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サルア注釈「背約者(下)」編

 拍手もらいましたっす嬉しいっすうひょー。続き

 意を決して、再び走り出す。彼女はクオのわきを通り過ぎると、力なく倒れている若い男――完全に名前を忘れたが、見覚えはある男だった――のもとに駆け寄った。
「我が神に弓引け背約者(下)」p.13-14

 あわや見捨てられるかと思いましたが、助けてもらえました。ありがとうアザリー!

「背約者のひとり、サルア・ソリュードがあなたを頼ってくるかもしれません」
「奴がわたしを頼るとは思えんがな」
同p.55

 お兄ちゃん登場。「狼」読了時には出てくるとは思わなかったものだ。

 (前略)つい一時間ほど前にケガを治してやったというのに、またその状態まで逆戻りしている。深い傷、浅い傷、取り揃えてまるで身体に刃物で落書きしたようだった。
同p.58

 依然、死にかけ続行中。今度の死因は失血死。

「でも、レキを頭にのっけてて、ちょっとプリティな感じ」
「てめえがのっけたんだろーがっ!」
同p.62

 いくら血まみれでかっこつけよーが黒い毛玉を乗せてれば様にならないのである。口絵参照。

「天人の魔術じゃあ、神殿には近寄れない……近寄れるはずがねえんだよ」
「なにを言ってるの?」
「もしそれができたのなら……とうの昔に、神殿は滅びてた――へへっ。ま、そのほうが面倒はなかったんだろうが……やっぱ退屈ではあっただろう……な……」
同p.65

 アザリーも言っていたが、ユグドラシル神殿には白魔術や天人の魔術では侵入できない。仕組みやその理由については本編中では記されておらず、ここ十年来謎のひとつだった。
 後日談が始まるまでは、ラモニロックは女神の監視と魔術士絶滅のために教会を作り、ドラゴン種族も手出しできないよう、神殿になんらかの仕掛けをほどこしたのではないか、と考えていた。教会が隠匿している天人の遺産のなかに、もし魔術による転移や侵入を防ぐものが存在していれば、そうしたことも不可能ではない。
 だがこの考えはあくまで仮定の上に仮定を重ねたものにすぎない。もやもやしていたところ、後日談でラモニロックが人形だと明かされたことで、遺産などではなく天人種族が自発的に行った魔術であろうことは確実になった。
 聖域派とイスターシバ派、どちら(ひょっとすると両方)が教会の発祥に関わったかいまだ定かではないが、アスラリエルがレキをドッペル・イクスとして送り出したことを考えると、イスターシバ派によるものと考えたほうが自然か。
 一方、なぜ教会を閉鎖的なものとし、神殿に魔術防壁をほどこしたのかはいまもって不明である。後日談からすると、女神を人間種族の目から隠したと取れなくもないが、さて。

「お前らってのは……ちっと考えりゃすぐ分かるようなことを、ちっとも考えようとしねえ。永遠にだ」
同p.94

 お、おっさんくさい……。

「確かにいいお屋敷だとは思うけど、それだけにここを襲撃して占拠するのは難しいと思うわ」
「俺の家だって言ってんだろーがっ!」
「非常に怪しいわね」
「どこがだっ?!」
同p.95

 これにはじまるクリーオウとの漫才やりとりは最高である。なんぼ格好をつけようが、クリーオウの前では形無し、化けの皮が剥がされる一方だ。いいぞもっとやれ。

 冷たい目だった。黒く、動きのない瞳。背が高く、がっしりした体格は、鍛え上げられたものというより、年相応に太りはじめたためだというように、マジクには見えた。
同p.99

 この文章を読んだとき、だれがあのつぶらな瞳に長髪の優男を想像したであろう。

 サルア・ソリュードにとっては、よく知った家だった。
 だが、他人の家でもあった。
同p.120

 つくづく不良少年くさい言い様である。実家をいちいち兄の家、と言い表すあたりとか。家と自分とは関係ないと思いたがっていながら結局は頼ってしまうし。
 書斎に並ぶ勲章の中にサルアの名前だけがない、ということは、出来のよい兄と比較されてさぞかし鬱屈した少年時代をすごしたのであろうムフ。

「俺は俺で、やりたいことをやる。言ったはずだぜ」
「危険な遊びは、やめさせなければならない。兄としてはな」
「俺だって一人の神官だ!あんたと議論するくらいの立場は得たんだよ!」
同p.123-124

 お兄ちゃんに怒られました。
 初読時、カーロッタに坊や呼ばわりされたときは「坊やか……」と思ったものだが、今読むと確かにサルアは坊やなんだよなあ。
 やりたいことをやる、と言っていた人間がこのあとああなるかと思うと……。あ、変な笑いが(よだれぬぐいつつ)。

「なんにしろ、俺に返り討ちにされちまうようじゃ、兄貴にはとうてい敵わねえよ」
同p.128

 カーロッタもラポワントを指して、サルアより腕は上、と言っているのでおそらくその通りなのだろう。
 「オーフェン」世界ではどちらがより強いか、誰が最強かという比較は無意味というのが根幹にあるとはいえ、なんか……どんどん立つ瀬が……。

「教会の存在を――根本から変えてやるのさ」
同p.135

 もちろん、それは不可能だったのだが。
 後日談において、サルアとメッチェン、ふたりが望んだのとはまったく違う形でキムラック教会は変化と、そして教義の危機を迎えることになる。

「青春の部屋って感じだろ?」
「ある意味、人生の墓場とも言えるわね」
同p.

