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鬼道の末に 9

名無しのアヒル氏

「はっ!!」
成幸は目を覚ました。地下から出た後、布団に入り眠ってしまっていた。
「夢・・・・。」
そう言いながら外を見つめた。地下に行ったときは昼食直後で昼間だったが、瑞穂を陵辱し、
牢から出た後眠ったせいか、だいぶ日が落ちていた。
成幸は思い立った様に立ち上がると襦袢と手ぬぐいを用意し、地下牢へと向かう。
瑞穂の拘束を解き、身体を拭って、服を着せてあげよう。その後城に戻って父に瑞穂の釈放を頼もう。
そう決意して牢屋への階段を勢いよく降りていく。牢の中の瑞穂は泣き疲れたのかぐったりしている。
「瑞穂・・・。」
成幸が声を上げたが反応がない。話しかけるのもいやなのかと思い、少し落ちこんだが
瑞穂に近づいてみると様子がおかしいことに気付く。やけに息が荒い。顔や身体も火照っている様だ。
「瑞穂!?どうしたんだ!だいじょぶか!!」
返事はない。瑞穂は目を閉じ、苦しそうに息を荒くしているだけだ。既に意識を失ってる様だった。
額に手を当ててみるとやはりというか熱い。成幸はあわてて、瑞穂の手と足の鎖を外し、
性行為で汚してしまった身体を軽く拭うと襦袢を着せ、牢屋から連れ出す。釈放の許可は後回しになってしまったが
牢屋の中に病人を置くわけにはいかなかった。部屋に入ると先程まで成幸が寝ていた布団の中に瑞穂を寝かせる。
まだ意識は覚めない。成幸は瑞穂の額に濡れた手ぬぐいを置いた。瑞穂に意識がない為、薬や食事は与えられないし
人間と鬼はほとんど身体の構造に差はなく、なる病気も同じものが多いという話だが、中には鬼のみがなる病気もあるらしいので
素人目で判断するわけにはいかない。とりあえず成幸は瑞穂の顔の汗を拭う。身体は先程牢屋で軽くだが拭いたし
看病の為とはいえ陵辱した罪悪感から瑞穂の身体を見るのは申し訳ない気がした。
「・・・これだけじゃだめだな・・。」
このまま顔を拭いてるだけでは何もならない。ちゃんと医者に見てもらわないとだめだと判断した。
幸い成幸の居城の専属医は鬼の身体の知識も持っていた。それまで鬼嫌いだった成幸は鬼なんか治療して
どうするんだと思っていたが今はその医者の知識が心底ありがたかった。ついでに高茂に瑞穂の釈放も頼もうと思った。
居城に戻るのはいいが、この離れには誰もいない為、瑞穂を一人にしなくてはならない。起きる気配はなさそうだし
これだけ弱った状態で逃亡や自殺もできないだろうが、病状が心配だった。しかしこのままでは何もならない。
早くしないと日が暮れてしまう。
「なるべく・・・すぐ戻るから!!」
成幸は意識のない瑞穂に呼びかけると大急ぎで城の方まで駆けていった。


「高茂様・・。」
梨乃という女性が高茂に話しかけた。四十前後の美しい女性でその物腰は上品で上流階級の育ちが伺える。
彼女は実際身分の高い女性でこの家の中でも特別扱いを受けているがこの家に来た経緯は複雑な事情がある。
「何かね?」
高茂が受け答えた。その傍らには妻の静がいる。
「鬼族の頭の子供は、今成幸様が離れに監禁なさっているのですよね。」
「そうだな・・。今頃、拷問にでもかけてるのでは。」
高茂は仕方ないとはいえ、息子の行為が好ましくない為、梨乃の問いに対して答えるその声は少し暗い。
それに合わせる様に静も少し複雑そうな表情を浮かべる。
「会わせてもらうことはできないでしょうか?」
梨乃が言った。彼女は瑞穂に会いたがっていた。
「私は別に構わないが・・、成幸がなんて言うか。」
高茂は少し悩ましげな声で返事をした。
「そういえば梨乃さんはその鬼族の頭の子に思い入れみたいなものがあるって言ってましたね。」
静が言った。今は十年前の痛手も乗り越え、元も朗らかな雰囲気を取り戻していた。
「はい・・・。どうしてもまた・・会いたくて。」
静の言葉に落ち着いてはいたがはっきりとした意思を感じられる物言いで梨乃が答えた。

