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真夏の夜(1)

◆ELbYMSfJXM氏

 最初の出会いが最悪だった。それからの運命をすべて決めてしまった。
 入学式の日、クラス割の前で「3組か、」と隣でつぶやく声に「ぼくも同じなんだ」と
声をかけようと見た瞬間、女の子だと気が付いてそ知らぬ振りをした。
 横顔でも黒目の大きさがはっきりと分かった。おかっぱ頭で切りそろえられた前髪から、
通った鼻筋と小ぶりな唇へと続く曲線が目に焼きついた。
 教室へ向かうのにその子の数歩後から歩いていると、相手はあろうことか男子トイレに入っていく。
「きみ! そっちは男子トイレだよ。女子は反対側……」
 すると振り返ってこちらを確かめるようにじろりと睨んで低い声で言った。
「……僕の制服が見えてる? 眼鏡合ってないんじゃない?」
「え?!」
 思わず眼鏡を掛けなおして全身を見直す。濃紺の左あわせのジャケットにグレーの長ズボン。
自分と同じ真新しくやや収まりの悪い男子の制服だ。
「ご、ごめん。可愛かったからてっきり……ぐう!!!」
「君の名前は? クラスはどこ?」
 いきなり胸倉をつかまれ据わった目で詰問される。
 ああ、入学早々とんでもない相手に捕まってしまったと、冷や汗を流しながら恐る恐る返事をする。
「北丸 里(きたまる・さとり)……です。1年3組です……」
「なんだ。君だって子供っぽい顔して男か女かわからないような名前でさ、人のこと言える?
僕は淡墨千年(たすみ・ちとせ)。君には罰として子分になってもらおうか」
「勝手に決めないでよ。嫌です!」
 昔の二の舞にはなりたくない、したくない。ここは絶対に負けられない。
 そんな里の様子に圧倒されたのか、苦笑いをしながら千年は腕を離した。
「高校生にもなって馬鹿じゃないかそんなの。本気にするなよ。
同じクラスのようだし、お互い仲良くしよう」
 改めて見返すと開放された安心感と向けられた笑顔に、里は相手が男だと判った後でも
どきりとしてしまい、慌ててまだ怒った振りをして顔をそらした。
「……………………それは解かんない。でも、…………でさ、……………………教室がどこなのか、
淡墨君は……………………知ってる?」


 制服も馴染んできた2ヵ月後、発端を思い返しながら現在の状況をかえりみてため息をつく。
「千年、ぼくを待ってくれるのはありがたいけど、気にしなくていいよ。次は実験室だろ?」
「それは極度の方向音痴を直してから言うものだよね。一人じゃ何にも出来ないくせに」
 何も出来ないは言いすぎだよ、と里は口を尖らせた。
 まだ一度か二度しか行ったことがない場所が多いから、校内でも判らなくなるだけだ。
「じゃあ先に行ってる」
「……ま、待ってくれよ。千年っ」
 慌てて横に並ぶと素直じゃないよね、と頭を叩かれること本日3度目になる。
「ていうか、叩くなよ」
「はたきやすい頭ってあるんだな、って里を見てたら思うよ」
 結局入学式以降「女と間違えた」と事あるごとに持ち出されてからかわれ、絡まれてしまう。
 何だかんだでスローペースな自分を心配しているのかと、好意的に考えてもみるが、
 出来のいい兄と出来の悪い弟ね、と女子からも笑われ、こっちの気分は子分と変わらない。

 …………だけど待てよ、千年に彼女が出来たらぼくは開放されるんじゃないか?
 自分が可愛いと言った時にはあんなに怒ったくせに、女子相手だとまんざらでもない様子で
受け答えしているのが何とも歯がゆかったのを思い出す。
 千年、好きな子いる? いない。好みのタイプは? 可愛くて優しいけど根がしっかりしてる子。
彼女欲しくない? 今は学校生活が充分に楽しいからまだ先でいい。
 女の子向けのノリはどこへやら、あっさり不発に終わってしまう。
「里はどんな女の子がいいんだ? 僕みたいな顔した子で性格は?」
 にやにやと切り返されるが、さすがに対処には慣れてきた。
「優しくて可愛いけどしっかりした女の子っていうのは千年と同じかな」
「僕と同じなんて何だか嫌だな。見た目は? 背は高め低め? 髪はショート、ロング?」
「長い髪だけど背は低めで、ちょっと病弱な守ってあげたいって思わせる女の子で、
大人しくてはにかんだ感じが愛らしくて……」
 足元は先の丸いバレエシューズか踵の低いサンダルで、やはりワンピースは外せない。
白かギンガムチェック柄で風が吹くと色白の素足が膝小僧まで見えてしまい、
彼女は広がる裾を押さえながら大き目のつばのある帽子の下ではにかんで見せる。
指のすき間からサラサラの髪がこぼれる。
 覗く微笑は……

