初恋

 『初恋は実らない』昔誰かがそう言った。
その時僕はその言葉の意味が分からなかった。
初恋でも2度目の恋でも、お互いが好き同士ならその恋は実る。
その言葉を初めて聞いた時、僕は本気でそう信じていた。


 あれは、学校が冬休みに入る少し前の事だった。
僕は中学3年生で受験が近いから、その日は学校から帰った後ずっと机に向かって勉強していた。
その時もうカーテンの向こうは真っ暗だったけれど、部屋の明かりは点けていなかった。 それは机の上だけを電気スタンドで照らす方がなんとなく勉強に集中できるからだった。
「わたるくん、ご飯よ! 下りてらっしゃい!」
階段の下からお母さんが僕に向かってそう叫んだ時、腕時計の針は午後7時ちょうどをさしていた。
僕は机の上にノートを広げたまま立ち上がり、それからすぐに階段を下りてリビングへ向かったのだった。

 リビングはテレビもラジオも消えていてとても静かだった。
狭い部屋の中には柱時計がカチカチと時を刻む音が響き、おいしそうなご飯の香りが漂っていた。 そして薄暗いキッチンを覗くと、お母さんが振り向いて僕に笑顔をくれた。
「今日はそっちで食べようか?」
「うん」
僕は小さく頷いてリビングのソファーに腰かけた。
お母さんの言う『そっち』とはソファーの事をさしていた。家のキッチンは照明器具を取り替えてから少し薄暗くなってしまい、 それ以来彼女はダイニングテーブルでご飯を食べるのがあまりお気に召さないようだった。

 「お父さんは遅くなるみたいだから、2人で食べようね」
小柄なお母さんはそう言って僕の隣に腰かけた。
低いテーブルの上に並んだ2枚のお皿には、野菜がたっぷりのチャーハンが盛り付けられていた。 僕とお母さんはスプーンを手にしてすぐにご飯を食べ始めた。
僕のお母さんは看護師だ。だから仕事の時間帯も不規則で、いつもこうして一緒に夕食を食べられるわけではない。
だからこそ彼女は僕と一緒に過ごせるわずかな時間をとても大切にしてくれているようだった。
「ねぇ、わたるくんの同級生で萩原くんっていう人、知ってる?」
その大切な時間に突然彼の名前が出たものだから、僕はひどく驚いてご飯を喉に詰まらせてしまいそうになった。
僕が慌てて水を飲むと、お母さんはちょっと心配げに僕の背中をさすってくれた。
「萩原くんが……どうしたの?」
僕はご飯を胃に流し込んだ後、お母さんの目を見つめてそう言った。その時彼女の目は少し曇りがちだった。
「萩原くんのお父さん、うちの病院に入院したの。昨日話をしたらわたるくんと同じ年の息子さんがいるっていうから、 ちょっと聞いてみただけなのよ」
お母さんは長い横髪を邪魔くさそうに耳にかけ、ゆっくりと食事を続けた。
僕はその話を聞いてもっと驚いた。そしてその先の話をもっと聞きたいと思った。
「病気で入院してるの? それともケガ?」
「内臓の病気よ。他の病院から移ってきたらしいから、もっと前から入院してたんじゃないかしら」
僕は食事をする手を止めてお母さんの話を聞いていた。その時は、なんとなくドキドキしていた。
「萩原くんとは仲がいいの?」
そう言われると、言葉に詰まってしまった。
僕と萩原くんは友達というほどの間柄ではないけれど、全然知らない仲というわけでもない。
その時僕はある事を思い付き、お母さんにその事を伝えた。でもその一言がきっかけで僕の心は大きく揺れ動く事になった。
「萩原くんは新聞配達をしてるんだ。うちに新聞を届けてくれてるのが萩原くんだよ」
「あら、そうなの?」
お母さんもそう言って食事をする手を止めた。僕はその時もやっぱりドキドキしていた。
「萩原さん、下の子がまだ小さいのよ。受験で大事な時期にお兄ちゃんがアルバイトをしてるなんて……大変なのかしらね」
お母さんはそう言って目を伏せた。
僕の耳にはもう自分の高鳴る心臓の音しか聞こえてこなくなった。
続けて何かを言うお母さんの声も、柱時計が時を刻む音も、僕の耳にはもう届かなかった。

