魔法戦士シンフォニックナイツ「ジャミング」
-3-
シチュエーション


「フローティング・ハンマー!」

主の指示に従って二つのボールが下魔を襲う。
威力こそ通常時よりは落ちるものの、的確に急所を突いた一撃が目の前にいた魔物を沈黙させる。
シンフォニックシュガーは対象の戦闘不能を確認すると、すぐさま安全圏へと離脱。
残りの下魔を油断なく見据えながら相棒の様子を探る。

(莉々奈さん、苦戦してる……早く、助けに行かないと…!)

基本的な戦闘力はリリーよりも低いシュガーだが、スーツ消失による戦闘力の低下状態においては彼女のほうが上手い戦いを見せていた。
元々、シュガーは計算やデータによって戦う理詰め型の戦闘スタイルだ。
リリーが恵まれた戦闘センスで押すのに対し、彼女は弱点や一瞬の隙を突く効率タイプ。
それゆえに戦闘力低下による動揺も少なく、また力が落ちているならそれなりの戦い方を瞬時に選択できる頭脳を持っている。
だからこそ、小柄な魔法戦士はリリーほどの苦戦は強いられてはいなかった。
しかし―――

「頑張れ、シュガーちゃぁんっ」
「あ、こっち向いて!ここからじゃあお尻しか取れないよ」
「それにしても可愛いなぁ、俺一目でファンになっちゃったよ」

時折聞こえてくる周囲の声が善戦していた菜々芭の動きを鈍らせてしまう。
莉々奈と比べ、菜々芭は他人に注目されることに慣れていない。
幼少の頃から向けられる視線といえば自身の才能に対する羨望や嫉妬、あるいはそれを利用しようとする醜い欲望ばかり。
そこに甘樹菜々芭という一人の女の子を見てくれる人間はいなかった。
そう、莉々奈と出会うまでは。

「み、皆さん。危ない……ですっ!避難を……」

動きの鈍った魔法戦士を二体の下魔が左右から挟み撃ちにする。
これにはシュガーも回避で手一杯になるしかない。
なんとか襲い来る魔手をかわしながら、少女は懸命に避難を呼びかける。
だが男から返ってくる返事は自分に対する声援ばかり。
どうして危険だということを理解してくれないのか。
物事を論理的に考えてしまう菜々芭は周囲の男たちの無知ぶりが理解できない。
それだけではない。
彼らはどういうことか、自分を性欲の対象として見て来るのだ。
これが莉々奈だというなら話は分かる。
彼女は美人で、プロポーションも抜群。
男が目を引かれてしまうのも無理はない。
だが、それに対して自分は背も小さく、肉付きもよくないし胸は控えめでお尻も大きくはない。
なのにどうして彼らは自分をあのようないやらしい視線で見つめてくるのか。

想像だにしていなかった状況に混乱する菜々芭。
だが男たちからしてみれば、菜々芭は十分な美少女であり、被写体としては申し分ない。
確かにリリーと比べれば女性としての魅力は乏しいかもしれないが、未成熟な外見ゆえの魅力というものがある。
小さい胸も、ほっそりとした体躯も、どこか庇護欲をそそる雰囲気も男たちから見れば魅力的に映るのだ。

「ああっ……お尻、撮らないで……カメラ、向けないで、ください……ッ」

無数のシャッター音を聴覚が捕らえるたびに、小柄な魔法戦士の頬が赤みに染まる。
理由が分からなくとも、一人の女の子である以上自分のはしたない姿を見られて平気でいられるはずがない。
感情をコントロールして、意識しまいとしていた羞恥心が徐々に少女の心の中で首をもたげてくる。

(いけない……これでは、ファルケの思う壺、なのに…)

