「リライト」さん配布のお題、「選択課題・ベタ」に挑戦。ジャンルは、以前書いた小話に反応いただけたので(まことにありがたい)、調子に乗って流血女神伝。……調子に乗りすぎて変(態)な話。どれくらいかというと私が反省するくらい。
道を、大男と少女が仲良く手を繋いで歩いている。
「あのね、それでね、大人になったら海賊になりたいの!トルハーンちゃんみたいな!」
「そうかそうか。セーディラは美人だからな、仲間もすぐに大勢集まるぞ」
「本当?ラクリゼおばさんくらいきれいになれるかな」
「今だって同じくらいきれいだぞー」
「えへへ、ありがとう。でもちょっと心配なの」
「なにがだ?」
「だって私、母さんの娘だもん。ラクリゼおばさんみたいにスタイルよくなれるかわからないし」
うーん、とうなり、隻腕の大海賊トルハーンは顎に手をやった。
「まあ惚れた男に揉んでもらえばすぐにでっかくなるさ」
「なんで?」
それはだな、と言いかけたトルハーンの背後から、低くうめいた女の声が投げかけられた。
「子どもに何を教えてるんですか船長さん」
振り返ると、そこにはセーディラの母、カリエが立っていた。水汲みの帰りなのだろう、肩に担いだ天秤棒には重たそうな桶がふたつぶらさがっている。
母さんおかえりなさい、とセーディラにとびつかれて水しぶきがはねるのを見ながら、トルハーンは首をひねった。
「俺、そんなに妙な話してたっけ」
「してましたよ。セーディラ、あんたもね、このおじさんの話なんかまともに聞いちゃいけません」
ひでぇなあ。そう言ってトルハーンは片腕で器用にカリエの天秤棒をひょいと持ち上げた。まるで重さを感じていないかのようである。
そんなトルハーンにカリエは礼を言ったが、すぐセーディラに向き直った。両肩をしっかりとつかまえ、懇々と言い聞かせている。
「いい、セーディラ。揉ませろとかそーゆーこと言う男は痴漢よ変態よろくでなしよ。もし言われたらその場で張り倒しなさい。でないと調子に乗るから」
「父さんそんなこと言ったの?」
「……あのねぇ、天地が引っくりかえってもエドがそんなこと言うわけないでしょうが」
「うわっ、母さんたらまた娘の前でのろけたわ!信じらんなーい」
「こらセーディラ待ちなさい!」
おののくように身を震わせ、セーディラは家に向かって一目散に駆け出した。大声を張り上げ、肩で息をつくカリエにトルハーンはしみじみと言う。
「いや効果がある場合もあるんだって」
「船長さん、今度妙なこと教えたらエドとラクリゼに言いますからね」
ぎろ、と睨みつけられてトルハーンは口を閉じた。たしかにあのふたりを敵に回したらただではすむまい。少なく見積もって半殺しというあたりだ。
天秤棒を担ぎ、身軽に歩く大男の後ろを女がひとりついていく。
張り倒せばよかったかしらねぇ、というカリエの呟きは、風にまぎれて消えて誰にも届かない。
(たいへんだこれではバルアンさまがへんたいだ)
ところで、ふと思ったというかこうだったらいいな的な希望的観測。カリエがアフレイムに「この子には父親が拓いた道を整えていってほしい」と思ったのと同様のことを、バルアンも考えていたんじゃないかとか。
バルアンは自分でも平時の王ではないと自覚していただろうし、オルの子としてルトヴィアを滅亡させるという野望を抱いてもいた。それは成し遂げれば大陸を血と炎で染めあげることになる望みであり、果てに待ち受けているのが、砂となってなにも残らないものであろうとも突き進む覚悟だった。
だからこそ、そのあとには自分のような乱世の雄を必要としない世界が来ることも分かっていただろうし、その時代はアフレイムが王となって世界をととのえてくれればよいと思っていたのではないか。
だからアフレイムが生まれたときは、後を託す存在ができたということでそれも嬉しかったんじゃないだろうか。つまり「これで存分に大陸を戦乱の渦に叩きこめる」と(爆)。
いや、もちろん単純に嫡男の誕生を喜んでいただろうけれども。ザカール編以後は疎遠になるとはいえ、わざわざ王宮を抜け出して会いに来たり、初対面のときは抱き上げてあやしたりする程度には普通の親子だったわけだし。
バルアンに関してやるせないなーと思うのは、当初登場人物の中でも一、二を争うくらい「神」というものにたいして敬虔だったのが、最後には人間に神は必要ないと言い切るまでになり、なおかつ自身は知らず神の意思にしたがって動いているところだ。しかも徐々に人間性をこそぎ落とされていきながら(だからこそ、フィンルにカリエの面影を見るあたりに、まだ残っている人間性を垣間見せられるのだが)。