16.

 僕はお気に入りの赤いティーシャツに着替えて家を出た。背中に背負ったリュックは…いつもより少しだけ重く感じた。
やっちゃんの部屋の玄関へ入ると、待ち構えていた彼がおはようのキスをしてくれた。
その後彼はニコニコしながら僕の手を引っ張り、急いで僕を部屋の中へ招き入れた。 するとそこは、見違えるほどの変化を遂げていた。
いつも埃っぽい床は部屋の隅までピカピカに磨き上げられていた。ただでさえピカピカなのに、床には朝日が当たって 眩しいぐらいに光っていた。
そこにはもちろん脱ぎ捨てた洋服もなかったし、ゴミ1つ落ちてはいなかった。 やっちゃんの部屋は、いつもの何倍も広く感じた。
そして綺麗にメイキングされたベッドの上には大きな白いクッションが2つ並べられ、その隣にはクマのシュンちゃんが座って 僕らを見上げていた。
「すごい!やっちゃん、掃除したの?」
僕が驚きの声を上げると、彼は大きくうん、と頷いた。
「坊やをびっくりさせようと思って…久しぶりに掃除機かけちゃった」
「あのクッションは?」
僕がベッドの上に並んだクッションを指さすと、彼はまた僕の手を引いてベッドへ招いた。
やっちゃんはベッドの上に乗っかって壁際に置かれたフカフカなクッションに背中を付けて座り、ピンと張られた白いシーツの上に 足を伸ばした。
「このクッション、だいぶ前に買ったんだ。ずっと押入れに入れっぱなしだったのを引っ張り出したんだよ。 坊やも座ってみて」
彼は隣に置かれたもう1つのクッションをパンパンと叩いて、僕にそこへ座るよう促した。
僕は重いリュックをシーツの上にそっと置き、勢いよくベッドへ飛び乗った。するとベッドのスプリングがギシッと 大きく音をたてた。
「僕、ここがいい」
僕はクッションは使わず、迷わずやっちゃんの膝の上に乗っかった。両足を開いて膝の上に座り、やっちゃんの肩に 両手を回すと彼は嬉しそうに微笑んで僕を抱き寄せ、今日2度目のキスをしてくれた。
朝日に照らされたやっちゃんの肌は白く透き通っていた。その白い頬に僕のぽっちゃりした頬をすり寄せると… ふと母さんの温もりを思い出した。

 「ねぇ、今日は何して過ごそうか?」
やっちゃんは僕の髪に指を這わせながら、囁くようにそう言った。
僕は家を出る前に頭の中で考えた提案を全部彼に伝えた。
「公園を散歩して…ボートに乗って…お昼は芝生の上でお弁当を食べて…それからゲームセンターへ行って…」
「そんなにいっぱい?」
そう言いながら彼の指が僕の頭皮をなでた時、僕はもう彼が欲しくてたまらなくなっていた。
「まだあるよ。夜は一緒に焼肉を食べて、花火して…それから手を繋いでここまで帰ってくるの」
「分かった。そうしよう」
「本当?」
僕は彼に抱きついて、その形のいい耳にそっとキスをした。するとその時、やっちゃんが小さな声で僕の耳にこう囁いた。
「でもその前に…坊やを抱いてもいい?」
「そんな事、いちいち聞かないで」
僕も、小さな声でそう返事をした。

 次の瞬間、彼は優しく僕をベッドへ押し倒した。そして頭の下に枕のフカフカな感触を確認した時、彼の唇が僕の口を塞いだ。
僕は両手で彼の髪を触り、ぐっとその頭を引き寄せた。
やっちゃんはキスをしながら右手で僕のお気に入りのティーシャツを胸のあたりまでまくり上げ、硬くなった乳首を そっと指でつまんだ。
やっちゃんの舌が僕の口の中を舐め回して意識が遠くなりかけた時、やっと彼の唇が僕の口から離れた。 彼の唇は休む事なくすぐに僕のピンク色の乳首へ移動した。
「やっちゃん、待って」
もうその時僕はかなり気持ちよくなっていて…本当は彼の行為を止めさせたくなんかなかった。 でもその前に…彼にどうしてもちゃんと話しておきたい事があった。
「窓が開いてると気になる?」
やっちゃんは僕を見下ろしながらにっこり笑ってそう言った。でも、そうじゃない。僕はそんな事で彼の行為を止めさせた わけじゃない。
僕はベッドの上に起き上がり、足元に転がっているリュックを手にとった。やっちゃんはそんな僕の行動をただ不思議そうに 黙って見つめていた。