 はた、とどことなく軽蔑するような白々しい顔の千年と視線がぶつかり、慌てる。
「い、いや、まあ、その、い、いないよな、実際にはそういう子。あくまで、理想だからっ」
「当たり前だよ。本当にいたら僕だってお目にかかりたいよ。ほら、着いた」
 ごつんと里のおでこを叩くと、千年はすたすたと振り返らずに実験室へ入っていった。
 自分から聞いておいて機嫌悪くするのってどうなんだよ、と相手に届かない程度に呟くが、
先に行かれたことは今の里にとって救われた心地だった。

 妄想の美少女の帽子の影は、彼女の顔立ちは――――彼、淡墨千年そのままだったからだ。

 ぼくはノーマルだっ! 女の子が好きなんだ! しつこく言うから変に引っかかっているだけだ!
 ゆ、友情はあるかもしれないけど、断じてっ愛……なんてのは絶っっ対にないんだあっっ!!
 じんじんする額を抱えながら、里の苦悩は端から見ると痛みをこらえているとしか見えなかった。


 ずっと走るのが好きだった。昔、脚の速さに目を付けられてパシリをやらされ、
拒否するといじめられた思い出もあり、授業でも本気を出すことはなかった。
 陸上部に入ったとしても、上級生からいいように扱われるのがオチだ。
どうせ出来ないことのほうが多いのだから、誰にも知られたくない。

 夏休みに入り部活の生徒もいなくなった頃に、里は今夜も一人学校の塀の外を走る。
 昼間の湿気の残る風の匂いを吸い込んで濃い緑の匂いや、空気や木々のざわめきを
全身で感じて一体化する、あの感覚。昔は気が付くとよく迷っていた。
 裏手の古校舎は今年末に取り壊されることが決まっていて普段は立ち入り禁止になっている。
しかも河の土手に面しているため街灯もなく、夜だとさすがに薄気味悪い。
 まだ蒸し暑い時期、背中に変な生暖かさを感じてしまう。
 出たりしないよなまさかね。
 つい見上げた明かりの無い校舎に、白い影を見る。
「!!!??!!!!っっっ??!!!うわあああああっ!」
 全力で走る走る走る。とにかく走ってひたすら逃げる。
 ――その日、里は5年ぶりにお巡りさんに家まで送ってもらった。


「塾でも誰かが、あそこは出るって言っていたの、聞いたことがあるよ。
具体的にどんな影?」
「ど、どんなって言われても……」
 課外の休み時間にそっと昨晩のことを耳打ちする。
 塾帰りの千年にばったりと出会ったのが一週間前だった。
 里は何をしてるのかと聞かれ腹ごなしの散歩とごまかすと、勉強もせずに暇なんだね、
せいぜい寄り道はするなよ、と捨て台詞を残して去っていった。
「ろくに見もしないでびくついて逃げたりしていないよね。高校生にもなって恥ずかしくない?」
「違うって!」
「じゃあ言ってみなよ」
「……全部白っぽくて、顔のあたりが暗かったと思う……」
 里は肩をすくめて縮こまる。大げさに息を吐いて千年は腕を組んだ。
「だらしないな。こんなことまで僕が手伝わないと駄目なのかな」
「っていうか、どうして千年が手伝うのさ」
「里のことだから、原因が分からないままだと、気になって散歩も出来ないだろう。
君が一人で突き止めるなら、大歓迎だけど?」
 うぐ、と返答に詰まる。悔しいが頬杖をついて首をかしげ目を細める千年に言い返す言葉はない。
「頼、む……。一緒に行ってよ。千年」


 千年の塾が終わるのを裏門前で待つ。
 がさりと音がしてぎくっと振り向くと、大きなカバンを持った千年が呆れた顔で立っている。
「もう驚いているのかい?」
「千年が遅いのが悪いんだ……って!」
 文句を言う里を尻目にさっさと門扉のすきまから中に入り込むと手招きをする。
だから、置いて行くなよっとうろたえながら追ってくる姿を確認して、千年は足早に建物へ向かう。