 翌朝。僕はいつものように窓の外を見つめて彼が来るのを待っていた。
朝の景色はいつもと何も変わりがなかった。
まだ外が薄暗いうちに犬の散歩をする人が何人か僕の家の前を通り過ぎ、それから徐々に僕の家の庭や彼がやって来る道が 朝日に照らされ始める。
窓ガラスに息を吹きかけると、透明なガラスがすぐに白く曇った。僕は右手の指で曇ったガラスを磨き、肩に毛布をかけて じっと彼が来るのを待っていた。
彼がやって来たのは東の空がだいぶ明るくなってきた頃の事だった。
萩原くんは相変わらず手袋もはめずに自転車のハンドルを握っていた。
彼の吐く息は白く、頬は真っ赤だった。
萩原くんはいつものように朝刊を小脇に抱えて僕の家の玄関へやって来た。その時彼の冷たそうな手はダウンジャケットのポケットに 入れられていた。
やがてポストがカタン、と音をたてた。そして萩原くんはすぐにまた自転車に乗ってどこかへ行ってしまった。
僕はその日、彼の背中が見えなくなってもまだ彼を見送っていた。
僕は新聞配達をする彼を初めて見かけた時、普段誰とも交わらない彼の秘密を知ってワクワクしていた。 そして僕はそんな彼と小さな繋がりを持てたような気がしていた。
でも本当は何も分かっていなかったのかもしれない。
僕は今まで彼が何故新聞配達をしているのかという事など考えもしなかった。 彼が夕刊の配達を始めた時でさえ、その意味を考えるような事はしなかった。
萩原くんはとても重い荷物を背負っていたのかもしれないのに、僕はずっとそんな事に気付きもしなかった。

 その日の授業中、萩原くんはいつも通り居眠りをしていた。
僕と彼の席は遠かったけれど、僕には彼が熟睡している事がすぐに分かった。
窓際の席でまどろむ彼の髪を冬の太陽の光がやんわりと照らす。
しばらく見ていると、机に顔を伏せて眠っていた彼が突然ビクッと動いて1つクシャミをした。でも彼は右手の甲でヨダレを拭った後またすぐに 顔を伏せて眠ってしまった。
萩原くんの席は窓際の1番後ろだ。そこはストーブから遠いし、窓の外から隙間風が入る寒い場所だった。
僕はその時、冬の太陽にもっともっと温かい光で彼を照らしてほしいと思っていた。
でもあっという間に太陽は雲の陰に隠れてしまい、そのうちに彼を照らす光はまったくなくなってしまった。
そして僕は、自分自身が彼を照らす太陽になりたいと思った。

 僕の頭の中にはもう萩原くんの事以外何も浮かばなかった。
家へ帰って机に向かっても、彼の事ばかりが頭に浮かんでちっとも勉強に集中できなかった。
「はぁ……」
僕はとうとう勉強する事を諦め、ベッドに横になってため息をついた。
夕方4時を過ぎるとすでに空は夜になる準備を始めていた。外は薄暗く、風が冷たそうな気配だった。
萩原くんはきっともうすぐ夕刊を持って僕の家へやってくる。 そんな時暖かい部屋の中でフカフカのベッドへ横になっている僕は、まるで罪人のような気分だった。
天井の木目を見つめながら、僕は考えた。
僕は彼のために何かしたいと思った。だけど自分が何をするべきなのかまるで分からなかった。
萩原くんはきっと同情されるのが嫌いだ。それに多分、お節介も嫌いだ。
どんな事を考えても、自分が何かすると彼を怒らせてしまいそうな気がしていた。
僕はとても胸が苦しかった。どんなに寝返りを打ってもどんなに深呼吸をしても、その苦しさから解放される事はなかった。
僕は彼の代わりに枕を抱きしめてそっと目を閉じた。
今まで僕は、どうしてこんなに彼の事が気になるのかよく分からずに過ごしてきた。
最初は好奇心から朝の彼を観察し始め、それを続けていくうちに少しずつ彼の良さが分かってきて、その優しさに触れるたびに 嬉しくなったり心が温かくなったりした。
僕は朝日の中へ消えていく彼の背中がとても好きだった。でもそれは自分にはない彼の強さへの憧れだと思っていた。
僕は少し鈍感なのかもしれない。ずっと彼の事を見ていたのに、今になって初めて分かった。
こんなに胸が苦しいのは、彼の事が好きだからだ。
朝教室へ入った時1番に萩原くんの姿を探すのも、彼の事が好きだからだ。
毛玉のいっぱい付いた手袋が僕の宝物になったのは……好きな人がくれた物だからだ。
遠くの方で自転車が止まるガン、という音がした。
僕は枕を投げ出し、すぐに飛び起きて窓ガラスに張り付いた。
少し薄暗くなった空の下、彼が新聞を小脇に抱えて僕の家の玄関へやってきた。
もうすぐポストがカタン、と音をたてる。
だけどその音が僕の耳に響く事はなかった。その時耳に響いていたのは、僕の高鳴る心臓の音だけだった。

