『幸せ』のかたちのひとつ 後編
-3-
シチュエーション


今日の分が上乗せされた明後日の性交は激しいものになるのだろう。
ひろちゃんはティッシュで私の口を拭って、同じように性器を拭いてから
下着とズボンを戻してから小さい声で言う。

「なぁ、美里。……明日、どうする?」

視線を合わせると、ひろちゃんは迷っている様子だ。
毎日するって約束はどうなるんだろうか。

「いや、明日もするけど、今日みたいに深いのはしない方がいいと思うんだ。
……多分、我慢出来なくなる」

ひろちゃんは何が何でも明後日にするという約束を守りたいのだ。
その為の妥協。私の為の、提案だ。

「私も、多分そうなると思うから、…うん、明日は軽く、しよ」

私もひろちゃんの気持ちと同じだった。明日ならひろちゃんを落とせるかな、なんて
少しは考えていたけれど、今の言葉でそれは却下だ。
全力で明後日に備えよう。

「よかった」

ほっとしたように胸をなでおろすひろちゃん。

心底思う。本当に私のことだけを考える人だ。

……想像も出来ないくらいに深い孤独だった証拠。
信じられないくらいに誰にも触れたことがない証明。

それが覆った事を、もっと確かなものにしてあげよう。私の時間をひろちゃんの為に
使いたいと本気で思い始めた瞬間だった。
焦る必要はない。確実に進めるのが第一だ。
私は制服の着て、乱れを直す。家に帰ったら、とろとろに濡れきった下着を換えなきゃ。
幻想じみた交わりの時間は終わりだ。明日の幻想時間まで、現実に戻ろう。

「じゃ、また明日ね、ひろちゃん」
「うん、いつでも来ていいからな」


昨日の口付けは本当に軽く、時間も短いものだった。
それでも終わってから長い事見詰めて、明日、つまりは今日の情事を想像していたのだ。
まあ、ひろちゃんはどうなのかは解らないけれど、……何の証拠もない妄想だけど、
同じ事が頭をよぎっていたに違いない。
早めの昼食を摂った私は、服装の事で悩んでいた。
待ちに待った日なんだから一番いい服だろうか。でも、普段着の方がどう考えたって自然だし、
ひろちゃんも落ち着くだろう。とはいえ、少しでも私を女の子だと感じて欲しいなら、
いい服を選ぶべきじゃないのか。あからさまだけど、気を遣っているのを教えたいし。
無理したところで不自然なだけだ。意味ない。でも、特別な日なのだ。普通が適切とは思えない。

……朝からこの調子だ。終わらない。普段着の、膝まである長いスカートと厚手の長袖で
家のあちこちをうろうろしている。
とりあえず、下着は新しいのをおろした。ブラジャーはフロントホックのを選んだし、
これは正しい選択だと思う。
普段着にしろ外行きの服にしろ、ひろちゃんが脱がせやすい服なんてそう多くはない。

