427年前、大陸中の大工を集めて建てられた、この国、この大陸の象徴であ
る大聖堂。
聖都の中央に位置するこの聖堂は、贅を尽くし、当時考えうる最高の技術が使
われているおかげで。今も朽ちることなく、その偉様を誇っている。
側を通り過ぎていった、観光客の一団の言葉に。184年前に建て直されたん
じゃなかったっけ? そんな疑問を漠然と浮かべた。
ぼくは正門前広場のベンチに、一人腰掛けている。
騎士団に預けられる前に居た修道院では、耳が腐るほど聞かされたけれど。覚
える気のないことを覚えているのは無理なわけで。今となってはあの頃のことも、
まだ5年しか経っていないというのに、思い出すことも少なくなってきている。
それが良いことなのかは分からないが、日々が充実しているからだから致し方
ない。出世した暁には錦の一つでも送ろう。
「すまない。待たせたな」
歯切れの良い言葉にはっとして、視線を上げる。ぼくは立ち上がり、おそらく
だらしなくなっていたであろう顔を引き締め。3歳年上の俊英騎士に向き合い。
「すみません」と、主たる騎士へ深く頭を下げた。
主から声をかけられてようやく、その存在に気づくなど。従者として、あって
はならないこと。
けれど、寛大なる美麗の騎士は、まるで花に話しかけるような声色で。
「謝ることじゃないさ。私が遅れてしまったのがいけないんだ、だから顔をあげ
てくれないか」くすっとした呼気「話にくいからさ」
「すみません」その言葉に甘え、顔を上げた。
中にチェインメイルを鎧っているとは思えない痩躯が纏う、白と赤が目に鮮や
かな法衣を模した聖騎士団衣。
法衣と違い、布地はゆったりとしておらず、体型が露わになるほど身体にフィ
ットしている。それは教会内で、騎士団がもっとも下位に座しているためである。
つまり、上位の者はゆったりとしすぎた服を着ているということなのだが。一度
見た教皇猊下は、布お化けのようで、歳もいっているせいで歩くのすら大変そう
に見えた。だから、というわけではないだろうが。
カリス様は、団衣を動きやすいと評価しているが。ぼくは、団衣は無駄を省き
すぎていると思う。
鎧として役立つのは、中に纏ったチェインメイル。肘までの鉄甲。金属板が動
きの邪魔にならぬよう打ち付けられたブーツくらい。
長年敵対しているロンギとの戦では、どんな重層な鎧でも意味をなさないため。
無駄な重さを払った結果だそうだ。
いつかはこれを纏いたいが、まだ先は長そうだ。と考えていると。
「あまり、ジロジロ見るな」カリス様は少し声をうわづらせて言った「日も高い
うちから」と。
その言葉と、照れに緩められた相好は、聖騎士姿に似合わぬほど、あいらしい
が。こんな姿をほかの騎士に見咎められては、困るので。ぼくはこほんと咳をし
た。
「それより、聞かせていただけるなら。ハミルバーグ隊長殿からの用件を聞かせ
ていただきたいのですが」
「ン、ああそうだな、歩きながら話そう」そういって歩み始めたこそばがゆい程
甘い香りに惹かれ、ぼくも歩き始める。
カリス様の歩きかたは静かで、陽炎がゆらめくより自然。ただ、ブーツの踵が
石畳を蹴る音、鎖が擦れる音。当人は気にならないのかもしれないが、斜め二歩
後ろを歩く身としては、とても気になってしまう音だ。
「不敵にも、ゴブリンが郊外の洞窟に巣をつくったらしい。それを討伐する」
「それだけ、ですか」
「ああ、そうだが」
平然と言ってのけるのは凄いと思うが、
「数は」
「十匹までは確認されているそうだ」
「……まさか、それをおひとりで?」
「ああ、そうだ」
そんなっ。と声を出しそうになったがこらえ。直ぐに理解した。
「他の騎士たちは、ゴブリン退治なんて名誉にもならないことはしたくない。け
れど誰かがしなければならない――だから、ですか」
この言葉にカリス様は声なく笑い、
「ああ、まだ、信用されていないようだ」
「しかし、」ぼくがまだ汚い言葉を吐こうとするのを、カリス様は身を翻し、唇
に人差し指をあて。
「しかし、私は聖騎士だ。民のために剣を取る、それだけのこと。わざわざ複雑
