あの人の影

 1.

 冬休みが終わって、4日前から3学期が始まった。
放課後校舎を出ると冷たい風が頬を吹きつけた。太陽は空に輝いていたのに、外はすごく寒かった。
隣を歩く武志は黒いコートのポケットに両手を入れて肩を震わせていた。 彼は寒さに弱いようで、すでに頬を真っ赤にしていた。
校舎を出てから校門までの距離は約100メートル。雪は融けてもその道は凍り付いていて、地面を蹴るとどこも土が硬かった。
俺はこの時、少し前を歩く2人の事が気になって気になって仕方がなかった。
初音と竜二は似たようなハーフコートを着て、似たようなマフラーを首に巻いていた。
竜二の茶色い髪はかなり長く伸びていた。
数日前まで初音の髪も肩の上ぐらいまであった。でも今はその髪がバッサリと切り落とされて全体的に短くなっていた。
初音が髪を切り落とした時、彼はきっと本当の意味で竜二を卒業しようとしていたんだ。
俺は初音の事をずっと見ていたから、そのぐらいの事はちゃんと分かっていた。

 2人の背中は俺の前をゆっくりと歩いていた。
学校帰りのこの時間は他にも周りにたくさん生徒がいた。 その人たちの声は辺りに大きく響いていたのに、俺の耳には前を行く2人の声しか聞こえてこなかった。
「初音、昨日のドラマ見たか?」
「ううん、見てない。竜二は?」
「バッチリ見たよ」
「録画しておいたから、僕は今日帰ってから見るつもりなんだ」
「昨日はすごい展開になったんだぞ」
「ダメだよ。まだ見てないんだから、どうなったかは言わないで」
「分かったよ……」
彼らは寒さに震えて歩きながら楽しそうに会話を交わしていた。
2人の腕が時々ぶつかると、そのたびに胸にチクッと痛みが走った。
笑顔で見つめ合う2人はとても仲がよさそうに見えた。初音の背中に強い視線を浴びせても、彼がそれに気付く事は滅多になかった。

 放課後の俺たちの日課は学校のそばのアイスクリーム屋へ立ち寄る事だった。 ただしその場に竜二が居合わせる事は今までほとんどなかった。
俺たち4人は学校ではいつもつるんでいたけど、放課後になると彼だけはその輪から外れていた。 竜二は授業が終わると真っ直ぐ彼女に会いに行っていたからだ。
なのに3学期が始まった途端に竜二も毎日それに加わるようになった。 彼の口からはっきり聞いたわけではなかったけど、それはきっと竜二が彼女と別れてしまったせいだった。
冬休みの間俺と初音にいろいろあったように、きっと竜二にもいろいろあったんだと思う。