青白い月影が、四角く切り取られて床に落ちていた。
飴色の木目に、長い年月を経て刻まれた大小様々な凹凸が散らばっている。
古びた長い廊下は、夜になれば行き交う人々も少ない。
突き当たりにある、オフィス兼寝室へ向かいながら、彼____クレメンス・ハインリッヒ大尉は腕時計を見た。
蛍光塗料の塗ってある短針が、ぼんやりと光って11時の数字に重なるところだ。
ほの暗い廊下に、彼の足音だけが廊下に響く。
月光に照らされたドアノブが浮かぶ彼のオフィス。
いつもならば帰るたび、窒息しそうな閉塞感にうんざりするはずだ。
だが今日は違った。
今日は―――いい玩具がある。
大尉は笑いをかみ殺しながらノブを握った。
ギュッ・・・・
油の足りない、耳障りな金属音が響く。
重厚な造りの金属のドアは、いつものように軋んで大尉を出迎えた。
電気をつける。
裸電球の黄ばんだ光に照らされて、いっそう殺風景なオフィスだ。
鼠色に塗装された棚や、書類が散らばる机。
コーヒーの飲み残しが干上がって、カップのそこに茶色い輪ができている。
間続きの寝室には、パイプベッドとサイドテーブル、それにウイスキーの瓶とランプしかない。
まるで逃亡者の住居のようだった。
―――うんざりするな。
檻のようなこの部屋は、通常の軍隊生活よりもさらに人間味を奪っている。
それはここが、機密の保持、防諜を目的とした建物である事に由縁していた。
買い取った古い洋館を諜報・情報戦の本部としてここに設置し、互いの任務を秘めた人間達を働かせているのだ。
壁は厚く、防音性に優れていたし、ガラス窓はごく小さい。
閉鎖的なのは建物の構造だけではない。
ここで働いている人間は、互いの仕事を詮索しないのが不文律である。
だから、隣の部署が何をしているのか大尉は知らない。
隣の部署も、大尉が何をしているのかは知らないし、詮索しないのだ。
それは楽でもあるが、同時に息苦しくもある。
特に、大尉のように通常の軍隊生活を経験した人間にとっては。
大尉は襟を少し広げて息を吐いた。
黒の軍服は、灰色の襟がついており、そこに階級章が縫い付けられている。
そして右胸には鷹のパッチ、ボタンは艶消しの金のもの。
膝下まである黒の長靴や、上着の上から締められた革のベルトなど、凝った意匠は兵士を精強に、スマートに見せていた。
欧州の小国でしかないこの国の、独裁政権は軍事に力を注いでいる。
その力の入れぶりが、軍服にも現れているというわけだ。
大尉は短く整えられた金髪を掻き毟り、あくびをした。
―――下らない。
情報部員として働く彼は、―――いや、彼らは、この国を囲む列強国がどれほど強いか知っている。
独裁者や軍部の盛んな国威掲揚が、どれほど空しいか知っているのだ。
勝つために国威高揚は必要だが、逆は必ずしも真ではない。
少なくとも彼は、この独裁者に忠誠を誓っているわけではなかった。
大尉はにんまりとする。
馬鹿真面目に仕事に没頭することはない。言われた事だけをやればいい。
それを上司も望んでいるんだ。
さて―――そろそろ約束の青年が彼のオフィスを訪れるはずだった。
「失礼します」
声と、ノックの音が来訪を告げた。
「入りたまえ」
立ち上がって応える。
すうっ、とドアが開き、細身の青年が姿を現した。
「エーリッヒ・マイヤー曹長であります、大尉殿」
帽子を小脇に抱え、青年は直立不動で名乗った。
癖のあるプラチナ・ブロンドをオールバックに撫で付けた、まだ幼さの残る青年だ。
「ご苦労。まぁ、なんだ。緊張するな、掛けたまえ」
パイプ椅子を出すと、大尉は曹長に勧める。
青年は、礼を言って座った。その間も、大尉はじっと曹長を見る。
「君は電信員で私の部署で働いてくれているね」