 「はいこれ、やっちゃんにあげる」
僕はリュックの中から引っ張り出したぶ厚い茶封筒を彼に手渡した。
彼はそれが何なのかよく分かっていないようだったけど、とにかくすぐに封筒の中を覗いた。すると…彼の顔色が変わった。
天使のように綺麗なやっちゃんの眉間に刻まれた2本のシワ。僕は前にも一度、そのシワを見た事がある。
彼は、封筒の中からゆっくりと札束を引き出した。彼はきちんと角が揃えられた状態で札束を右手に持ち、その厚みを 確かめているようだった。きっと彼は、その厚みでだいたいそれがどのぐらいの金額か分かるのだろう。
「坊や…このお金どうしたの?」
彼は札束を右手に持ったまま僕の目をじっと見つめ、子供に言い聞かせるようにそう囁いた。
「そのお金があれば、やっちゃんは3ヶ月間自由だよ」
「そんな事聞いてるんじゃないよ。このお金をどこから持ち出したのかって聞いてるんだ」
僕がまだ言い終わらないうちに、彼の言葉が飛び出した。
僕はその時、すごく嬉しかった。こうなる事は想像できたけど、それが現実になった時はものすごく嬉しかった。
もしもやっちゃんがなんの疑問も持たずにお金を受け取ったら…もしかして僕の気持ちは萎えていたかもしれない。
でも、そうじゃなかった。彼はちゃんと僕の心配をしてくれた。僕は彼と…ダイスキなやっちゃんと、心も体も繋がっていたかった。
「坊や、お願い。ちゃんと言ってよ。このお金はどうしたの?」
心配げに僕を見つめるやっちゃんが、とても愛しかった。
お金の出所なんか問題じゃない。これからずっと2人で一緒にいられる事。それが叶えば、他には何も問題なんかない。

 僕は無防備なやっちゃんを強引にベッドへ押し倒した。
彼は予想できなかった僕の行動に、一瞬体のバランスを大きく崩した。そしてその瞬間、 彼の手の中にあったたくさんの10000円札がバラバラと床の上に零れ落ちた。
札束はちょうどその時外から入ってきた風に揺れ、朝日が当たって光るピカピカな床の上で舞った。
やっちゃんは顔を横へ向けてその様子を呆然と眺めていたけど、僕は彼の上に乗っかって小さな唇で彼の口を塞ぎ、 透き通る彼の目を閉じさせた。
もうすっかりキスに夢中になっている彼と口の中で舌を絡ませながら横目で眩しい床に目をやると… せっかく掃除したのに、もうそこは札束が散らばって汚れていた。
僕は幼い頃フローリングの床の上に生卵を叩きつけて満足した事を思い出していた。 今僕は、ピカピカな床の上に札束を叩きつけてとても満足していた。

 途中で息が苦しくなり、僕は彼の口を解放してからやっちゃんが身に着けている柔らかい生地のズボンを片手で脱がせた。
そしてやっちゃんの白い乳首を吸うと…彼は今までにないほど大きく悦びの声を上げた。
「あっ!あぁ…」
僕はその時、以前彼に乳首を舐めるのが上手だと褒められた事を思い出した。
僕はそこから畳みかけた。
ツンと尖った彼の乳首を舐め回し、右手を彼のパンツの中へ入れてとっくに大きくなっている 彼自身を指でこすると…僕の手は少しずつ少しずつ濡れてきた。
「坊や…ズルい。まだ話は…終わってないのに…」
彼の上ずった声がとても愛しかった。だから僕は、もっともっと彼を愛してあげたかった。
僕は彼の先端に爪を立て、時折敏感な尿道を刺激した。
だんだん彼の息が早くなってきた。僕が指を動かすたびにやっちゃんは外まで聞こえるほどの大きな声を上げ、 頭をかきむしってその快感に耐えた。
彼の白い頬が少しずつ紅潮してくる。額の汗がシーツの上に零れ落ちる。
僕は限界が近づく彼の様子をずっと見ていた。彼は時々唇を噛んだり、僕の腕をつかんだり、深呼吸をしたりして 必死に射精を遅らせようとしていた。でも…限界はすぐにやってきた。
「あぁ…出る。出ちゃう」
乳首に触れた僕の舌に反応して彼が声を上げた時、夏の風が部屋の中へ入り込み、生温かい風が僕の前髪を揺らした。
ツンと尖った彼の乳首を味わい、右手がびっしょり濡れた時、僕は本当に彼を手に入れたような気がしていた。
大きく膨らんだやっちゃん自身が、僕の右手の中でピクピクと痙攣していた。そして…熱い先端から次々と温かい物が溢れ出した。
「やっちゃん、気持ちいい?」
僕は陶酔しきったような目で僕を見上げている彼を見下ろし、小さくそう囁いた。
すると彼は両手で僕を抱き寄せ、まだ息の整わない声で僕の耳に囁き返した。
「これからは…毎日抱いて」
この時、僕は本当に本当に彼のすべてを手に入れた。もう僕以外の人間には彼に指1本触れさせたりしない。

 この夏 僕はダイスキな人を手に入れた。そして、強さを手に入れた。
僕のダイスキなやっちゃんと母さんは、僕に大事な人を守る強さを与えてくれた。
15歳の夏。窓の向こうの住人は、僕とやっちゃんだけになった。

終わり