「彼女」の右の胸を俺の左手で触れると、固い布の感触がした。
多分、これはサラシと言うヤツだ。
こいつが男装する時は、これで胸を包んで男のフリをしていたんだろう。
お前こんなモンしてるから、胸が育たなかったんじゃないのか。
角度を変え好きな様に彼女の口腔を犯してる間に、俺はそっと彼女のネクタイを剥ぎ、
シャツのボタンを外す。我ながら初めてなのに仕事が速い。
触りたい所なんて死ぬ程ある。
恥ずかしいだろうに、体を固くしながら半ば強引に俺の愛撫を受けさせられている伊集院は、
体が密着している所為と、初めてのキスで半ばパニックに近いらしく
俺の手が動いている事に、全く気づいていない様だった。
恥ずかしくて瞼に涙を溜めながら、俺に口腔を犯されている伊集院は、可愛い。
そんな視覚的にもやらしい伊集院を見逃したくなくて、キスの角度を変えると
「・・・ン、」と無意識に出たんだろう声と共に、瞼が少し開いた。
と、同時に
「何をする貴様ーーッ!!」
どかッ
蹴られた。腹を。
多分本人は思い切り蹴ったつもりだろうが、俺は余り痛くなく、
反動で伊集院の体の上からソファーの前のテーブルに腰掛ける形になる。
俺に完全にボタンを外されたシャツと、半分位緩めかけられ、はだけたサラシをシャツで隠しながら
「つきあって3日目で初チューの後はもうコレかっ!
やっぱり僕とつきあったのは、かわいく麗しい僕の体だけが目当てだったんだな!?」
涙を目に一杯溜めながら、真っ赤になって伊集院が怒っている。
そのしっかり握られたシャツの胸元に、さっき俺がこっそり付けた跡が残ってるのが、見える。
伊集院が怒ってるのは分るんだが、そんな表情ですらもう、何ていうか。
「…そうだよ。」
と間を置かず言うと、こいつは一瞬分り易く傷ついた表情をした。
その表情を確認して、俺はこっそりと哂う。
伊集院は確かにかわいくて麗しいが、そんな女の子は俺の回りにそらもう沢山居た。
ついでに言うと俺は顔も頭もそこそこで、そこそこモテていた。
この自由恋愛の現代に於いて「家柄」とか気にさせられる程度に環境が吊り合わないわ、
男装して高校入っちゃいました★とか言う笑える青春送ってるわ、勉強出来ても性格がアホの子だわ
そもそも女の子の好みが「フツーであれば良い」と言う凡庸な俺が、わざわざ伊集院みたいな
面倒臭いヤツとつきあってる時点でおかしいと思わないか。
あんまりこいつが分り易くかわいいので
「…ってのは嘘で」
って、とぼけたら
「どっちだ!」
って、真剣に突っ込まれた。
うるせぇ、死ぬ気で悩め。
口で説明する気の無い俺は、胸元でシャツを握る伊集院の細い手首を取って
手の甲にゆっくり口付ける。
ちゅ、と音を立てて。
腑に落ちない、と言う表情をしている伊集院をそのままぐい、と引き寄せ、開いている方の手で背中に手を回す。
外れかけのサラシの背の下に。
「…又、貴様は…っ」
と、まだ俺を信じきれないのか単に恥ずかしいのか、片手でシャツの首元を握ったまま
体をよじって俺から逃げようとする。
何、まだ3日目だから早いってか?