化して考える必要はないさ。正しき行いの為に剣を振るっていれば、いつかは認
められる。違う?」
こともなげに言う。
まったく、そんな自信たっぷりに言われては反論のしようもないじゃないか。
<2>
馬を跳ばして四半日、リグリス公国への街道を一本逸れ、なんとか道の様相を
呈している獣道を分け入り。イニアルクト山の麓、焦げ茶色の断面にぽっかりと
開いた小さな洞穴。以前は灰色熊が住んでいたらしいが、今はゴブリンの巣穴に
なっている。
灰色熊は腹が空かない限り人を襲わず。鹿や野兎といった動物に、近くに小魚
が泳ぐ清流があり。餌には不自由しないため、そんなことはなかったのだが。
腹が空いていなくとも、金品目当てに人を襲うゴブリンが住み着いては、街を
行き来する行商人や旅人にとって重大な危険になりかねない。
それにゴブリンの繁殖力は人間のそれ以上に高く、半年も放っておけば、倍に
まで増えている。それにゴブリンの牝は稀少であり、ゴブリンは繁殖する場合。
通常、エルフやドワーフといった他の妖精族、そして人間の女性を襲い孕ませる。
「ということらしいが、実際に人間の女がゴブリンを出産した所を目撃した者は
いない」
カリス様は装備を確認しながら、そんなことをぼくに教えてくださり。
「おそらく。それも関係してるのだろうな。女みたいな私が、本当に男なのかを」
そういってくすりと笑い「もしかしたらバレているのかもな」
そうだとしたら冗談にもならないが、そうではない自信があるからだろう。カ
リス様の落ち着いた顔つきに、ぼくはでかかった言葉を引っ込める。
団衣の帯から長剣と短剣を吊して、ボウガンと矢筒を背負い。鉄甲を締め直す。
ぼくはそれを手伝いながらも、見張りとして立っていると思わしき、ゴブリンへ
と視線をちらちらと向けていた。
夕刻だからだろうか、見張りのゴブリンは眠たげにあくびを繰り返している。
その赤色の肌は、油でぬらぬらと光っており。暇そうに振り回している短剣は、
血と鉄錆のせいで刃が土色になっている。あれでは切れ味もないだろうが、ゴブ
リンが使う剣は大工の鋸のように、刃がギザギザになっていて、毒が塗られてい
るという。
ただぼろぼろなだけかもしれないが、それで切られれば痛いでは済まないだろ
う。なにより不潔な刃に塗られた毒が肉を裂けば、そこから肉が腐る。
そんな相手とカリス様が戦うと思えば、怖気がする。
それが顔に出ていたのか、
「ボウガンは使えたな?」
「……へ?」虚を突かれ、間抜け返事しかできないぼくに。カリス様は背負って
いた矢筒とボウガンを握らせ。
「よくよく考えれば、狭所戦闘にこんな物は要らなかった」
「は。しかし」
「飛び出してきたゴブリンを、これで掃討してほしい。できるか」と聞かれれば、
できます、としか答えようがないわけで。
それにカリス様の役にたてるのなら、その方が良いに決まってる。
「分かりました」
「うん、頼む」ぼくの答えに満足してくれたのか、カリス様は優しい笑顔を浮か
べ。ぼくの頭に手をおくて、3往復ほど頭を撫でてくださり後。
「祝福をくれないか、ゴブリンといえど数は多い、勝利のための祝福を」
冷たく堅い鉄甲の感触が頬をなぞる。
ぼくは周りに誰もいないというのに、一応確認してから。
一段背の高いカリス様の袖を掴んで引き留めると。んっと、小さくつま先立ち。
その頬にキスをした。
チェインメイルの鉄と油の臭い、森の空気、カリス様の香りが混ざりあってぼ
くの鼻腔を刺激する。
触れた頬の感触に、ぼくの唇はカリス様の唇と交わりたいと素直な欲求をおぼ
えるが。カリス様は離れ、背を向けてしまわれると。
「では、言ってくるよ」
その横顔がわずかな朱に染まっていたのは、おそらくぼくの思い違いだろうが、
その背へ
「続きは帰ってから」
カリス様は小さく手を振った
<3>
本当は側にいたいのだけれど、二人対約十匹より、カリス様一人対約十匹の方
が何事もなく終わる。
ぼくの実力なんて、そんな物。枷にこそなれ、助けにはなれない。
たった三歳の差しかないのに、なんでこんな違いがあるんだろうか
単純に努力と素質と実戦経験の差でしかないのは分かっている。だけど、三年