意識が散り、それに伴って動きが更に鈍っていく。
こうなってしまうと元々運動能力の低い菜々芭は防戦一方だった。
余裕を持ってかわせていたはずの攻撃が、すんでのところでしかかわせなくなってしまう。
地面を転がり、ステップを大きくするなど大げさな動きを多用せざるを得なくなるシンフォニックシュガー。
しかしそれは周囲を観戦者たちにはごちそうだった。
何せ魔法戦士が動けば動くほど彼らのシャッターチャンスは多くなっていくのだから。
ストッキングに包まれたお尻が可愛くぷりっと弾み、その下の下着がクッキリと浮かび上がっていく。
小ぶりな二つの柔胸が、健気に右へ左へとぷるぷると揺れる。
そのたびにフラッシュが走り、少女の恥態がメモリーに収められていってしまう。

「もっとこっちにお尻突き出してくれないかなぁ」
「けどあの格好ヤバクネ?黒ストだぜ黒スト。あのロリな身体であれは反則だよな」
「うむ、しかもあのすぐ上にチラリと見えるおへそがまたアンバランスでいいな。マニアックなエロスが……」

好き勝手に自分の姿を批評する男たちにシュガーは頬を染めることしか出来ない。
今の自分の格好は確かに扇情的だった。
透けるほどの白い肌が、ライトに照らされて幻想的に照らされている。
下はスカートを消され、ストッキングとその下の下着が大事な部分を守るのみ。
上は青のスーツが今だ健在ではあるものの、その上に羽織っていた白のガウンは消えている。
肩から二の腕にかけては素肌が完全に露出してしまい、やや寂しめの胸元も上部が見えてしまっていた。
ストッキングのすぐ上の部分も消えてしまっているため、可愛らしくちょこんと鎮座した小さなおへそも丸見えだ。
莉々奈と比べれば露出はまだ少ないほうだが、恥ずかしい姿であることには変わりはない。

(ダメ……!莉々奈さんだって、戦っているのに……私だけ恥ずかしがっているなんて……)

なんとか爪の一撃をかわし、下魔の懐に潜ったシュガーはこの好機を逃さないとばかりに攻撃を相手の鳩尾に打ち込む。
急所への一撃に苦しげな表情を浮かべる下魔。
このままトドメを―――!
菜々芭は魔力を掌に集め始める。

「フロ―――!?」

必殺の一撃が放たれようとしたその瞬間。
背後に下魔を遥かに上回る魔力反応が発生した。
咄嗟に顔を後ろに向けるシンフォニックシュガー。
だが、それよりも早く背後の存在―――ヘルメは行動を起こす。
ツゥッ、フゥゥッ……

「ひあああぁぁッ!?」

ゾクゾクゾクッ!
背中を指でなぞられ、耳に吐息を吹き込まれる感触が魔法戦士を襲った。
集中の高まっていた身体は敏感に反応し、背筋をビクンッと震わせる。
当然打ち放たれようとしていた必殺技は集中を乱されてキャンセルさせられてしまう。

「ほら、逃げるんだ」

攻撃がこないと見てとった下魔がヘルメの声を受けて慌てて後退する。
シュガーはハッと我に返るも後の祭りだった。
しかし至近距離に敵がいることには変わりはない。
華奢な細腕が人間に化けた上魔を振り払うべく振るわれる。
だが、スーツの機能が半分以下に低下した状態でのその一撃はあっさりと受け止められてしまう。

「くっ……」
「全く、危ないですね。こんなに細い腕を無闇に振るって、怪我でもしたらどうするのです?」

ねろぉ…
手袋に包まれた手をヘルメの舌が伝う。

「ひっ……は、離してッ!」

自分の手を這う生暖かい感触に、シュガーは嫌悪感を露わにする。
拘束を渾身の力で振り払い、小柄な魔法戦士は舐められた手を押さえながらすかさず距離をとった。

(いけない……上魔に参戦されると、圧倒的にこちらが不利になってしまう…!)