……だからこそ、こんなに迷うのだ。

『ぴんぽん』

来た。

『からからから』

早いよひろちゃん。もう少し時間頂戴なんて考えは今更無意味。
玄関に急行する。

硬い顔。やっぱり緊張してる。ひろちゃんも普段着だったのが救いかな。

「……美里」
「……なに?」

はぁ、とため息をはいたひろちゃんは背中を向ける。
直後にかちりと鍵をかけた。
振り返って、ずいっと私の前に立つ。

「戸締りはちゃんとしろって」

あう。早くも失点だ。機嫌、悪くしたかなぁ……
ぐ、と両肩を掴まれて、

「邪魔入ったらどうするんだよ、美里」

甘い声音が耳に飛び込んだ。

…本気だ。本気で、私を抱こうとしている声音だ。

身体の芯が電熱線みたいに赤く、熱くなっていく感覚。
私も対抗するように胸に飛び込んで、ひろちゃんの腰に手をまわす。
頬擦り。そして上目で覗く。

「いっぱいしよ、ひろちゃん」
「うん、いっぱいしような、美里」

いつもしていた、気持ちを確かめ合うような触れ合いは無しだ。
私達は荒っぽい口付けで今日のスタ−トを切った。

「ん、はぁ、ん!……ぅ、ぁん!」

遠慮なんて微塵もない激しい結びつきが口で行われる。
ずっと待っていた感触。背筋がびくびくと痙攣しながら伸びて、ひろちゃんの身体と
ぴったりと重なるようになる。押し付けた胸はその鼓動を感知し、密着した腰はひろちゃんの性器が
膨れ上がるのを感じ取っていた。
私の血流も速くなる。大事なところが微妙な動きをして、私を責め立てる。
早くひとつになれ。一番奥まで満たしてもらえ。

「く、うぅぅん……ひろ、ちゃあん……」

興奮に歯止めが効かなくなっていく。一度でもそれが暴れてしまえば、理性的な行動は不可能だろう。
今、言わないと。

「待って、ぁん、ちょっと、待ってよ」
「どうした?」

ひろちゃんは耳たぶを甘く噛んで、私のお尻の丸さを強調するような愛撫で言葉を遮ろうとしている。
今すぐこの場で、強引にひとつになってもおかしくないくらいの獰猛さだ。
嬉しい。けど、ちゃんと言わないと。

「うん、聞いて、よぉ……今日は、つけないで、しよ?」

ぴくん、とひろちゃんの身体が緊張して、私を正面から見据えた。
避妊薬を使うことにひろちゃんは強い抵抗感を示す。それを使ったのは最初だけで、
それ以外はひろちゃんは避妊具を使ってくれた。
避妊具を使った方がより安全だとは知っているけれど、
今日は直に触れてほしい。直接、ひろちゃんの想いを受け止めたいのだ。

「………」

興奮の中には決して小さくない躊躇が混じっている。

……止めよう。

私のわがままでこれからの行為に水を差すなんて、ひどい裏切りに思えた。
撤回しよう。ひろちゃんには安心して私を抱いて欲しい。

「解ったよ、美里」

と、同意の返事。

「本当に、いいの?」

その顔から緊張が抜けて、照れくさそうな表情になる。

「一週間も頑張ったからな、ご褒美だ」

ちゅ、と私の頬をひろちゃんの唇が吸う。
私もお返し。どうせなら三回して、嬉しさを教えてあげよう。
心地良さそうに受け取ったひろちゃんは耳元に口を寄せる。

「……どうする?ここで、する?」

もし良いなら、ここでしたいとひろちゃんは思っているのだろう。それほどまでに
昂っているのだ。
鍵はかかっている。誰も来ない。ちょっと迷ったけど、私は決めた。

「部屋で、しよ」
「随分変わったな、うん」

ひろちゃんは私の部屋に入るなり、そんな事を言った。
前に入れたのはいつだったかな……たしか、中学の頃だった。
受験勉強中にどうしても解らない所があって、ひろちゃんを呼んで教えてもらったのだ。
その頃は完全な幼馴染だった。どこか大人っぽいひろちゃんは、子供っぽい私を
妹のように扱っていたと思う。ひとつひとつを手取り足取り。厳しいようで、実は甘い。
思い出してみると、あれはあれで恥ずかしい事だ。当時はそんな考えを持てなかったけれど、
今では赤面するほどの思い出だ。

──そして、今日。

この部屋にひろちゃんとの新しい思い出が刻まれる。

「変わらない方がおかしいでしょ」

あちこちを眺めるひろちゃんにそう言って窓のカーテンを閉めようとすると、
ぐいっと後ろから抱かれる。

「女っぽくなったよ、うん」

耳元での囁き。私の背中はひろちゃんの胸よりも小さい。
包むような腕も太くて力強い。あの頃とは違う。男らしくなった、と思う。
女っぽくなった。それは何の事を言っているのだろう。

