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お題「子どもを預かる(迷子でも)」

 なんかもー当初の目標(ベタなタイトルでハズす)から離れてきてる気がしないでもないけどがんばるよ!
 「リライト」さん配布のお題、「選択課題・ベタ」に挑戦。ジャンルは魔術士オーフェン。続き

 早朝、厄介になったな、とその黒魔術士は謝辞を述べて去っていった。メッチェンもこちらに目礼して後に続く。
 階段を下りていくふたりぶんの足音と、扉が閉まる音。そして、しばらくしてから聞こえてくるロバのいななきを耳に入れて、この家の中から人の気配が完全になくなったことを確かめる。聴覚を研ぎ澄ませれば、車輪が地面を踏みしめるのも聞こえたかもしれない。
 オレイルは揺椅子に座りなおした。数日ぶりの静寂が体をゆったりと包みこむのを感じる。
 荷馬車とロバは、メッチェンが近辺の村から調達してきたものだ。近辺とはいっても、徒歩で往復に半日はかかる距離にある。村に住まいを定めたほうがなにかと便利だったろうが、オレイルはあえて放置された小屋を住まいに選んだ。
 自分のような人間が、聖都に入ることを許されないものが暮らす村に足を踏み入れるのは、あまり好ましい事態にならないだろうから。
 おかげで、こうして静寂の中で生きていくことができる。かれが望んだかたちの平穏ではないとはいえ。いまも家の中はただただ静かだった。
 と、オレイルはあることに気づいた。あまりにも静かすぎる。つまり、予想していたよりも。
 聖都に向けて発つ際、黒魔術士は連れの少年少女ふたりを預かってほしいと頼んでいったのだ。預かるとはいっても、ただ一週間ほど寝泊りを許すというだけのことだが。だからこの家にはいま、オレイルのほかにふたり人間がいるはずだった。しかしそうした気配や息づかいは微塵もない。
 なるほど。やはりあのふたりは後を追ったか。
 深く嘆息する。呆れるでもなく、厭わしさからでもなく、ただ深く息をつく。静寂は思ったよりも早く戻ってきたようだ。
 何年かぶりに感じた、他人の息づかいが満ちる暮らしを、わずらわしいとまでは思わなかった。では懐かしいのか?まさか。オレイルは自問を一蹴した。すべてはオレイルの外側を通り過ぎていくものでしかないというのに。
 ――だれもかれもが聖都を目指していく。
 ある種の諦念をもってして、オレイルはそう感じざるを得ない。

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