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お題「媚薬」

 日記で書き散らしている小話は、おおむね2時間弱で書き上げているので、最初はともかく尻切れとんぼで終わっているのは反省すべき点だ。そんなこんなで「リライト」さん配布のお題、「選択課題・ベタ」に挑戦。ジャンルはおお振り。続き

 練習帰りのお楽しみ、缶のプルトップをきりりと開けてきんきんに冷えたそれを、喉を鳴らして一気に飲み干す。
 「ぷッはー!うめー!」
 「やめろよ、なんかオッサンみたいじゃねーか栄口」
 「なんかその缶がビールに見えてきたんだけど、おれ」
 「変なこというなよお前ら!コーラですらないよ、野菜ジュースなんだよおれが飲んでるの」
 「そのチョイスが、またオッサンくせーよな」
 「うんうん」
 だああッ!と栄口が地団駄を踏んでいる横で、田島がコンビニで買ったばかりの雑誌を広げて騒ぎはじめた。
 「三橋三橋、これ見ろよ。オトナのビヤクだってさー!」
 「びっ、びやっ」
 「でけー声でなにを言ってやがる田島!」
 花井が怒ったー、と田島は三橋の左腕を引っつかんで駐車場を走り回る。花井、とついでに投手の腕を心配する阿部が追いかけるが身軽な田島を捕まえるのは至難の業だ。
 田島の放り出した雑誌を拾い上げてざっと目を走らせているのは巣山だ。田島が見ていたのはどうやら見開き広告らしいが……。
 「媚薬ってどんなのだ?!」
 脇からにゅうっと顔が次々に飛び出る。みんなして思いっきり反応していたらしい。まあ、あれだけでかい声で騒がれれば、聞こえるもなにもないだろう。
 「媚薬つーか、鼻薬だと。ただのキャッチコピーみたいだな」
 ほれ、と巣山がよこした雑誌を見ると、確かにそう書いてある。ご丁寧なことに「大人の鼻薬」とある横に、でかでかと振り仮名をふって、だ。いや確かに花粉症の季節なんだけど。むしろ「部分軌道爆撃系人工精霊」の方が気になるんだけど。
 「エロエロじゃねえのかよ紛らわしい」
 ぼそりと呟く泉の後ろを、田島がほとんど突き飛ばすように走り抜けた。
 「泉の頭がエロエロだなー!」
 無言で泉がおいかけっこに加わる。それを見送るメンバーの顔は、あれがうちの四番なんだよなあ……と複雑だ。
 「大丈夫なのかな、うちの打線」
 「と、思うよ」
 「言っちゃっていい?実はさあ、この前田島がバッターボックスに入ってるとこ見てどきっとした」
 「あ、おれも」
 「おれもおれも。なんかヤバかった」
 「田島もなー、あんなだけどマジなときはかっこいいんだよな」
 「エロエロになるくらい?」
 「いやエロエロにはならねえけど。でもヤバいよな」
 「田島でエロエロは問題あるだろお前ら。だいたいさあ」
 と、巣山がなおも終わらない追いかけっこを指す。
 「あれは田島がエロエロだと思うぞ」
 もっともだ。と全員深く頷いたのであった。



(いいかげん野球をさせた方がいいと思う)

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