 申し訳程度に張られた立ち入り禁止のロープをくぐり、昇降口の扉の軋む音に内心びくびくしながら
懐中電灯で照らしつつも、昼間の校内を歩くように平然と進む千年の後をついていく。
 未だに小学生に間違われることもある、童顔で物覚えの悪い里と違い、
背はわずかに高いが声変わりもまだだという千年は明るくて何でもそつなくこなす。
 そんな千年がなぜ自分にかまうのか、……ずっと理由を聞く度胸も振り切る勇気も出せなかった。
「1階は何もないようだね」
「う、うん」
 横を歩くのが精一杯で暗闇の周囲の様子などまるで頭に入っていなかったが、とりあえず答える。
 くすりと笑われる気配に、見透かされている気がして、いつになくかっとなってしまう。
「今度はぼくが先に行くから、貸してよ」
 千年の手から懐中電灯を取ろうとして、無理するなよ、と避けられるのを平気さ! とむきになる。
腕や体がぶつかりあい、髪の毛と息が頬に当たって、珍しく動揺した千年の声があがる。
「あ……っ、今影が通った! 行こう!」
 振り払われたはずみに眼鏡が外れ拾いあげた時には、階段を駆け上がる足音だけが響き、
もう千年の姿は見えなかった。


「千年!」
 人工の薄黄色い灯りが扇状に広がっているのを頼りに上へ来てみたが、その元の電灯は廊下に
転がったまま、淡墨千年は闇に呑まれたように消えていた。
「千年、……千年っ! ちとせーーーーっ!!」
 里は手に取った光を滅茶苦茶に振り回して、天井も床も壁も照らしながら声を限りに叫ぶ。
 しかし、応答はない。
 ひとり取り残された漆黒の静寂の中で、どくどくと心臓の鼓動が跳ね上がる。嫌な想像が頭をよぎる。
 あの一瞬だけで居なくなるなんてあるはずがない。そうは思っても一秒一秒がやたら間延びしたように
長く感じられ足がすくんで思うように体が動かない。
 ぶんぶんと頭を振り深呼吸をしてもう一度背後を照らした瞬間、白っぽい影が確かに横切った。
「ひっ……」
 大急ぎで逃げようとしたが同時に千年の薄笑いが脳裏に浮かぶ。
 ――ここで退散したら昨日と一緒だ。ぼく一人でもちゃんとやれると証明するんだ。

 里は取り落としかけた懐中電灯を握りなおし、暗がりの先をゆっくりと探っていく。
 教室の扉のそばに浮かぶ白いもの。カーテンではない。今度は光を当てても動く気配はない。
 ……服? 幽霊の? 白い、スカート?……女の、子?
 まばたきも息も忘れ徐々に照らし出される正体に釘付けになる。
 長い、髪。ワンピースを着た、その、可愛さ……あの、理想の少女そのままに……
「ぃやっ……!」
 眩しさに光を遮って背を向けるのを駆け寄って捕まえる。幽霊じゃない。実体がある。人だ。
普段の里の行動からは考えられない素早い動きで、腕を掴まれた相手は意外な表情でうろたえた。
 その様子を観察しながら里は自分でも驚くほど冷静な声で聞いた。

「君は、誰? どうして、こんなところにいるの?」


「こんばんは」
 彼女が窓際で手を振る。月と懐中電灯の薄明かりの下で、里は毎晩の秘密の出逢いに心踊らせる。
 体が弱く日中はほとんど外に出られないので、家庭教師についてもらっているという彼女は、
学校生活に憧れて、つい夜の校舎に忍びこんだという。
 ちせ、とだけ名乗った少女は窓にもたれ、その大きな黒い目で一言も聞き漏らさまいと
控えめながらまっすぐな視線で里の言葉を受け入れてくれた。
 またたく間に彼女の存在は無くてはならないものになっていた。