 僕は翌日の放課後、真っ直ぐお母さんの勤める病院へ向かった。
前の晩にいろいろ考えたけれど、僕にできる事はほんの小さな事だけだという事がよく分かった。 僕はその日、無力な自分を受け入れる事にした。
お母さんが勤める病院はかなり大きな総合病院だ。
入口の自動ドアから中へ入ると、受け付けのカウンターがズラリと並んでいた。 そして長いカウンターの上には内科や外科と書かれたプレートが置かれていて、その奥には白衣を着た女の人が座っていた。
僕はその中から内科の受け付けへ行き、そこにいた若い女の人に彼のお父さんの病室はどこかと尋ねた。
その時僕は彼にもらった手袋を両手にはめていた。そしてその手に小さな花束を握り締めていた。

 内科病棟の508号室。そこが彼のお父さんの病室だった。
エレベーターに乗って5階へ行くと、すぐ目の前にナースセンターがあった。そしてその横にはベンチがいっぱい並んだ広いスペースが あり、そこには入院患者や見舞いに来たような人たちが大勢いた。
エレベーターを背にして左を向くと、そこには長い廊下が真っ直ぐに伸びていた。
僕は迷わず明るい廊下を左へ進んだ。すると最初に501号室を見つけた。
病室の中をチラッと覗くと、ベッドが向かい合わせで3台ずつ並んでいるのが見えた。そこはどうやら6人部屋で、 中から男の人の話す声が少しだけ聞こえてきた。
長い廊下を奥へ向かって歩いて行くと、どんどん彼のお父さんの病室が近づいてきた。 僕はすごく緊張し、胸がドキドキしてきた。
廊下の突き当たりには大きな窓があって、そこから冬の太陽が僕を照らしてくれていた。 そしてその窓の前に立って右を向くと、白いドアの横に508号室と書いたプレートが掲げられていた。
僕はその時、その部屋が個室である事を初めて知った。小さな部屋番号の下には、たった1人の名前しか書かれていなかった。
萩原幸一。それが彼のお父さんの名前だった。
僕は辺りを見回し、近くに誰もいない事を確認してからそっと病室のドアの前に花束を置いた。 すると白い廊下の上に黄色やピンク色の花が小さく咲いた。
僕はその後すぐ病室に背を向けて廊下を引き返した。僕にできる事は、こんな小さな事ぐらいしかなかった。

 それからは僕の日課が1つ増えた。
朝自分の部屋の窓から彼を見送る事。そして夕方彼のお父さんに花を届ける事。
僕は学校が冬休みに入ってもずっとずっとそれを続けた。
もしかして彼のお父さんが退院したら、彼が新聞配達をする必要はなくなってしまうかもしれない。
その時、僕の日課はすべて終わりを告げる事になる。
本当はそうなる事が少し淋しく感じられた。でも萩原くんに早起きする必要がなくなれば、学校の休み時間に彼と話をする事が できるかもしれないし、放課後彼と一緒に遊ぶ事ができるかもしれない。
僕はそう思って彼のお父さんの回復を願い、朝の彼を見守り続けた。
でも、そんな日々は長くは続かなかった。


 冬休みも終盤に差し掛かった頃。僕はその朝も窓ガラスに張り付いて彼が来るのを待っていた。
その頃道の上には薄っすらと雪が積もっていて、朝日が昇るとその光に雪が照らされてとても綺麗だった。
萩原くんは冬休みの間1日も休まずに新聞配達を続けていた。
その頃僕はよく図書館に行って勉強していたから、夕刊を配達する彼に会う事がほとんどできなかった。 学校が休みであるその間、僕が彼に会えるのは朝の一瞬だけだった。
いつものように東の空が明るくなり、僕の家の庭や彼の通る道が朝日に照らされる。
僕はこの時間が1番好きだった。
彼は僕の目の前に現れた後あっという間に去っていってしまう。彼が現れた瞬間に僕らの別れは始まっているようなものだ。
だから僕は、彼が来る少し前のワクワクするこの時間が大好きだった。
でも、その朝はいつもの朝と違っていた。
その日自転車に乗って僕の家へやって来たのは、見た事もない男の人だった。
温かそうなブルゾンを着て、温かそうな手袋をはめた小柄な青年。
彼は小走りで僕の家の玄関へ近付いた後、ガタッとポストを鳴らして帰っていった。
僕はその時、あの心地よいカタン、という音を奏でる事ができるのは萩原くんだけだという事を知った。

 僕はその日お昼頃から図書館へ行き、静かな場所で勉強した。
冬休みの図書館には学生らしき人がいっぱいいた。学習室で真剣に机に向かっているのはほとんどそういう人たちばかりだった。
窓際の机を陣取って勉強していると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
図書館にいる時の僕はいつも勉強に集中していた。窓の外が暗くなり始めても、しばらくその事に気付かないほどだった。
やがて誰かが立ち上がり、学習室に明かりを灯した。 僕はその瞬間に初めて夜が近づいている事を知り、いつも慌ててノートを閉じるんだ。
その日は図書館を出ると灰色の空から細い雨が落ちてきた。
僕は電車が通る大きな道をダッシュで駆け抜け、そこからまずは花屋へ急ぐ。
図書館のそばにある花屋のおばさんとはもうすっかり顔見知りになってしまった。 少し前までの僕は自分が花屋の常連になるなんて思いもしなかった。
図書館から病院までは歩いて15分ぐらいの距離だった。その日は雨が降っていたから、僕は病院へ向かってずっとずっと走り続けた。
その時、頭の中にはやっぱり萩原くんの事があった。
彼は今日朝刊の配達を休んでいたけれど、きっと夕刊の配達は休まない。 それなのに夕方になって雨が降り出すなんて、空はなんて意地悪なんだろう。

