むっとするような湯気の匂いが漂っていた。
それに混じって、柔らかな石鹸の香りがクレメンス・ハインリッヒ大尉の鼻に知覚される。
石鹸素地の原材料臭に、配合されているオリーブの濃い香り。
胸いっぱいに吸い込むと、その心地よい穏やかな香りが体中に充満する。
―――「彼」は、大尉がまるで当然のごとくそこにいることなど知らず、暢気にシャワーを浴びているはずだった。
その湯気は溢れて、ガラス扉の隙間から流れ出ている。
換気装置は粗末なものだったし、勿論熱は湯気と一緒に部屋に伝わっていた。
ふと感じた肌にまとわり付くような湿気に、大尉は上着を脱いでシャツ姿になる。
―――どこもひどい部屋ばかりだ。
大尉は呟く。
下士官用の狭い部屋は、真っ白な壁が牢獄のような閉塞感を帯びていた。
奥のシャワー・ルーム、その手前にあるベッドと机、小さな書類棚、ロッカー。
必要最低限のものだけが詰め込まれたその部屋は、持ち主の性格を反映してか、無駄なものが一切ない。
立ったまま、大尉は部屋を不躾に観察する。
鼠色の本棚には通信―――モールス、暗号機「エニグマ」の教範(教科書)や、軍事用語辞典、兵学校の教範まで、きちんと高さ別に分けられて収納してある。
壁のフックには、灰色の襟がついた黒い軍服が吊るされ、ロッカーの上にはヘルメットとゴーグルがいつでも使えるよう置かれていた。
ゴーグルは、無線や電話が使えない場合のバイク伝令の為に支給されたものだろう。
机の上には唯一の私物らしい、缶に入った小さなクリームと整髪料らしい紺色の瓶がある。
それを除けば、この部屋に私物らしい私物は見当たらなかった。
大尉はその小さな、銀色の缶を手に取る。
紙の小さなラベルには、緑色の唐草模様と製品名が控えめに印刷されていた。
どうやらそれは、指でとって塗るタイプのリップクリームのようだ。
爪先で蓋を開ける。使い込まれて中央から凹んでいる乳白色のクリーム。
鼻を近づけなくとも、異常に発達した彼の嗅覚はその香りを嗅ぐことができる。
香りから分析すると原材料は植物性油脂、それにユーカリ、ペパーミントの精油が配合されているだろう。
いつも、「彼」の周囲に漂っている―――常人には到底知覚できない程だが―――その香りだった。
大尉は納得する。あの「彼」が纏っている香りはこれだったのか。
いかにも皮膚の薄そうな「彼」の唇は、確かにこの建物の乾燥した空気には耐えられそうもない。
それに、それはあの繊細な青年には似つかわしい香りだった。
僅かに唇の端を吊り上げて大尉は笑う。
形良く膨らんで張ったその唇の、男を誘う色艶を大尉は思い浮かべた。
そして、対照的に色の抜けた肌の眩しさを思い出す。
北欧からの移民という戸籍の記録を裏付けるかのような、あの肌の白さ。
穢れない雪のような真っ白な肌は水分をいっぱいに抱え込んで、強く触れる大尉の指に吸い付くようだった。
そこに造りこまれた秀でた額、無駄のないすらりとした鼻、左右対称の整った眉。
濃い灰色の瞳にはかすかに緑が滲み、その切れ長の瞳を長い長い睫が彩る。
要するに、まるで、野蛮さや醜さの要素をすべて取り去ったかのような顔だった。
到底兵隊には見えない、美しい男だ。
初めて見た瞬間から、大尉の注意を引き寄せて止まないほどに。
最初のそれは、雪が30センチ以上も積もった日の朝だった。
施設の周囲に広がる針葉樹林を、大尉は散歩していたのである。
雪は大変に積もっていたが、隊列が歩いた後の真新しい足跡を辿れば歩くのは用意だ。
―――そいうえば、今日は通信隊の野外戦闘訓練だったな。
この施設の各部署にいる通信士は、一括して通信隊から配置されている。
練度維持のため、定期的な戦闘訓練が通信士にも義務付けられていた。
今日も、何人かが招集されて戦闘訓練を行っているのだろう。
大尉は、ふとした気まぐれを起こして、少しその様子を覗いてみようと思った。