「……で、千年がまた余計なことを言ってさ。そこは我慢してやったんだ」
 彼女に会ってから8日目、触れそうなほど近い距離で微笑むちせは、
手元で自分の髪を弄りながら頭をめぐらせ、ひとことずつ返事をした。
「大変なのね、北丸くん」
「ちせに初めて会った日だって、あいつはずっとあちこちぼくを探してたなんて言ったけど
怖くてどこかに隠れてたに違いないんだ。おかげで邪魔はされずにすんだけれど」
 彼女の前ではつい態度が大きくなる。里がふう、と肩で息をつくとちせは目元を伏せたが、
サラサラの長い髪が揺れる元では気づくはずもなかった。
「…………千年くんのこと、きらい?」
「ていうか、すぐ手を出すしおせっかいだし、目を付けられたのが運のつきだな」
「…………」
「ちせが気にすることないよな、ごめん。だけど嫌なことがあっても、毎日走って、
こうしてちせに会えたら吹き飛んじゃうよ」
「走るの好きなのね」
「うん。短距離も長距離もゆっくり走るのも駆け抜けるのも、全部好きだな」
「こんな暗い所をひとりで怖くないの? きちんと明るいときに走らないともったいない」
「夜じゃないとちせに会えないよ。いいんだ。目立つの嫌いだから」
「北丸くんなら大丈夫よ。もっと自信を持って」
 じっと見つめられると本当に出来そうな気がして、勇気が沸いてくる。
「ありがとう、……ちせ」
 ゆっくりと二人の距離が近付き、そっと唇同士が触れ合った。


 翌日は自然に顔がゆるんでしまう。千年からは、里、おかしくない? まあ元々だけどと
何度も後ろから叩かれたが全然気にならなかった。
 今まで上手くいかなかった物事が一気に進み始めたみたいに、難しい問題も嘘のように簡単に
解けてしまうし、さとりクン明るくなったねぇ、と女子からも言われ悪い気が起こるはずもない。
 ちせも今夜は目を合わせずにもじもじと照れていたが、やがていつものように微笑んでくれて、
また、キスをして別れた。

 明日、ちせに告白しよう。
 きっと彼女は切りそろえた前髪を揺らしながら、あの黒目でじっとぼくを見て、OKしてくれる。
体の具合をみながら他の場所へも行ってみたい。少しずつ会う時間を積み重ねていけばいい。
ちせと一緒なら、きっと、ぼくは何でも出来る。


 手を挙げた時にはきちんと解っていたのに、黒板の前に立った途端に答えが飛んだ。
時間がむなしく過ぎる。先生がみるみる不機嫌になり、後ろからひそひそと囁きが始まる。
 チョークを持つ手が震え、きぃと音を立てた瞬間しびれを切らした声が里を追い立てた。
「北丸下がっていい。次! 他に判る、「はい!」」
 自信に満ちあふれて凛と張った千年の声が響く。
うつむいたまま、チョークを手渡して席へと逃げ帰る。
 
 休み時間、何と返ってくるか分かりきっている、頭を後ろから小突かれてこう言われるのだ。
「まったく、出来ないのに無理するからだよ」
「今日は違う。ちゃんと解ってたんだ」
「そうだろうけどさ、変に意地を張る前に見切りをつけなよ。里の尻拭いする僕の身にもなれよ」
 わざとらしくため息をつく千年にいらっとする。分かってる分かってるんだ、悪いのは――――
気持ちを打ち消すように机を叩いた派手な音と、怒りをあらわにした里の勢いに千年もたじろぐ。
「頼んでもいないのに、いい加減にしてくれないかな。千年なんかいなくても、ぼくは全然平気なんだ。
いちいち恩着せがましく引き立て役に使われるのは、金輪際ごめんだ」
 言った。とうとう言った。心臓がバクバクと跳ねている。
「……里は……、そういう風に見てたのか……」
「ぼくだって本当はやれば出来るんだ。いつも千年に押さえつけられて力を出せなかった。
トロくて何度もやらないと覚えられないけど、だからこそ放っておいてよ。
千年のせいでいつまでも出来ない奴って思われて迷惑してる」
「…………」
 うつむいて下がる前髪に目が覆われて千年の表情は読めない。唇が震えているようだった。
 言い過ぎたかな、でもここできっぱりと言っておかないと、ずるずると子分扱いはもう嫌だ。
「わかったよ。今まで……ごめん」
 駆け去る千年を見て胸の奥が痛んだが、解放された喜びのほうが勝っていた。
 ぼくにはちせがついてるんだ。何も怖くない。これからはあんな奴に邪魔されたりしない、
千年がいなければ、何もかもうまくいく。本当のぼくらしい学園生活を始めるんだ。
 里の前には何の曇りもない揚々とした明るい前途がひろがっていた。


