(どーしたもんかな、コレ……)
はなはだ困った事態になったものだ。
自分はちょっとワケあって女ながら男の格好――――つまり男装をしている。
顔立ちは父親似で中性的だし、背はそこそこ、胸はサラシで隠せる程度(ちょっと残念)。
実際男に間違われて、可愛い女の子に愛の告白をされたり、それをクラスメイトの男子に嫉妬されたり、
そのテの野郎に痴漢されたり、ということはざらにある。
告白や嫉妬ならいくらでもかわせるし、野郎の痴漢なら得意の空手で張り倒すだけだ。
しかし――――
コレはどうすればいいんだろう?
満員電車の中、自分の左隣にいるのはきれいなOL風のお姉さんだ。
そのお姉さんがみっちりとした豊満な胸(う、うらやましい……)を、自分がかばんを持っている
左腕にギュウギュウと押し付けてくる。
初めは混んでいるからくっついているだけかと思っていたが、ちょっと違うようだ。
明らかに胸だけを押し付けてくる。
(そんなにされてもなぁ……同じの持ってるし……小さいけど)
困ったようにお姉さんの顔を見ると――――
にっこりと微笑まれてしまった。
大丈夫よ、ボク。お姉さんが手取り足取り、イイコト教えてあ・げ・る♪
そんな声が聞こえてきそうな笑顔だ。
(どうしようかなぁ)
あわてて視線をそらし、うつむく。
それを恥ずかしがってるとでも勘違いしたのか、ますます胸を押し付けて、さらには
かばんを握っている左手にそっと手を添えてきたりした。
(うあぁ……)
困った。心底困った。
相手が女性では張り倒すわけには行かない。
大声を上げても、男(の格好)の自分のほうがあやしまれる可能性が高い。
なんとかして、自分が同じ女性であると分からせなければ。
そうだ、彼女の手を自分の胸に導いて――――ダメだダメだ。サラシがある。
待て待て。胸があることを分からせるのが難しくても、ナニが無いことを分からせるのは簡単では?
そうだ、彼女の手を――――
つり革につかまっていた手をはずすと、かばんを持ち代える。
左手をはずされて不服そうにしているお姉さんの手をそっとつかむと、自分の股間に誘導した。
(これで女だって分かるはず)
確信は外れることなく――――
あっけにとられているお姉さんを残して、さっさと開いたドアからホームに流れ出た。
「っていうことが、あったんだけど」
「……おまえそれなんか間違ってるから……」
げんなりしたようなクラスメイトの表情が、やけに印象に残った朝だった。
おわる