「見ての通りさ。折角の活躍の場なんだ、ヒロインが目立つようにするのは舞台監督の役目だろう?」
「くっ、こんなことっ……」

シンフォニックナイツはライトの光を避けるべくその場を離れる。
だが魔法戦士を映し出す光は執拗にそれをサーチし、彼女たちの姿を捕らえて離さない。
機械を破壊しようにも、はるか頭上のビル屋上に取り付けられているためそれは叶わない。
恥ずべき下着姿を光の下に曝け出され、少女たちの羞恥心が煽られていく。

「そらそら、恥ずかしがっている暇なんてないぞ?」

状況がつかめず混乱する乙女たちに下魔が容赦なく襲い掛かった。
リリーはレイピアで攻撃を受け止め、シュガーは転がって回避する。
しかしそのいずれもが両手を下半身から離してしまうことになってしまったため、再度下着が周囲の目に晒されてしまう。

「くうっ……や、やあっ!」

下着を隠せない恥辱に耐えながらシュガーは転がり様攻撃を再開する。
わけがわからないが、もはやこうなってしまっては敵を素早く倒すほかない。
羞恥による焦りをまじえた攻撃が下魔を襲う。
攻撃は命中、だがその一撃は想定していたほどのダメージを与えてはいなかった。

「えっ……ど、どうして?」

攻撃力の突然の低下に戸惑うシンフォニックシュガー。
だがそれはリリーも同様だった。
いつもならばガッチリと受け止められるはずの攻撃がやけに重いのだ。

「菜々芭ちゃん!これは……」
「今調べ……え!?運動補正のリンク率が低下している?ち、違う、それだけじゃない……他の機能のリンク率まで!?」
「そんな……どういう……あッ、ま、また!?」

パアァッ――
魔法戦士二人のコスチュームが光に包まれると共に、またしてもスーツの一部が粒子となって消失する。
今度は胸元から上の上着部分だった。
少女たちの首元から鎖骨、そして肩に掛けての流麗なラインとなめらかな白い肌がライトの下で照らし出される。
と同時に、ヘッドホンからスーツ機能のリンク率の50%ダウンが報告された。
ここまでくれば莉々奈と菜々芭も事態を理解するほかない。
変身状態を維持するための、基地からのバックアップ――それが遮断されつつあるということを。

「そ、そんな……バックアップが遮断されるなんて……」
「な、菜々芭ちゃん、どうにか回復することはできないの?」
「無理です。恐らくはファルケの仕業だとは思いますが、機能が低下した今の状態では分析すらままなりません!
それどころか、基地との通信すら遮断され……八方ふさがりです」
「そんなっ……」

戦いのさなか、どうにか状況を覆すべく挽回の方法を話し合うシンフォニックナイツ。
リンク率の50%ダウンはそのまま保有する戦力の50%ダウンを意味する。
下魔との元々のスペック差を考えると、今だ魔法戦士のほうが有利ではあるのだが、状況は悪化の一途を辿っていた。
如何に戦闘力が上回っているといっても、急に半分に落とされた力では今までとは同じように戦えるはずもない。
一撃で倒せていたはずの敵に、二撃、三撃の攻撃が必要となったのだから。
また、低下したのは攻撃力だけではない。
防御力、身体能力、魔力……魔法戦士として戦うための全ての能力がスーツの消失と共に低下しているのだ。
加えて、肌の露出による年頃の乙女特有の恥じらいが戦闘へ臨む意識をかき乱してしまう。

「ギグアアアッ!」
「くっ……ヤッ、ハッ、タァッ!」

魔物の爪をすんでのところでかわし、リリーはレイピアを振るう。
一撃で駄目なのは既に承知の上なので数でそれを補おうという至極当たり前の戦術だった。
しかしその動きは華麗さこそそのままではあったが、明らかに動作速度が落ちている。
周囲で観戦している男たちにもそれは明確に理解できていた。
そして、動きが鈍ったということは魔法戦士たちの絵が捉え易くなった事を意味する。
躍動する乙女たちの一瞬が、次々と無責任な男たちの手によって画像として切り取られていく。