ニヤニヤとこちらを見やってくる上魔に警戒を向けながら、シュガーは懸命にこれからの戦闘の方策を考える。
自分のほうに回ってきている下魔は二体。
しかし今それに加えて指揮官である上魔が加わってしまった。
リリーと協力すればどうにかなるのだが、彼女とは分断されてしまっている状態だ。
なんとか、リリーと合流しなければ……

『うおおおおおおっ!!』
「あっ―――きゃ、きゃあああああッ!!」

視線を敵に向けながらも、リリーの気配を探ろうとしたその刹那。
頭に思い浮かべていた凛々しい親友の悲鳴と男たちの歓声が菜々芭の耳を貫いた。
慌てて視線を声の方向へと向けてみれば、莉々奈が剥きだしにされた胸を押さえながら蹲っている。

「莉々奈さんっ!!」

また例の力を受けてしまったのか。
助けなければ―――!
自分のおかれた状況を忘れてシュガーは仲間を助けるべく身体の向きを変える。
だが、その行く手を遮るように二体の下魔が回り込み、進路を妨害する動きを見せる。

「そこを……通してっ!」

仲間を想うが故にシュガーは彼女らしからぬ直情的な思考でまっすぐに下魔たちに突っ込んでいく。
だがフェイントも戦術計算もなされていない動きでは統率の取れた下魔たちには通用しない。
スーツの消失で戦闘力が落ちているのならば尚更だ。
案の定、蹴散らすつもりで突っ込んだシュガーは、逆に攻撃を跳ね返されて後方に吹き飛ばされ尻餅をつかされてしまう。

「あう…ッ」
「ふふふ、仲間を心配するあまりに冷静を欠く。正義の魔法戦士としてはそれは正しい行動なのでしょうが……」
「そこを、どきなさいッ!」
「おお怖い。しかしどくわけにはいきませんよ、通るなら実力で……まあ、それができれば、の話ですがね」

上魔の掌がゆっくりと倒れこんだシュガーに差し向けられる。
M字に脚を開き、お尻を地面につけたこの状況では攻撃はかわせない。
そう判断した魔法戦士の少女は両手を前にかざして防御体勢をとる。

「フフフ……心配しなくとも、これは攻撃魔法ではありませんよ」
「え―――」
「もっとも、これはある意味では攻撃魔法なんでしょうけどねぇ」

含み笑いをしながらヘルメはチラリとリリーのいる方へと視線を向ける。

「あ……っ?」

その視線の意味を悟ったシュガーは狼狽の声を上げた。
そう、今から放たれるのは攻撃魔法ではない。
今現在自分たちを恥辱に追い込んでいるリンク遮断魔法―――それが使われようとしているのだ。

「だ、だめ……ッ」

咄嗟に胸元を隠すように菜々芭は両手をクロスさせる。
だがそんな儚い抵抗もむなしく、上魔の魔法が発動した。
――パァァッ!
光の粒子がシュガーの身体から飛び去っていく。

「や、あ、えっ……!?」

しかし予想に反して胸元を覆っていたスーツは未だにその姿を留めていた。
下半身を覆う黒のストッキングも無事だ。

(失敗…?)

変わらぬスーツを怪訝に思うものの、更なる脱衣から逃れた安堵に菜々芭は思わずほっと息を吐く。
だが、どこか違和感があった。
脱がされていないはずなのに、やけに腰の辺りがすーすーするのだ。
それに、敵の反応もおかしい。
魔法を失敗したはずなのに、目の前の上魔は全く動揺していない。

(いったい、どう―――!?)

その時、ひゅうっと一陣のそよ風が菜々芭の身体を通り抜けた。
冷たい夜風が薄い黒生地に包まれた下半身を叩く。
そして気がついた。
黒の網目を抜けた先、その奥で自分の大切な部分を守っているはずの布の感触がないことに。

「ま、まさか……っ!?」
「上を消すと思いましたか?残念……私はね、少し天邪鬼なのですよ」
「や、やああぁぁッ……!」

クイ、とヘルメが眼鏡を上げるのと同時に菜々芭は開いていた両脚を勢いよく閉じる。
そう、ジャミングによって消失したのは下着。
ストッキングの下に穿いていた純白のパンティだったのだ。

(し、下着がないまま足を開いていたなんて…)

少女の頬が真っ赤に染まった。
気がつかなかったとはいえ、衆人環視の中で下着のない股間を見せるような格好をしていたという事実が菜々芭の羞恥を掻き立てる。
地面と接しているお尻がアスファルトの温度をひんやりと伝えてくることで、よりいっそう下着の消失を認識させられてしまう。

