Plein Soleil

 薪のマンションのオートロックの番号は知っていたが、青木は礼儀上、エントランスで必ずインターフォンを鳴らすようにしている。しかし今日はなぜか彼の部屋番号のボタンを押しても、なかなか通話が繋がらなかった。
 どうして応答がないのだろう。ずっと家にいると言っていたのに。青木は嫌な予感を覚える。もしや熱中症を起こして倒れているのではないだろうか。さっき電話した時は元気そうだったが、彼の虚弱さを考えたら決してありえないことではなかった。
 彼は腕時計を見て、最初にチャイムを鳴らしてからきっちり5分経過しているのを確認し、オートロックを解除した。

 ところが玄関前まで来て、再度チャイムを鳴らすと、今度はあっさりと通話に出た。
『……来たのか、早かったな』
「あれ? いたんですか?」
『何を言っている。今日は家を空けられないといっただろう』
「いえ、さっき下のエントランスから呼び出したんですが……」
『ああ、その時はシャワーを浴びていて聞こえなかったんだ』
「そうだったんですか」
 何事もなくてよかったと青木は安堵した。
『悪いんだが、少し時間をくれないか? 風呂から出たばかりで、ちゃんと支度できてないんだ。まだ髪も乾かしてない』
「え……」
 そう言われて、青木は少し考える。そして右手に持った袋をチラリと見て、それをインターフォンのカメラに映るように持ち上げた。
「実はお土産にアイスを持ってきたんです。だから早く冷凍庫に入れてしまいたいんですが……だめですか?」
『……分かった』
 ピッと通話が切れて、青木はほくそ笑んだ。本当のことを言えば、袋の中にはちゃんとドライアイスを入れてあるので、それほど急いではいない。しかし風呂上がりの無防備な彼を見たくて、青木はあえてあんな風に言った。嘘がばれないように、アイスは自分の手で冷凍庫に入れるようにしよう。
 そして、間もなく扉は開かれた。
「こんに……」
 挨拶しようとした青木は、玄関に出てきた薪を一目見て、そのまま石化してしまった。
 風呂上がりと言っても、せいぜい髪が濡れてぺたんとなっているとか、肌が上気しているぐらいだろうと思っていたが、とんでもない。事態は彼の予想を遥かに上回っていた。
 青木の目に映ったのは、非常に夏らしい、刺激的な格好をした薪だった。上はタンクトップに下は短いパンツで、腕も足も大きく露出している。青木は口をあんぐりと開けて、その姿に見入った。
 タンクトップは白地に英字のロゴプリントが入った、若者向けのデザインだった。サイズが大きいのだろうか。体が細身なせいで、腕ぐりが大きく空いている。剥きだしになった肩と二の腕が目に眩しい。胸元も大きく開いて、鎖骨が露わになっている。扉を開けるために前のめりになっているせいで、中が覗き見えそうになっているのを、肩にかけたタオルがかろうじて阻んでいる。
 タンクトップの下には白い太ももがすらりと伸びていた。最初は何も履いていないのかと思って驚いたが、よく見ると明るい水色の布がちらりと見えていた。ショートパンツのようだ。丈はメンズものにしては短く、むしろ女性が夏場によく履いているものに近かった。生地はなんだろうか、少しもこもこしている。
 青木はごくりと唾を飲みこんだ。視線が彼の胸元から足へと移動し、そこで完全に止まってしまった。
 いつまでも玄関先で棒立ちになっている青木に、薪は訝しげにする。
「どうした。入らないのか?」
「は、いえ……」
 彼に声をかけられて、ようやく青木の時間が動きだす。中に入って扉を閉めるとき、変に力が入ったせいで、ガチャンと大きく音を立ててしまった。
「悪いな、こんなだらしない格好で。だがもう少しこのままでもいいか? 修理業者が来る時にはちゃんと服を着るつもりなんだが……とにかく暑くてしょうがないんだ。お前が気にするようなら着替えるが……」
「い、いえとんでもない! 俺は、全然……!」
「そうか、すまないな」
 返事にやけに力が入ってしまったが、薪は気にした様子もなく部屋の中に戻っていく。青木はその後ろ姿に引きずられるようにして、後をついて行った。
 ほとんどタンクトップ一枚に見える格好に、裾から少しだけパンツが見えているのが、何とも言えず扇情的だった。おかげで視線が彼の脚から離れてくれない。
「ほら」
 気がつくと青木はキッチンに来ていて、手のひらを差し出されていた。
「え?」
「アイスをしまうんだろう?」
「ああ、そう言えば……」
 青木は言われるがままに袋を差し出す。さっき自分がつまらない小細工を考えていたことも忘れて。案の定袋を開けた薪に言われてしまった。
「なんだ、ちゃんと保冷バッグに入れているじゃないか。ドライアイスも入っているし。急いでるみたいに言ってたから、融けかけてるのかと思ったのに」
「はあ、そういやそうでしたね……」
 青木の答えがはっきりしないことに、薪はいよいよ呆れた顔になる。
「暑いからってボケてるのか? しっかりしろ」
「はあ……」
「……どうもこのアイスは僕よりお前の方が必要みたいだな」
 そう言って、薪は袋からカップを一つずつ出していく。
「せっかく持ってきてもらったんだから、ひとつ食うか。お前は何にする?」
「別に、なんでも」
「お前が選んで買ったんだろうが。自分の食べる分ぐらい自分で選べ」
 青木は自分がどのアイスが食べたいのか分からなかった。正直なところ、どのアイスがどのフレーバーかも分かっていなかった。視覚はアイスの色を識別しているが、その情報が脳に届かないのだ。とりあえず手前にあったカップを適当に指差す。
「じゃあ、これで……」
「そうか」
 青木が選ぶと、彼も残りの中からアイスを選び、残りを冷凍庫にしまった。屈んだ時にヒップが後ろに大きく突きだして、青木は慌てて目をそらす。ともすれば視線がそちらに向かいそうになるのを意志の力で押さえつけるのは、相当に自制心を試された。