「すげえ、こんなのが撮れるなんて……」
「俺なんかビデオ用意してきたからな、一部始終はバッチリだぜ!」
「俺のデジカメはズーム機能があるから胸の谷間まで精密に映せるんだ。しかし、シンフォニックリリーはおっぱいでかいなぁ」
「ああ、Dは絶対あるぜ。彼女が動くたびにぶるんぶるん揺れるのがたまらねえ……」

正義のヒロインの強制ストリップという思わぬ艶姿の披露に、男たちはやんややんやの大騒ぎだ。
元より、魔法戦士の存在は初代魔法戦士であるスイートナイツの頃から噂になっていた。
だが、実際に魔法戦士を目撃できたものは少ない。
彼女たちは行動範囲が狭く、一般人はできるだけ巻き込まないように戦っているためだ。
特にシンフォニックナイツの場合、ミネルヴァ・ガードの力を使って情報・交通規制まで行っている。
噂レベルでの存在は確認されても、実物を見ることのできる人間は皆無に等しかったのだ。
しかし今、彼らの目の前では噂だけの存在であった魔法戦士が戦っている。
それも彼女らは噂にたがわぬ美少女たちで、魔法戦士の名前通り魔法を駆使していた。
これだけでも男たちからすれば垂涎ものだというのに、更に眼前で繰り広げられているのは半裸に剥かれて戦う少女たちの姿。
これで興奮するな、注目するなというほうが無茶な注文であった。

「いやっ……見ないでくださいっ……」

だが見られている莉々奈からすれば、男たちの言動は正視に耐えられるものではなかった。
異性の淫らな視線が自分に寄せられている。
そう自覚するだけで肌が火であぶられたように熱くなってしまう。
心優しい少女からすれば、恥ずかしいと思うことはあっても彼らを恨むようなことはできなかった。
ひょっとしたら、ファルケに操られているだけかもしれないのだ。
人の心を純粋に信じるが故に、リリーは男たちに嫌悪を感じることは出来ない。
だがそれは男たちにとって、そしてファルケにとっては好都合なことだ。
恥ずかしい格好をどうすることもできず、ただ目の前の敵と戦うしかない美少女戦士。
それは最高の被写体であり、狙い通りの結果なのだから。

「やぁッ!ふっ……たぁっ!」

レイピアを振るうたび、回避のステップを踏むたびに今だスーツに包まれた大きめの双乳が弾む。
魔法戦士のスーツは体にフィットする形になっているため、激しく動き回れば当然胸は揺れてしまう。
更に、今現在リリーの上着は消失し、胸元のリボンも消えてしまっている。
胸に残されているのはピッタリと肌に張り付くように身に着けられた青のスーツだけ。
そのスーツですら、胸元を強調するようなデザインが乳房の柔肌を三分の一ほど露出させている。
いわば、今のリリーの胸元はバニーガールのそれに近い。
それによって今まで注目を集めるほどには目立っていなかった胸部が男たちの目を集め始めてしまったのだ。

(お、お願い……胸、揺れないで……ッ)

自分の胸が見せる淫らな動きに莉々奈は頬を染める。
女性としては魅力的ともいえる豊かなバストが今、男の衆目を集めている。
それはグラビアアイドルでもない莉々奈にとってはとてつもない恥辱だった。
どんなにそのまま動かないでいて欲しいと願っていても、たっぷりと実の詰まった乳房は動きと共に上下左右に揺れ動いてしまう。
恥ずかしいのは胸だけではない。
依然として下着を曝け出されたままの下半身も羞恥の対象だった。
大事な部分は見えていないとはいえ、下着を光の下で晒しながら動き回るなど少女にとっては苦行にも等しい。
どうにか下着を隠そうと内股になってしまうが、下魔の猛攻を前にそんな儚い抵抗など続けられるはずがない。
足を動かすたびに自然と足が開き、腰がくねり、薄桃色のパンティが衆目に晒される。
そして莉々奈は気がついていなかったが、彼女の下着は淫らな変化を見せ始めていた。
度重なる激しい動きと、運動による発汗。
それによって、自然とパンティが水分を吸って縮み、肌に張り付き、激しい動作によって捩れていく。
ただでさえ小さめだった布地はピッタリと股間に張り付き、柔らかな恥丘の膨らみを、その中央のすじをくっきりと浮かせ始める。
また、後ろのほうもやや食い込み気味に縮んだ布地がお尻の割れ目を官能的に見せていた。

