風変りな家族を持ったせいだろうか。
赤木夕貴は俺の目には男子用の制服を着た少女にしか見えなかったし、実際そうだった。
初めて赤木夕貴を目にした日、俺は晃に風変りなクラスメイトが出来た事を話した。
晃はふうんと高い調子で返事をしてからにやりと笑って「家に連れて来いよ」と軽く言った。
薄い唇の間から覗く歯は蛍光灯に白く輝いていた。晃と両親が同じである事を俺はいつも悔やんでいる。
赤木夕貴はかわいい少女だ。
華奢な体躯に低い身長。転がるように歩いているのはそれだけで微笑ましい。
笑った時に頬が持ち上がる様は飽きるなんて事がある筈も無く、いつまでも眺めていたくなる。
360度どこから見ても赤木夕貴は少女なのだ。
それなのに男子用制服を着ているというだけで赤木夕貴は男であると学校中に認識されている。
その関係か赤木夕貴にはとりわけ仲の良い友人というのがいない。
長い睫が影を作っていたり、さくらんぼのように唇が瑞々しくあっても少年であると言う矛盾が、
赤木夕貴と周囲の間に蜃気楼のような壁を作っている。
全くの誤解と言うか誰か気づけよそんぐらいかわいいんだからと俺は思うのだが、そんなことを思っているのは俺だけらしく
唯一の例外として俺は赤木夕貴のとりわけ仲の良い友人と言うポストに納まっている。
男子用制服というレッテルは強大らしい。人間なんていい加減なものだ。
そんな事を、昼休みに学校の自販機の前でレモンティーとミルクティーの二択に悩まされている赤木夕貴を眺めながら考えていた。
「曜一くん」
赤木夕貴が俺を見た。
二択の解決を求めてくるのだろうな、そう思った。そしてやはりその通りだった。
2つのボタンを同時に押したらいいんじゃないかと言ったら、目を輝かせた赤木夕貴に「頭いいね!」と言われた。
教室に戻って、紅茶と弁当を頬張る赤木夕貴の向かいで俺は購買のパンを頬張る。
春の席替えで偶然に席が隣同士になって以来、昼食は毎度の如く2人で食べるようになっていた。
そういえば、赤木夕貴とこうして昼食を共にするようになったきっかけは何だったのだろうかと思う。
席替えをした当初は特別に言葉を交えた記憶は無かった。
「僕と曜一くんが仲良くなったきっかけ?」
赤木夕貴は俺の質問に目をしばたかせた。長い睫を揺らして「ええと……」と思案に暮れている。
きっかけなんてそんなものかと思いつつ、俺はパンをゆっくり噛んで飲み込む作業に戻った。
その翌日。
翌日がさらに翌々日になろうという時間に赤木夕貴からメールが届いた。
『曜一君と僕が仲良くなったきっかけ、やっと思い出した!』
席替えをして数日後、その頃ちょうど酷い花粉症に悩まされていた赤木夕貴に俺がティッシュをあげたらしい。
そういえばそんな事もあっただろうかと思い記憶を探ってみる。
ああ、と。授業中に明らかにティッシュを切らして困っていた赤木夕貴の姿が思い出された。
その時に好きに使えと箱のティッシュを渡したら、帰ってきた時には箱の中にティッシュが3枚しか残っていなかったのをよく覚えている。
申し訳なさそうにぺこぺこ頭を下げる赤木夕貴の姿も。
その後、何となく話すことが多くなって、何となく昼食をとるようになった、らしい。
きっかけなんてそんなものかと思いつつ、俺は返信した。
『くんはつけなくていい。呼び捨てで呼べ』
送った後に、俺は寝た。