コメント

あやさん

こんばんは☆こういうチラリズムって逆に刺激的ですよねぇ( *´艸`)
薪さんが着ると何でもブカブカになりそう。
よかった、ちゃんと修理屋が来る前に着替えるんですね^^;
そのままの恰好だったら修理屋さんもおかしな気分になりそうです。
ただでさえ、美しいのに・・青木がいて良かったです。
しかし、青木大丈夫なのか?もうすぐ修理屋さんが来るというのに我慢できるのか?
いや、こんな暑い部屋で抱き合うのはちょっと無理が・・ウフフ

> そのままの恰好だったら修理屋さんもおかしな気分になりそうです。

昼メロばりに危険な展開になってしまいますね!
ほんと忠犬がいて良かったです。薪さんの隣に立って、ちゃんと用心棒するんだぞ?
でもそしたら業者さんに若夫婦と思われるかもしれませんね。
「奥さん、ここの配線なんですが……」って話しかけられて複雑そうな顔になる薪さんと、
一瞬顔を輝かせるも、薪さんが怒ってないかとソワソワする青木。
やだ、楽しい……!

> いや、こんな暑い部屋で抱き合うのはちょっと無理が・・ウフフ

ほんとですよねえ。人間ならちゃんと相手のことを考えてぐっと我慢できるはずなんですが、
青木は犬だからなあ。薪さんの色香に耐えられるのかなあ。
いやあ、心配だなあ(棒読み)。

 

しづさん

あけましておめでとうございますー! 本年も甘い青薪さん、楽しみにしてます♪

こちら、早速のお年玉、どうもありがとうございます!
いやん、青木さん、かわいい、初々しい。おばちゃん、どきどきしちゃうわ、こういうの!
恋人関係も長くなると、相手の肌にときめかなくなってくるじゃないですか。
うちの青薪さん、だんだんそうなりつつあるので、こういう新鮮なの、すごくいいです〜。

これからもっと甘くなるんですね? 楽しみ楽しみ♪
二人とも、熱中症には注意してね!