恐らくは、この先の開けた野原で訓練を行っているはずだ。
針葉樹林の、心地よい香りを肺の隅々まで吸い込みながら、大尉は隊列の足跡を追った。
外套の襟を立て、空を見上げる。
雪の降りつくしたその曇りない青さは冷たく冴えている。
なんだか空気が澄み過ぎて、大尉は少し頭痛を感じた。
ずいぶんと久々にきれいな酸素を吸ったような気がしたので。
少し歩くとその一団は、すぐに見つかった。
教官が、兵士たちの塹壕やら蛸壺やらを点検している。
大尉は木の陰からそっと様子を窺った。
あるものは小銃を構え、あるものはその半端な隠れ方を教官にどやされ、そして―――大尉の目はある一点に釘付けになった。
皆と同じようにくすんだ緑のヘルメットを被り、防寒用に黒い襟巻きをし、白い戦闘服を着たその兵士は何ら特異な装備をしている訳ではない。
ただ、蛸壺から胸から上を出し、機関銃の照準したその一点を見据えた横顔があまりに整っていたのだ。
雪の照り返しに光るその真っ白な肌はハレーションを起こし、まるで彼が雪から出来ている風に思えた。
まだ若く幼いその兵士は、募集ポスターでしか見たことのない、凛々しく美しい騎士のような兵士だったのだ。
大尉は今まで、男に「天使のような」という形容詞を使ったことがなかった。
そして、この先も彼以外にそれを使うことはないだろう、そう思った。
彼だけが、神が特注で作った芸術品に見えたのである。
その美貌、その神々しさは大尉の何かを掴んで放さなかった。
―――まさかその時は、その彼を抱くなどとは夢にも思いはしなかったが。
むせ返るような強いオリーブの香りがして、ガラス戸が開いた。
大量の湿気が吐き出され、細い裸身の影が現れる。
籠の中にきちんと畳んで置かれたタオルを掴み、頭を拭こうとした瞬間、その影が凍ったように停止した。
その瞳はまっすぐ大尉を認めて、無機質に固まっている。
青年はあの雪原の時と変わらず、美しい。
「・・・マイヤー曹長」
大尉は、ゆっくりとその名を呼んだ。
そして、その薄い肩、ごくわずかに柔らかく膨らんだ胸、筋力によって括れた腰、柔らかな茂みや引き締まった肢体を見た。
顎まで伸びたそのプラチナ・ブロンドが額や顎に張り付いている。
何かを否定しようとして、柔らかく膨らんだマイヤー曹長の唇が動いた。
しかし、唇からはただ、わずかに空気が漏れただけだ。
一度、すでに無理やりこじ開けられたその記憶がエーリッヒ・マイヤー曹長―――本当はエーディット・マイヤー曹長を封じていた。
「マイヤー曹長」の本当の姿を知っているのは、大尉ただ一人だ。
彼女の肌がいかに柔らかく、「彼女」の肉がいかに潤っているかを、彼自身が無理やりに確かめた。
「今度は、命でも奪いに来られたのですか」
一見何の感情も込めない声で、曹長が尋ねる。
その灰色の瞳の、はっきりとした憎しみがまっすぐ大尉の瞳に突き刺さった。
メスの刃先のようなその視線にしかし、大尉は臆することはない。
「誤解だよ、曹長。私は君には目をかけているつもりだが?」
ぬけぬけと言い放たれた大尉のその言葉は、挑発なのだと曹長は気付かない。
怒りに、曹長の腹の底がすっと冷えた。
バスマットの上に立ち尽くしたままの彼の指が、握っていたタオルに食い込む。
その蒼ざめた顔色は、凍てつくような怒りによるものだ。
「あなたは」
はっきりと、努めて冷静に、曹長は言った。
「私の何もかもを奪ったと思い上がっている」
強靭な精神力で抑制されたその声をしかし、大尉は鼻で笑う。
そして大尉は黙ったまま、彼に歩み寄るマイヤー曹長を見ていた。
血の気の失せたその表情。
おもむろに引きちぎるような勢いで、曹長は机の引き出しを開けた。
我を失ったその引き金に迷いはない。
「あ、あんたは何も奪えやしないッ!」
叫ぶように曹長が言った。
