「はぁ、着いた……?」
マンションの玄関にたどりついた頃には既に街灯がともっていた。道すがら美味しそうないい匂いが
ただよう家も何軒かあった。夕食どきに押しかけるのも何だが、ここまで来たからには帰れない。
里は流れ出る汗をぬぐって入り口で部屋番号を押すと、しばらくの間の後、はいとだけ返事があった。
「北丸と言います。遅くに申し訳ありません。千年君と同じクラスで、プリントを預かってきたんで……」
どうぞ、という声と同時に自動のガラス扉が開いた。
何て言おう。
あの日はずっと頭が真っ白なままだった。
次の日は申し訳なくて泣きそうだった。
その次の日はむかむかいらいらして腹が立った。
今日は、気になって気になって、仕方がない。
横目でほくそ笑む千年の顔と、あの、泣き顔が離れない。
あの二人は同じ淡墨千年だったのかと、実は今も思っている。
「大丈夫、かい? 具合悪「パジャマのままでごめん。両親は旅行に行っていて、
明日の夕方まで帰らないんだ。麦茶でいいよね、お湯沸かすの面倒だし」……あ、うん」
「これ、休み明けに小テストするからって先生言ってた」
「ありがとう」
「あの、さ「明日は行くよ。迷惑かけたね」」
「ちと……「もう遅いしお茶飲んだら帰ってくれる?」」
「…………」
リビングに通されたものの里は自分と目を合わせようとせず追い立てる千年を前にして、
改めて落ち込んでいた。
ちせは……千年はぼくに会いたくなかったのか、顔も見たくないのか。
……当然だよな。あ、あんな、無理やり……ことをして……どうかしてた。千年を傷つけた。
そう思うといてもたってもいられなくなって、里はソファから飛び降りてフローリングの
床の上に正座をして頭を下げた。
「千年、ごめん。謝ってすむことじゃないけど、ぼくが悪かったよ。本当にごめん。
ちせ……と、千年の気持ちを全然考えてなかった。自分のことばかりで最低なことをしてしまった。
あの、……許さなくったっていいから、ずっと償うから。何でもする。一生子分でいる。
……あんなひどいことをして、すみません。本当に、ごめんなさい」
ひたすら頭を垂れる里を沈黙が包む。あの日暗闇に取り残された時より重く心が沈む。
「ばか、里。……何で来たんだよ」
頭上から冷たく響く声が里の心をざくりと刺す。
「僕は学校から30分で着くのにさ、何時間かかってるんだよ。里の家と反対方向なのに、
プリントなんて他の奴に持たせれば、いいじゃない。わざわざ……里が苦しい思いをする必要なんてないのに。
ずっと嘘ついてた僕のところに、……そんな、申し訳なさそうな顔して、謝りに来るなんて、
……どうかしてる。変だよ。おかしいよ。なんで怒らないんだよ」
だんだん千年の声が震えて途切れがちになる。鼻を啜る音がして初めて、千年が泣いているのに
気がついて、里は、はっと顔を向けた。
涙に濡れた千年はまぎれもなくあの夜の彼女で、ちせで、いつも乱暴な淡墨千年だった。
泣き顔を見られた彼女はとっさに後ろを向いてごまかすように涙を拭いながら、
とにかくもういい、里が気にすることないから早く帰って、と頭を振った。
「よくないよ!」
思わず立ち上がって里は叫んでいた。ぴくりと背を向けたままの千年の肩が動く。
「…………そりゃあ今まで散々絡まれたり、男だってだましてたのは悔しいけど、
知らなかったから。女だとばれないためにわざとぼくをからかってたんだよね」
「そうだよ。最初から里を利用したんだ。出来ない奴って決め付けて馬鹿にし続けてきたんだ」