 その日は図書館を出てから走り続けたせいで、あっという間に病院へ辿り着いた。
僕はいつものように花束を抱えて内科病棟へ行き、通い慣れた廊下をスタスタと歩いた。
突然降り出した雨のせいか、廊下の上は所々が濡れていた。きっと見舞い客の誰かが外から雨の雫を持ち込んだのだろう。
いつものように廊下の奥へ進むと、突き当たりに大きな窓が見えてきた。 その窓ガラスには、小さな雨粒がいっぱい貼り付いていた。
僕はいつものように508号室のドアの前に花束を置こうとした。でもそう思ってドアへ近づいた時、僕はすぐ異変に気付いた。
508号室と書いたプレートはたしかに白いドアの横に掲げられていた。だけどその下に萩原幸一という名前はなくなっていた。
彼のお父さんは病室を移ったんだろうか。それとももしかして、元気になって退院したんだろうか。
僕はそんな事を考えながら廊下を引き返し、5階のナースセンターへ向かった。 看護師さんの誰かに聞けば、きっと彼のお父さんの行方が分かると思ったからだ。
廊下を半分ぐらい引き返すと、その途中に白いカーテンで仕切られた狭いスペースがあった。 そしてちょうどそのそばを通りかかった時、僕は突然後ろから声をかけられた。
「わたるくん?」
驚いて振り返ると、そこには白衣を着たお母さんの姿があった。
お母さんは長い髪を1つにまとめてナースキャップをかぶっていた。その時は彼女の方も突然僕と出くわしてかなり驚いている様子だった。
僕はちょっと罰が悪かった。僕がいつも萩原くんのお父さんへ花を届けている事は、できれば誰にも知られたくなかったからだ。
「わたるくん、どうしたの?」
お母さんは目を丸くして僕を見つめていた。でも僕の手に握られている花束に気づいた時、今度はちょっと不思議そうな顔をした。
本当はちょっと気まずかったけれど、お母さんに萩原くんのお父さんの行方を聞いてみる事にした。 考えてみればお母さんに聞いた方が話が早い。僕はそう考え、思い切ってその事を尋ねてみた。
「ねぇお母さん、萩原くんのお父さん、退院したの?」
お母さんはもう一度僕が持っている花束を見つめ、それから神妙な顔つきで真っ直ぐに僕を見上げた。
「……残念だけど、萩原さんは昨日の夜遅くに亡くなったそうよ」
それを聞いた時、頭が真っ白になった。頭だけじゃなく、視界も真っ白に霞んだ。
僕の耳にはもう自分の高鳴る心臓の音しか聞こえてこなくなった。
続けて何かを言うお母さんの声も、廊下を歩く人々の足音も、僕の耳にはもう届かなかった。

 僕はあまりにショックで一晩寝込んでしまった。
僕はいったい病院から家までどうやって帰ったんだろう。ちゃんと家には帰ったのに、そこまでの道のりは全然覚えていなかった。
その晩はずっと雨が降り続いていた。
細い雨が屋根を叩きつける弱々しい音が耳に付いてよく眠る事さえできなかった。
夜になって帰って来たお母さんは、一度だけ僕の部屋へやってきた。
僕は真っ暗な部屋の中で布団をかぶっていたけれど、お母さんは僕が眠っていない事をちゃんと知っていた。
「わたるくん、お通夜へ行くならお母さんに声をかけてね」
お母さんは僕の枕元に立ってそう言った。でも僕は返事をする事ができなかったし、何も考える事ができなかった。
お母さんが部屋を出て行った後、僕は枕に顔を埋めて泣いた。
彼女が口にしたお通夜という言葉がやけにリアルで、突然いろんな事が頭に浮かんでしまった。
萩原くんは今頃どうしているだろう。
今はまだお父さんの亡き骸と一緒に家にいるんだろうか。彼の幼い兄弟は、父親の死をちゃんと理解する事ができるんだろうか。 そして彼自身は、その現実を受け止める事ができるんだろうか。
彼はこの1年の間いったいどんな暮らしをしていたんだろう。
早起きして働いて、お母さんを支えて、兄弟の面倒も見て、疲れ果てて学校で眠る……
僕が想像できるのはたったそのぐらいの事だけだった。
でも恐らく現実はもっともっと厳しかったはずだ。
担任の先生は彼が遅刻を繰り返すたびにいつも怒ったし、何も知らないクラスメイトたちは彼の事を悪い人だと思い込んでいた。 そして時には皆で彼を責め立てた。
学校には彼の事を理解している人なんかきっと1人もいなかった。 私生活だけでなく、彼の学校生活はきっとつらいものだったに違いない。
僕はいつも萩原くんの何を見ていたんだろう。
いつもいつも彼の事を気にして、毎朝毎朝彼を観察して、もう彼の事ならなんでも分かっているような顔をしていたくせに。
お通夜になんて、とても行けやしない。
萩原くんはきっとお通夜の席でも気丈に振る舞うはずだ。 決して泣いたりせず、落ち込む様子も見せず、きっといつものように毅然としているはずだ。
僕はもう……とてもそんな彼を見ていられない。