「それって、どんなところが?」
「いい匂いがするようになったよ。見た目も、昔とは全然違うし」
「本当に?」
「本当に」

即答だ。
偽りのない言葉。誰にも言えない、私だけに言える本音だ。
それに対して、私は本音を言い返さない。ひろちゃんも男らしくなったよ、と。
言葉では限界があるし、いくらでも嘘を吐ける。だから、行動しよう。

「待ってよ。ちゃんと見せてあげるから、……その後で、もう一回言って」

首をまわしてひろちゃんに向けると、唇が重なった。
力強く引き寄せられ、私は半ば倒れこむような姿勢になってしまう。
ひろちゃんの身体はびくともしない。私の体重が加わっているのに、何ともないらしい。

……私が思っていた以上にひろちゃんは成長している。

成長期だから当然だけれど、そんな事にさえ、私は喜びを覚えてしまう。
頼もしい人なったから。身体と心を預けるのに相応しい存在になったから。
私のひろちゃんが、大きくなったから。
吸い合っている唇に神経を集中していると、不意にスカートが脱げ落ちた。
スカートを脱がして腰をまさぐっていた手が気持ちよくて、うっとりしてしまう。

「んっ、はぁ、……、くぅん」

それでは物足りないと、長袖のシャツに潜り込む。
胸まで登ろうとしている手を、へその辺りで私は止めた。

「ちゃんと脱がせてよ、ひろちゃん」
「うん、解った」

昂った声が聞こえて、私の身体はひろちゃんと向き合うように回転する。
幾分楽しさが増した視線。服を脱がしてもらうのは前に抱いてもらった時が初めてで、
ひろちゃんはやけに嬉しそうだった。目の前で私が裸になっていくだけじゃなくて
そういう事をさせてもらえる、というのも嬉しいらしい。
私としても間近で見てもらえる訳で、はっきり言えば気に入っている行為だ。
ひろちゃんは笑みを浮かべて私の服を脱がす。
優しい笑いの中には隠しようがない興奮が読み取れる。
私もだんだんと気持ちが加熱していく。ちりちりと、日向ぼっこをしているような感覚。

……私にとっての太陽、というのは大げさだろうか。

私を下着だけにしたひろちゃんは額に軽く口付け、私達はベッドに座る。
ぎしりと昔から使っているベッドが初めて軋んだ。

「──あ」
「どうした?」

隠すことじゃない。教えてあげよう。

「うん……私ひとりだと、こんな風に音がしないんだよ。こんな音、初めて聞いた」
「ふたりであがってるんだもんな……」

誰かと初めて使うベッド。その相手はひろちゃんなのだ。
心拍が速くなる。……何だか、初めて抱いてもらった時みたいだ。

「美里」

声に振り向くと、ひろちゃんの手が伸びてくる。
腰に巻きついて、胸も抱き寄せられる。……難しいことを考えるのは止めよう。
ひろちゃんに、全てを任せよう。

ひろちゃんは私を抱きしめながらベッドに押し倒す。ぎしり。
また鳴った。お互いの舌を触れ合わせ、私はそんなことを考える。
私が僅かに身体を捩るだけでも鳴っているようだ。
これなら、