「はい」
曹長は背筋を伸ばしたまま返事をした。
彼は電信員―――つまり、モールス信号による無線通信を行う通信士である。
大尉の部署を担当しているが、曹長の能力は精鋭揃いのここでも抜きん出ているとの評判だった。
その上、かなりの美青年で、ひときわ目を引く。
惜しむべくは、彼がやや小柄であることくらいだ。
磨き上げられた大理石のような肌、美しい額、すっと通った余分なもののまったくない鼻筋、左右に整った眉。
その上、緑の靄がかった灰色の瞳は切れ長で、うっとりするほど長いすだれ睫で彩られている。
顎はすっきりと造形され、唇は凛々しく締まっていた。
モールスを打つ指先までもが、長く美しいのだ。
美形過ぎて冷たい印象も受けるこの青年だが、実際のところはかなり控えめな優男である。
「君の評判は実に素晴らしいよ。君のモールス信号は美しい、まさに芸術的な正確さだ」
伏せた目をちらりと大尉に向けて曹長は答える。
「光栄であります」
感情を感じさせない口ぶり。
この青年は、今まで取り乱した事などあるのだろうか―――大尉はふと思った。
「君を見込んで話があるんだ。といっても、君本来の仕事ではないのだが・・・気分を害さないでほしい」
手元の書類を見るふりをしながら、大尉はごくごく真面目な顔をし、切り出した。
「ある男を連れ出して、情報を聞き出したい。かなりの女好きなんだそうだが」
曹長はかすかに眉を顰めたが、何も聞き返さなかった。
「君が盛装して、彼の気をひいて連れ出してはくれまいか。なに、何もする必要はない。どこかの小路にでも誘い出せばいいだけだ」
大尉は、さも、本気で頼むかの様な口調で言った。
「心苦しいのだが、君なら必ず彼をおびき寄せられるはずだ」
苦笑いを浮かべながら、曹長を見る。
百戦錬磨の情報部員である大尉は、曹長の灰色の瞳にわずかに動揺が走ったのを見逃さなかった。
一瞬、指先を強く握った曹長は、それでも感情を表さない。
「・・・自分は、通信士であります。そのような仕事はお受けできません。その様な訓練も受けておりません」
平坦な口調で曹長は答える。
しかし、その瞬間、瞳は落ち着きなく周囲に視線を巡らしていた。
異常なほど発達した大尉の嗅覚―――彼の諜報の武器とも言える―――には、アドレナリンを含んだ汗の臭いを感知した。
「どうしても?」
「自分は美女ではありません」
伏目がちに、静かに答えた青年は少し、眉根を寄せた。
しばらく難しい顔をしていた大尉は、残念だ、と呟いてから頷く。
「そうか」
大尉は立ち上がり、手を後ろに組んで部屋の中を歩き始めた。
曹長の、抑えた不審の目が大尉を追う。
蛇のような目をしている男だ、と曹長は思った。
尖った鼻、ぎょろっとした鋭い目。情の薄そうな唇。
親愛そうな表情をしているのは欺瞞だと、皮膚で感じる。
「命令ではなく、君の了承を得てから頼みたかったんだが」
大尉は息をついた。
「仕方ない。諦めるしかないだろう」
「申し訳ありません」
その答えに内心安堵した曹長はしかし、すぐにこの部屋の不穏な空気に気付いた。
大尉の足音が曹長の後ろで右往左往する。
何かがおかしい。鼓動が再び早まる。
曹長の頭の中で警報が鳴っていた。
ふと、足音が離れる。曹長はわずかに体をねじって、大尉を顧みた。
大尉は、ドアノブに手を掛けていた。しかし、ドアを開けるのではなく、―――鍵を閉めた。
その顔は、影になって見えなかった。
「―――何を」
・・・おかしい。
曹長がはっきりと危険を感じたときには、もう遅すぎた。
大尉は、曹長に歩み寄った。そして、肩に手を置いた。
彼の唇は歪んでいる。
「生理は、終わったのかね、エーリッヒ?」
「・・・何を、言っているんです?」