「ごめんなさい」
 里は初め断りの言葉と思わず、ちせに向かって、え、何が?と聞き返した。
「訳あって、……もう会えません。だから、お付き合いも出来ないんです。今までありがとう」
「どうして? ぼくのこと、嫌い?」
「北丸くんは……悪くないの、勝手なのは私なんです。短い間だったけど、北丸くんのことは忘れません。
ごめんなさい。……………………さようなら」
「ぼくが悪いことした? ちせ、待ってよ」
「一緒にいて本当に楽しかったです。ありがとう。……千年くんとも、仲良くしてね」
 態度の変化の理由が全く分からない。よく話の種にしたけれど、何故ここで千年の名前が出てくるんだ。
 もしかして、ぼくに会った後で千年に出会って……ぼくよりも千年が……
そうだ、そうに違いない。でないと彼女に拒絶されるはずがない。
「だめだ! ちせ! 行くな!」
 里は無我夢中で引き止め、抱きしめた。


 柔らかな髪や生身の体の感触が里の頭に認識されて、急激に頭に血が昇る。
千年なんかに渡したくない。だから自分のものにしたい。
 机の上に押し倒すと小花柄のワンピースが腰までまくれあがって、下着と素肌が無防備にさらされた。
キャミソールの胸部分だけを切ったようなブラをたくしあげ、初めて目にする女の子の体にぞくりと昂ぶる。
 手のひらで腕で体で押さえつけちせの裸を指と口で蹂躙していく。
「さと……、っ、やめて、ぇ、やめてっ、ねえ、おねがい……」
 彼女の声は里の耳には届かず、もがく姿は征服欲を一層あおった。
 乳首を音を立てて吸うとビクビク跳ねて、嫌がりながら涙声であわれに喘ぐ。
 太股に手を伸ばしとろりとした生暖かい液体が指に付き、必死にその先に触れさせまいと力をこめて
足を閉じられ、かえって我慢が効かなくなる。
 ショーツを下ろして左足首に引っかけ蛙のように股を開き、机からずり落ちそうになるちせの右足を
抱きかかえて引き寄せ、体の中心を突く。
 熱く溶けたもの同士がぐにゅっとぶつかって、めり込んでいく。
早くも快楽と行き止まる狭さに眉をしかめながら、里は腹と腰に力をこめて最後まで貫いた。
「い、やぁ! んんんんっ……いたぁ、あああ!! いっ……っ!……」
 額にところどころ髪が貼りつき、歯を食いしばって痛みに耐える彼女を気遣う余裕などなく、
里は脚をきつく抱きしめて感情のおもむくまま、ただぶつけることしか頭になかった。
「好きだ好きだちせっ、好きだ!」
「ぅくっんんっ……ぐす、ぁあ、さとっ、んぐ、やあぁぁ、あっ、ああぁんあっ!」
 激しくえぐるように打ち付けられて体を上下に揺すりながら、ちせはうめきとも喘ぎともとれる
切れ切れの声を漏らし続け、ついにされるがまま熱い迸りを受け止めた。


 気がつけばぐっしょりと汗をかいてシャツが体にまとわりついている。
 はーっはーっと大きく息をつきながら、股間の火照りが急速に覚めていくのと同時に
混乱していた頭が治まってゆき、ようやく里は目の前の状況を認識することができた。
「ち、せ……?」
 すぐ下で泣き顔を隠しながら、自分と同じように荒い呼吸を繰り返す裸の彼女が横たわっている。
 生暖かく震えるちせの内部から恐る恐る抜くと、まとわりつく白い液体に黒っぽい色が混じっている。
暗くてよく見えないが破瓜の血に間違いなかった。
 今日会った時に可愛いねと誉めた、あちこちに小さなレースのついたワンピースは
無残にも胸の上で皺くちゃになり、そこから下の一糸まとわぬ姿が青白い光に照らされて
この上もなく綺麗に見えた。広がる黒髪と陰毛の影が一層色を際だたせる。
 時々押し殺すようにすすりあげるのが、大声で泣かれるより痛々しげで胸を締めつけた。
 ……思い余ってぼくは取り返しのつかないことをしてしまった。
「ちせっ!ごめん!どうかしてた、ひどいことして……」

 抱き起こす前に自ら起き上がった彼女の頭からばさりと髪が抜け落ちた……ように里には見えた。
 頭をハンマーで殴られたような衝撃が走る。
 いつものおかっぱ頭がふるふると揺れ、大きな黒目が今は涙で潤んでぐしゃぐしゃになっていた。

「ち、とせ……、?……、え、っ?……、…………ちせ、………………千年っっ?!!!」
「里の…………ばか……ぁあっ!」

 たどたどしい足取りで遠ざかる彼女を追うこともせず、振り向くことも出来ずに
里は月明かりの下、呆然と立ちすくんでいた。


 それから3日間、淡墨千年は学校を休んだ。


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