「し、下着を消すなんて……どういうつもり、ですか……!」
「どういうつもりもなにも、そっちのほうがエッチではないですか」
「へ、変態……ッ」

敵意を込めた眼光を上魔に送るも、その視線は微かに揺れている。
未だ下半身を覆っている衣服はあるとはいえ、ストッキングは下着ではない。
例え上にまだ隠すものがあるとわかっていても、下着がないという事実は菜々芭の冷静さにヒビを入れていた。

(うう……っ、すーすーしてしまいます……恥ずかしい…)

よろよろと頼りなく立ち上がったシンフォニックシュガーだったが、その姿勢は戦士のそれではなかった。
余程股間が気になるのか、両腕を手に持ったボールごと前と後ろに回し、股間とお尻を覆い隠す。
膝をかがめ、中腰になったその姿勢は明らかに隙だらけだった。
当然それを見逃さなかった下魔は猛然と少女に襲い掛かる。

「うぁっ……く!」

両手を前後に回したまま、シュガーはなんとか後方にジャンプしてその攻撃をかわす。
だが下魔はそれを追い、執拗に攻撃を仕掛ける。
これには菜々芭も迎撃に両手を使わざるを得ず、お尻に回していた右手を引き剥がすように前に持ってきて応戦を始めた。

(お願い、気がつかないで……ッ)

まだ周囲の男たちには下着が消えたことは気がつかれていないはず。
気づかれてしまえば、恥ずかしさは倍増してしまう。
菜々芭はその恐怖に、時折チラチラと自分の下半身に目を向けながら注意散漫な攻防を繰り広げる。
だが、そんなあからさまな態度が彼女に注目を送る男たちに気づかれないはずもなく。

「おい、シュガーちゃんの様子がおかしくないか?」
「ああ、転ばされてピンチになったと思ったら、敵の奴は何もしなかったし…」
「なんかしきりに下のほうを気にしてるよな?」
「……!!だ、だめッ!」

耳に流れてくる男たちの会話に、シュガーは心臓の鼓動を早めてしまう。
しかしそこを隠そうにも、交互に襲い掛かってくる下魔たちがそれを許してはくれない。
せめてもの抵抗と内股気味に足を運ぶも、頭上のライトは容赦なく回避に突き出された少女のお尻を照らし出した。

「あ、わかった!シュガーのパンツが消えてるんだ!」
「なに、ノーパン!?マジかよ!?」
「間違いない、さっきまであった下着のラインが消えてる!」

「ち、違います!そんなこと、ありません!」

男たちの推測を否定するように少女は必死に叫ぶ。
だが顔を真っ赤にして否定すればするほど彼らの推測は確信を帯びていく。
これが夜の暗闇の下であればまだ隠し通せたかもしれない。
だが、今のシュガーの姿はビルの屋上からのサーチライトによって鮮明に映し出されている。
これでは黒のパンストも用を成さず、その下の肌をうっすらと透けさせてしまっていた。

「い、いやッ……見ないでください!こんな、私の一番恥ずかしいところ……見られたく、ないです……」

かすれるような声で哀願するも、その声は男たちの興奮をよりいっそう煽るものでしかなかった。
魔法戦士の下半身を覆うのは黒のストッキングのみ。
剥き出しにはなっていないものの、極薄の生地だからこそのフィット感が少女の下半身を淫らに演出する。
白光の下に照らし出された黒の下で、お尻のラインが精細にクッキリと浮かびあがっていく。
足の付け根も、ふっくらとした恥丘がうっすらと浮かび上がり、その中央ではあるかなきかの割れ目が見えた。
なまじ裸であるよりも扇情的な姿にされたシュガーは、視線から逃れようと懸命に腰を振りたくる。
だが、その動きが男の視線を更に誘ってしまっているという事実に少女は気がつかない。

「グアアッ!」
「くうッ!」

頭上から振り下ろされた爪牙をシュガーは両手のボールで受け止めた。
両脚が地面にめり込みそうなほどの一撃を全力で耐える。
両腕が力比べにぶるぶると震え、両脚は力を込めるために大きく開いてしまう。
パシャ!カシャパシャッ!
その絶好のタイミングを逃さないとばかりに男たちのカメラが唸りを上げて少女の恥態を収める。
震えるお尻が、クッキリと割れたお尻と股間の割れ目が男たちによって記録されていく。