大人達がそんな会話をしていたそのとき、噂をすれば影とでもいうのか、襖を勢いよく開け成幸が現れた。
あわてて来た為、息が上がっている。
「どうした、成幸。そんなにあわてて。」
息子の様子を見て高茂が問いかけた。
「えっと・・・。瑞穂が・・捕虜が病気になって・・看病の為に医者を呼びにきたんだ・・・。
それと、捕虜の釈放もお願いしたくて・・・。」
どんなに説得しても鬼への憎しみを忘れない成幸の思いがけない頼みに三人は少々驚いた。
「別に構わぬぞ。私は元々あの少年を処罰するつもりはなかったし。」
高茂は落ち着いた物言いで息子の頼みを受け入れた。言葉通り彼は最初から降伏した瑞穂を処罰するつもりはなかった。
しかし、成幸が見せしめにしてやろうと強く要求してきたので瑞穂は成幸に連れられ離れに監禁されたのだった。
「その・・・実は・・・女の子だったんだ・・・。一応手篭めにしたけど・・逆らう意思はないと思ったから・・
釈放していいかなって・・・。」
「何?女の子だったのか。そうか・・。」
瑞穂の性別を知って、高茂は成幸の心変わりの理由がようやくわかった。静と梨乃も気付いたらしく微笑んでいる。
釈放の許可を喜びながら成幸は部屋を出た。

その後、三人はフフっと楽しげに笑った。
「惚れたな。」「惚れたわね。」「惚れましたね。」
三人は口々に言った。昔のことを気にしてたのか、恋人や婚約者を作ろうとしなかった成幸が
あれほど嫌ってた鬼の少女に惚れてしまったという事態が面白いと思ったからだ。
「捕縛したとき、女の子みたいに可愛い顔をしていると思ったが、本当に女の子だったとはな。」
高茂が笑いながら言った。
「私も男の子にしては可愛い子だと思いましたけど、十三歳位だったから男の子っぽくなくても
おかしくないと思ったのですけど。」
高茂の言葉に乗った様に梨乃も笑いながら言った。
「そんなに可愛い娘(こ)なら私も早く見てみたいわね。娘さんがいる梨乃さんがうらやましくて。
そういえば結婚してから娘さんはどうしてるの?」
静は梨乃の娘のことを聞いた。
「はい、元気にやってるみたいです。一時はどうなるかと思いましたけど・・。
もう絶望的だと思っていたあの子の昔の婚約が叶って本当に嬉しいです・・。高茂様と静様のおかげですね。」
梨乃の言葉に高茂と静は嬉しそうに顔を見合わせる。
「病気で看病ということは、しばらくは二人っきりにしてあげた方がよさそうですね。
でも手篭めにしてしまったということは・・きっと苦労しますね。」
梨乃は話題を成幸と瑞穂のことに戻した。
「そうだな・・。でもあいつなら大丈夫だろう。親ばかに思われるかもしれないが。」
「私もそう思うわ。だってあの子が鬼の女の子に惚れたってことは、過去を振り切ろうとしてるってことだから。」
高茂と静は息子の恋に期待の言葉を並べた。
「そう、ですね。私は成幸様だけではなく、あの子にも幸せになってほしいと思います・・。」
梨乃はかつて見た瑞穂の姿を思い出しながら言った。


――ここは・・。あのときの・・?
瑞穂は以前見覚えがある暗闇の中にいた。よく見ると十三歳の姿をしていた。
暗闇の中をぼんやりと進んでいると散々見せ付けられた地獄の光景が目に飛び込んできた。
鬼達に輪姦される女性の姿。その中には巌もいる。しかし、女性に見覚えはない。
小柄で可愛い印象の女性。彼女を助けようと一人の七、八歳位の少年が輪姦劇の中に進もうとしている。
少年が女性の息子だということは容易に想像がついた。
――俺が・・、俺が助けてあげなきゃ!
瑞穂は少年の進行を止める為にその目の前に立ち塞がる。少年の静止を確認すると、
代わりに輪姦劇の中に進んでいく。そして叫ぶ。
――やめろっ!!こんなことはやめろ!!
すると女性も鬼達も消えた。しかし巌だけは残っている。
――そ、そんな・・。いやぁ!!
巌は瑞穂に襲い掛かってきた。すると以前見た夢同様着物が破り捨てられる。
――いやあああぁ!!
再び裸にされ、瑞穂は思わず叫んでしまった。巌は以前と同様瑞穂のまだ未成熟な身体を犯そうとする。
――俺、また・・・犯されるのか・・・。
悲しさから涙が流れる。しかし幼くも力強い声が状況を変える。
――やめろ!!
それは先程の少年の声だった。少年が声を上げた瞬間、巌は苦しみ消えた。
――あ・・・。
瑞穂は少年を見つめた。自分はこの少年を助け、また、助けられた。瑞穂は起き上がり少年に駆け寄る。
――ありがとう・・・。ありがとうね・・。ぼく・・・。
泣きながら少年に感謝の言葉を漏らした。
――ぼく?
少年が年下扱いを不思議がる様な声を上げた。その言葉で瑞穂はようやく少年が幼い頃の成幸であることに気付く。
それがわかっても成幸への憎しみが全く思い出せない。幼い成幸にすがっていたかった。