あけましておめでとうございまーす。
昨年はたくさん仲良くしてくださってありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願いします^^

> 本年も甘い青薪さん、楽しみにしてます♪
> これからもっと甘くなるんですね? 楽しみ楽しみ♪

任せてください。むしろうちにはそれしかありません(笑)。

> 恋人関係も長くなると、相手の肌にときめかなくなってくるじゃないですか。
> うちの青薪さん、だんだんそうなりつつあるので、こういう新鮮なの、すごくいいです〜。

でもしづさんところの青薪は、熟年夫婦ゆえの気安さが素敵だと思いますよ。
「水面の蝶」の冒頭で薪さんが寝ぼけて「抱っこ」って言うところとか、
萌え滾って何度も読み返しましたもの!
(↑すぐタイトルとシーンが出てくるあたり、本当だって分かるでしょ?笑)

 

kahoriさん

今回のセクシーショットの嵐は薪さんの罪滅ぼしですか!?(デートの予定が狂ったため青木君へのサービス)
薪さんのモコモコおしりに釘付けの青木君に爆笑ですよ!!!(笑)(笑)
薪さんは「この服装だらしない格好」って認識なんですね。確信犯で見せてたら罪作り過ぎる...。
ホットパンツがどのくらいの長さか厳密にそこ詳しくお願いします(変態)
薪さん小尻だから屈んだら太ももとおしりの境が見えることはなさそうですが
見えそうで見えない方が男子はそそられるんでしょうね!
青木君目をそらしちゃダメですガン見しててくださいよー>_<
もったいない明るいのに!(すいませんすいませんm(_ _)m)

同じく胸元も、青薪身長差から言ったら丸見えの位置ですけど、タオルが憎らしいw
律儀なくせに、下心で小さな嘘つく青木君も可愛いですね〜(^^)
ナチュラル助平が健全な感じですwクーラー壊れて良かったねって言ってあげたいです。

体調は如何ですか?
たくさんの楽しみを下さる沈丁花さんに風邪をみまうとは、神さまって意地悪ね(*`へ´*)
暖かくして養生してくださいね。
そんな寒い最中、夏のお話を書かれる沈丁花さんは、感覚が鋭くてそれを記憶されているのかな、
すごいなと思いました!
私は目の前に無いものはすぐ忘れてしまうタチなのです。

朝活見習いたいです。私はギリギリまで寝ていたい自堕落な奴です。
毎朝コツコツと創作を積み重ねている沈丁花さんをとても尊敬します。
更新とっても楽しみでうきうき嬉しいです!
早く風邪も良くなりますようご自愛くださいね^ ^ゆっくりでも大丈夫ですからね〜

> 薪さんのモコモコおしりに釘付けの青木君に爆笑ですよ!!!(笑)(笑)
> 薪さんは「この服装だらしない格好」って認識なんですね。

いえーい、ガン見させてやりました!
そしてそのあからさまな視線に気づかない薪さんとかね(笑)。
薪さんはそこまで自分の生足に価値を見出してないんじゃないかなと思いまして。
こないだ「LOVERS」の裸ワイシャツの時もほぼ似たような状況だったんですけど、
あの時は薪さん視点だったから青木サイドの心境を詳しく書けなかったんですね。
これであの時の青木の動揺っぷりが少しはお伝えできたでしょうか?(笑)。

> ホットパンツがどのくらいの長さか厳密にそこ詳しくお願いします(変態)
> 見えそうで見えない方が男子はそそられるんでしょうね!

それはもう、青木が「やばい、これ以上見てたら犯罪者になる!」とか思って
思わず目をそらしてしまうほどの短さですよ!
薪さんはきっちり着込めば着込むほどエロさを感じさせてくれる存在ではありますが、
一方で着乱れてくれるのにも心がときめきますよね〜。
薪さんの美しさはもちろん薪さんの魅力の一つですが、
その美しさに無自覚なところもまだ魅力なんだと思います。

> 律儀なくせに、下心で小さな嘘つく青木君も可愛いですね〜(^^)
> ナチュラル助平が健全な感じですwクーラー壊れて良かったねって言ってあげたいです。

青木は普通の奴なので、普通にスケベで普通に恋人の裸に興味のあるお年頃なんでしょう。
クーラー壊れて良かった〜ってなるのはこれからなので、乞うご期待ください☆

> 体調は如何ですか?

ありがとうございます。少しずつ良くなってます。
私は自分のしたいことをしているだけなので偉くもなんともないです。
そして風邪を引いても同じ事を繰り返してるただの馬鹿です(笑)。
遅筆でテキスト一本上げるのに何時間もかかるので、
時間とか健康とかを選んでる暇がないんですね^^;
でもこうして応援して頂くとまだまだ頑張ろうって気持ちになります。
本当にいつもありがとうございます!

 

 (無記名可)
 
 レス時引用不可