わずかに目を見開いた曹長―――エーリッヒの喉が生唾を嚥下する。
「無駄な嘘をつく努力をしなくてもいい」
出口を塞ぐようにして立つ大尉の目には、蛙を狙う蛇の眼光が宿っていた。
「一昨日まで、血の匂いがしていたよ。それに、女の匂いがする。君自身のね」
一瞬、曹長の表情が固まる。そして、思わず、怯えと驚きの目で大尉を見返した。
全身の血が凍ったようだ。
ざーっ・・・と、血の失せる音がした。
そして、最悪の事態―――あるいは予感が頭をよぎっていた。
「君が女なら、さぞかし美しい女だろう、と思ってはいたが―――」
白く滑らかな首筋を、大尉が撫でる。
「まさか、本当に女だとは思わなかったよ。盲点だった」
曹長の、大尉が額に述べた手を追う眼球だけが動いている。
撫で付けられた、曹長の銀髪を大尉はそっと崩した。
「何を―――、馬鹿なことを」
「では、その、『馬鹿みたいに当然』のことを証明できるかね?」
指先で梳かれると、細い絹糸のような髪はさらさらと崩れていく。
顎にかかる位の長さの銀髪が落ち、緩やかにカールした癖毛がふわりと頬を覆う。
凛々しい青年は、それだけで少年のような少女のような、不思議な雰囲気を宿した。
金縛りに遭ったように、凍ったまま動けない「彼」はようやく我に返った。
「僕に、僕に―――これ以上近寄るな!!」
弾かれた様に大尉の手を払い、立ち上がって後ずさりする。
蒼白な表情で、睨みつけるその表情には氷のような冷たさがあった。
毒蛇。その言葉が曹長の脳裏をよぎる。
嫌だ、嫌だ嫌だこんな男には―――相変わらず嫌な笑みを浮かべているこの男は。
薄ら笑いを浮かべてはいるが、その面の皮の下には獣性が透けて見えているではないか。
「大尉殿、あなたは―――」
「そう怖がることはないよマイヤー曹長」
絡みつくような視線で、大尉はほっそりしたエーリッヒの身体を上から下まで舐め回す。
「道理で君の経歴は一切抹消されている筈だ。射撃の成績がすこぶる良かった事くらいしか記載されてなかった」
エーリッヒは無意識に、かぶりを振る。
彼の背中に、後ずさりを阻む壁の感触がした。
ああ―――これが絶望の感触なのか。
彼はもはや、籠の中の小鳥と同じである。
「いい顔だ」
世界がゆっくりと崩れていく。
へたり込んだエーリッヒに、大尉はゆっくりと歩み寄った。
子供をあやすように、その滑らかな顎を撫でる。
瞬きすることを忘れた、淀んで凍結した瞳がまっすぐに彼を見返す。
何もかも嘘だ―――大尉の、「女装」とやらも、真面目に考案したものとは思えない。
恐らく、こちらを出方を伺う為のブラフに違いないのだ。
エーリッヒはもう一度、ギュッと大尉を睨む。
その表情こそが、大尉を猛らせるのだと彼は知らない。
「・・・どうして」
吐き出すようなその問いは、誰に向けられたものでもない。
大尉はゆっくりと傍らにしゃがみこむ。
もはや構うことなく、その手を胸元の釦に伸ばした。
エーリッヒはその手首を掴んで抗うが、それも空しい抵抗だった。
「制服を破られたいのかね?」
ニヤニヤと笑いながら大尉はエーリッヒの手首をひねり上げ、したたか壁に打ち付けた。
「・・・っぁつ!!」
痺れる様な激痛が骨を揺さぶる。
痛みにあえぐ声が、獣をますます煽らせた。
堪えきれなくなった大尉が、エーリッヒの肩を壁に押し付ける。
「心配しなくていい、利き手とは逆の手だ」
「やめっ・・・」
そしてそのまま、大尉は、貪るように唇を奪った。
閉じられた唇を無理やりこじ開ける。
ふっくらと張った唇を甘咬みし、蛭のような舌で舐め回す。
そのまま、顎から首筋へと舌を這わせ、喉元に歯を立てた。
「ひぁっ・・・や、止め、て」
哀願するような声はもはや、毒蛇を喜ばせる以外の効果はない。