「うは……すげえエロい……」
「来てよかったぁ」

双眼鏡、あるいはズーム機能を持つ記憶媒体を持っている男たちのうっとりしたような声が小さく響いた。
目には見えない淫気が場に広がっていく。
下魔たちは自分たちが好む空気が流れていることに歓喜し、活力をみなぎらせる。
対して、純情可憐な乙女たちはその空気に戸惑うほかない。

「―――バスター・フレイムッ!」

必殺の魔法がレイピアの剣撃で弱っていた下魔の一体を飲み込んだ。
多少魔法の威力が下がっていようとも、これには下魔も堪らずその身を塵に帰していく。
莉々奈は生命を殺めたことに悲しみを覚え、それでも今が戦闘中であるがゆえに再び剣を構えた。

(あと、五体……問題は、ファルケと上魔)

宣言通り、下魔たちが周囲の人間を襲うことも人質に使うこともないため、今のところはシンフォニックナイツ側に優位な状況だった。
しかし肌を大きく露出したままの戦いは依然として慣れない。
そんな場合ではないと頭では分かっていても、乙女の恥じらいはどうしても言うことを聞いてくれないのだ。
だが、そんなことを言っていられるものあと僅かであろう。
下魔だけならばともかく、ファルケと上魔が加われば間違いなく不利になるのは自分たちだ。
普段ならばこちらのほうが戦力的には有利だが、今はスーツの機能が低下している。
今のまま戦闘になれば、スペック的には五分、あるいは負けている可能性が高い。
いつ彼らが戦闘に参入してくるかは不明だが、そうなった場合には苦戦は免れない。
目の前の下魔、周囲の視線、そしてファルケたちの動向。
三方向に気を配らざるを得ないシンフォニックリリーの精神力は、徐々に消耗していた。

「ククク……苦戦しているようだね、シンフォニックリリー」
「ファルケ…!」

そして遂に司令官であるファルケが動いた。
隣にいたヘルメをシュガーのほうへと向かわせ、自身はリリーと対峙する。
リリーのみならず、周囲の男たちもボスらしき男の出現に総じて息を呑む。

「色っぽい格好だね」
「す、好きでこんなはしたない格好をしているわけではありません!ファルケ、一体私たちに何をしたのですか!」
「聞かれてそう簡単に答えるとでも?それに、もう大体当たりはついているんじゃないのかな?」
「……卑怯です!こんなことをせずに、正々堂々と」
「戦えって?おいおい、俺は君がいうところの悪だぞ?悪人が正々堂々と戦ってどうするよ」

やれやれ、と肩をすくめ半裸の肢体を見つめてくるファルケに、リリーは思わず身体を両手で覆ってしまう。

「くっ……お、女の子をこんな格好にして、こんなこと、恥ずかしくないのですか!?」
「恥ずかしいのは君たちのほうだろう?それにしても扇情的な格好だ。思わず俺も興奮しちゃって……ほら」

スキンスーツの下腹部を指さし、ファルケは自身の猛りを莉々奈に見せ付ける。
男性の勃起した象徴を思わず目にしてしまった正義の少女は、戦場にいるというのに反射的に恥ずかしさから眼をそらしてしまう。

「……っ!?そ、そんなもの、見せないでください!」
「そんなものとは失礼だね。大体、君のような美少女がそんな姿を晒しているというのに、こうならないほうがおかしいさ」

なあ、と同意を求めるようにファルケは周囲の男たちへと視線を向ける。
男たちは頷きこそしなかったものの、皆一様に下半身を隠すように腰を引かせた。
それは彼らがファルケと同じく勃起をしてしまっているという証拠だ。

「な……そんな、皆さんが私の姿を見て……う、嘘です!」
「信じたくなければそれでもいいさ。でも一応言っておくけど、彼らにはなんの魔法も使ってない」
「し、信じられません……!」