「もっと鳴るな、美里」

…ひろちゃんも同じ考えだった。

さすがに壊れるなんてことにはならないだろうけど、少しは不安かも。

「にしても、美里」

ひろちゃんは私の胸の谷間に顔を埋めながら言う。

「いい匂いだよ、うん」

くりくりと鼻先で乳首をブラジャーごしに撫でている。
敏感な突起から鈍い快感が染み渡るように広がって、自然に音声になってしまう。

「ぁ、ぁぁん……きもち、いいよぉ……」

頬や唇での愛撫も始まって、頭の芯がじんじんと疼いていく。

「ん、あれ?」

ひろちゃんは私の背中に両手をまわし、疑問の声をあげていた。

「……あ、今日のは、前なんだよ。今、外すね」

ブラジャーを外そうとしていたらしい。
ひろちゃんは身体を少しだけ離して、私の行動を見守っている。
羞恥を押しのけ、外れたとたんにひろちゃんの顔が真っ赤になった。

「ひろちゃん?」
「あ、いや、すげーえっちな感じだよ」
「……そうなの?」

まだ脱ぐところまではしていないのに、随分と興奮しているようだ。

「うん。微妙に隠れてる感じがいいんだ」

ひろちゃんはブラジャーと胸の隙間に手を滑り込ませ、すくい上げるように揉み始めた。
優しく撫でるように、そうかと思えば握るように強く搾る。
じいん、と身体全体の神経が敏感になっていくのが解った。

「ん、熱くなってきたよ、美里」

ひろちゃんも抑えが効かなくなっているらしい。だんだんと、手の動きが大胆になっていく。

私達の呼吸のペースは変わらないけれど、一回毎に行き来する空気の量は格段に多くなっている。

はぁー、はぁー。

理性が崩れていない証拠。
もっと、崩してあげよう。崩れてみせよう。

「んぁあん…ひろちゃん、…ぅん、早く、してよぉ……」

秘所の疼きを感じて欲しい。沸騰しきっている事を知って欲しい。
黒い短髪に手を添えて胸に吸い付いている唇を剥がし、私の唇と密着させる。
何度も何度も舌を押し込んで、こんな事をして欲しいと私は訴える。

「ん、ああん、してよ、ひろちゃん、ねぇ、してよぉ……」
「解った、んん、美里、離してくれなきゃ、出来ないぞ」

知らず知らずにひろちゃんの首を腕で固定していた。

「……、ごめん」

力を抜いて、絡んでいた腕をほぐす。
どんな顔をしているのだろう、ひろちゃんは数秒だけ私を見つめた後に、残った最後の下着に
指をかける。
皮膚に指が食い込む僅かな感触。ひくりと腰が震え、ひろちゃんは構わずに下着を脱がす。
するんとあっけないくらいに簡単に引き抜かれ、私の両膝を思いっきり開けるひろちゃん。
あそこの入り口も開いて、とくとくと液体が零れてお尻の穴が埋まる。

「やぁ……恥ずか、しい」

こんなにも淫らになっている事に激しい羞恥を感じてしまう。
ひろちゃんは股間に顔を近づけ、私の大事な所を観察するように言う。

「濡れてるよ美里。どんどん溢れてくる」

言葉と視線に刺激された私はより高く興奮し、本当にどうにかなりそうなくらいに
ひろちゃんが欲しくなった。
その想いが自然と口から出た。

「なら、しよ?」
「うん、そうだな」

ひろちゃんはそう言うと背中を向けてトランクスを脱いだ。
振り返り、私の目は最大限に大きくなった性器だけを見ていた。
これから一仕事しようという決意。
最も深い所まで愛そうという意思。
ごくり、と私の喉が鳴る。

「……じゃ、いくよ」

腰を落とし、反り返る性器を抑え付けながら前進するひろちゃん。
じれったい。もっと一気に来てもいいのに、何でこんなにも慎重で、……優しいのか。
つぷ、と先端が埋まっただけなのに、私の下半身は跳ね上がった。