エーリッヒの、首筋の脈の柔らかな鼓動を唇で楽しむ。
すすり泣きの声と、柔らかな震え。哀れな餌食の呻きだ。
その間もエーリッヒの上着の釦を外し、ベルトの金具を除く。
それが終わると、大尉はその細い腰に腕を回し、軽々と彼を担ぎあげた。
外されたベルトががちゃん、と床に落ちた。
驚きで身を固くする彼に構いなく、間続きの寝室へと入る。
「・・・やだっ!僕は・・・嫌だ」
床にぽとり、と涙が落ちた。
美しい青年だった女は、もう羽を切られたカナリヤも同然だ。
ああ、いい声で啼く小鳥だ―――大尉はほくそ笑む。
パイプベッドにエーリッヒを降ろすと、そのまま彼―――彼女にのしかかった。
彼女は涙に濡れて歪んだ顔で見返す。
上着ははだけて、シャツ一枚に覆われた胸は呼吸に上下している。
凛とした美青年の顔は怯えた美女に変わっていた。
「エーリッヒ・・・いや、エーディット?」
彼女は名前を呼ばれて顔を背ける。
「経歴が抹消されていても、家族の氏名から身元は割り出せるんだよ。マイヤー曹長、君の兄には弟はいない」
きつくまぶたを閉じたエーディットの横顔。
大尉はその横顔を食い入るように見つめた。
うなじや、眩しいほど白い首筋が堪らなく扇情的だ。
それだけではない。
シャツの釦を外すたびに、滑らかな蝋に覆われた皮膚がまた露になる。
繊細な鎖骨、肺のふくらみにあわせて上下する鳩尾、しなやかな腹筋に覆われた腹部、そして余分なものがそぎ取られている腰。
温かく、柔らかそうな肉はやはり期待した以上の価値はありそうだ。
慌てて襟元を寄せて、胸元を隠そうとするエーディットを、大尉は許さなかった。
息が徐々に荒げていく。非力なか細いエーディットの手首を掴み、顔を寄せる。
「いいね・・・いい抵抗だ。もがく子猫のような」
・・・や、いや、と、無意識にエーディットは呟き続ける。
その声は誰に届かない。恐らくは、彼女自身にも。
まだ痺れているはずの手首を、容赦なくひねりあげる。もう片方も、彼の腕力ではたやすい。
そのまま、彼女の両手首を、大尉は自分のベルトで締め上げた。
「何をする!・・・や、やめて!!」
顔を真っ赤にして叫ぶエーディットの耳までが熱い。
上半身を捻って抵抗する様は、尚の事大尉をそそった。
エーディットのシャツを捲り上げる。
琥珀色に照らされた、しなやかな裸身が晒されて―――
本当に控えめな、柔らかくて小さな膨らみが覗いた。
「――――あーっ・・・うっ・・・」
思わず、声が漏れる。
今まで、全てを隠し通したのに―――
エーディットは、全てが壊れていく気がして絶望のうめき声を上げた。
まさか、こんな男に陵辱されるなんて・・・
「心配するな、仕事に楽しみを与えてやる」
太い、骨ばった手指が彼女の小さな胸を押しつぶした。
指先で転がすと、柔らかなその先端が膨らみ、こりこりとするのが分かる。
何度も激しくもみ上げられると、すっかりその薄紅の蕾は屹立しきった。
「んんん・・・っ」
否応なく反応する身体が、憎くて惨めだった。
丁寧で、思いのほか優しいが、やはり執拗なその愛撫は、エーディットの精神と身体を剥離する。
上着とシャツがはだけ、ズボンとブーツを履いたままのその姿は不思議な、そして猥らな格好だった。
未だ、本当にどこか青年のような中性的な雰囲気がある。
ひどくその容姿は倒錯しているのだ。
その顔は美しく歪んで、おぞましいほどの色気があった。
熱を持ったその頬や、苦しそうに呼吸を繰り返す肉厚の唇、零れそうに潤んだ瞳。
屈辱にまみれながら、一方でその愛撫の感触を確かに感じている。
「やっ、めてぇ・・・、大尉、殿ぉ」
身を貫くほどの不快感。
そして、微弱な、快感の電気信号が全身の皮膚を這う。
