青信号の犬
シチュエーション


「いんやー今日も寒いねえ!大臣クン」

あっけらかんとした声が暗い廊下に響いた。兵士らをその声の方へと向うようにと、大臣が指図する。
年若い大臣は声の主を認めて、米神を押さえるポーズをとる。

「わざわざ、家畜小屋までいらっしゃったんですか?女王陛下」
「なんだね!いいじゃあないかぁ、自分の国のホリョくらい見たって!触ったって!」

女王陛下、と呼ばれた少女は両手を広げて大臣に文句を言う。
少女、いや、女王が動くたび衣装から、豊かな髪から芳しい香が漂う。
大臣の言う家畜小屋、捕虜収容室とは対照的な香りだ。既に(この部屋だけでも)死人が複数名でており、ほのかな死臭が糞尿に吐寫物の臭いと混じり悪臭を放っている。

「それにしてもひどいニオイだねえ!まいっちゃううね!てかどーするんだい?このひとたちは」

鼻をつまむ仕草をする女王に、大臣は大げさにため息をついて見せモノクルを掛け直す、「私は呆れています」ポーズをする。そして随分と冷え切った目をして、女王を臨む。

「陛下はどのようなお考えをお持ち・・・で?」
「ヤダなあ!ヤダなあ!大臣クンよ!私に意見を仰いでおいて馬鹿だとまた言うんだろう!?いいかげんお説教は飽き飽きさ!
・・・ホラいつものよーに君がどう指揮するのか待っているだろ!サアサア、早くしておくれよ」

ふんぞり返った女王を横目に、満足そうに微笑むと大臣は言った。

「代表を連れて来なさい」

「働かせてください!ここで働かせてください」
「・・・大臣クン、君はセントチヒロのカミィカクシィというジャパニメーションを観たかい?」
「あの会社の話は私に合いません」

上記は家畜のように繋がれた男の一番である。
物語の流れからすれば、登場する捕虜→反抗的な態度→教育的指導→砂を噛む思い、というのが王

道なのだが、この男は違った。
入場と共に土下座。そして開口一番に就職希望宣言。全入学時代がやってきたというのにだ。
スレッドの消費を考慮し、要約させていただく。
>>325の447を参照
大臣は女王と捕虜の(一方的な)やりとりを横目に、帳面を取り出し書き付けた。

「あなたがたの食事は保障しますが、他は面倒見ませんよ。それでも良いのなら、誓約書にサインを」

床に這って名を書き付ける捕虜の姿を見届けると女王はのーてんきな声で放った。

「よかったねえ!まもろうね!私と君と大臣クンの国!」

捕虜と大臣は気を殺がれた声で、「そうだね。まもろうね」とこたえた。

均衡状態にあった隣国が動きはじめた、という報告を耳にして女王の顔は輝いた。
元首という立場、妙齢の女性であるにも関わらず、城の廊下を走りぬけ大臣の政務室の扉を開ける。

「攻めてくるの?攻めてくるの?隣国と戦争になるの?ねえ戦争?第一次大臣戦争勃発なの?」
「そうですね。攻めてくるようですよ。大臣戦争は終結しましたけど」

乱れた裾を指摘すると、大臣は女王に茶を勧め、仕事に戻る。

「本当?大丈夫なの?危なくない?財政難だったりしない?」
「ええ、大丈夫です。この間の捕虜も奴隷もいますし、植民地けっこうありますし」
「しょくみんちかー、アレだな!コーヒーとれたりするところだ!」
「そうですね。香辛料採れたり金山があったりするやつです」

メイドのエプロンを握ったりソーサーをなぞったりと、落ち着かない様子でいる。
本当に言いたいことをその場になって探す、女王の悪い癖であり、過去教育係であった大臣としてはとてつもなくむず痒い行為であった。