後のぼくが、カリス様のようになれているかは――自信がない。
そんな時間もかけず、カリス様は戻ってきた。
返り血で白い団衣が汚れこそすれ、爽やかな笑顔で手を振っている、カリス様
自身は怪我もないようだと、安心。
ただ、そういう姿を見せられるから、実力の差を感じてしまうわけで。
「どうした? 疲れたか」
「……いえ」
ぼくはカリス様に背を向け、さっさとこの場から去りたくなった。
「おい」カリス様の声が呼び止めてくる。
「もう日が暮れます、今日中に報告に行かれた方がよろしいかと」急いで言うと。
「まあ、そうか」となぜか残念そうに呟いた。
馬は、鳴き声で気づかれては困ると、街道の方に繋いでいたので、そちらへと
足を進める。歩きやすいように道を踏み均しながら。
少しの間、無言で歩き。木々の隙間から街道が見えるくらいまで来て、
「うう……」カリス様が苦しげに呻き「イタタタタ」と言った。
「カリス様」
振り返る。カリス様が怪我をしていたのに、気づかなかったなんて。ぼくは――
「だ、駄目かもしれな……うぅ」
カリス様は片膝をついて胸を押さえて苦しげに呻いている。まさか斬られたの
だろうか、そんなバカな、カリス様がゴブリン如きに遅れをとるなんて。
「傷はどこですか、どこを斬られたんですか」駆け寄り、訊くと。
「分からない。身体全体が熱く火照っていて……ああ、イタタタタ」
分からないほど、身体が熱くなっているということか。そうだとすれば、傷口
は深いのかもしれない。馬に積んである応急処置道具でなんとかなるだろうか、
それより馬を走らせて医者のところへ行った方が。
「…………」
カリス様がぼくの顔を見ていた。はっとする、暗い顔をしていては駄目だと。
顔に無理矢理笑顔を張り付かせ、カリス様の手に手を重ね。
「だいじょうぶです」ぼくの手をカリス様が握り返してくる「馬でゆけば、お医
者様の元へはすぐに。立てますか?」
「いや、肩をかしてくれるか」
「はい」
背が一段低いぼくがカリス様に肩をかしている姿は、不格好だけれど気にして
いる場合ではない。
「うう……」こんなに弱ったカリス様なんて初めてみた、「フフフ」
「――ン?」今、笑ったような?
いや、そんなバカな。怪我をしてるのに笑い出すなんて、そんな、さっきはあ
んなに苦しそうにしてたじゃないか。だから気のせいだ。
とは、思いながらも。気になり、側にあるカリス様の顔を見ようと、顔をそち
らへ向ける――あ。
ぼくが顔を覗き込もうとするのが、分かっていたのだろう。カリス様は顔を寄
せてくると、強引なのにとても優しい感じで、唇を重ねてきた。
「む…………んぅ……」
半年前からすれば、上手くなり過ぎなキス。
最初の内は、まだぼくがリードできていたのに、あっさりリードを奪われたの
は。初めから一週間も経たない時だったろうか。
比喩じゃなく膝が震えているのは、キスされているからということもあるが、
服の上から下腹部をまさぐられているからだ。
鋼色の鉄に覆われた指先が、ぼくの股間の形を確かめるように、何度も何度も
擦ってくる。外だからか、カリス様の手はいつもより激しくぼくを求めてくる。
カリス様の熱い吐息が耳に絡まるように、
「いいか」と優しく問ってくる。
それはまるで、銀冷の刃で頬を撫でられているようで、背筋が緊張する。銀の
刃は下手に動けば斬ると暗に言っている、素直に従えと。
「で、ですが」緊張に言葉が強ばる「誰かにみられたら」
「恥ずかしい?」
「そうじゃなく」いい言葉が見つからない、えーと「お、男同士に、男色趣味に
見られますよ、その姿じゃ」
そういうと、空間が一瞬停止したように感じた。
カリス様の女性としては太い首がククッと鳴り。次の瞬間、何かのタカが外れ
たように、大きく笑いだした。
突然のことにぼくが驚いていると
「そりゃいいっ」ハハハッと笑い続け、ひとしきり笑うと。後ろからぎゅっと抱
きしめられ。
「いいさ」
「よくないですよ」
「その時は、そうだな。私が美少年しか愛せないんだ、とでも言い訳しよう」
「それは、なんの解決にもな――ヒッ……くぅ」耳に冷たい感触「だから、そう