俺は我慢なんて、3年もしたのに。
俺から顔を逸らして逃げたい伊集院に余計征服欲を駆られた俺は、軽くこいつの脚を引っ掛けバランスを崩させる。
よろ、とソファーの方に前のめりになった伊集院の肩と腰を抱いて、ゆっくりとソファーに伏せさせる。
もう両手の入る程ほどけたサラシの隙間に後ろから両手を入れ、ふくらみを柔らかく揉みしだく。
計らずともソファーにうつ伏せの格好になった伊集院は、俺の両手が直接の胸の上にある事を認識すると、
一瞬息を詰めた後、背中の上に乗る形になった俺の方を見ながら、真っ赤になって困った様な表情をする。
…や、め、と小さく声が出た後、俺の表情を見れないかの様に脇の下から胸に伸びている俺の腕を解こうと
自分の胸の上で好きな様に動く俺の手を止めようと、サラシの上から俺の手に重ねる。
そんな弱い力じゃ、俺の手なんて止められない。
ソファーの上に組み敷いた伊集院は吃驚する程華奢で、俺の腕の中にすっぽり入る。
俺に直接触られて、困惑した様なこいつは、もうどんなに男の服を着てても、女にしか見えない。
目の前にあるこいつのうなじから唇を這わせ、さっき俺が付けた鬱血の跡に狙いを定めてもう一度強く吸うと、
…は、ぁ、と細く高い声が微かにする。
鬱血の跡は少し濃くなった。
そのまま、弱い抵抗をする伊集院の手なんて意に介さず
その柔らかい胸を両手で円を描く様に蹂躙して、その中心の突起を爪で引っかく。
止めたいのか、うつ伏せになりながら全身に力を込める伊集院の肩からシャツを少し剥ぎながら
肩にたくさんのキスを落とす。
伊集院の長い髪が顔をくすぐる。
触った後の手に、柔らかく残る胸の感触が消えない内に又そこを俺の好きな様に揉む。
たまに突起を摘むと、少しでも俺の手を動く範囲を狭めようと力を込め小さくなった伊集院の体が
びく、と電気が走った様になる。
顔を体の下の方に背けて、恥ずかしさに耐えている伊集院の恥ずかしい表情を見たくて
「伊集院、こっち、向け」
と真っ赤になっている耳元に優しい声を叩き込むと、しばらく間があってから、素直にゆっくり、こっちを見た。
羞恥と困惑と快感の入り混じって涙ぐみながら俺を睨んだ伊集院は、
見たかったそんな表情をようやく見れた俺の、満足しつつもひどく意地悪な表情を見たんだろう。
その後、又俺に口腔をさらわれて、目を閉じた。
「レイさま、お茶をお持ちしました。」
ノックと共に、ドアの外に人の気配がした。
驚いたのか、伊集院の体がさっきとは別の意味でびく、と震える。
恐らく、この家のお手伝いさんだろう。
お客の俺に、お茶を運んでくれたと思われる。
…さ、どーする?
伊集院家の一人娘の、レイさんが実家の私室で男にソファーに押し倒されて、
娘さんは半裸にされて胸を揉まれてました、じゃ言い訳のしようも無い。
これが、家人になんてバレたら、それはもう滅茶苦茶シャレになんて、ならないんだろうな。
家に、格式とやらもあるらしいしな。
俺と伊集院はこいつを猫かわいがりしていると言う先日卒業した高校の理事長に、離れさせられるかもしれない。
「ウチのかわいい娘に何しくさるんじゃ」と言う至極マットーな理由で。
いや、好雄みたいに俺も、伊集院とつきあった記憶とかをトばされるのかな。
(しかし現代科学の何をどうしたら、そんな事が出来るんだろう。魔境かこの家。)
だけど、それを選ぶのは俺じゃない。
俺は、困惑するこいつを見下ろしながら、うつ伏せになってるこいつのスラックスのベルトに手を掛ける。
そんな俺を信じられない物を見る表情で、下から見る。
これ以上俺にやらしい事をされたくなかったら、このお手伝いさんに助けを求めればいい。
その代わり、多分俺にはもう会えない。
選ぶのはお前だ、伊集院。
その俺の意図を正確に汲み取ったのか、困った様な泣きそうな様な表情を一瞬してから、
一呼吸。
「…いい、お茶は僕が出した。」
「勉強をしてるから、下がっていてくれないか。」
と、多分頑張ったんだろう至極冷静な声を出しつつ伊集院は言った。
俺の下で俺に襲われながら。
…勝った。
そんな伊集院の言葉を本当に疑わなかったのか、ドアの前の足音は又パタパタと遠ざかる。
俺に告白をして来た伊集院には余りにも分が悪い賭けに、勝った俺は
嘘つき、と又うつ伏せになった伊集院の耳に、更に追い討ちを掛けた。
「なぁ、寝室、何処?」
無駄にゴーカな伊集院の部屋の今はまだ他にいくつものドアがあって、どれが寝室に繋がるドアなのか分らない。
余りに直接的な俺の台詞が勘に触ったのか、又俺を一睨みすると
「もうこんな…事は終わりだ、止めだ止め!!」
と、ソファーに伏せた体勢のまま起き上がろうとする。
が、上に俺が乗っかってるわ俺に胸と下腹部を触られてるわで体に力が入らないのか、すぐ潰れる。
止めるかよ。
あんな弱い抵抗で、助けも呼べないわそんなんじゃ。
俺に好きなだけされるに決まってる。