 僕にできるのは、やっぱりこんなちっぽけな事しかない。
僕は彼のお父さんが亡くなった後も窓の内側から彼を見守りたいと思っていた。
お父さんが亡くなったんだから、彼がしばらく朝の仕事を休む事は分かっていた。でも僕はいつ彼が仕事に復帰してもいいように 毎朝早起きして窓の外の景色を見つめていた。
毎朝犬の散歩をする人たちが次々と家の前を通り過ぎる。 いつものように東の空が明るくなり、僕の家の庭や彼の通る道が朝日に照らされる。
今日も僕の1番好きな時間がやって来た。彼が来る少し前のワクワクする時間だ。
今朝は彼が来てくれるかな。それとも、またいつもの小柄な男の人が来るのかな。
僕は半分ぐらい期待しながら彼を待ち続けていた。でも、彼が来なくても僕は落胆したりなんかしない。
明日から新学期が始まる。そうすればまた学校で彼に会う事ができるようになる。
彼が万が一新聞配達を辞めてしまったとしても、僕と彼がクラスメイトである事に変わりはない。
僕は、明日学校へ行ったら真っ先に彼に駆け寄っておはよう、と言う事を決めていた。
僕は今まで彼の事をちっとも理解していなかったし、これからも理解する事はできないかもしれない。
でも僕はもう彼を絶対1人ぼっちにしたりなんかしない。僕は心にそう決めたんだ。
だいぶ東の空が明るくなってきた頃、遂に彼がやって来た。
彼はいつものように手袋をはめずに自転車のハンドルを握っていた。
やがて自転車が止まるガン、という音がして、朝刊を小脇に抱えた萩原くんが僕の家の玄関へやって来た。
彼は一見元気そうに見えた。でもそう見せているのは彼の強さなのかもしれない。 僕は少し前からそういう事が分かるようになっていた。
やがてポストがカタン、と音をたてた。それはいつも僕が耳にしていた心地よい音だった。
でも、その日の萩原くんはいつもと少し違っていた。
彼は僕の家のポストに朝刊を投函した後、ゆっくり歩いて自転車を置いてある場所へ戻った。
その後彼は、一瞬僕の家の玄関を振り返った。それは本当にほんの一瞬だけだったけれど、彼の目はその瞬間間違いなく僕の家のポストに向けられていた。
僕は彼がそんな行動を取るのをその時初めて見た。
でも彼がいつもと違う行動を取ったのはその一瞬だけだった。萩原くんはその後すぐ自転車に乗って朝日の中へ消えていった。

 僕は彼を見送った後3時間ぐらいウトウトして、その後のんびりと階段を下りてリビングへ向かった。
その時すでにリビングはもぬけの殻だった。お父さんもお母さんも仕事へ行った後だったからだ。
僕はソファーにどっかりと座り、テーブルの上に置いてある朝刊を何気なく手に取った。
そして何を見るでもなくバサッと新聞を広げた時、僕の足元に小さな白い紙がパラリと落ちた。 僕はなんだろうと思ってすぐにメモ用紙のようなその紙を拾い上げた。
よく見ると、その白い紙には乱れた文字で短い言葉が綴られていた。
『コーヒーとか、花とか、他にもいろいろありがとう』
僕はその短い言葉を読んだ時、急に胸がドキドキしてきた。その乱れた文字は萩原くんが書いたものに違いなかった。
コーヒーと花。それは僕たち2人にしか分からない秘密のキーワードだった。
彼は僕がお父さんに花を届けた事を知っていた。彼は僕の事をなんでも分かってくれていた。
僕は小さな白いメモ用紙をじっと見つめ、とても温かな気持ちになっていた。
この気持ちは、前にも味わった事がある。
靴箱の中に白い手袋が入っていた時。あの時も僕は今と同じように心が温かくなっていた。