いうことは、その。家に帰ってからしましょう」
カリス様は「そうか」あむあむと耳たぶをかむのをやめ「こういうのは嫌いか」
「……強引にされるのが嫌いなだけです」そうだ、ようやく適当な言葉がでてき
た。ぼくは「やさしいカリス様が好きです、だから今みたいな強引なやり方は、
好きになれそうにありません」
それがぼくの率直な気持ちなんだ。
初めの時のように、乙女らしくしてほしいとは、今更思わない。リードを取ら
れるのも、その、なんだろう。気持ちよくなってきた、というと酷い誤解――い
や、実際気持ちいいわけだから誤解じゃないか……って、そうじゃなく。
こんな場所でしなくてもいいじゃないか、ということであり。なにより、
「それに、唐突すぎますし。だいたい、さっきの小芝居はなんなんですか」
そういって、カリス様から逃れた。
カリス様はそれを赦されず、ぼくの腕を掴み、引き寄せた。
ぶつかった衝撃で、チェインメイルが硬質な音を鳴らし。上体がバランスを失
う。カリス様が、腕をぼくの腰に廻してくれたことで、転ばずに済んだ。
「だ、だからこういうことは」
「肉を裂き、骨を断ち、血を浴びる」
前置きのない言葉に戸惑う。
「ゴブリン相手と言えど久しぶりの実戦だった、少し興奮してる」
カリス様の手が背を這い回る。
「だから、仕方ないだろう」
ズボンに突っ込んだシャツが引きあげられ、ひやっとした鉄の感触を感じる。
「や、……やめてください」
カリス様はじべたに膝をつき、紅を塗らずとも鮮やかな色をした唇が、ぼくの
乳首にキスをし。柔らかな舌先が唇を割って出てきて、からかうように乳首を弄
ぶ。
「だから、こういうことは――ッ!?」
緊張した乳首を噛まれ、ぴりっとした感触が背中へと突き抜ける。
「ふふふ」そんなぼくの反応が愉しいのか、カリス様は笑い。「いつも私がされ
ていることだ。分かったなら、今度からは加減してくれよ。それに」と言うと。
ちゅばっ、ぢゅびびびと音がなるほど乳首に吸いつき。強い吸う力と、音の激
しさに。驚き、膝がガクッと崩れそうになったが。倒れることすら赦されず。
上目づかいに見上げてくる、カリス様の目尻が、にやっと下げられ。
「吸われる方が好きだな、可愛くて」
「……」
「おっぱい出してやれないのが悔しいくらいにな」
「…………そう簡単に、母乳なんて出ませんよ」
カリス様は笑顔のまま「ま、そうだな」と頷かれると、もう一度乳首に唇を重
ねてから。ゆっくりと地面に腰を降ろし。ぼくのズボンのベルトに手をかけ、な
んの引っかかりもなく外してしまうと、下着ごと一気にずり降ろされてしまった。
「嫌だ、と。言っていたはずだな」
「…………ええ」
「その割に」ククッと喉を鳴らし「格好よくしてるじゃないか」
「…………知りませんよ」
生ぬるい外気の中露わにされた股間にあるソレは、素直にも大きくなってしま
っていた。…………もうちょっと、意地ってのを見せてくれよ。
カリス様は微笑みながら、
「辛そうだな、」誰のせいだと、ぼくは思ったが。喉の奥に追い返した「仕方な
い、手早く済ませるか」そう言って立ち上がった。
ぼくが警戒して、後ずさったが。瞬発力の違いか、はたまた予測されていただ
けか。後ろに回り込まれ。
腕を絡め取られ、後ろ手に押さえ込まれ。振り回されるように、強制的に街道
の方を向かされると。
「だ、だだだ、誰かに見られたらっ」
「なにも、そんなに慌てなくとも。誰も森の中なんて覗かないさ。鳴き声でもあ
げない限りはね」
「でも――」
隣にあるカリス様の顔は、さっきからと同じくずっと笑顔で。歯で鉄甲の締め
紐を外していき、中指を噛んで一気引き抜くと。鉄甲は地面へ落ち、鉄がぶつか
る音がした。
素手になった手でぼくの陰茎を掴むと、きゅっと握りしめ。
「イきたくなったら、いつでもいいからな」
ごしごしと擦り始めた。
女性にしては力強い手が、この半年で随分とこなれた動きで激しくしてくる。
街道を間断なく人が流れていく。商いに使われる主街道のためだろう、人の波
は途切れず。ぼくはそんな場所から、十歩離れているかという所で、こんなこと