否定というより―――それは彼の願いであったが。
曹長は、大尉に拳銃をぴたりと照準していた。
その照準は正確であったし、確かにこの距離なら外れるはずはない。
そして、ひどく焦燥した曹長は今にも引き金を絞りかねなかった。
だが、しかし―――
「よろしい。では殺してみたまえ」
大尉は相変わらず、余裕の笑みを浮かべている。
その態度に一瞬、曹長は虚を突かれた。
このお人よしの曹長は、技能こそあれど実際に戦線に投入されたことはない。
人を殺す任務に従事したこともない。
最初の引き金は、誰にとってもそう簡単なものではないのだ。
大尉は、それをよく知っていた。
「安全装置は解除したかね?」
笑いを含んだ声で大尉が問いかける。
「無駄口を叩くな!今すぐ、今すぐ殺してやる!!」
迷いを圧するように曹長は叫んだ。
目を見開いたその表情は、まさに戦場の最中といったところだ。
「可愛い新兵だな、まるで」
しょうがないな、というような口調で大尉は呟く。
「君は、曹長にもなって満足な人殺しも出来ないのかね?」
その一瞬、
―――曹長は何かを言い返そうと反応してしまった。
我に返った0.1秒後には全てが手遅れで、大尉の銃剣のごとき爪先が真っ直ぐ拳銃をめがけて浮いていたのだ。
「―――」
頑丈なその長靴の爪先は、鋭い弧を描き、精緻さを以って飛んでくる。
それは余りに早く、まるで時間の止まった中でそれだけが動いているようにも見えた。
横殴りの衝撃は拳銃をいとも簡単に吹き飛ばし、その拳銃は回りながら飛んでいる。
曹長の手は骨の芯から音叉の様に痺れた。
拳銃が床に落ちる音が響く。
そして、その瞬間には既に、骨太で傷跡のある手が彼の手首を掴んでいた。
その手首はいかにも手馴れたように曹長の腕を捻り上げ、ぐいと彼の体を引き寄せる。
その瞬間になってようやく、曹長は全てを後悔した。
抗えない力によって、小柄な身体はすっぽりと収まるように後ろから抱きすくめられる。
「最後まで抗戦するその戦意は素晴らしい」
「うるさい黙れ!」
抗えない何かに曹長は必死に抗う。
「・・・曹長」
何も纏わないその身体に直接響くようなその囁き声。
見なくても、その口許が笑っているのがわかる。
「それでは、淫蕩の血と君自身の意志、どちらが強いか見せてもらおう」
反射的に振り向いた曹長が目を見開く。大尉は彼女が、身体を硬くしたのが感触で解った。
「母親は北欧一の高級娼館の、しかも名うての娼婦だそうじゃないか」
「・・・・・」
曹長は返す言葉を失ったまま、立ち尽くしている。
母と同じ、娼婦なんかにはなりたくなかった。
そう願い、女であることを嫌悪し続けたせいか、胸の発育はほんのわずかで止まっていた。
その胸を、何も知らない骨ばった手が今まさぐっている。
「やめて」
怯えたように目を閉じて懇願する。
曹長でもなく、エーリッヒでもないその表情。
一番恐れていた自らの魔性が、密かに息づいていることを彼女は知っている。
母と同じ、毒のような淫蕩の血筋が。
「・・・曹長、快楽は罪か?」
後ろから回された右手が、彼女の僅かに張った胸を掴み上げる。
左手はエーディットの顎のラインをそっと撫でていた。
濡れそぼった美しい銀髪に顔を埋めながら、大尉はまるで恋人のように優しく、彼女を愛撫する。
祈るように閉じたまぶたが、その愛撫のたびに柔らかに震えた。
緩やかなふくらみを無骨な手が触れるたびに、先端からくすぐったいような感覚が広がる。
その浮き立つような感覚を、曹長は必死に抑圧した。
「・・・僕は、あと何度あなたに殺されればいい」
虚脱した表情で、「マイヤー曹長」がつぶやく様に問うた。
大尉の手がわずかなまろみを掴んで持ち上げる。
「殺す、だと?」
もう片方の手で唇を撫でながら大尉はぽそりと呟いた。
「君は死なせない。・・・あの地獄の戦線には向かわせない」
無意識に、胸を捏ねる手に力が入る。