「だけど……、ぼくがつまらない意地を張って、勝手にいじけて駄目なところを千年のせいにした。
甘えてた。自分のふがいなさを棚に上げて、千年を傷つけたことは事実なんだ」
「ずいぶんとお人好しになったんだね、そんな性格だから都合がよかったんだけどさ。
僕は傷ついたりしてないよ。里の邪魔をしてたのは本当のことなんだ。
女だと分かったからって、今さら手のひらを返して気を使われるほうが、余計傷つく」
「……っ!」
「あの夜のことも自業自得と思ってるし、もう里には構わない。安心していいよ、だからもう……」
千年のこぶしが何度も握り直されているのが見えて、追い返したがっているのが背中越しに伝わってくる。
しかしなぜか里の中には絶対引き下がらないと妙な覚悟が出来ていた。
「そうじゃない。この3日間どれだけぼくが千年を頼ってたか、誤解してたかやっと分かったんだ。
嫌いだって思ってたけど、違う。千年がいないと駄目なんだ。いなくてもいいなんて、嘘だ。
――――ぼく、千年が好きなんだ」
口に出して初めてああ、そうだったんだと実感する。やっぱりぼくは最初から千年が気になって、
好きになっていたんだ。胸のもやもやが晴れてさっぱりと目の前がひらけた気分だった。
「僕が、ちせだから、だろ? 正直に言いなよ」
「違うよっ」
反射的に答え横目だけでぎろりと睨まれ一瞬先に詰まった。
「ってていうか、その、ちせは……好きだ。あんなに可愛くて優しくしてくれる女の子は
初めてで本当に嬉しくて、あっという間に好きになったよ。でも、……だけど…………
……やっぱり、ち・と・せ、も好きなんだ」
「……、も?」
ぎぎぎ、と音がしそうな機械的な動きで千年は振り返り、まじまじと里の目を覗き込んだ。
涙の後で黒目が潤んで鼻の頭もやや赤く、妙な迫力がある。
「うん。……僕にとってはまったく別人で、二人とも同じくらい大好きだ。
千年がぼくを嫌いでも、嘘をついていたとしても、変わらない。――ぼくは、千年が好きだ」
長い間の後にひとつ深呼吸をしてきっぱりと里は言った。
格好つけすぎでとても口に出せないけれど、その大きな黒い瞳に誓ってもいい。
里を睨みつけていた千年の表情がふっと崩れて、何か言いずらそうにもじもじと言葉を濁す。
「あのさ……、僕が里を嫌いだって、言ったことある? ちせだって言ってないよ」
「でも、あんなことして、嫌われて当たり前だ」
「里相手なんて、本気で抵抗したらいつでも逃げられたんだから、あれは……
あれは、ちょっとびっくりしただけなんだから。キスした次の日も顔見られなかったのに、
……エッチなんかしたら、学校なんて行けるわけない」
「千年……?」
「最初は男だと思わせなきゃって、気を張ってわざと乱暴なことしてた。
だけど、好きになっちゃって、でも今更仲良くなんてできないし男同士なんだし
ちせになって、あんまり里がデレデレするから何だか悔しくなっていらいらして、
そしたら僕はいらないって言われて、……どうしたらいいかわからなくなってもう会わないって、
あんなことになるなんて思わなかったから……。で、でも、す……す、好きな人と、
……エッチして嫌になるはずないのに。ひどいことしたなんて謝るんだもん。
わた……、ぼ、くの気持ちはどうなっちゃうの?」
次第にぐずぐずになっていく千年の告白を、半ば呆然と聞いていた。
「……ていうか好き、なの? 千年も、ぼくのこと? えぇええっ!?!!」
「里の超鈍感!! いつも一緒にいるのにどうしてちせが僕だって判らないんだよぉっ!
