「絢様!優秀な医者の情報掴みました!」
普段落ち着いている春希が珍しく快活な声を上げた。
「本当!どこにいるの?どんな人?」
絢夫がそれに合わせる様に声を上げた。春希とは違い、いつも元気な絢夫だがここ最近は真琴の病気のせいで
元気がなかった為、久しぶりの快活な声。それを聞いた春希は嬉しげな顔をする。
「甥鳴山(おいなりさん)の深くに済む白々斎(はくはくさい)という者です。」
「なんか美味そうな名前づくしだな・・。」
夏希が何気なく言うと
「すぐ食べ物のことを連想するなど本能丸出しで動物の様だな。」
夕顔丸がイヤミを言う。
「てめぇ!またか!!」
いつもの通りそのイヤミに夏希が怒声を上げる。
「夏希!やめるんだ!!」
そしていつもの通り春希が制する。
「夕顔丸さんもこんな時くらいイヤミなことを言うのはをやめて下さい!」
いつもは夏希を制して終わるのだが医者の情報を掴み絢夫が久しぶりに元気を取り戻した状況なので
夕顔丸にもきつく言いつける。穏やかで女性的な風貌の春希だがその様子は妙に迫力があった。
「・・・・悪かった。」
「わかればいいんですよ。」
さっきとはうって変わって少女の様な愛らしい笑顔を浮かべる春希。その笑顔を見た夏希は
「春希の兄貴には敵わないな・・・。」
と困った顔をした。性格は短気だが顔立ちは春希同様女顔な為、春希の笑顔とは違ってはいるものの
普段とは違い可愛らしい表情だった。
「ふふふふふ。」
そんな光景に不思議と微笑ましさを感じたのか絢夫が笑う。
「いつもなら父様もここで一緒に笑うんだけどな。ガハハハハハって。あー早く父様の笑い声が聞きたいなぁ。」
絢夫は父の豪快な姿を思い出して子供の様にはしゃいだ。それに乗る様に春希が答える。
「きっとすぐ聞ける様になりますよ。」
引き続き愛らしい笑顔を浮かべる春希を見てそれに負けず劣らず可愛い笑顔を浮かべる絢夫。
やれやれといった感じの表情を浮かべる夏希。さっきと変わらぬその表情は笑顔とは違うものの可愛らしい雰囲気だ。
そんな三人とは違い、夕顔丸はいたって無表情であった。
「で、その白々斎とやらはどの様な男なんだ。」
夕顔丸が口を開く。彼がイヤミ以外で口を開くのは珍しいのだがその声には苛立ちが含まれていた。
緊張感がないゆえに話が進まない三人に苛立ちを感じてる様だ。その様子に気がついた春希が答えた。
「なんでも山に隠れ住んでるだけあって非常に変わり者らしくて・・。たまに仕事の為に山を降りてきては
法外な収入を請求するそうです。」
「よくいるよな、そういう奴。半分白髪で顔に傷ある奴とか。」
夏希が突っ込みを入れる。
「へえー。お金は、大丈夫だけど・・。」
「そんな偏屈者、信頼できるのか?」
絢夫の言葉に夕顔丸が割って入る様に話す。
「それは行ってみないとわかりませんよ。」 「またお前はそう水を差すようなことを!」
穏やかに受け答える春希と怒りながら声を上げる夏希の対称的な声が同時に響いた。
「ちょ、ちょっとなっちゃん!そんな言い方はないでしょ!」
今回は絢夫が夏希を制した。
「でも、はーちゃんの行ってみないとわからないってのはごもっともだよね。よし!思い立ったら吉日!
早く行く準備しよ!!今日は無理だけど。」
見た目は似ても似つかないものの父ゆずりの前向きさで決意する絢夫。それに夕顔丸が口を挟む。
「絢夫様が行くことはあるまい。真琴様の為とはいえ若様が城を簡単に空けるのは感心しませんな。」
「えー。父様の為なんだよ。こう見えてもボク結構腕には自信あるし。」
父、真琴とは違い華奢な絢夫だが、槍術に嗜んでいて本人の言う通り結構強い。
「どんなに武芸がたっても何が起こるかわからぬものです。それがわからないのですか。」
依然夕顔丸はきつい態度を崩さない。
「絢様が行きたいっていってるんだ!お前なんかに決められてたまるか!」
夏希が怒声を上げる。
「従者のくせに主君の謝った行動を制することもできないのか。そういう甘えが絢夫様を付け上がらせるんだ。」
「てんめぇぇ!!!オレどころか絢様まで悪く言うな!!!」
夏希が夕顔丸の胸倉を掴む。頭に血が登った夏希は気付かなかったが普段では考えられない程夕顔丸は動揺の表情をした。
「夏希!!!やめるんだ!!!」
春希がいつになく大きな怒声を上げる。
「あ、兄貴・・・。」
その声に驚き拍子抜けした夏希は夕顔丸の胸倉から手を放した。夕顔丸は最初は少々あわてた様子で少し乱れた小袖を直したが
それが終わるといつもの冷静な表情に戻った。その夕顔丸に春希が話しかける。
「夕顔丸さんの言い分はごもっともです。でも・・・真琴様と絢様の仲のよさはご存知ですよね?無茶なのはわかってます。
でも・・、真琴様のことだから・・、絢様に行かせてあげたいんです。それに絢様が一度言い出したら聞かない性格ですし。」
「・・・わかった。お前ら兄弟も俺同様絢様に同行するつもりなのだろ?」
「もちろんです。」 「当たり前だろ!お前に言われるまでもない!」
またもや二人同時に声を上げる。正反対だが双子だけあって息が合っている。
「・・・そうと決まったら、行く日程決めたり場所の確認でもするか。」
「はぁい!」
絢夫が陽気な声を上げる。事態がわかっているのかと夕顔丸は思ったが文句を言っても仕方ないし絢夫の能天気さが
嫌いではなかったのでとりあえず場所確認と日程決めを始めた。
続く