「なんです、気持悪いですね。さっさと仰い」

わざとけしかければ、バネのようにはねる。

「気持悪いとか言うのはないと思うよね!・・・ホラ王様だから!戦争とかチスイとかわかんないから!このままでいいのかな?とかおもうけど結局王様だから!どうしていいかわかんないから!」

女王の視線は大臣の手元の書類に向けられ、本棚に向けられ、メイドに向けられ、大臣に向けられた。

「そうですね、わかりませんね」

メイドに目配せをする。すぐさまメイドは退出した。使用人は壁ではあるが、壁に耳ありだ。危険は少ない方がよい。大臣は移動し女王の前にしゃがみこむ。下から大臣が見上げても、女王は机の書類を観ている。

「うん。でも平気なんだ!大臣がやってくれてるから!平気なんだろう?安心してていいんだよね?」
「そうですよ。安心しててくださいね」

自由に動く手を捕らえる。華奢では有るが、柔らかい。

「そうかー、いいのかー。普通にしてればいいんだな!いつもどおりだものな!」
「はい。落ち着いていましょうね」

手首に指を這わす。普段より熱が高い。即位して初めての侵攻だ。恐れるのも無理は無い。

「うん!おちつくぞー。でもドキドキするな!」
「いつもどおりに、任せてくださいね」

女王のワンピースのボタンをひとつひとつ外してゆく。ワッフル地のそれは柔らかく香っていた。

「ねえねえなんで脱がすの?ホラもうすぐ戦争じゃないか!いけないよね!」
「そうですね、寝間着で部屋を出るのはいけませんね。でも・・・いつもどおりでしょう?」

大臣の指は裸の腹をなぞった。柔らかな肉をそのまま這うようにしてのぼって行く。ほのかなふくらみに手を添えて大臣は告げる。

「あなたは見てるだけでいいんですよ」

大臣の手のひらは胸を包み、つめたい指はその頂をゆっくりとこねはじめた。そこはすぐに立ち上がり、淡く色づく。女王は身体をまるめて、大臣の両頬を掴んで鼻が触れそうなほどに寄せる。

「いいのか?いつもどおりで、仕事が出来なくて、みてるだけで・・・本当にいいのか?」
「いいんです。なにもしなくとも。そこにあれば」

うるんだ翡翠の奥にはなにも見えない。近すぎて、歪み、そこに何かあったとしても大臣が認めることは出来ない。
お慈悲を、と小さく呟いて唇を合わせた。
女王はそろそろと舌をさしだし、大臣の舌に誘われ絡まられ息も荒くなってゆく。苦しさに逃れようとすればするほど大臣は追い立てる。
耐え切れないというように肩に触れて引き離そうとすれば、逆に手を纏められ口付けはますます激しくなる。さしても大きくないはずの水音が、ぬめった舌の感触が女王の意識を乱してゆく。ぐったりとした女王に大臣はつまらなさそうに離れた。

「昔はキスが一番お好きでしたのに」

女王はゆるゆると首を振って否定する。唇をたどって喉元まで唾液でてらてらと光り、火照った頬には絹糸のような髪が張り付く。それをやさしく梳いてやると、女王は咳き込んだ。

「・・・ッは、くちびるがはれそうなのは、いやだ」
「我慢なさい、すぐによくなるんですから。ほら、濡れてきてるじゃないですか。苦しい方が良いんでしょう?」
「ちがっ」

指で割れ目をなぞられると、息を飲んで女王はその箇所を見た。今度はゆっくりと指を押し付けるようにして形をたどる。むず痒そうに女王は身をよじる。構いもせず大臣は指を曲げ差し入れる。

「あ!・・・だめ」
「だめ?だめ。そうですか」

大臣は乱暴にかき回した後、指をすぐさまひっこめ、代わりに頭をそこへ近づける。へそをぺろりと舐め上げると女王にしゃぶりついた。ひとつひとつのパーツを丹念に舐め、一滴も溢すまいと太腿に伝う蜜を啜る。女王は大臣の頭に手を添え苦しそうに喘ぐ。