脳では不快を感じながら、その蕾は刺激に快感を感じつつあるのだ。
指先で先端を弱く刺激し続けながら、大尉は首筋に吸い付いた。
刹那、エーディットの吐く息が熱く擦れた。
刺激には敏感な女であるらしい。
刺激を感じるその度、彼女はわずかに腰を浮かせる。
エーディットは、吐きそうなほどの嫌悪感に襲われながら、一方で腰が蕩ける様にむずむずとし始めたことに愕然とした。
そんなことは、認めたくなかった。
体中の血がざわざわと逆巻いている。
彼女にとっては、体験したことのない未知の感覚のはずだ。
「違っ・・・!はあ・・・ぁぁん」
彼女は悶えながら、返事にならない呻き声を上げる。
ちゅ、じゅるっ・・・
わざと音を立てて、その膨らんだ蕾を吸い上げると、指がぴくぴくと震える。
むわっとする様な女の匂いを、大尉の鼻腔は捕らえた。
「そうか、縛られるのがいいのか」
「違うの、ちが、違うっ・・・!」
否定する語尾は震えて、喘ぎと混じりあっていた。
朴訥に仕事に打ち込んできたこの男装美女は、今まで身体を開いたことが無かったのだろう。
毒蛇の歯牙に掛かっても、成すすべが無いのだ。
切なそうな呻き声を上げ、潤みをたっぷりと抱いた瞳で大尉を見つめ返す。
縛られて感じる、というのもあながち間違いではなさそうだ。
ふと、大尉は、自身の痛いほどの高まりに気付く。
気付いた瞬間暑くなり、上着とシャツを毟るように脱ぎ、床に投げ捨てた。
目立つ為の筋肉というよりも、実用のために絞り上げられた褐色の肉体が現れる。
そのまま、一旦エーディットの上から退き、彼女の両脚の間に滑り込む。
彼女の長靴も乱暴に抜き、ズボンに手をかけた。
強い拒絶の意思でエーディットが叫ぶ。
「もう許して!やめて!」
脚をばたつかせるが、腰が抜けて力が入らない。
「もう?まだ何もしちゃいない、曹長」
ズボンの釦を外し、強引に引き抜く。
「いやぁぁぁ、ぁぁぁああああ!!!!」
悲鳴とともに、白く滑らかな、美しい脚が零れた。
細いだけではない、よく鍛えられた、引き締まった脚だ。
床にズボンを投げ捨てる。
大尉は舌なめずりした。残っているのは小さな下着だけだ。
飾り気の無い青の下着には、じっとりと湿った染みが広がっている。
「嫌という割には、随分気持ちいいみたいだな?」
わざと大仰に、下着の上から指先でそこを撫でる。
「っ・・・ぅん、やぁっ―――」
堪えた嬌声が上がる。
下着越しにでも、そのたびに溢れてくる生ぬるいヌルつきがはっきりと感じられた。
肉の襞を何度も強くこする。
「ひ、ひぁっ」
下着とそこの間には、もはや彼女自身でも分かるほど、熱いとろみが溢れていた。
わずかな刺激に反応して、腰がびくびくと反っている。
中はさぞかし気持ちいいのだろう―――大尉は生唾を飲む。
慰み物にするだけのつもりだったが、こいつはしばらく手放せなるかもしれない。
あの、取り乱したことのない美青年の同僚を犯している―――その背徳感が一層興奮を高めた。
普段の、冷静で無口で、冷め切った目で大尉を見ているあの青年は、どこにもいない。
あの、輝くばかりに美しく、湖のように冷たく静かで、何もかもに恵まれている、憎らしい青二才が、こうやって喘いで組み伏せられている。
その優越感、支配感は彼を酔わせた。
「君は素晴らしいよ、エーディット」
下着越しに嬲りながら、大尉は満足げな表情で呟いた。
エーディットは目の縁を赤く腫らしながら、それでも尚灰色の瞳で大尉を睨みつける。
大尉は彼女を更に絶望させたくて、力任せに、下着を引き裂いた。
ミリミリミリッ・・・と音を立てて、左腿の付け根の生地が破れる。
後は、適当にずり下げてしまえば行為の邪魔にはならない。