をされている。そう考えると、恥ずかしさで身体が熱くなっていく。それが見透
かしているのだろう、カリス様が意地悪な声音で。
「もう少し、街道に近づいたほうがいいかな」
ぼくが首を振って拒否すると、陰茎の先端の切れ込みを、親指でくにゅっと押
し潰し。
「見てもらいたいんじゃないのか。いつもよりも、大きくなってる」
「……ぅ」
「それに、おねだり汁だけで、もうベトベトだ。今なにを考えてる? ん?」
耳をくすぐるカリス様の言葉に、ぼくはへっと必死に笑ってみせると。
「……後で、ガクガク言わせてやる」
「楽しみにしてるよ」
そういってぼくの頬にキスすると、一段速く手を動かし、強引にも一気に射精
までもっていこうとする。
「ひっ……や、あ」
結果として、カリス様の掌の上で踊らされているにすぎないぼくは。その意図
通りに――
「――くぅっ!!?」
たぎったマグマが、止めようもなく迸り。勢いよく先端が痛むほど、強く、大
量に吐き出した。その間もカリス様は手を動かし続け、全て吐き出させられた。
「いっぱい出たな」というカリス様の口元は笑っていたのかもしれないが、ぼく
は激しい虚脱感に襲われ、抱き止めてくれるカリス様に身を預けた。カリス様は
しっかりと受け入れてくれた。
「気持ちよかったか」
カリス様は訊くでもなしに言うと、ぼくの頭を優しく撫でてくれ。
「少し休んだら、帰ろう私たちの家へ」 ぼくは小さく頷いた。小さく、しかし、しっかりと。
リードされているくらいが丁度いいや、とかそんなことを考えながら。
<4>
「ですから。姦す、裸になれ。くらい言ってくださいよ」
ぼくは言った。
あくまで冗句のつもりだったのだが、カリス様はそうは思わなかったらしく。
捨てられそうな子犬のように悲しげな目でぼくを見上げ。
「そう言えば、してくれるのか?」悲壮なまでに真剣な表情でいった。
「い、一回だけなら」…………なにを言ってるんだ、ぼくは。まずい、まずいだ
ろ、この流れは。
カリス様の正体が女だと教会に知られても、ぼくは上手くやればなんのお咎め
もないだろうが。下手すれば。修道院で育ち、騎士団から預けられる形でカリス
様の元にいるぼくが。カリス様が聖騎士団、ひいては教会を欺いている事実を知
った上で、関係を持ってしまえば言い逃れはできない。最悪、共謀罪に問われる
かもしれない――だというのに。
立ち上がり、ぼくの手を掴んでみつめてくる。一段背の高い聖騎士――美女の
「姦す、から。裸になって、くれないか」という言葉に、我ながら情けなくなる
ほどあっさりと。
「…………はい」
言ってしまった。
カリス様がぺたんと座る前、ぼくは背を向けて服を脱ぐと。まだ体格の面でも
カリス様に見劣る、情けない身体が恥ずかしかったが。
背中や臀部に突き刺さる、カリス様の視線を感じて、ぼくは振り返った。
「あ……」
向き合うと、カリス様は小さく息を漏らした。それがいったい、どんな意味が
あるのかは分からないけれど。カリス様は上から下まで、その空色の瞳で見て。
ある一点で視線を止めると。
「手をどけてくれないか」と言ってきた「私は見せたんだから、見せなさい」女
性にしては堅い指を、ぼくの手の甲に重ねてくる。股間を隠す、両手の上に。
「……はい」
直ぐに返事はできたものの、どかすまでにぼくは四度ほど深呼吸を繰り返し、
何度も頭を振って。覚悟を決めると。考えていたよりも、あっさりと手を退かす
ことができた。
既に膨張している、ぼく自身はそそり立っていた。あと半歩近寄れば、カリス
様の顔に届くからだろうか、ぼくはいつもより興奮しているようだった。
カリス様は驚いたような、呆然としたような、そんな表情でぼくの陰茎を見つ
め。胸が上下するのが分かるほど、大きく息を繰り返し。
「触ってもいいか」消え入るような声でいった。
ぼくは無言で頷く。
カリス様は手を怖る怖る近づけていき、まるで触れたら壊れてしまうかのよう
な慎重さで触れた。
その感触に、陰茎は驚きびくんっと跳ね上がると。カリス様は目をぱちくりと
させて「痛かったか」と聞いてくれた。
