「リライト」さん配布のお題、「選択課題・ベタ」に挑戦。ジャンルは009。
「今度はなんの茶番だ?」
004は自分以外誰もいない部屋で口を開いた。朝、起床したときにはなかったものを自分の部屋に見とめたからである。午前中の演習や実験を終えて戻ってくると、机の上には食事とともにスケッチブックが置かれていた。スケッチブックの上にあった箱を開けてみると、予想通り12色のクレヨンが入っている。
ひとりごとかと思いきや、004の言葉にはきちんと返答があった。
”茶番ジャナイヨ。ナンダッタカナ……。ソウ、科学者タチハ写生会ダッテ言ッテタ”
甲高い、一種金属音めいたその声は004の脳に直接響いた。超能力者の001は、普段顔をあわせることがないからか、こうしてテレパシーで話しかけてくることがある。
「しゃせいかい」
004は平板な調子でオウム返しにつぶやいた。ごく一般的な単語である。しかしここで、つまりBGの研究所で耳にするにはあまりにもそぐわない。
”午後カラノ予定ハ変更ニナッタラシイネ”
いかにも興味深げな001の「声音」に面白がっている色はないかと探ってみたが無駄だった。ということは、からかわれているわけでも、ましてやエイプリルフールというわけでもないらしい。おそらくいまごろは、ほかの奴らもこれを見て頭を抱えていることだろう。002や005あたりは意外に達者ではないかとも思えるが。ただし008はだめだ。あれは絵心があるようには見えない。
などと自分を棚に上げたことを考える004だった。
「まあ、どんな意味があるのかさっぱり理解できん実験を散々やらされたが……今度ばかりはきわめつけだな」
”無意味ジャナイト思ウヨ。カレラトイッタラ、コレ合理性ノ塊ダカラ”
「ほう?たとえばどんな意味があるとお前さんは見る」
”例エバ心理学的見地カラノ精神状態ノ観察……絵画ハ対象ノ精神ヲ推シ量ルノニ有効ナ手段ダ”
なるほど、と004はあごをなでた。いかにも科学者連中が考えそうなことだ。しかし――
”ドウヤラ君ニハ別ノ説ガアルヨウダネ、004”
「あっちの求める正解なんておれたちには関係ないからな。おれが考えているのは、おれたちにとっての意味さ」
”タトエバ”
「レクリエーション」
明快に答える。001は無言だったが、わずかに伝わってくる精神波からは気配のようなものを感じ取れた。どうやらあっけにとられているようだ。
001を出し抜けたことに満足をおぼえ、004は食事をはじめた。こんなことはめったにない。そして、この単なる口から出まかせをかれはなかなか気に入った。写生会、いいじゃないか。やってやろう。
「こういうの、どう言うか教えてやろうか、001」
”ウン?”
「童心に帰る、とそう言うんだ」