「……っ!」

ふるふると膣が踊っている。待ちわびた瞬間の訪れに、最大の蠢動で悶えている。
一呼吸したひろちゃんは、腰を進めて私と深く繋がった。

「ひ、んんあぁぁあああぁああ!」

直後にぱちんと意識が弾け、心が真っ白になる寸前に布団と背中の隙間に
腕が差し込まれた。その感覚でどうにか失神を免れる。

「ぁ、ぁ……ん」

私を塗りつぶそうとする快感を際どい所でやり過ごしてひろちゃんを見ると、
悩ましげに眉が寄っていて、濃密なため息を漏らしている。
なんだか、凄く気持ち良さそうだ。

「……ひろちゃん?」
「うん、……美里の中、気持ちいいよ」

目が開いて私を捉える。……私の心が落ち着くのを待ってくれているようだ。
出来る限り私に優しくしようとの心遣いが嬉しい。

「うん、いいよ」

ひろちゃんは無言で頷くと、ゆっくりとした抽送を開始した。
一秒近い時間をかけて腰を引いて、同じだけ時間をかけての挿入。

「……ぁ、ぁああん……」

聞き届けてから、もう一度。
私の存在を確かめるような愛撫。

「は、……んぁああ、ん……」

ひろちゃんとの性交で、この時が一番好きだ。
一緒に絶頂までの階段を登っている感覚。一歩一歩、着実に足を進める感じがたまらない。

……今更だけど、実感した。ひろちゃんが戻ってきた事を。
嬉しくて嬉しくて、何だか泣きそうになってしまう。

「ん、どうした、美里?」
「……やっと元通りなんだなって、思ったらさ、……うん、ごめん……」

ひろちゃんは微笑んで、私に口付け。

「こっちこそごめんな。寂しかったよな……」
「ん、許してあげるから、……もっと、してよ」

ゆったりとした快楽に身体が慣れてしまい、物足りなくなっていた。
快感の小波よりも、その後からやってくる余韻の疼きの方が強いのだ。
これはこれで感じるものがあるけれど、もっと大きな快感が欲しい。
ひろちゃんは私を少しでも満足させようと舌を求めて、より強く腰を叩き付けた。

「ん、……っ……は、ん……」

私はひたすら酔った。喘ぐ声すらも快感に変換され、体内でうねっている。

「……っ、ふは、ああん、くあぁ、……ぁあ!」

唇が離れた途端に溢れ出す悦声。こうして間近で聞かれるのは恥ずかしい事なのかもしれないけど、
私は聞いて欲しい。ちゃんと感じているのを理解して欲しいのだ。
ひろちゃんは一定の間隔で私を突き上げる。気持ちよさそうだけど、私を観察する程度の
余裕はあるらしい。

「可愛いよ、美里」

私だけが感じているみたいだ。ひろちゃんもそれなりの快楽を得ているらしいけど、
もっと感じて欲しくて下腹に思いっきり力を入れた。

「くぅ…っ!」

ひろちゃんの顔から一気に理性が消えていく。

「うわ、……ちょっと、待て……っ!」

急激な刺激から逃れるように性器が引き抜かれ、腰に絡む私の両脚がそれを阻んだ。
どすんと腰が密着する。

「は、ああぁっ!」

ぶるぶると太さを増した性器が振動している。
私の膣にも伝播して、その快楽の大きさがよく理解出来た。

「……美里、何するんだよ」
「よかった?」

苦笑いし、答えてくれた。

「かなり、な」

私だって好きな人に感じてもらえるのは嬉しい訳で、力を緩めないように気をつけながら口付け、
ひろちゃんを促す。そろそろ高みに連れて行って欲しいと。

ひろちゃんは止まっていた性器の運動を再開する。

「ん、……絡みつくみたい、だ」

見えないけど、繋がっているところがどんな状況なのか細かく想像出来てしまう。
ひろちゃんの性器が往復する度に私の秘所からは液体が溢れ出し、
じわじわとシーツを濡らしているのだろう。
私から快楽を引き出して、叩きつける。もっと私を快楽まみれにしようとひろちゃんの
ペースはあがっていく。

「は、ああ!いいよぉ、んん!ひろちゃぁん……っ!」

荒い息をしながらひろちゃんは行為を続行する。
私を締め付ける腕に力がこもって、まるで抱きかかえられているみたいだ。

「くう……美里、……、どんどん、締まってくるよ」

がくがくと私の身体は揺さぶられ、絶頂に近づくほど、全身から力が抜けていく。
快感への抵抗が弱くなってしまう。心も身体もひたすら快感を貪り、
もっと脱力する身体とは裏腹に私の膣はより快楽を搾り出そうと収縮している。
それに応えるようにひろちゃんの性器も膨張し、より深い所まで届く。