ぼくがどう答えたものかと、考えていると。カリス様は陰茎と見つめあったま
ま。
「なぁ、これはどうすればいいんだ」
「どうしたらって、どういうことです?」
ぼくの質問にカリス様は即答した。
「これを、いれると、気持ちいい。というのは、きいたことがある。ただ」
「ただ?」
「その、やりかたをしらないんだ」
ぼくが「へ?」間抜けな声をあげると、カリス様は怒ったように、
「だって、誰も教えてくれなかったし。見たこともなかったんだ。仕方ないだろ」
と一気に言い「だから、だから教えてくれ。私がどうしたらいいのかを」
「そう言われても……」ぼくだって知らないですよ。とは言えなかった。知識が
ないわけじゃないし、カリス様がやりかたを誰かに訊きにいっても困る。だから、
ぼくは
「じゃあ、その、仰向けに寝てください。そう、さっきみたいに脚を開いて」
「こ、こうか」
何度見ても綺麗な土手は、まだぼくの涎が残っているのか、少し光ってみえた。
ひざまづくと、もう一度、カリス様の土手にキスをして。愛撫することにした。
「ひ、だ、だめだ。そこは」カリス様が声をあげ、ぼくの顔を押し返すと。両手
で土手を隠し「汚いから、舐めたらお腹壊す」
「いえ、でも、こうしなきゃ駄目」――らしい――「ですよ」以前聞いた話では。
なんでも、ここがとろとろになるまでは入れては駄目らしい。そうするには、どうしたらいいのか
は、全く聞かなかったが。
カリス様は真っ赤な顔でぼくを睨み付けると、掠れるような声で。
「洗ってからなら」と承諾してくれた「おまえが洗ってくれ」驚くような条件付
きで。
「……なんですって」
カリス様は、照れたように唇を尖らせながら。
「私はどこにいれたっ……入れるのか知らないから、おまえが洗ってくれ」
「そんな」
「めっ、命令だ」
…………なら、仕方ないか。
手桶で、水瓶から水を汲むと。仰向けになったままのカリス様の土手に、ちょ
ろちょろと水をかける。顔だけじゃなく、身体全体が熱しているのか。カリス様
は、
「ひゃっ」と可愛らしい悲鳴をあげると、ぼくの顔を見て、そっぽを向いてしま
った。
その行動に、ぼくは内心笑いそうになるのを堪えながら。手で石鹸を泡立て、
手を白いもこもこにすると。
肉土手に手をあて、前から後ろ、尻の穴まで手を滑らせた。中指で割れ目をな
ぞり、尻穴の皺に触れては戻るを繰り返していると。
カリス様がそっぽを向いたまま、横目でこちらをチラチラ見ながら。
「も、もう少し、中の方も」と要求してきたので、応えることにした。
中指に力を加え、爪半分ほどまで割れ目の中を進ませると。カリス様の身体が
身じろぎ、
「もっと……もっと深くていい」
「……ふかく」
更に力を加える、肉厚の土手に隠されていた暖かな肉の感触を味わいながら、
滑らせていくと。ある一点で、指がなにかにはまり、力をこめていたせいで第二
間接ほどまで入っていってしまった。
「んぅっ」
その声に驚き、指を抜くと。「んあっ!?」カリス様が鳴いた。
今のはなんだったのだろうと、泡まみれの指先を見つめていると。カリス様が
腕を掴んで。
「いまのところ、念入りに」愛眼してきた。
先程と同じく、中指で割れ目をなぞっていき。穴の中へ中指を差し込む。
「ここを、洗えばいいんですか」と聞くと。
カリス様はちょっと苦しそうな表情で、小さく頷いた。
言われた通りに、その穴の中を何度も指を出入りさせて洗う。
きつく締めあげてくる肉壁は、無数のヒダのような物で覆われていて。入れて
いるのは指先だというのに。だんだんと気持ちよくなってきて、動きを速めてし
まう。
ただ広さ的に、もう何本か入れた方がぴっちりと締まって、良い感じだろうと
思い。
「もう一本入れますね」とカリス様へ言うと。
「……んっ、んぅ」なんだか苦しそうだが、嫌だとは言われなかったので、遠慮
なく。一本オマケして、二本の指を新たにねじ込むと。
「あアっ!!」カリス様の上半身が大きく跳ね、何事かと思うと、カリス様は、
荒く息しながら「きに、するな」といった。
まあ、正直愉しくなってきていたぼくは、言われずともそうするつもりで。三