何も語らない大尉の目はどこか遠くを見ていた。
不意に強く摘まれたエーディットの先端に痛みが走る。
「・・・っ!」
食い込んだ指先に、膨らんだ先端が赤く染まった。
「大尉殿」
怪訝そうに振り向いたエーディットは、死んだように無表情な大尉の表情を見た。
ガラス玉のようなその瞳に釘付けになったエーディットは、そのまま一瞬封じられてしまう。
体に大尉の体重がのしかかり、抗えぬまま細い体はベッドに押し倒された。
覆いかぶさる大尉はまっすぐにエーディットを見ている。
「・・・・!」
「それ」は、まるで死者だった。
大尉の瞳は光の差し込まない深海のように静かな死の世界だ。
黒々とした、際限のない闇がエーディットを見つめている。
その極小の深海は、今にも彼女の瞳をも呑み込んでしまいそうだ。
(今にも、沈んでしまうのではないか)
なだれかかるその重さが不意に増したように感じられた。
言い知れぬ恐怖がエーディットの中に走る。
黒々とした蒼の瞳と、薄灰の瞳は、互いに相対したまま沈黙した。
「・・・おれは」
感情の抜け落ちた顔で大尉は呟く。
「亡者だ。あの戦場でおれは死んだ」
大尉はそして、エーディットに沈み込んだ。
両腕を押さえつけ、彼女の唇に無理やりに吸い付く。
顔をしかめるエーディットに構いなく、唇を抉じ開け舌で舌を犯した。
唾液が絡まりあい、舌同士がぬちゃぬちゃと音を立てる。
生温い粘膜が互いに触れ合うあの感覚。
「うっ・・・・んんっ!」
前回よりも激しく、大尉はエーディットを貪る。
まるで瀑布にさらされたかのように呼吸が苦しかった。
頭の芯まで酸素が絶えて、涙目で大尉を見る。
蒼い瞳の深海は、冷たい北海のうねりに変化してエーディットを見返す。
まるでエーディットは、錆色の海の荒波に揉まれているかのような感覚に襲われた。
薄れ行く意識の中で彼女は解した。
大尉は、冬の死の海だ。
「はぁあ!」
ようやく唇が離れると、肺が急速に酸素を取り込む。
「いいか、こんなもの殺す、なんて範疇には全く入らないんだ」
片手で毟る様にシャツのボタンを外し、サスペンダーを下ろす大尉がぼんやりとかすんで見えた。
腰に乗られた状態ではどうすることも出来ないまま、彼女はその様を見つめる。
シャツを脱いだ大尉の逞しい体は、この状況にあってもなお美しいとしか言いようがなかった。
盛り上がった胸筋や肩、引き締まった腹筋はガチガチのものではなく、適度な脂が乗ってその持久力を高めている。
よく灼けた褐色の肉体は、真っ白なエーディットの肌と絡まると尚のこと鮮やかだった。
エーディットは、開放された右手でそっとその胸板を押し返す。
「いや・・・来ないで」
頭を振った大尉はその手首をきつく掴んだ。
細い指が震える。
「なぜ、もう一度あんたを犯したくなったのか解った気がする」
もう一度エーディットに沈み込んだ大尉は、今度はその肩を強く吸った。
「・・・・っう!」
大尉の前歯がその柔らかい肌に喰い込む。
真っ白い肌に赤い斑が浮かび上がった。
「お前の体は戦場を知らない。・・・死の臭いも、火薬の臭いも、油や血のにおいもしない」
今の大尉はどこと無く制御を失っているように見えた。
「いやだ」
震える声でエーディットは拒否する。
しかし、両手を封じられてしまえば、彼女はもうどこも身動きを許されなかった。
直に肌を重ねながら、大尉は彼女の洗い立ての香りを肺いっぱいに吸い込む。
・・・豊かなオリーブの芳醇な香り。
彼女の、震える体温と涙の感触が伝わる。
あるいは、あの戦場で見たように、何もかもを切り裂きたいのかもしれない。
夕暮れから夜に変わる瞬間の、真っ青な光が部屋に満ちている。
少しずつ増していく呼吸だけが、そこに響いていた。
彼女を体重で圧しながら、大尉は片手でズボンを下ろす。
それに気づいたエーディットは思わず叫んだ。