(いや……私の、大切なところ……撮られています……こんなの、こんなことって)

思わず股間を隠したくなるが、両手は塞がっているため使えない。
均衡状態を保つためには、今の体勢を崩すわけにはいかないのだ。
だがそれはあくまで一対一の時の話だ。
こちらがが動けないと見るや、もう一体の下魔を従えたヘルメがゆっくりと近寄ってくるのをシュガーの目は捉えた。

「こ、来ないでください……!」
「フフ、いい格好ですねシンフォニックシュガー。ですが……もっと彼らにはサービスをしてあげないと」
「え……ッ、ま、まさか……?」

下魔の爪を受け止めたまま、シュガーは顔を青褪めさせる。
瞬間、ヘルメの手が少女の胸元を指し示し。

「あ……あ、ああ……ッ」

胸元が光の粒子に包まれていくのを菜々芭は悲痛な声で見るしかなかった。
一瞬後、今度こそ小柄な魔法戦士の胸が露わにされてしまう。

「おっぱいポロリキター!」

ぷるり、と可愛らしく揺れながら現れた二つの膨らみに歓声をあげる男たち。
シャッターチャンスを逃すまいとシャッター音とフラッシュの光が乱れ飛ぶ。
音と光、そして夜風の襲撃に少女の小さく膨らんだ乳房は怯えたように震え、その頂点の桜色の乳首もひくっと反応してしまう。

「や……うあっ!?」

動揺から力を抜いてしまった両手が弾き飛ばされ、そのままタックルを受ける形でシュガーは後ろに倒される。
背中から地面に落ちた少女は、衝撃に顔を顰めながら数度バウンドして動きを停止した。

「く……」

なんとか上半身を持ち上げた菜々芭は酸素を取り入れるべく大きく深呼吸をする。
ダメージはそれほどではないが、打ち付けられた衝撃で息が乱れてしまっていたのだ。
すうっ、はぁっ。
数度の呼吸と共に、胸元のこぶりな膨らみが上下に揺れる。
だがそんなピンチにも関わらず、男たちは口々に好き勝手な感想を喋り始めた。

「貧乳萌え〜」
「バカ、微乳といえ微乳と!」
「でも形はいいよな、手にすっぽりと収まりそうだし……ああ、揉みてぇ〜」
「あ、ひあっ……!」

男たちの声に、菜々芭は頬を赤らめて胸を隠しながら立ち上がる。
だが胸を隠せば今度は下半身に視線が集まってしまう。
二本の腕では恥ずかしい部分を隠すのにはとても足りない。
シンフォニックシュガーは進退窮まるが、戦闘中という現実は無常にも彼女に思考の暇を与えなかった。
ジリジリとまるで弄るように二体の下魔とヘルメが三方向から距離を詰めてくる。
この状況で、両手を身体を隠すために使うのは自殺行為だ。
菜々芭は込み上げてくる恥ずかしさを堪えながら、ゆっくりと両手を身体から離した。

「おや、自ら手をどけるとは……もしや正義の魔法戦士は露出の趣味が?」

屈辱の言葉が潔癖な少女の耳を貫く。
しかし今更手を元の位置に戻すわけにもいかず、シュガーは恥辱をその半裸姿に纏わせながら攻撃体勢をとるのだった。

異形の爪牙が柔らかな女体を捕らえようと振るわれる。
リリーは動きの落ちた身体をなんとか叱咤してそれを防御、あるいは回避していく。
だが、受けの一手では状況は悪化するばかり。
攻めなければ……!
焦りと闘志の入り混じった判断で魔法戦士はレイピアを横に薙ぎ払う。

「やぁッ!はぁ、はぁ……」

しかし、既に機能の70%以上を封じられた魔法戦士のスーツは莉々奈に力を与えてはくれなかった。
確かに華奢な少女が振るうものとしてはかなりの鋭さではある。
だが、一体目の下魔を屠った時の斬撃は最早見る影もない。
スペック的には魔物の中でも最下級である下魔と五分がいいところまで戦闘力を落とされてしまったシンフォニックナイツ。

