――和海・・・さん・・。
――頼子・・。
そのとき。
ガラッ
「姉上、和海さん居る?」
襖が勢いよく開いて真子が姿を現した。
「「・・・・・・・。」」
二人は真子のいきなりの乱入に真子の方に視線をずらしてただ呆けていた。
「あ、お取り込み中だったみたいだな・・・。すんません・・。」
真子は気まずそうに襖をゆっくりと閉じようとしている。
二人は照れくさそうに思いっきり離れると真子に対して大声を上げる。
「マ、マサ!行かなくていいから!!!」「そ、そうそう!!」
その大声を聞いて真子は閉じかけていた襖を再びゆっくりと開く。
「・・・・・・。」
部屋を見つめた真子はその場に大量に散らばっている春画を見て言葉を失っている。
それに気付いた頼子はあわてて春画を片付けた。そして和海に聞こえない様真子に耳打ちした。
『く、くわしいことは後でね!』『わかった、って言うか暖かく見守ってやるつもりだから。』
そう言って真子は少し憐れむ様に微笑んだ。
『マ、マサ!』『ところでさっきの春画の強姦系の奴ってさぁ・・・。』
和海は二人の会話は上の空で先程の口付け寸前の状況に激しく照れていた。
――はあ、おかしくなっちゃたのかなぁ。女の子にあんなこと・・・しかも二回目・・。
口付けする寸前の男性の様な頼子の顔が和海の脳裏から焼き付いて離れない。
――かっこよかったなぁ・・・。さっきの頼子・・。
以前では考えられない自分の気持ちに戸惑いつつも和海は確実に頼子に魅かれていた。
「で、マサは何しに来たの?」
内緒話を終え、頼子は真子に用件を問い掛けた。
「今後のことについてさ、和海さんも交えて話したいと思ってさ。」
「今後のこと?」
真子の言葉に和海はキョトンとした様な声を上げた。その姿はやはり可愛らしい。
元々和海に強く魅かれていた頼子はもちろん、真子も初めてまともに接した和海の可愛さに少しどきっとした。
「和海さんってさあ、なんか可愛いな。」
「「えっ!」」
真子のあけすけな言葉に和海と頼子が驚きの声を上げた。
「姉上までなんだよ、そんな声上げてさ。」
「あっ・・・、いや、別に・・・。」「・・・・・。」
二人はなんだか照れくさげに顔をうつむかせた。
「まあ、いいや。今後のことについてだけどな・・・。」
「定子の方についてだよね。」
「ああ。和海さんは竹彦と千里が自分に協力求めてきたの知ってる?」
「うん、頼子から聞いたよ。二人がおれのことそこまで気に掛けてくれてたなんてすごく嬉しかったよ。」
和海は明るい笑顔を見せた。頼子はその笑顔に胸ときめかす反面、和海が自分より長く付き合っている
美少年の従者二人に向けて笑顔を見せているということが頼子の胸にちくっと刺さった。
――なんだろ・・・。このちょっと悔しい様な、妬ましい様な・・・。
頼子は今まで感じたことのない気持ちに少し戸惑いを感じた。
話し合いが終わり、真子は颯爽と立ち去ろうとしている。
「じゃ、これで。あんな陰険なのに負けない様頑張ろうね。邪魔者は立ち去るから夫婦水入らずで続きどうぞ。」
真子は陽気な笑顔でおどけた様なことを言いながら襖を先程とは違い、早々と閉めた。
「ちょ、ちょっとマサ!変なこと言わないでよ!!」
頼子は顔を真っ赤にしながら襖の向こうの真子に呼び掛けた。そんな頼子を和海は微笑みながら見つめている。
「さっきの続き・・・・・いや?」
「えっ!!?」
頼子は顔を真っ赤にしながら和海の方に振り向く。和海はそんな頼子を優しい笑顔で見つめている。
「いやじゃない・・・です・・・。」
「決まりだね!来て、頼子・・・・・。」
和海は艶っぽい表情で頼子を求めた。
「は、はい・・・・・・・・。」
その表情に完全に魅かれた頼子はその場にしゃがみ込むと再び和海を抱きしめた。