本の指を何度も何度もその穴の中を出入りさせて、その感触を愉しんだ。
三本も入れると流石にキツく、動かすにも大変なので。水をかき分ける要領で、
肉襞をかき分け、指の付け根まで挿し込むと。抜くのは少し楽なので、一気に引
き抜く。
「んんっ、あっ、ああっ、うっ、ひっ、ひゃんっ」
今まで触ってきた何よりも、気持ちいいと思った。そうだ気持ちいいといえば、
とぼくは空いている手を伸ばし、手に収まるサイズの乳房を掴み。
「ひャっ!」
むにゅっと握りしめた。
柔らかいながら、吸い付いてくる肌と弾力が、揉みごたえを感じさせて。もう
一度、もう一度、手を動かさせる。こりこりに堅くなった乳首が、手を動かす度
に掌に触れて、少しくすぐったい。
この柔らかさはあれだろうか、この中に母乳が貯まっているからなのだろうか
と夢想し。単純な興味に駆られ、空いている乳首を吸った。
「くっ、くァああッ、ダメッ、そこはっ、あ」
強く吸っても、歯でこりこり弄んでも。やっぱり母乳は出てこない。残念だな。
なんだか気落ちして、身体を任せるようにカリス様の身体の上に倒れ込む。弾力
のある乳房に顔を埋め、ちゅるんっと指が何かに擦れながら、穴から抜けた。
その瞬間、
「ふぁっ」カリス様の瞳孔が大きき見開き「ああああぁぁぁ……あ、はぁ」と大
きく息を吐いた。いったいどうしたのだろうと、思っていると。カリス様の腕が
ぼくの背に廻され、ぎゅっと抱き絞めてきた。
ほんと、いったいなんなんだろうか。ただ、言えることは一つ。
「い、息が苦しいです」乳房に顔を押しつけられて、窒息死なんて笑い事にもな
らない。
「……ああ、すまない」
とろけた声でカリス様は、そう答えた。
大きく、ゆっくりと上下するカリス様の胸に身を預け。殆ど無意識に、ちゅぱ
ちゅぱと吸いながら。寝てしまいそうなほど、ゆったりとした時間を過ごした後。
カリス様はぼくの頭を撫でると。
「じゃあ、続きを頼む」とぼくから手を離した。
ぼくは小声で「はい」頷いた。
水で石鹸を洗い流し、綺麗になったカリス様の秘部に触れると。凄く熱くて、
驚いたが。カリス様が器用に上体をあげて、見ていたので、顔色を変えないよう
にして。ぼくは自分の陰茎を掴むと、先程の穴へと先端を差し向けたが。上手く
入らず、ごりごりと押しつけると。
「こらっ」とカリス様に叱られた「痛いぞ」
「す、すみません」謝りながらも、おっかしないなぁと考えていると。
カリス様の伸びやかで力強い指先が伸びてきて、自分の、親指と中指で割れ目
を開くと。「こんどはちゃんと、な」と優しく言ってくれた。
ぼくは「はい」と答え。カリス様御自身で開いている、鮮やかな色の秘唇と、
亀頭とをキスさせ。息を一つ飲み込んで。一気に押し込んだ。
「――あっ」
「くゥっ」
カリス様の中は、指を入れていた時よりも、キツくなっているように感じた
それに指よりも敏感になっている陰茎は、ダイレクトに肉襞のうねりを伝えて
きて。今にも飲み込まれてしまいそうだ。
「な、なんだこれ」思わずそんなことを言ってしまった。
視線を下げると、カリス様とぼくの接合部が見えて、なんとも言えない気持ち
になり。顔をあげると、カリス様は上体をあげたまま、苦しそうな表情で。
「もう少し、小さくはできないのか」なんて言ってきた。
もう一度視線を下げると。接合部から赤い物が伝い、床に落ちた。今のは、ま
さか、なにか中を傷つけてしまったのでは。と思っていると。
カリス様が少し和らいだ表情で。
「慌てるな」フフッと笑い「私の、初めてを奪った証だ」
笑っているが、血が出ているのだ。きっと、凄く痛いんだろうな。と考えて、
改めて赤い線を見ると、少し背筋が震えた。
そんな様子を見て、カリス様は笑みを深め。
「心配するな」
「でも、血が出てますし。痛いのでしょう? なら、止めた方が」と言うと。
まばたきの瞬間という、狙っても狙えない隙を突いて。カリス様はぼくの額を
指で弾くと。
驚くぼくの頭をそのまま掴んで引き寄せると、キスができてしまいそうなまで
に近い距離で。
「なら、痛みも忘れるほど気持ちよくしてくれ」首を小さく傾けると「無理か?」