「ダメ、お願いだから・・・・!ダメ・・・」
涙がいっぱいに膨らんだ瞳は、哀願するように大尉を見上げた。
「怖いか」
むき出しになった大尉のそれが大腿に触れる。
熱い血潮や脈がはっきりと感じられて、エーディットはもがいた。
最初に味わったあの屈辱と、そして強い快楽がはっきりと思い出される。
「あぁあああぁああぁぁぁああ」
内奥のマイヤー曹長は渾身の力でそれを否定して、一方で女の魔性は受け入れようとしている。
エーディットはひどく混乱し、気づけば涙が次から次へ溢れていた。
これ以上ことが続けば心が分裂してしまう。エーディットはそう思った。
「エーディット―――」
絞り出すように大尉が名を呼ぶ。
その手は彼女の膝に掛けられていた。
容赦ないその力で、彼女の脚はいとも簡単に持ち上げられてしまう。
彼女は息を呑んだ。
局部が剥き出しになり、それをどうすることも出来ない。
「・・・ないで、見ないで!」
どうしようもなくて、自らの顔を覆い隠し、エーディットは嘆く。
まだ湿ったままの柔らかい茂みに、薄く整った陰唇がぬらりと光った。
擦れあった自分の粘膜が、確かに潤みを増しているのが感じ取れた。
「―――うっ」
しゃくりあげながら、彼女は自分の魔性が鎌首をもたげていることを知った。
その潤みの濃い臭いは、すぐに大尉の鋭敏な嗅覚に探知される。
持ち上げられた両脚が、今度は無理矢理開かれた。
細くすらっと伸びたふくらはぎ。筋肉で引き締まった太腿、そして丸見えになったそこは、芸術品のような完成度と卑猥さだ。
透明な粘液で覆われたそこは、美しい桜色をしている。
「体は正直だな」
そっと触れた太い指先がその襞を撫でる。
肉はくにくにと生暖かく、表面にはぬるつきが触れた。
半ば虚脱しながら、エーディットは唇を噛む。
涙を流しながらも、それでも彼女は大尉を睨んだ。
「すまんな」
そのつやのある襞に、大尉はいきなり自身の先端をあてがった。
感触に気付き、エーディットは体を起こそうとする。
「だめ、いやだ!」
しかし、前触れなしに突き刺された茎が彼女の膣口に侵入した感触のほうがそれよりも先だった。
「・・・・!!」
ずぶっ、と内部に侵入してきたそれが狭い肉の壁の中を進んでくる。
前回のような痛みはないが、それでも内臓を直接かき回されるような圧迫感だ。
エーディットの、思わず大尉の肩を掴んだその指先が皮膚を破る。「ん、んん、ん!」
その摩擦に粘膜が刺激され、潤滑さが増す。
先日まで処女だったにしては、その適応力は驚異的だ。
前戯なしのせいか、まだ充分とはいえないが、じきに問題なくなるだろう。
優秀な生徒だ。
歯を食いしばって、溢れそうな声を抑える彼女の健気な表情を大尉は見下ろす。
「悔しいか」
静かに問うたその声に彼女は反応した。
陵辱されながらも顔をゆがめて大尉を睨み付けるその表情は、かえって艶かしい。
強引にねじ込んでいる大尉はその表情に猛り、笑った。
「・・・いいな。あんたはおれを生者に呼び戻してくれる」
ずぶずぶと押し込められた肉茎が、すっかり彼女の中に収まる。
息苦しさに喘ぐエーディットの鳩尾が激しく上下していた。
きつい壁に圧された彼の茎はすぐにでも快感で爆発しそうだ。
たまらず、大尉はすぐに腰を動かし始めた。
「あはっ!」
その圧力に思わずエーディットは声を漏らす。
自分の入り口がこすれる。
中から、くちゅくちゅとした粘液が分泌されるのを感じた。
堅い筋肉の太腿が柔らかな腿の内側に何度もぶつかる。
その擦れ合いの熱が、急激に全身に回る。
生温いぬめりが結合部から溢れた。
「―――っあぁ――いいな、いい具合だ」
大尉の声が思わず上ずった。
「ううっ!」
エーディットの、伏せられた濃く長い睫毛が震える。
のしかかる体重に捻じ伏せられる快感が、エーディットの脊椎を這っていた。
(・・・そんな、そんなはずない!)