そして二人は再び唇と唇を近づけた。今度は邪魔が入らず、二人の唇は重なり合った。
「「んっ・・・・。」」
初心者同士とはいえ二度目な為か、二人は一度目のときより長く唇を重ねあい、お互いの口腔内に舌を潜り込ませた。
「んんっ・・・・・。」『・・・・和海・・・・。』
まだぎこちない動きではあるものの二人の舌はお互いを愛撫し合い、口腔内をむさぼっている。
口付けを終え、二人はゆっくりと顔を離した。二人の表情はそれぞれを強く思いあった優しげなものだった。
結婚式のときはお互いの顔すらろくに見ようとしなかったのが嘘の様であった。
「好きだよ・・・・。和海・・。」
「おれもだよ・・。呼び捨てにしてくれたね・・・。」
頼子が自分を呼び捨てにしてくれたことに心底喜ぶ和海。
「はい・・・。これからは二人っきりのときは呼び捨てにさせてもらいますね。」
「うん・・・。」
可愛い笑顔を頼子に向ける和海。そんな和海に頼子は笑顔で返した。
――夫婦とはいえ、よっちゃんがあんな風になるなんてなぁ。必要以上に入れ込むのは相手に悪いって言ってたのに。
真子は姉の変わり様に驚きを感じていた。
――でも、確かに和海さんって全然男っぽくないよなぁ・・。
「マーサコ!」
そんなことをぼんやり考えていると後ろから高い声がした。
「うわっ!!!」
その声に思わず大声を上げてしまった。声の質と自分への呼び方で誰だかすぐにわかった。
「竹彦、そんなにいきなりが好きか。本日二回目だぞ。」
真子はたしなめる様に竹彦に話し掛けた。
「う〜。ごめん・・。」
真子の言葉にしょぼんとうなだれる竹彦。その姿は和海に負けず劣らず可愛らしい。
「ははっ。竹彦、可愛い。女の子みたいだ。」
真子は竹彦の愛らしい姿を見て、表情が少し険しい表情から楽しげな笑顔に変わる。
「そう言う真子もさっき叱ったとき、男の子みたいだったよ。表情とか話し方とか。つーか真子って口調が男っぽいよね。
お姫様はもっとお上品にしないと。」
竹彦は口を尖らせながら真子に対抗する様なことを言った。
「いーじゃん。ここの城の人はさぁ、男っぽくない人多すぎなんだよ。」
竹彦の言葉に真子は拗ねる様な声を上げた。
「なんか真子、子供みたい。なんかあった?」
「えっ!!」
竹彦の指摘に真子は思わず声を上げてしまった。頼子の変わり様に
少なからず戸惑いを感じているのをずばり指摘されたからだ。
「あったんだぁ〜。」
竹彦は勝ち誇った様に笑いながら真子に詰め寄った。
「うう・・・・。」
真子はいつもの勝気な様子とは違い、困った様にうなだれた。
「あっ、ごめん・・・言い過ぎちゃったみたいだね・・。」
真子のうなだれた様子に竹彦は気まずそうに謝った。
「・・・気にしないでくれ。」
真子はそう言うが、気まずい雰囲気は続いた。
「・・・・・・・・・。わっ!!!!」
そんな中竹彦が突然顔を上げ、大声を出した。
「うわあっ!!!」
あまりにも唐突なその声に真子は再び驚きの声を上げてしまった。
「はははー。本日三回目ー。」
真子の大声にしてやったと言わんばかりに竹彦が笑った。
「竹彦!もう・・・。」
真子は悔しげに低い声を上げた。しかし竹彦の大声で気まずい雰囲気は一気に解けていた。
「じゃ、おれ、そろそろ行くね。千里のこと探してたんだ。多分鍛練場だと思うけど。」
「そっかぁ。ほんと千里と仲いいんだな。」
「まーねー。千里ってほんといい子だからね。美人だし。性格ぜーんぜん違うのにすっごく馬が合うんだよね。」
その頃の千里。
「くしゅん!!!」
鍛練場で刀を振っていた千里は少し可愛らしいくしゃみを上げた。
「風邪?そんなことになったら困るなぁ・・・。」
千里は鼻を押さえながら困り顔をし、振っていた刀を下げる。