(……このままじゃあ…ッ!でも、一体どうすればいいの……)

コスチュームの大半が消され、大事なところを守る布地は小さな下着一枚というこの状態。
しかも周囲に多数の異性がたむろっているこの状況では莉々奈には為す術がない。
無数の目が、レンズが自分の裸を見ていると思うと恥ずかしくてこの場から逃げ出したくなる。
だが、逃げるわけにはいかなかった。
正義の魔法戦士として、敵に背を見せるわけにはいかない。
何よりも、一般人たちを置いて逃げ出すような真似はできないのだ。
しかし、その守るべき一般人こそが今自分たちの足枷となっている。
それこそがファルケの狙いだということは理解できていた。
けれども、魔法戦士である前に一人の女の子である莉々奈は彼らの視線を無視することができない。

(胸も、パンティも……見られちゃってる。恥ずかしくて死にそう……でも、戦わないと。私が、頑張らないと……!)

激しい攻防で胸が揺れるたびに、脚が開くたびに眩い光が視界を覆う。
そのたびに、自分のはしたない姿を撮られていると感じ、身体が羞恥に熱くなる。
ずっと動き続けていたせいか、息も上がってきた。
霧のような汗が小さな粒となって乙女の肌を覆いだし、それがライトを反射してキラキラと光り、少女の淫靡さを引き出していく。

「……や、です……もう、私を…撮らないで…下さい……ッ」

そしてそれはシュガーも同じだった。
呼吸が乱れ、疲れから足運びがふらつき始める。
汗で蒸れた黒のストッキングがべったりと気持ち悪い。
しかし足を止めることは許されない、この状況で足を止めるということは敗北と同義なのだ。
二人の魔法戦士は絶体絶命の状況にありながらも懸命に戦い続ける。
だが、シンフォニックナイツは気がついていなかった。
既に自分たちの敗北が確定しているということに。
そして、今この瞬間にも新たなる罠が発動しているということに。

「ふむ、下魔は残り四体か。予想よりも少し損害が多いな」

下魔二体を指揮し、シンフォニックリリーと戦わせながらファルケはぽつりと呟く。
当初の予定では、下魔はもう少し生き残っているはずだった。
しかし、現状はシンフォニックナイツの予想外の奮闘によって被害は加増している。
とはいえ、まだ四体は生き残っているし、何よりも上魔と自分は無傷で健在である以上は何の問題もない。
既に魔法戦士たちのリンク率は三割を切っている。
これならば、仮に真正面から一対一で挑んでも勝つことは容易い。

(だが、それではつまらないからな……)

今回の目的はシンフォニックナイツを倒すことではない。
あくまで本作戦は最終目的である魔法戦士たちの篭絡のための一環なのだ。

「しかし、正義のヒロインというのも大変だねシンフォニックリリー。裸になっても戦い続けなければいけないなんて」
「だ、黙りなさいファルケ!元はといえばあなたが……あンッ!」

揶揄されたリリーは僅かな隙を突かれて下魔の攻撃に掠ってしまう。
少女の長い胡桃色の髪が数本、ハラハラと宙を舞った。

「ほらほら、戦いに集中しないと。それとも、疲れてきたのかな?足がヨタついているぞ?」
「うっ……く!」

敵の言うことになど耳を貸すものか。
そう言わんばかりの勢いでリリーはレイピアを横に払う。
だが、そんな渾身の一撃ですら下魔の身体には浅い傷を負わせる事しか出来ない。
ダメージに後退した敵を追撃しようと魔法戦士の足が前に出る。
しかしその瞬間、僅かではあるが少女の足がもじりと内股気味にふらついてしまう。