 翌朝。僕は勇気を出して玄関の前に立っていた。
東の空が少しずつ明るくなってきた。きっともうすぐ彼がやってくる。
僕はパジャマの上にカーディガンを羽織り、初めて外へ出て彼を待っていた。 僕はこれからは毎朝こうして彼を待つ事にしたんだ。
きっと最初はぎくしゃくするかもしれない。でも、それでもいい。 僕は彼と同じ朝の風を感じてみたかった。そして彼の手から直接朝刊を受け取り、おはよう、と言ってあげたかった。
外はすごく寒かった。手をこすり合わせても、足踏みしても、全然体は温まらなかった。
数メートル先に見える街路樹の葉がゆるやかな風に吹かれて揺れていた。
いつも窓の内側から見ていた犬が主人に連れられて道を歩いて行く。犬の吐く息は真っ白だった。そして僕の吐く息も同じように真っ白だった。
「寒い……」
たった5分外にいただけで、僕はもう弱音を吐いてしまった。
僕の体はもうすでに冷え切っていた。 萩原くんが毎朝これほどの寒さと闘っていたのかと思うと、彼を抱きしめてあげたい衝動に駆られた。
朝日が僕を照らし始めた頃、遠くの方から微かに自転車の音が聞こえてきた。
彼が来た! 僕はそう思い、すぐに道へと駆け出した。だけどその朝やって来たのは彼ではなく、初めて会う小太りのおじさんだった。
「寒いからもう家に入りなさい」
おじさんは自転車に乗ったまま僕に朝刊を手渡し、そう言ってすぐに走り去ってしまった。
かなりの勇気を出して外で彼を待ったのに、僕はその朝肩透かしを食らってしまった。

 でも、その日から新学期だった。
僕は久しぶりに制服を着て、ちゃんと白い手袋を両手にはめ、ワクワクしながら学校へ向かった。
その途中、クラスメイトと出くわして朝の挨拶を交わした。そして冬の太陽に照らされながら走って学校へ向かった。
ガラッと教室のドアを開けると、そこには懐かしい顔がいっぱいあった。
髪が短くなっている友達がいたし、逆に髪が伸びている友達もいた。
そして僕は教室の中に彼の姿を探した。だけど、どこにも彼の姿は見当たらなかった。
彼はまた遅刻してしまうんだろうか。でもそれでもいい。彼がどんなに遅れてきたとしても、僕はちゃんとおはよう、と言って あげるんだ。

 始業式が終わった後も、僕はずっと彼が来るのを待っていた。でも帰りのホームルームが始まっても彼は教室に姿を見せなかった。
授業のない今日、彼はもしかして欠席するのかもしれない。僕は少し残念だったけれど、きっとそうなんだとその時は思っていた。
その日はすごく天気がよくて、萩原くんの席が温かい太陽で照らされていた。
僕はそれを知った時、こんな日こそ彼を教室で寝かせてあげたいと思っていた。
「皆、聞いてくれ」
教壇の上に立つ担任の先生が大きな声で僕らに語りかけた。
同じクラスの皆はもうすぐ帰れると思ってソワソワしていた。隣のクラスはもうすでに解散したようで、廊下にザワつく声が響いていた。
担任の山岸先生は、白髪頭をボリボリとかきながら教壇の上に立っていた。 同じクラスの皆は僕も含めて全員が先生の次の言葉を待っていた。
「急な事で先生も驚いたんだが、萩原は家庭の事情で転校した」
それはあまりにも突然の発表だった。
僕の耳はその言葉を聞き入れる事を拒否していた。でも、先生の声はたしかに僕の耳に響いた。
それを聞いた時、僕の頭がまた真っ白になった。頭だけじゃなく、視界も真っ白に霞んだ。
僕の耳にはもう自分の高鳴る心臓の音しか聞こえてこなくなった。
先生はその後長々と何かを話していたけれど、僕の耳にはもうその声は届かなかった。
家庭の事情というのは、彼のお父さんが亡くなった事と関係があるに違いなかった。
目線を彼の席へ向けると、白い霞の向こうに太陽を浴びて光る机があった。
僕は一瞬そこに顔を伏せて眠る彼の姿を見たような気がした。でもそれは幻で、何度かまばたきを繰り返すと彼の姿は消えてなくなってしまった。


 「ねぇ、ラーメン食べに行かない?」
「それより映画に行かない?」
「俺これから塾なんだよ」
「ちょっとぐらい付き合えよ」
帰りのホームルームが終わって皆が解散した。教室の中には笑い声が響いていた。
僕以外の皆はさっさとコートを羽織ってもう寄り道する相談を始めていた。
2年近く一緒に過ごしたクラスメイトが突然いなくなってしまったのに。彼はサヨナラも言わずに消えてしまったのに。
それなのに、そこには誰1人彼の事を気にかけている人がいなかった。
「映画よりカラオケに行こうよ」
「そうだね。そうしようか」
「何歌う?」
「そんなの分かんないよ」
立ち上がる事さえできない僕の後ろで、誰かがそんな会話を交わしていた。
誰も僕の気持ちなんか考えてはくれない。僕が立ち上がれないほどショックを受けている事になんか誰1人気付きもしない。
萩原くんも、いつもこんな気持ちでいたんだろうか。
楽しそうに寄り道の相談をする人たちの会話を背中で聞きながら、いつも悲しい気持ちでいたんだろうか。
1人、また1人と教室から生徒が去っていく。僕はその様子をぼんやりと見つめ、やり切れない思いにさいなまれていた。