 サルアの部屋の威力=マジクが軽いめまいに襲われたり、クリーオウが感情のない声で相槌をうってしまう程度。「エンサイクロペディア」によると、様々な趣味の遍歴の結果らしい。
 そういえば「狼」でベッドの足を切り詰めたのもわざとだろうが(頭が高くしないとよく眠れない、とは本人の弁)、まさか後日談で投宿しているホテルでも同じことをやっているんではあるまいな。メッチェンに怒られそうではある。

『さあ、渇きを癒すが良い』
同p.173

 サルアの語る、魔剣「スレイクサースト="Slake Thirst"」の銘の由来。ところで「悪魔」でオーフェンがスレイクサーストの話をより詳細に語ったのは、絶対にサルアがべらべら喋ったからだと思う(握り拳)。思うったら思う。
 ちなみに、かつて自分を殺しかけたクリーオウにこんな剣をあげてしまったことで、「エンサイクロペディア」では「よっぽどの大物か考えなしかのどっちか」と言われてしまっている。……後者?

「(前略)剣はしょせん道具に過ぎないんだからな。人の思いが魔剣を造るってのは、そういうことだ。折れそうなくらい振り回してやりゃあいいのさ」
同p.173

 後にガラスの剣が折れることを考えると、いろいろ複雑さがよぎる。

「頼むから、オーフェンのことはちゃんとオーフェンって呼んでくれない?……オーフェンだって嫌がってたじゃない」
 彼女の言葉を聞いて、さらに彼女の顔を一瞥し、サルアはしばし黙したが――
 そのことを約束はしてこなかった。(後略)
同p.

 思いつき。「キリランシェロ」の名前ってサルアにとっては結構重大なんじゃないのか?つまり、単なるロマン以外のものがあるような。
 オレイルも、自分の足をぶっ刺した短剣を後生大事に保管していたり、それをおそらくなんの補修もしないままにしていたのはどういう思いがあったんだろうとか。

「クオにはさっき遅れをとっちまったが――こいつがあれば、負けはしない」
同p.175

 一度クライ、対魔術士用ノ武器トシテ役ニ立ツトコロヲ見タカッタナア……。

「ま、すぐには分からんでもいいのさ。とはいえ――そのうちしっかりと理解するためには、お前さんにはあの未熟な師匠が必要だ」
同p.190

 サルアがというよりマジクがとてもいいシーン。
 つーか、ここらへんの引用多すぎやしないか、私?

 サルアがオレイルに師事したのは、この頃だったらしい。
同p.194

 この一文で、「サルアは少年時代、教えを受けるために聖都を追放されたオレイルの元で生活していた」という設定が私の中で確定した。あと、余裕のなかったころのメッチェンと初対面でウンニャラカンニャラというところまで想像が飛んだ。

「違う!」
 否定の声をあげたのは――サルアだった。彼は剣を捨てていない。
「自分の死を崇めちまったら、もう駄目なんだよ!」
同p.302

 まじめなことを言うが、サルアがいっとう格好良いのはここだと思う。自分たちの信仰対象である女神、すなわち大陸の滅び、死を前にしてなかなか言える台詞ではない。

「また退屈だってんだよ」
同p.330

 各種ムックでは「メッチェンはサルアに気があるようだ」と書かれている。だが、ここでのやりとりを見るにつけ、どっちかっつーとサルアがメッチェンを気にしているようにしか見えないんだよな。
 教会の勢力範囲から逃れ、平和な日々が始まった――ように見えて、3人の行く末は実はかなり暗い。今の読者はそれを知っている。
 まあそれはともかく、ここを最後に本編でサルアの出番はない。地味に東部編での再登場を願いつづけていた人間としてはしょんぼりだったが、まさかなんの前触れもなく後日談が公開され、まさかそこでなかなかの役回りを与えられて登場し、まさかやたらいい男になっていたなどとは、このとき予想だにしなかったのであった。おかげさまでまあ毎日このほどさように大暴走である。

 ていうか今回むちゃくちゃ長いわい。
 ちなみに注釈をやるためにこれだけのことを考えながら読んでいたわけではなく、現在読み返すとこれだけの脳内補完機能がはたらくのである。
 まったくオタってやつぁ。

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