大尉は彼女が、絶望におぼれていくのがはっきりと分かった。
柔らかく、薄めなその繁茂に包まれた肉の襞が現れる。
エーディットは、絶望に、今度ははっきりと嗚咽した。
そっとその襞を撫で上げると、透明な蜜がとろりと指につく。
赤く色づいたそこは、彼女の意思とは裏腹に、雄を誘ってやまなかった。
「―――んっ!あぁ」
嗚咽に短く喘ぎが混じる。出したくないのに声が出てしまう。
「我慢しなくていいんだ、エーディット。ここは角部屋で、隣は機械室だからね」
身体を屈め、エーディットの耳元で大尉は囁いた。
人差し指をその秘部に差し入れ、くにゅくにゅと肉を弄る。
本当はすぐにでも、中にねじ込みたかったのだが―――それでは、処女の「彼」が余りに憐れだ。
大尉は見当違いな心遣いをしながら、指で中の蜜を掻き出した。
粘性の高い雫が、指を伝ってシーツに落ちる。
隠し切れない快楽の声が、悩ましくエーディットの唇から零れた。
「はぁ、はぁ、あぁぁぁん」
腰をくねらせる。
恥辱と、罪悪感と、憎悪を弾けそうなほど抱きながら、エーディットは、隷属する快楽に目覚めつつある自分に戦慄した。
肉体は、彼を迎合している。
「とんだ淫乱だな?曹長。気持ちいいんだろ?」
「い、いや、いや」
大尉は、伏して大腿の付け根に強くキスをした。
真っ白く、血管の透けるような皮膚に、赤い痣が残る。
この女に最初に踏み込んだ証だ。
そのまま、舌先で蜜を舐めとる。
新たな刺激に、エーディットの脚がびくんと跳ねた。
肉の間に舌をねじ込ませると、ぎゅっとキツい圧力が彼の舌を締め付ける。
「だ・・・めぇ―――やめ、てぇ」
舌先で肉壁をこねくり回すと、エーディットの両脚が行き場なく伸縮した。
粘膜同士がこすれる感触に、彼女はすでに限界近い悦楽を感じている。
腰全体から大腿までが熱く、血が逆流しているようだった。
「っ、―――はぁああぁ」
上ずった声が溢れ出す。
舌先で秘部を攻める大尉の舌先に、蕩ける様な蜜が触れる。
痙攣したように、彼女の脚が硬直した。
小さな頂を迎えたのだ。
大尉は、その小造りで美しい秘部に、そっと口づけする。
そして、激しく呼吸するエーディットの腰に手を回した。
もう我慢がならなかった。
「犯してやる」
放心状態のエーディットに聞こえたか聞こえないかは分からない。
だが、そんなことにお構いなく彼はズボンと下着を下ろした。
既に我慢を重ねたそれは、痛いほど赤黒くそそり立って脈打っている。
彼は、絡みつく蛇のような手つきで、エーディットの上半身を抱え上げた。
まだ、エーディットは放心したままだが、そんなことはどうでもいい。
呼吸も荒くなり、もはや一刻の猶予もないというような風情だ。
互いに、座ったまま抱き合うような姿勢で身体を密着させる。
エーディットの腕の間に頭を通し、大尉は彼女の尻肉を掴む。
そのまま彼女の身体を持ち上げ、自身の先端でそっと襞に触れた。
「・・・・っ!」
いやいやをして、わずかに抵抗するエーディットを顧みず、彼はそこに狙いを定めて突き立てた。
肉が裂けるような、巨大な異物が割って入ってくる激痛に、思わずエーディットは悲鳴を上げる。
「は、ぁっ!い、痛い!や、めて!出して!」
その鋭い痛みで意識が戻ってきたエーディットが、身体を捩じらせて暴れる。
だが、彼女の自重は容赦なく身体を沈め、遂に全てを銜え込んでしまった。
「い、た、―――ぃぃい」
新たな涙がまた溢れて零れた。
呼吸で膨らむ大尉の下腹が、粘液と交じり合った血でぬらぬらと汚れている。
「ぁああ、・・・いい子だ、エーディット」
微かに喘ぎながら、大尉は彼女の名前を呼んだ。
毒蛇の牙は、柔らかなカナリヤの身体に突き刺さり、毒は牙から回り、いまやカナリヤは全身が毒に蝕まれている。