 教室の中はあっという間に静かになった。僕はあっという間に1人ぼっちになってしまった。
見慣れた机が、やけに不揃いに並んでいた。
冬の太陽は相変わらず彼の居た場所を照らしていた。とっても皮肉に、温かい光で照らしていた。
僕はゆっくりと立ち上がり、彼の席に近づいた。
彼が使っていた椅子に座ると、お尻の下がポカポカした。彼の真似をして机に顔を伏せると、頬がとても温かく感じた。
自然に目から涙が流れ落ち、彼の机が少し濡れた。
僕はいつも何もできなかった。彼のために何もしてあげる事ができなかった。
僕が彼にしてあげられるのは、こんなちっぽけな事だけだ。彼の変わりに涙を流してあげる事。僕にできるのはただそれだけだ。
『コーヒーとか、花とか、他にもいろいろありがとう』
あれが彼の最後の言葉だった。僕は今までその事にさえ気付かなかった。
あのメモ用紙に書いた彼の文字はすごく乱れていた。彼はあれを書く時、すごく急いでいたんだろうか。それとも、気持ちが乱れていたんだろうか。
僕は最悪な形で2つの日課を失った。
もう彼のお父さんに僕の花は届かない。そして彼は、二度と僕の家にやって来ない。

 僕は長い間彼の席に座って泣き続けた。でも、そんな事をしても彼はもう帰ってこない。
やっと自分にそう言い聞かせ、僕は静かに教室を出た。
その時廊下にはもう誰も見当たらなかった。きっと皆はとっくに帰ってしまったのだろう。
静かな廊下を歩いて行くと、僕の足音がやけに大きく耳に響いた。
廊下は冬の太陽で照らされていた。でも僕はちっとも温かいとは感じなかった。
泣き腫らした目を隠すように俯いて廊下を歩いていくと、やがて前方から誰かの足音が聞こえてきた。 その音に反応してふと顔を上げると、そこにはこっちへ向かって歩いてくる山岸先生の姿があった。 先生の足取りは颯爽としていた。
「わたる、まだ残ってたのか?」
先生は僕の5メートル先からそう言って声をかけてきた。先生は穏やかに微笑んでいたけれど、僕の泣き腫らした目を見て少し表情が曇った。
「お前、どうしたんだ? 何かあったのか?」
僕と先生は廊下の真ん中で立ち止まり、しばらく見つめ合った。
何かあったのかと言われても、僕の身に起こった事を先生に打ち明ける事は不可能だった。
僕は今日、初恋の人を失ったのだ。
「わたる、先生に話してみろ。いったい何があったんだ?」
山岸先生はとても心配げに僕の顔を見つめていた。先生の真っ白な髪は、太陽の光が当たって輝いていた。
「元気出せよ。お前らしくないな」
先生の大きな手が僕の頭をポン、と叩いた。僕はその時、突然スイッチが入ったように喉の奥から言葉が溢れ出した。
「先生、萩原くんはどこへ行ったんですか? 彼はどこへ引っ越したんですか? いったいどこの学校へ転校したんですか?」
きっと先生は僕の発言にすごく驚いた事だろう。 僕が彼の事を気にしているなんて、先生にはきっと想像もつかなかったに違いない。
「萩原に用事があったのか?」
「はい。僕どうしても彼ともう一度話したいんです。先生、彼はどこに行ったんですか? すごく遠い所ですか? 僕には絶対会いに行けない所ですか?」
山岸先生は少し困った顔をしていた。きっと先生には、大人の事情があるのだろう。
「悪いけど、萩原の引越し先は教えてやれないんだ。でもあいつに言いたい事があるなら先生から伝えてやるぞ」
それが山岸先生の答えだった。僕はその言葉に小さく首を振り、トボトボと歩いて廊下を立ち去った。

 僕は校舎を出た後、たった1人で家路に着いた。
太陽の光はとても温かかったけれど、向かい風がすごく冷たかった。
その時の僕は手袋をはめる事さえ忘れていた。彼が消えてしまった現実を、どうしても受け入れる事ができなかった。
『君の事が好きでした』
彼に伝えたいのはその一言だけだった。
でもきっと、その言葉は自分で伝えなければ意味がない。そんなに大事な事を先生の口から伝えてもらう事なんか絶対にできやしない。
僕は1年以上もずっと彼だけを見つめていた。僕には今までいっぱい時間があった。彼に気持ちを伝える時間は山ほどあった。
それなのに、どうしてちゃんと彼に想いを伝えなかったんだろう。
こんな事になる前に、どうして一言好きです、と言わなかったんだろう。