否定の言葉を口にするも、その声は震えてしまっていた。
こうして明確に男の欲望を突きつけられてしまうのは清純な魔法戦士にとって毒でしかなかった。
守るべき市民たちのドス黒い欲望を目の当たりにし、動揺に瞳が揺れる。
しかしそんな魔法戦士の少女の心の乱れを意に介さず、ファルケは更なる恥辱を少女に与えるべく手をかざした。

「さて、次はどちらがいい?上半身かい?それも下半身かい?好きなほうを選ぶといい」

自分へと差し向けられた男の掌に莉々奈の身体がビクリと震える。
ファルケが言っているのは、間違いなく例のスーツ消失の力についてだ。
つまり、彼は半裸では飽き足らず、完全に自分を裸に剥いてしまうつもりなのだ。

(そんな……これ以上脱がされたら、もう……)

動揺を隠すようにレイピアを構えるが、無意識のうちに胸と股間を庇うようなへっぴり腰になってしまう。
リンク遮断を防ぐ方法が現状で存在しない以上、ファルケの行動を止める方法はない。
唯一あるとすれば目の前の敵を倒すことなのだが、力を使わせる間もなく倒すのは不可能といっていい。
それでも、リリーは一縷の望みを託してレイピアを大きく振りかぶった。
一撃必殺、選択肢はそれしかない。

「ジャミング」

だが、シンフォニックリリーが動き出すよりも早くその言葉は紡がれてしまった。
魔法の発動と共に、不可視の力がリリーと基地のバックアップを遮断しようと展開を始める。
パァッ―――
胸元が光るのを感知するが、リリーにそれをどうにかする方法はなかった。
上半身を覆っていた青のスーツが、光の粒子となって消えていく。

ぷるん、と白光の下に何一つ覆い隠すものがなくなった生乳が晒された。
標準よりも明らかに大きめな二つの果実がその大きさを誇るように上下に揺れる。
覆うものがなくなったにもかかわらず、型崩れせずにツンと整ったまま少女の母性の象徴が男たちの目に晒された。
乳房の中央では、フレッシュピンクの蕾が外気に怯えるようにぴくんと震えていた。

『うおおおおおおっ!!』
「あっ―――きゃ、きゃあああああッ!!」

男たちの地が震えるほどの歓声が場に轟く。
莉々奈は振り上げていた両腕を下ろし、胸元をかき抱くようにして隠し、ぺたんとしゃがみこむ。

「見たか今の!?」
「見た見た、生オッパイとか始めてみたよ俺!」
「やべえ、もうここでオナニーしてぇ……」
「だ、だめっ……こっちを、こっちを見ないでください!」

男たちの視線に怯えるように両腕をぎゅうっと硬く組み合わせるシンフォニックリリー。
だがその行動は男たちの更なる興奮を呼ぶことになる。
少女の細腕では豊かに実った乳房全てを覆い隠すことはできない。
押し付けられた腕のすぐ傍からは胸肉がむにゅっとはみ出てしまうのだ。
更に、組まれた腕の中央では寄せるような形になっている胸の谷間がクッキリと見えてしまう。
依然ライトは光量を全開にして稼動しているため、そんな少女の艶姿は衆目の前に露わになっていた。

(や…ン……ッ!ファルケや、男の人に私の胸が見られて……ッ!?)

恥ずかしさに震える魔法戦士だが、敵は待ってなどくれなかった。
いつの間にか背後に忍び寄っていた下魔の一体が大きく腕を振りかぶっている。
空気を切り裂く音に、莉々奈は反射的に身を横へと投げ出していた。

「キャッ!」

ごろごろと地面を転がるように怪異の攻撃を回避するシンフォニックリリー。
だが続けざまに他の下魔が窮地の魔法戦士に襲い掛かる。

「くうっ……あッ!?」

なんとかレイピアで応戦するものの、更なるリンク率の低下によって戦闘力が下がっていたため、思うように防御ができない。
胸を隠すように構えていたレイピアが腕ごと弾き飛ばされ、再び隠すもののなくなった柔胸が曝け出されてしまう。
ぷるるんっ、と反動で裸の胸が揺れ弾む。
だが既に、再びそれを両手で隠す余裕など莉々奈にはなかった。








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