「ふ、ふぅ、あぁ」
エーディットの大腿が、痛みのやり場を求めて大尉の胴をぎゅっと挟む。
とろとろと蕩けるような粘膜の壁は、きつく彼のモノを締め付けていた。
身体と心に穿たれた熱と痛みに、エーディットは俯いてぽろぽろと涙を流す。
「酷い、酷い・・・、ひどい」
エーディットは、何もかもを一度に失くしてしまった気がした。
今のエーディットは、有能なマイヤー曹長でもなく、美青年のエーリッヒでもなかった。
ただ無力さをかみ締める、一人の乙女なのだ。
「問題ない、今に良くなる」
向かい合ったエーディットの、その薄く閉じられた瞼に大尉はキスをする。
その後もう一度彼女を抱きなおし、結合を深くした。
触れ合った皮膚と皮膚の下には、互いの血潮がこれ以上なく盛んに流れている。
揺するように、大尉が腰を動かし始めた。
最初はゆっくりと、柔らかく前後させる。
「んっ・・・!」
ぐちゅっ、と卑猥な音が響く。
壁を擦るそれを、エーディットははっきりと感じた。
泥を踏みしめたような湿った音が、部屋に響き始めた。
吸い付くような肉の壁が、男根と絡み合う。
「ど、うだ、曹、長」
焦らすように緩やかな出し入れをしながら、大尉は彼女の表情を見た。
耐えるように唇を噛み締め、虚ろな目でエーディットは大尉を見ている。
明らかにその表情は快楽に呑まれつつあった。
「ん、ぁ・・・ふうっ」
問いかけに返す言葉はもうない。
膣全体が熱を持ち、今にも腰自体が蕩けてしまいそうだ。
結合部からは、粘性の雫が絶えず溢れていた。
脳の中枢までもが融けているようだ。
エーディットの表情を確認すると、大尉はピッチを上げ始めた。
「ん、ぁ、ぁ、あ、ああああ」
徐々に激しく揺さぶられながら、はっきりとエーディットは歓声を上げる。
ぐしゅ、ぐしゅっ、と子宮を掻き回される度に、加速度的にその熱はエーディットの身体に拡がった。
「あぁ、いい、いいぞ、とんでもなく淫らだ」
突き上げながら大尉は思わず上擦った。
波打つ下腹が烈しくぶつかる音が響く。
繰り返し強くなる淫楽にエーディットは仰け反った。
縛られて、行き場のない手は固く握り締められている。
「は、ぁ、ぁ、あ、あ、あ、あ、ん」
突き上げるリズムに合わせて嬌声が波打った。
「こ、ん、なの、ダ、メぇ、ぇっ」
全身が痺れるようだった。
「何が、ダ、メな、んだ、この、淫、乱が」
エーディットは、はっきりと自分から腰を動かしていた。
沈み込むたびに、互いの喘ぎが漏れる。
まるで、膣の中で二人の粘膜が融け合っている様だった。
快楽を貪る女の表情が、目の前で揺れている。
もう限界も近い。
下腹部や大腿までもが混じりあった粘液で濡れていた。
「あぁぁぁ、ん、大、尉殿!」
切ない声でエーディットが呼ぶ。
「エー、ディ、ット!」
大尉は、膣の中へ渾身の力で押し込んだ。
「――――ぁぁああああああ!!!」
張り付くような粘膜に、男根が絞り上げられる。
「ん、あ、だめぇぇえええ――」
エーディットの、絶頂の声が上がるのを聞きながら、大尉は中で果てた。
震える手で釦をかけながら、「マイヤー曹長」は泣いていた。
唇を咬み、憎しみに燃えた瞳で一点を見つめる。
後ろでは、乱れたシーツの中でハインリッヒ大尉が寝転がっていた。
すべてを、彼に否定された。
有能な軍人、秀才の通信士、そしてエーディットである自分をも。
ただ、女であるというだけで。
滾る殺意が、自分と大尉に向けて暴れている。
逃げるように部屋を出ながら、彼女ははっきりと、大尉に向けて言った。
「あんたを殺してやる。必ず」
―――殺さなければ、目覚めかけた「女」を葬ることができない気がした。
それから、彼女は、部屋に帰って叫ぶように泣いた。