「あっ……」

当然、そんな緩慢な動きで鋭い追撃などできるはずもない。
下魔はあっさりとシンフォニックリリーから距離を取っていく。
疲労が出てきてしまったのだろうか。
肌を流れる汗と、荒くなった呼吸にリリーは顔を顰める。
だが、まだ戦える。
身体の火照りはむしろ精神を昂ぶらせてくれるし、まだ戦いへの意志は折れてはいないのだから。
時折吹く夜風が体温の高まった身体に心地よい。
露出した肌を見せながら戦うのは恥ずかしいが、戦闘不能になったわけではない。
羞恥心をどうにか押し隠し、莉々奈は再びレイピアを構えた。
ドクン、と一際大きく高鳴る胸の鼓動に気づくことなく……

(どうやら、徐々に効果が出てきたようだな)

その様子をつぶさに観察していたファルケはニヤリと口元を歪める。
実のところ、彼はジャミング以外にももう一つ、ある魔法をシンフォニックリリーにかけていた。
恐らくは反対側の戦場でヘルメも使用しているであろう魔法。
それは、ジャミングと同じ状態変化系魔法であるエクスタシーであった。
この魔法は相手の性感を高める効果があり、通常の戦闘においては魔法戦士たちを辱める時に重宝している魔法の一つだ。
特に胸やお尻、股間といった敏感な部分を触り、辱める時に併用すればその効果は十全に発揮される。
とはいえこの魔法は普段、補助的な意味合いしか持たない。
魔法に免疫のない一般人が相手ならばともかく、魔法抵抗力の高い魔法戦士にはかかりが鈍いのだ。
先程、辱める時には効力を発揮するとはいったものの、それはあくまで増幅の役割でしかない。
つまり、こちらが何もしない限りではあまり役に立たない魔法なのである。

(だが、今の状態なら話は別だ)

今のシンフォニックナイツはスーツ機能の消失で魔法抵抗力が著しく低下してしまっている。
現在の彼女らは、精々が一般人よりは耐性があるという程度のレベルだ。
そんな状態の少女たちに、この魔法を使ったらどうなるか?
答えは簡単だ―――指一本触れなくとも、身体は性的な興奮を引き起こされてしまうのだ。
仮に全力でこの魔法をかけていたならば、あっという間に絶頂へと導くことすら容易い。
だが、ファルケはあえて弱めにエクスタシーの魔法をかけていた。
これは魔法をかけられたことをリリーに気づかせないためだ。
今はまだ、自分の身体の変調を戦闘における緊張と興奮、そして疲労によるものと判断しているだろう。
けれども、その裏では魔法の効果によって徐々に身体の内部は性感に侵食されている。
弱めにかけたとはいえ、魔法抵抗力が低くなっている以上、時間が経つごとにその効果は高まっていく。
そうなった時にはもう手遅れだ。
数分後、彼女がどんな恥態を見せてくれるのか。
ファルケはその光景を想像し、加虐心をそそられてしまう。

(ククク…シンフォニックリリー、君は気がついていないだろうな)

自分の足運びがおかしくなっていることに。
内股気味に寄った太ももが、時折もじもじと足の付け根を擦るように動いていることに。
そして、無意識のうちにお腹の中から何かを逃がすように大きく腰を振っていることに。

「どれ、俺もそろそろ加わるとするか。折角集めた観客だ……サービスはしないとな」

黒の強化スーツを闇に躍らせながら、悪の首領が遂に動き出す。
戦力差は大きく、既に負けの要素は見当たらない。
最早段階は戦いではなく狩り。
それを理解しているファルケの瞳は、美しき獲物の少女をしっかりと捉えて離さなかった。

それはまさに唐突だった。
戦場に足を踏み入れはしたものの、自身は戦闘に参加していなかったはずの黒衣の男がふっと動きを見せたかと思った瞬間。
莉々奈の視界にはフルフェイスマスクに覆われたファルケの顔がいっぱいに映っていたのだ。

「な―――ッ!?」

だがリリーとて幾度もの戦いを経てきた戦士。
一瞬の驚愕の後、反射といっても良い反応速度でレイピアを振るう。
ヒュンッ!
闇夜の空気を鋭い斬撃が打ち払う。
しかしその一撃に手応えはない。
闇と同化するような色のスーツを身に纏った男の姿が視界から消える。