そんな訊かれ方をされては、できないとは言えないわけで。ぼくが「分かりまし
た」と答えると。
カリス様は少し苦しげながら、微笑んでぼくの頭を撫でてくれた「いい子だ」
と。修道院にいた頃は、結構イタズラばかりやっていたので、褒められたことが
なかった。だから、頭を撫でられるってことがなくて。なんだか、少し気恥ずか
しかった。
その気恥ずかしさを隠すために、ぼくは。
「動かします」と言って、カリス様の返事を待たずに、腰を動かし始めた。
「ンッ……ああ」
どうやったらいいのか分からなかったが、つまるところ。
自慰する時になぜ気持ちいいのかと言えば、手で擦っているからであり。カリ
ス様をぼくの手に見立てて、こちらから動かせばいいのだろうと結論づけると、
後は簡単。というには、ほど遠かった。
カリス様の中で動かすのは、まるで絡みついたタコを剥がすより大変で。一回
目の往復で、危うく出しそうになったが。必死に堪え。とりあえず、あまり早く
出すのも格好悪いので、ゆっくり動かす。
しかし、それはそれで。
「んっ、ああっ、ひゃんっ、」
突く度、動かす度に悲鳴をあげるカリス様。痛いのか、気持ちいいのか、痛気
持ちいいのか。それにあわせて顔をひくっ、ひくっと反応させ。たまに、深く突
き刺すと身を反らして、顔をゆがめた。
「ううっ、ああっ、あんっ」
一回りほど大きい、ぼくの主が。小さなぼくが、腰を動かす度にこんなに乱れ
る。それが愉しかったり、ちょっと照れたり。
「いやぁ、あは、ううっ、んあっ」
でも、あんまりそういう顔を見ているのも悪いなぁって思い。大好きなミルク
乳に顔を埋め、それに合わせて腰の動かし方も少し変えたが。体勢的にちょっと
辛くて、腰が痛くなったが。そんなことくらいは、限界まで高まっている射精感
を堪えるより、数段楽だ。
しかし、それもゆっくりと動かすことで、誤魔化していたのだが。
「へっ?」
腰をガシッと掴まれ、驚いてカリス様の顔を見ると。目が合い、ドキッとした。
カリス様はニマッと瞳を半月にゆがめ。ぼくが戸惑うのにも構わず。
「もう、限界で……さっ。すまないっ」絞り出すようにそう言うと。流石と言い
たくなるほど力強く、ぼくの腰に腰を打ちつけ。
先程までのぼく主体の動きでは考えられなかった、激しさでもってして腰を動
かす。
「へ――あ、うぁ……んっ、んんっ」
下から突き上げてくる、ぼくの意志を欲しいままに弄ぶ、暴風雨のような勢い
に。ぼくは抵抗することも、堪えることも、自制なんて効くわけもなく。
「くっ、まっ、まだか」と喘ぎながら、必死に何かを堪えるカリス様の声に応え
たかのように、ぼくの陰茎は熱いスペルマをカリス様の中へと、注ぎ込む。それ
と殆ど変わらないタイミングで、カリス様の身体が大きくエビ反り、ぼくを強く
抱き締め。ぼくの名前を呼んで、カリス様も果てた。
<5f>
「あれ」
今何か愉しい夢をみていたような気がして、ぼくは目を醒ます。
そこはなにも見えない暗闇の中で、暖かくて、少し息苦しい。空気を求めるよ
うにもがくと、かけられていたタオルケットが落ちていった。
窓から挿し込む月明かりは、暗闇から抜けたばかりの眼には辛かったが。少し
すると、馴れ。カリス様の腕の中にいることを確かめて、ほっとした。
今日、いや、既に昨日か。ゴブリン討伐の後、聖騎士団本所へ報告を入れ、屋
敷へ帰り。ニナがつくった料理を食べ。カリス様は風呂に、ぼくは水を浴びて汗
を流し。ニナが寝たのを確認して、ぼくはカリス様の部屋へと忍び込み、愛し合
った。
――うん。真夜中だっていうのに目覚めはスッキリしている。もう一度眠れるだ
ろうか。
目の前には、気のせいかこの半年で大きくなった乳房が二つ仲良くならび。視
線をあげると、カリス様の顔がある。
穏やかな表情で眠るカリス様に、思わず頬を緩め。カリス様を抱き返し、その
胸に顔を埋めて、左胸の乳首に吸い付くと甘い香水の香りをより強く感じた。
ぼくはカリス様に身を預けると、ゆっくりとまぶたを閉じた。
いつか、この人を守れるだけ強くなりたい。――そんなことを想いながら。
〜END