すぐにばれて、今までごめんなさいって、でも、好きです……って言うつもりだったのに!」
どうにか言葉づかいは戻ったものの、顔中はもちろん耳まで赤くして視線が定まらない。
再び涙があふれそうな雰囲気で全身がかたかたと震えている。
「本当に……? ほんとにほんとに本当に?」
こくりとうなづく千年に、里は本心を知った喜びで思わず抱きついた。
「千年! 好きだってずっと気がつかなくてごめん、ぼくも大好きだ。好きになってくれて嬉しい」
「!! そんなに好き好き言うなっ、恥ずかしいっ。そ、それに……、そんなにきつく……」
「本当に好きなんだから恥ずかしくなんかないよ。ぼくは千年が好きで、千年はぼくが好きで、
好きだからどっちも変なやきもちを……」
「黙れーーーっ!!」
ありったけの力を込めて突き飛ばされて、里はソファに倒れこんだ。
思い詰めた顔の千年が馬乗りになり至近距離で迫ってくる。
「ち、千年?!」
「ねぇ、そんなに好きなら、今すぐここで……僕と、千年とエッチ出来る?」
「ん……ちゅ、……ぁ、はぁ、……っ」
千年の髪先が頬やあごをかすめ、吐息が顔を覆う。
ちせと交わした優しいキスでなく、互いに舌を絡め唾液を飲みあいどちらかが唇を離しても
追いかけて貪りあう深い口付けを、こみ上げる熱さに任せて何度も繰り返した。
薄く目を開けるといつもの切りそろえた前髪が揺れていて、ぎゅっと閉じたまぶたの先の
まつ毛の長さに驚く。目の下を染めて必死に里を求め受け止めている仕草に愛しさがつのる。
「はぁ……」
ようやく顔を離し涎だらけの里を見て、千年は更に顔を赤くして上から降りた。
「電気を消すから」
「それは駄目だ。っていうか……千年の裸が、見たい。見たいんだ。
だから……脱いで、見せてよ」
「えぇ?! 僕がっ?」
里は、うん、と殴られる覚悟でソファの上にまたもや正座をして頼み込むと、
千年は恨めしい顔ながら端に座ってパジャマのボタンを外し始めた。
半袖のパジャマの下はオレンジストライプの薄いキャミソールだけで、胸の形がうっすらとわかる。
ズボンを脱ぐとおそろいのパンツがちらっと見えた。
「…………」
千年は里の顔と宙を交互に見ながらキャミソールを一気に脱いだ。
ふるりと胸の先端が揺れるのを見逃さなかった。心臓の音が耳の奥で響きまくりながら、
千年の動作ひとつひとつがまばたきをする間も惜しい。
前を隠しながらそろそろと脚の間を薄い布が移動して足元でくるりと丸まる。
千年はその布の固まりを脚から外して、脱いだものをまとめると、里と同じように膝の上に手を置き
真っ赤な顔のまま無言で次の指示を伺った。
人形のように白い肌と黒髪、赤い頬、暗がりで目にした時よりずっと綺麗で、目が離せない。
「千年、きれいだよ」
「……………………ありがと」
ぶっきらぼうにつぶやいて、ぴたりと閉じた脚をもぞもぞと動かすのがいつもの千年らしくなく、
意識してしまうと、何も身に着けないでリビングのソファに座っている姿が
どうしようもなくいやらしく見えてきた。
ちせの分まで優しくする。もう手荒なことはしないと心に決めてはいたが、万が一ということもある。
だからこそ千年本人に脱いでほしいと言ったのだが、あのなめらかな肌に触りたい、あの先っぽを弄りたい。
あの夜の手触りの生々しさが脳裏に甦る。
申し訳無さで思い出してはいけないという抑制もむなしく、下半身にあっという間に血が集中していった。
膨らんだ股間を隠すように膝の上に腕を揃えなおす。
「ちょっと、アソコ、見たいな……」
顔から火が出そうになりつつ漏らす里の言葉に、千年は何も言わず脚を上げ、
ひどくゆっくりとした動きで両膝を曲げた。
体育座りをした脚のすきまの奥に、薄い茂みに覆われた筋がほんのりと見える。
「……広げて、見せてほしい」
「!?」
ためらいながら責める眼差しを投げつつ、ややM字に開いた脚の付け根へ震える手を這わせていく。