その快感を否定しようとしているが、屈服している屈辱を思えば思うほどエーディットの感度は増していた。
ぞわぞわと湧き上がるようなそれは、身体に絡みつくように拡がる。
子宮の奥から熱くなるような、そして脳髄を蕩かす様なその性感に彼女は戦慄した。
もうじき、理性など簡単に破られてしまうだろうという予感がよぎる。
あの時のように。
「んはぁっ・・・・!」
潤んで拡張した瞳で大尉を見つめる。
一度目覚めた魔性は、満たされるまで求めることを止めない。
「・・・どうした、曹長?感じてるのか?」
わざと腰を止めて、大尉は聞いた。
「んっ!」
「そんなはずない筈だな?あれだけ抵抗した癖に」
エーディットの半ばでそれを止めながら、自らも震えた声で問う。
いつの間にか自由になっていたエーディットの手が、大尉の短髪を掴んだ。
「ぅうううーーー・・・違う、・・・違う」
半泣きで必死に抵抗するが、彼女の腰はもぞもぞと蠢いている。
「じゃあ何でこんなにイヤラシイのが溢れてるんだ?」
大尉は腰を持ち上げると、奥にまっすぐ突き刺した。
「はぁぅっ!」
透明な蜜が糸を引いて、シーツに垂れる。
抵抗する力もなく、為されるがままエーディットは突かれた。
かくんと揺れるその身体を更に苛める。
「お前みたいな荒淫は懲罰だ」
一度身を引くと、たっぷりと濡れたその内奥を再び激しく突き刺した。
脚が、それにあわせてまっすぐに伸びる。
ぐちゅり、と突かれるたびに淫靡な音が響く。
「あ、ああ、あうう」
大尉の腰をしっかりと両脚で挟みながら、彼女は自分の奥を打ちつけた。
波打つそのたびに、大尉の背中に回された細い指先が食い込む。
何度か皮膚を破ったその爪先は大尉の赤い血が染みていた。
熱いぬるつきで満たされた子宮を突くたびに、大尉の顔は仰け反った。
がくがくと揺さぶられるままに、エーディットは喘ぐ。
「ひぃ、ぁぁ、ぁあ」
大尉の海に溺れながら、思わず声が上擦った。
「んんぁぁ、いいぃ、気持ち、いいぃ」
首を激しく左右に振る。
大尉は、彼女の理性の牙城が再び崩れたことを知った。
激昂した大尉は、激しく彼女の中にピストンし始める。
ぱん、ぱん、ぱんっ!
「ああぅぅぅ、やめて、ぇぇぇ」
部屋中に肉のぶつかり合う音と、絡まりあう喘ぎ声が響いた。
「はぁ、あ、感じてる、じゃないか、曹長?」
大尉は卑猥な言葉でエーディットを攻め立てる。
もはや返事も出来ず、彼女はただ叫ぶだけだ。
「いっ、いっぃいいい、い!もっとぉ!」
淫らな女の匂いは部屋中に充満している。
大尉のモノは締め付けられ、限界寸前だ。
互いの肉の擦れ合いに、身体の隅々までびりびりと電気が走る。
「んんんん、もう、だめぇ、ええ!」
背中を弓なりに反らせながら、エーディットは叫んだ。
呼応するように大尉は強くストロークする。
「うぉおおお、おお」
その瞬間、快感の波が全身を強く捉え、絶頂が来た。
「はぁあ、あぁぁ、ぁーーー!!」
エーディットの全身が痙攣する。
放出された白濁を、彼女の胎内はすっかり受け止めた―――
硬直し、気絶したその身体に大尉は沈み込む。
突き刺さった茎も抜かぬまま、彼はエーディットの額にそっとキスをした。
もうすこし、その「生」の感触に、触れていたかった。