「ふあぁ……んは、ぁあ、あああ!」

奥深くまで触れて、ごりごりと肉壁を引っ掻きながら次の突入に備えるひろちゃんの棒。
私はその摩擦が生み出す感覚に必死に耐えるだけだ。可能な限り、達してしまうのを
遅らせようと快感を抑え付けるけど、余計に興奮の度合いが高くなってしまう。
結果として快感がどうしようもないくらいに大きくなるだけだった。
ひろちゃんの抽送は素早く、そして強いものになっている。
口からは色めいた溜め息が何回も零れて、もっと動こうとする身体にブレーキをかけている
ように見えた。

「ひろ、ちゃん?」
「ん、どうした?」

停止したひろちゃんが私を見つめる。それだけなのに体温が上昇し、言葉を形にするのが
難しくなってしまう。

「……あの、我慢、しなくてもいいんだよ?」
「……」

ひろちゃんは丁度いい言葉を見つけられないのだろう、数秒だけ沈黙して、
決意を私に伝えた。

「痛かったら言えよ。すぐ止めるから」

先ほどの行為は慣らし運動だと言わんばかりの律動。
私は声すらも押し殺して、ひろちゃんの身体を抱き締める。

「……っ!ん……ん!」

一握りだって外に漏らしたくなかったのだ。この行為がもたらす幸福感に、
思う存分浸りたかった。激しく愛される事の嬉しさをそのまま飲み込みたい。
ひろちゃんの性器が私の子宮に直接精液を注ぎ込もうと、さらに膨張していく。

「ふく、ぅう!当たっ……は、ひあぁあぁ!」
「は、……ぁあ!美里……っ!」

返事をする間もなく、私はひろちゃんに抱きかかえられた姿で真っ白な絶頂に到達した。


最高の恍惚から覚めてひろちゃんを見ると、今だに射精の最中のようだ。
眉が皺を作っていて、微かな呻きと共に何度か性器を往復させている。

……お腹の中に、原始的でありながら官能的な熱さ。じんわりと全身に沁み込んで、心が高揚する。
本能的なものだとは考えたくない。ちゃんと愛してもらった証拠だ。
ひろちゃんの想いを直に受け取る事は、私にとってはこの上ない悦びなのだ。

「ん……ふ……」

重い艶声を漏らし、ひろちゃんは性器を引き抜く。
快楽の余韻も重くて、全身から力が抜けてしまう。目を開ける分すらも溶けてしまったようだ。
きし、とベットが鳴る。
そして、ひろちゃんも身を横たえて、私を広い胸に抱きしめ──ない?
予想を裏切られ、薄目でひろちゃんを見ると、座った姿勢で何だか思い詰めた表情だ。

「美里、いいか?」
「…え、なに?」

少しだけ顔を伏せて、戸惑うようにひろちゃんは言い出す。

「もっと抱きたい。もっともっと、美里の中に出したい。……つらくなったら言えよ。
自分でも、何回すれば収まりがつくか予想出来ないんだ」

寝ている私からも見えるくらいに反り返っていくひろちゃんの性器。
どくんと心臓が叫ぶ。私の身体も応えるように艶と力を取り戻したと思う。

「……可愛いよ美里」

ひろちゃんはくの字に重なった私の足を開こうとせず、覆いかぶさるように
再度の挿入を始めた。

その後、ひろちゃんは三度も想いを放ち、私が絶頂に至ったのはそれを超える回数だった。
獣のように相手の身体を貪り合い、何ヶ月も逢えなかった恋人同士のように自らの愛を見せつけ合う交わり。

「は、ぁ……」

ようやくにして私はひろちゃんの胸に収まる。
至福の時間。
心地よく気だるい疲労を噛み締めあいながら、微笑みを見せる。
ひろちゃんも荒い呼吸をしているけど、発作は起こっていないらしい。
あれだけ激しい交わりだったのに、しっかりと体調を崩さないペースを守っていたようだ。
この行為に慣れた証拠。その相手は私なのだ。
私の気持ちには何の隔壁もなくて、ちょっとだけ考えた事が簡単に口から出てしまう。