「だめっ!ああ、だめ・・!だめだよ・・」

ひときわ大きな水音を立て、口を離す。涙と興奮にぬれた女王の目を見つめ、大臣は怪訝そうな口調で問う。

「何がだめなんです?仰ってくださらないとわかりかねますよ」
「足らないんだ!はやくっ・・・はやく、いれてよ・・・」
「堪え性がないですねえ」

呆れたような口調とは逆に大臣の目は笑っていて、女王を見据える。女王はこの目が苦手だ。幼い頃からずっと傍に居て時たまこの目に晒されたが、何を考えているかわからない大臣が怖かった。
女王自ら両脚を大臣の肩に掛けると、あの恐ろしい目に見られたくなくてつよく目を瞑った。大臣が小さく笑ったのが伝わる。

「そんなことをしてもね、してあげませんよ」



明くる朝、女王は御自ら庭を眺望できるテラスに立ち兵士たちを鼓舞された。
彼らは先陣隊であり、一番の辺境・激戦地に回される。奴隷階級も捕虜たちを中心に編成されていたその隊は苦々しい面持ちで伏せていることを女王は知らない。
彼らも一般兵と同じ様にあつかわれると思っている。首級を挙げれば一足飛びすると信じている。そんなこと一般兵内でも中々有りはしないのに。
勿論、大臣らが彼らに条件付で生活保障を申し出たことも、知らないだろう。


ふたつの季節を飛び越え、戦争は決着した。
多くの予想と覚悟を裏切って早々に勝利を収めたが、それは逆に数多の労働力を失ったことを示す。
先陣隊は盾となり槍となり、成果を挙げ進駐し、後から進軍する軍団の舗道となった。
しかし本部から禁止されていたにも関わらず、
後々のことを全く考慮しない現地での無理な徴発や略奪をはじめとする暴力行為は近隣から非難の的となり先陣隊の活躍は泡と消えた。そして彼らは処分された。

だが、捕虜のリーダー格であった男は残された。
カビのにおいのする石牢に隔離され、捕虜は読み書きを牢屋番に習う日々がそれから半年は続いた。
ごくたまに牢屋番とは違う兵士が訪れ、手紙らしきものを捕虜に見せた。
崩され滲んだ文字は兵士には理解できず、兵士は「一応おめえの郷の言葉なんだがなあ、あの方は字が乱雑だから」と口にし、封筒ごと捕虜に渡す。
あの方?捕虜は顔に疑問符を貼り付けて、金釘流の(かろうじて)文字をなぞりはじめた。

〔わたし は えらいです ここで かぞくしんじゃた たいへんでした しかし がんばるよいです すこしで らくになります (解読不能) にはゆっときます よくなります〕

「おい、なんて書いてあるんだ?俺には全く読めん。言えなきゃ別に構わねえんだが」

捕虜は口を動かし、単語の羅列を組み替えて予測した。文法もつづりもなにもかもが拙く、理解しかねる。こどもの言葉?それとも、どせいさんの?捕虜は兵士に尋ねた。

「この手紙には『あと少しの辛抱で身体が楽になる』とあります。俺の処刑が決まったのですか?」

捕虜の言葉に驚いて、兵士は手紙を奪い取った。
よくよく見れば熊のような兵士は、山賊のような形相をして薄桃の便箋を穴が開くほどみつめる。そしてポイッと捕虜にそれを放り出すと自身のあごを撫でた。

「あー俺にはやっぱり読めねえんだがー、よくよーーく見れば大臣殿の名前が書いてある。・・・ような気がする。
それに、あ゛ーーおめえは、おめえがどう思ってるかは知らねえが、国に貢献したことになってる。だから、死なねえ、少なくともあいつらみてえにはならねえ。・・たぶん」

