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サルア注釈「狼」編

 前々からやってみたかったことをついに実行に移した。続き

「それにな――それに、その連れとやらにも、ちゃんとお迎えは出しておいたさ」
「我が森に集え狼」p.40

 記念すべきサルア初台詞。若くて貧相で小馬鹿にしたような表情、と三拍子揃っているのはさすが。

『そのくらいじゃ、まさか倒れねえだろう?』
同p.91

 必見!なんと89ページの挿絵にサルアがいるのだ。草河遊哉画集「黒の聖域」でもちゃんとネタにされているぞ!……というのはともかく、ここから、夜目でしかも一番後ろにいるにもかかわらず、投じたナイフを標的に命中させられる程度の能力はある、ということが推測される。

「(前略)にしても、こんな時間といやあ、お前さんもよく起きてたな。鍵をこじあけなけりゃならんかと思ってたが。あの坊ちゃんとイイコトでも――」
同p.130

 はい先生、発想が下劣だと思います!

 言ってから、彼はまた嘆息した。説教するのは嫌いなのだ。
(くそ――それが嫌だから、こんな辺鄙な村に取り入るような任務でも、我慢してやってるんじゃねえか。説法の免許なんて取るんじゃなかった)
 そんなものを持っているから、ついつい口から出てしまう。
同p.131

 いや免許のせいじゃなくて性分だろう。

(奴が戦闘術における大陸のエキスパートなら、俺は大陸におけるこいつの帝王だ!)
同p.146

 ていおう。ものすごい言い様だ。願ワクハ、ソノ自信ニ見合ウ実力ヲ作中デ示シテホシカッタナア(遠い目)。

「あまり興奮するなよ――死の教師というのを知っているか?」
同p148.

 これまで小出しにされてきていたサルアの「タダモノではないよオーラ」が最高潮に達した瞬間――であると同時に、ここから下降の一途を辿っていく瞬間でもある。

 (前略)この問いに対して、魔術士がちらりとでも底意を見せたなら殺さなければならない。それは多分、可能だろう。
同p.150

 後から読み返すと、本当に可能なのか疑わしくなってくるんだが、いったいどうすれば。
 いや、まあそれなりに判断力を持っていて、なおかつ「暗殺者ではない」キリランシェロなら対処できると踏んで斬りかかったんだから実力のほどは信用できる……よね?

「キムラック教会の死の教師――となれば、大陸でもかなりの実力を持った暗殺者ってことになるな。いや――暗殺者ってことなら、十本の指に入る奴かもしれねえよ。大陸でも八振りしかないガラスの剣を帯剣してるくらいだからな」
同p.161

 オーフェンによるサルア評。だがいくら不意討ちとはいえ、腕力のないクリーオウに背後からばっさりやられた後では説得力がないことはなはだしい。

「そのほうが、おもしれえじゃねえか(後略)」
同p.170

 「キリランシェロ」ならマクドガルの命を狙ってきたわけではない……と分かっていたうえで、なぜ斬りかかってきたのか、というオーフェンの問いに対する答え。
 今読むと、本当に後先考えてないんだなあ、と思うと同時にえもいわれぬかわいげが。<アホ

「照れるなあ。俺の部屋だ」
同p.176

 「崇高な地を隠すため」の一例らしい。フィエナが泣くぞ、オイ。

「てめえ――裏切っ――」
同p.179

 こうした台詞からうかがうに、詰めが甘いんだよね、このひとは結局。
 そういえばマクドガルはサルアが死の教師だと気づいていたうえで雇っていたようだが、それほどまでに命の危機を感じるような状況に置かれていたのだろうか?魔術士や、深読みすれば最接近領の密偵が過去襲撃してきたとか。いや、それはさすがに妄想のしすぎだろう。仮に事実危険があったとしても、森に潜んでいた武装盗賊に村が襲われた、というあたりが妥当か。

「結果オーライだったから言うわけじゃねえけどよ。俺、裏切り者ってのは結構好きなんだ。じゃあな」
同p.192


 ぬう。驚くべきことに、共鳴破砕の魔術(対象は塵と化す)を受けたうえ、花瓶の破片でどつかれたわりに回復が早い。この立ち直りの速さは後々キムラック編で十二分に発揮されることになる。

(俺を、女ひとり片腕に抱いて凱旋できるヒーローだとでも思ってるのだかね?しがない、みじめな暗殺者をよ)
同p.219

 こういう言い回しを見るにつけ、ほとほと「ええかっこしぃ」なのだと思うわけだ。わざわざ自嘲気味な表現を使うあたりが特に。

「死ぬわけはねえよな……必ず来るはずだ。俺のところによ。それまでは……そうだな」
(中略)
「それまでは、退屈だな」
同p.220

 サルアってわりとオーフェンのこと気に入ってるっぽいよねなんでだろう?と当時疑問だった。先日読み返してやっとその疑問は氷解。チャイルドマンの生徒、大陸最高の暗殺者でありながら「人を殺せない」キリランシェロ。つまりオレイルの弟子である自分の相似形として見てるんだ。<行間読みすぎ
 しかしながら、オーフェンがキムラックまで来ると確信しているあたりは今もって謎である。勘か?

 さて、後には「おっさんくさい」が代名詞となるサルアだが、この「狼」ではどことなく青臭いっつーかなんというか。なんだよ、こいつかわいいじゃねーか……。と、どこを読めばそうなるのか?という感想を抱きつつ終わる。どっとはらい。

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