「もっと、こういうこと、したいね……」
「毎日?」

羞恥を覚えながら、素直に私は答える。

「うん、出来れば、ね」
「僕は月一回くらいにしたいけどな」

……そんなものなのだろうか。この年頃の男の子なら、それこそ毎日でも可能な時期だと
思うし、そういう欲情だってある筈ではないのか。

「ま、そりゃあ、発作がない限りはしたいけどさ……」

疑問の表情を覚えつつ私は訊く。

「じゃあ、何で?」

照れを隠そうともせず、ひろちゃんは私を見据えて言った。

「今日の美里、可愛かったからな。前にした時よりもずっと可愛かった」

咄嗟に返事が出来ない。何て言えばいいんだろうか。
肯定するのはおかしい気がするけれど、否定したところでひろちゃんの気持ちは変わらないだろうし。
悩んだ結果、

「……本当に?」

芸もなく確認の言葉が言えただけだった。
ひろちゃんは何の臆面もなく私に言う。

「うん、本当。ちょっとだけ我慢して今日みたいな美里を見れるんだったら、
毎日はしたくない。……美里はどう思う?」

どうもこうもない。ひろちゃんが見たいものを見せてあげたい。

「ひろちゃんがそれでいいんだったら、…いいけどさ」

了承の印としての口付け。じっとりと汗ばんだ肌が重なる。
さて、今日の目的を果たそう。

「ひろちゃん、お風呂に入ろ?」

かあ、と頬を染めたひろちゃんがしどろもどろに言葉を紡ぎだす。

「その、一緒に?」
「うん、一緒に」
「ば、馬鹿、恥ずかしいだろ」
「何で?こういう事しても、恥ずかしいの?」
「いや、そうじゃないけどな、……いいけどさ……」

何となく理解出来た。
性交を前提にしないでの裸の晒し合いが恥ずかしいのだろう。
私としては欲情を抜きにした冷静な目で見て欲しいのだ。

「じゃ、行こ?」

身体を起こしてひろちゃんの手を引く。

「ふ、仕方ないか」

苦笑いを浮かべ、ひろちゃんはベッドから降りた。

すぐに脱ぐと解っていても、私達はきちんと服を着てから部屋を出た。
裸を見せ合っても良いのはベッドの上とお風呂だけだ。……今のところは。
部屋を出てすぐにひろちゃんが言った。

「水、飲んでもいいか?」

訊かれて私も意識した。随分と喉が渇いている。
ひろちゃんはずっと動いていたのだから、私よりも数段渇きは上だろう。
二人並んで台所に立って水を飲む。
私は一杯だけだったけれど、ひろちゃんは三杯も飲んでいた。

「そんなに渇いてた?」
「まぁな」

コップを置いたひろちゃんが思い出したように口を開く。

「美里、バスタオルとかは、──」
「あ、脱衣室にあるからね」
「準備いいな、──って事は」
「うん。今日の本題だよ」

ひろちゃんは私の目を見詰めて、軽く笑った。

「大胆になったよな……」
「ひろちゃんも、だよ」

私に断りもせずがっちりと肩を抱き寄せたあたり、ひろちゃんが変わった確かな行動だ。
そして平然と許す私。男女の仲、とはこういうものだと思う。


「後から来てね」

私はそう言い残してひろちゃんを脱衣所の外で待たせた。
狭いというのもあるけれど、やっぱり恥ずかしさの方が理由としては上なのだ。
服を脱ぎながら思う。
ひろちゃんは私のスタイルについては一度も言及することがなかった。
私のお姉ちゃんをよく知っている人だ。比較されるのは無理がないし、今でもお姉ちゃんのスタイルには
全く太刀打ち出来ないだろう。
可愛いとの言葉には嘘はない。けれど、実際はどうなのだろうか。






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