「ど、どこに……ッ!?」

その瞬間、ライトに照らされてできた自身の影の後ろに一回り大きな人影が映った。
敵は背後に回ったのだ。
慌てて来るべき攻撃から逃れようとリリーは足に力を込める。
しかしそれよりも早くファルケの手は動いた。

「し、しまっ―――えっ?」

つるんっ。
間の抜けたような莉々奈の声が場に響く。
ファルケの手は、少女の肌を捕らえてはいなかった。
代わりに握られていたのは、女の子の大事な場所を守る小さな布地。
お尻の底辺りまで下げられた薄桃色の下着が振り返った視界に映る。
事態が理解できない。
何故、自分の下着の後ろ部分がずり下げられているのか。
何故、ファルケは自分の下着のふちを掴んでいるのか。

「ククッ、相変わらず良い形の尻をしてるじゃないか、シンフォニックリリー」
『ウオオオオオッ、尻キター!』
「え……あ……!?あ!きゃああッ!?」

ニヤついた敵の顔と、丸出しになった自分のお尻を繰り返し視界に入れた莉々奈はようやく事態を悟った。
ファルケは攻撃ではなく、下着を脱がしてきたのだ。
黒衣の男の手を離すべく、リリーは慌ててレイピアを振るう。
だが、腰も入っていない手振りでの一撃はあっさりとかわされてしまう。
しかし幸いにも、ファルケはその斬撃によってパンティから手を離して後退していく。

リリーもすかさず距離を取るべく飛びずさる。
その際、露出したお尻が上下にぷりっと弾力よく弾み、カメラ小僧たちにこれ以上ないシャッターチャンスを与えた。

「ファルケ……な、何をするのですか!」

お尻も見られ、撮られてしまった。
それを自覚した莉々奈は首筋まで顔を薔薇色に染めつつ、下着を元の位置へと戻す。
未遂で終わったが、大事な部分を守る最後の砦に手をかけられたことは少女に大きな戸惑いを与えていた。

「いやなに、このまま君を全裸にするのは容易いんだけどね。最後の一枚くらいは直接脱がしてあげようかな、と」
「け、結構です!脱がされる気なんて、ありません!」

羞恥に頬を染め、リリーは抗議の叫びをあげる。
だがそんな魔法戦士の少女の様子は、追い詰められた正義のヒロインという状態をこの上なく表していた。
そんな光景に、周囲の男たちのボルテージは益々高まる一方だ。

「いいぞ黒い奴!」
「あと一枚だ、頑張れ!」
「リリーちゃんは裸になっても戦うのかな?全裸で戦う正義のヒロイン……やべっ、興奮する」
「な、なんてことを……」

悪人であるファルケを応援するような声に、リリーは愕然とする。
ここにいる男たちは皆、自分が裸にされてしまうことを望んでいるのだ。
たった一枚残された薄桃色の下着に異性の視線が集中するのがわかる。
視線の熱気だけで布が溶かされてしまいそうだ。
思わず、莉々奈は下着を守るように両手を股間にまわしてしまう。

「お、お願い……ちゃんと戦って…!こんな、こんな格好で……きゃっ!」

抗議もむなしく、ファルケと下魔は容赦のない連続攻撃を仕掛けてきた。
本来ならばあっという間にやられてしまうであろうその連撃をリリーはかろうじて捌いていく。
だが、それは明らかに手加減されたものだった。
最早彼らに自分を倒すという殺気はない。
あるのはただ、正義の魔法戦士を辱めようとする淫らな欲望だけだ。
しかしそれがわかっていても、莉々奈にはどうすることもできなかった。
攻撃されるたびに、パンティをずらされ、脱がされかける。
その気になれば一思いに脱がすことも簡単だろうに、わざと嬲るように少し布地をずらしては少女を焦らせ、恥ずかしがらせているのだ。
屈辱と恥辱に頬が赤らみ、白かった肌が紅潮していく。
下ばかりに気をとられているため、剥きだしになっている乳房が隠せない。
豊かに実った二つの柔胸が、その頂点でひっそりと息づくピンクの蕾が、動きのたびにふるふると揺れていた。








SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