「はっ!」
瑞穂は目を覚ました。天井を見て自分が今牢屋ではなく普通の部屋にいることに気付く。
布団に寝かされ、服も着せられてて身体も拭われていた。捕虜に対してとは思えない丁寧な扱いに瑞穂は困惑する。
辺りは暗い。月明かりがぼんやりと部屋の中を照らしている。瑞穂が顔を動かすと眠っている成幸の姿を捉える。
布団もなく着のみ着ままの状態だ。医者に診察してもらったところ、心身衰弱による風邪で安静にしていてば大丈夫と診断され、
薬ももらったが瑞穂が一向に目覚めないので成幸はつきっきりでいたのだが、そのうち眠ってしまっていた。
瑞穂の身体はまだだるく熱も引いていない。しかし頭ははっきりしている。その為、夢の中では思い出せなかった
成幸から受けた辱めの記憶を取り戻していた。
――なんで、お前がこんなことするんだよ・・・。
内心そう思ったが、寝ている成幸を起こして毒気づく気にはなれない。まだ病気が治らないせいか再び眠ってしまう。


朝になり、成幸は目を覚ます。
「んっ・・・。瑞穂・・・・。」
目覚めた成幸は真っ先に目の前で眠る瑞穂に目を向ける。赤い顔をして目を瞑り眠る瑞穂の額に成幸は手を置く。
案の定まだ熱い。成幸は手を瑞穂の額から角のある方に動かし頭を撫で始める。
「んっ・・・。」
すると、撫でられた感触に反応したのか瑞穂が目を覚ます。
「あっ・・・・。その・・・、大丈夫?」
成幸は目を覚ました瑞穂の頭から手を離し、ぎこちない物言いをした。陵辱したことと自分のせいで病気にしてしまった
罪悪感からどう話せばいいのかわからなくなっていた。
「・・・・・・・。」
瑞穂は最初は寝起きなのと病気から来る熱で状況が飲み込めないのか、ぼんやりとした目で成幸を見つめていたが
次第に意識がはっきりしてくると顔の表情が険しくなり、口を開く。
「何のつもりだ・・・・。」
きつい物言いだったがその言葉にはそれほど憎悪は含まれていない。しかし、罪悪感に駆られる成幸の心を揺り動かすには
十分なものだった。
「えっと・・・。看病を・・・。」
成幸の言葉に瑞穂は激しい反応を示し、弱った身体を半ば無理に起こす。
「看病?訳のわからないことを言うな!!処刑するつもりの捕虜にこんなことして何になる!!!」
瑞穂の罵声に成幸は辛そうな顔で口を閉ざす。その顔に瑞穂は怒りを覚える。
「性奴隷にでもしたくて看病したのか?そんな辱めを受ける位なら殺される方がましだ!!」
成幸がそんなことするつもりなどないことは瑞穂はわかっていた。しかし、陵辱されたことから罵ってやらなければ
気が済まないと思っていた。
「おれ、お前のこと処刑するつもりも奴隷にするつもりもない。それに、お前はもう捕虜じゃない。
父上に頼んで釈放の許しを貰ったから・・・。」
成幸は重い口を開いて瑞穂の今の立場を告げた。
「えっ・・・・。な、何故そんな・・・。」
いきなりの釈放宣言に瑞穂は驚いた。成幸が自分のことをいたぶったり辱めるつもりは全くないということには
気付いていたが釈放までしていたとは思わなかった。
「だから、病気を治してあげたくて・・・。」
成幸はあいかわらず重くぎこちない物言いをした。こんなことしても自分がしたことが許されるはずないことは
わかっていたがどうしても瑞穂に元気になってほしかった。
「余計なお世話だ・・・。元気になったところで俺には希望も行く当てもない・・・。」
そう言い捨てて瑞穂は再び横になり身体を反らし、成幸から視線を逸らした。
「・・・・・。」
成幸は掛ける言葉が見つからない。行く当てがないなら自分の所に来てほしいと言うのが本音だったが
深い罪悪感が成幸を縛り付けてその想いを遮る。


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