そしてある日突然、石牢を追い出された。
捕虜は改めて覚悟した。処刑の日が来たのだろうな。
自身の気質ゆえに同胞の行為を―必要だった、なさねばならなかった―許せずに、彼らを見殺しにした罪悪感が捕虜を責めた。
捕虜は信仰を持たなかったが、牢屋番が言う裁きがあるのならば、彼らも自分も地獄に落ちるのだろう。
目隠しをされ、籠に乗せられる。別れを告げると牢屋番は言った。お前ツいてるよ。

固い床に転がされたかと思うと、次にはごつい婦人が視界を埋め、たくましい婦人たちに洗い場に投げられた。垢の下から出てきた皮膚が赤くなるほど擦られ、髪は泡が白くなるまで洗われる。
口の中には妙な液体を入れられ、手足は拘束されて爪を切られる。すっかり伸びた髭や頭髪も椅子に固定された状態で整えられ、捕虜はこれらを新しい拷問だと思ったほどだった。ぐったりとなすがままの捕虜に衣服を着ける。
そうして強靭な婦人たちは好き好きに―見れるモンになったじゃないかとか、ウチの旦那の方が男前だよゥとか、着やせするねえメアリ羨ましいんじゃないかいとか、そのドテっ腹だものねエとか―口にして姿見を置いた。
どこにでもある平凡な、何らここの国民と変わりない若い男がそこにはいた。
その若い男を自身だと確かめると、捕虜は婦人たちに問う。おれ、なにされるんですか。
きょとん、とした捕虜の肩を豪快に叩き婦人らは声を大きく上げて笑った。涙目になりながら婦人のひとりが言った。マエより悪いようにはならないだろうヨ。

槍を突きつけられて、捕虜は女王に対面した。
近衛兵らしき二人の男に連れられ、広間に入る。捕虜が女王の目に入るのはこれが二度目だった。
女王の横には、やはり大臣が不服そうに控えていた。捕虜が平伏すると大臣は書状を取り出した。

「貴様はわが国との戦いにて敗戦したる国の民であるが、先での戦いにてその身をわが国の王と民と国家の為に投じ貢献したことを賞し、わが国の民として貴様を迎え入れる」

大臣の冷たい視線を首に感じて捕虜は答える。視線だけでも射殺されそうだ。

「ありがたく存じます」
「・・・では、わが国の王と民と国家に忠節を誓いこれからもわが国の繁栄に励め。・・・女王陛下のお言葉を頂戴するが良い」

息を吐くと同時に大臣の視線が強くなる。捕虜の背中を汗が伝った。頭を更に深く下げることを視線で強要される。

「お前はもう捕虜ではなく、わが国の民である。民は子であり、王は父母である。・・・私は至らない王ではあるが、民には誠実であろうと思う。お前は私たちがお前たちにした―」

大臣の視線が捕虜から女王に向けられる。捕虜は安堵を憶えたが、逆に女王は言葉に詰まり萎縮した。温度を感じさせない瞳が女王を貫く。女王の口はわなわなと震え、まぶたは伏せられた。大臣が静かに下るよう命じる。

「本当にアリガタイのか?不満じゃないのか!私は捕虜のことなんぞ考えたこともない!うれしいのか?わからない!お前は私を殺し報復したいと思わないのか?わからないぞ私には!」
「下りなさい!陛下お止めなさい、陛下!下れ!」

女王の言葉の途中途中大臣が恫喝する。珍しく声を荒げる大臣におびえ、近衛兵は慌てて元捕虜を起こし連れ出そうとする。豪奢な扉が閉まろうとするとき女王の叫び声が届いた。

「その男の三階級特進を許可する!!心して励め!」

謁見の間のすぐに小部屋があり、そこに連れられ強く頬を叩かれた。
赤くなった頬もそのままにぼんやりと大臣の顔を見上げる。うつろな色を宿した瞳が大臣を映す。


→1.原作沿いルート
   王「分岐?これ、分岐なの!?ねぇ!降臨!ネガティブマン、降臨!?」
   大臣「ああ、鬱的展開だよ」
   ・・・・ということで、苦手な人は注意しようねえ〜!

  2.大臣ルート






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