 僕はその後なんとか家に辿り着き、リビングのソファーに腰かけてただぼんやりとしていた。
その時僕は抜け殻になっていた。
僕の頭の中にはずっと萩原くんの事しかなかった。その彼が突然目の前から消えてしまったんだから、もう他に何を 考えたらいいのか分からなかった。
僕はどのぐらい長い時間そこにいたのだろう。 外が薄暗くなっても、柱時計が何度時を刻んでも、僕はただソファーに座ってぼんやりしていた。
やがて、遠くの方でポストがガサッという音をたてた。
それは萩原くんが奏でるカタン、という心地よい音ではなく、少し濁ったような音だった。
僕はフラフラと立ち上がり、玄関を出てポストの中から夕刊を取り出した。たったそれだけの事で、胸がすごく苦しくなった。
僕は明かりもつけず再びソファーに座り、ガサガサと夕刊を開いてテレビ欄や映画欄などにちらっと目をやった。
そして何気なくあるページを開いた時、僕の目はそこに載っていた小さな記事に釘付けになった。
そこには、僕と彼が一緒に作ったモザイク画の写真が載っていた。
写真は白黒だったから絵の色は分かりづらかったけれど、そこには朝日に照らされて自転車に乗る彼の姿があった。
そこに載っていた記事は、僕らの作ったモザイク画を絶賛するものだった。 そしてそこには今後その作品が市役所に飾られるかもしれないという事が記されていた。
僕は夕刊の隅に載っている写真を見てすごく嬉しくなった。でもそう思ったのは一瞬で、またすぐに悲しい気持ちになってしまった。
彼はこの写真を見ずに遠くへ行ってしまった。そう思った時、僕の目から大粒の涙が零れ落ちた。
僕の頭に彼と2人で過ごした時の記憶が蘇った。
彼を責め立てようとする友達を制止できず、たまらない気持ちで彼のいる教室へ引き返した時の事。
ほとんど会話も交わさずに2人で黙々とモザイク画を作る作業を続けた時の事。
寒かった帰り道。手袋を片方ずつ分け合い、ポケットの中でお互いの手を温め合った時の事。
あの時、遠慮がちに握った彼の手が微かに震えていた。
それが寒さのせいだったのか、彼を包み込む不安のせいだったのか、僕にはもう知る事ができない。
彼はどうしてあと1日待っていてくれなかったんだろう。
この記事を一緒に見て、彼と喜びを分かち合いたかった。そしてモザイク画に描かれた少年のモデルが彼である事をちゃんと自分の口から伝えたかった。


 翌朝。僕はその朝も窓ガラスに張り付いて彼が来るのを待っていた。
いつものように東の空が明るくなり、僕の家の庭や彼の通る道が朝日に照らされる。
僕はこの時間が1番好きだった。
彼は僕の目の前に現れた後あっという間に去っていってしまう。彼が現れた瞬間に僕らの別れは始まっているようなものだ。
だから僕は、彼が来る少し前のワクワクするこの時間が大好きだった。
僕は窓ガラスに何度も息を吹きかけ、右手の指でガラスを磨いた。大切な朝の景色が透き通って見えるように、何度も何度もガラスを磨いた。
僕はいつも何もできなかった。彼のために何一つしてあげる事ができなかった。
初恋の人が来た道をこれからも毎朝じっと見守り続ける事。
僕にできる事は、こんなちっぽけな事だけだ。無力な僕にできる事は、それで精一杯だ。

 『初恋は実らない』僕は今、やっとその言葉の意味が分かった。
初めて恋をする時、人はあまりに幼すぎる。
あまりに幼すぎて……自分の気持ちや相手の気持ちに関係なく、どうしようもない事情で離れ離れになってしまう事がある。
いくら相手を想う気持ちが強くても、自分ではどうにもできない事がある。
でも、僕は絶対に彼の事を忘れない。それは彼が僕の初恋の人だからだ。
人はきっと、初めて好きになった人を一生忘れる事ができない。たとえそれが悲恋に終わっても、絶対にその人を忘れる事はできない。
僕はきっとこれからも毎朝窓ガラスに張り付いて彼が来るのを待ち続けるだろう。
もう彼は二度とやって来ない。
その事実を頭と体の両方が理解するまで、いつまでも彼を待ち続けるだろう。
この先何十年が過ぎても、僕が思い出す彼は朝日に照らされて自転車に乗る彼だ。
彼にはもう夢の中でしか会えなくなってしまうけれど、彼は永遠に少年の姿をして僕の夢に現れるだろう。

終わり