普段なら何度も殴られているところなのに、泣きそうな顔をしながら自分の言うことに従う
千年にどうしようもなく興奮する。
彼女本人の指で両側から引っ張られて、むき出しになった部分は桜色でつやつやに光っていた。
奥のほうから液体が漏れ下のすぼまりを濡らしながらお尻の下に溜まっていく。
里は自慰を強制しているような心地がして、ごくりと唾を飲み込んだ。
「さとりの、エッチぃ……っ」
目尻に涙をため、羞恥にこらえ切れず千年がかすれ声で漏らした呻きに、たまらず反応してしまう。
ズボンで遮られる痛みにぐっと歯を噛みしめた振動で、ソファがぼんっ、と跳ねた。
「わぁ、っっつ!!」
体がこわばったままそのままの姿勢で前につんのめり、顔から千年の股間に突撃する。
結局ぐらぐらだった理性は、その雄を呼ぶ匂いを嗅いだ瞬間に飛んでしまった。
千年は驚いて逃れようとするが里は両手で太股を押さえつけ、顔を埋めた。
「いやぁ里っ! 離れて、そんなところぉっ、あぁだめ汚いい……やぁぁはん!」
「千年、やっぱり、だめだよ、もう」
本能で蜂が花に群がるように熟れた中心に引き寄せられ、唇で触れ、口で吸い、舌で味わう。
湧き出る蜜を一滴たりとも逃したくなくて、何度もすすりあげる。枯れるどころか一向に収まらずに
より濃密な液体が唾液と混ざる。
「やん、ひあ、は、ひゃうっ、あくっ、……んん、ひゃあん、ひあぁあっ」
驚きと困惑と快感に振り回されて、いちいち声をあげてしまう千年が可愛くてたまらない。
つるりとすべる部分とざらつく茂みの感触の違い、ひくひく動いて惹きつける膨らんだ土手とぬめる襞、
蒸れた匂いが沸き立って甘い蜜を飲み込むたび千年の味が喉の奥に広がってぞくぞくする。
子供が駄々をこねるようにばたつく足が里の背を叩き続けても、それがむしろ心地よかった。
「ふああっ、あっ、あぅ、だめ、そこもうっ、……あんっ、気持ちいいっ、い、いっちゃうううっ」
蜜壷の奥へ舌を差し入れて掻き出す。溶けてしまいそうになめらかで熱を帯びて柔らかくうごめく。
里は気が付いていないが、その動きにあわせて鼻の頭でぐりぐりと豆状の突起をこすっていた。
ぶるぶると腰や太股が痙攣を始めて、だんだんと全身に回る快感に打ち震えていくのが肌越しにわかる。
「ぁぁぁあああんっ! いやいやいやいっちゃう、さとっ、だめみないであっあああぁあーーっっ」
千年は一番敏感な場所をしつこく責められ、泣き叫んで懇願したものの、イかされてしまった。
「はぁ……、は、はずかしいよ、さとりのばかぁ」
ソファに仰向けになって濡れた唇のすきまから吐息がこぼれて、小ぶりな可愛い胸が上下している。
力が抜けて投げ出されたような脚の間からはまだ蜜が漏れ、内ももと筋からはみだして充血しきった
秘所が呼吸に合わせて動いている。里の視線を受けてあわてて胸や股間を隠しながら
ほんのり染まった躰はなまめかしく悶えた。
「……なめるなんて、あんなこと、もぉ……ひどいっ」
「ごめん。だって、やっぱり我慢できなかったんだ。千年が可愛すぎるから。嫌ならもうしない」
言い訳しながら大急ぎで服を脱ぐ。もったいないが汚れた眼鏡も外してしまう。
びん、と反り返った分身は待ち構えたとばかりに脈打って先を濡らしている。
改めて体を割りいれ、膝の裏を抱えあげると鼻を鳴らして睨まれた。今度は里がソファの背に寄りかかり
千年の腕を自分の首に回させる。
「これで見えなくなるから恥ずかしくないよね?」
「里って本当に、……ううん、何でもない。里、きて」
千年は改めてうなずくと頬擦りをした。懐かしく甘い女の子の香りが鼻腔いっぱいに広がる。
太股を両手で支えて千年本人に腰を落とさせていき、再び彼女の中へと押し入る。
つぷりと空気の抜けるぬるい水音を立てながら、じわじわと飲み込まれていくと
腰から快楽の震えが迫ってきて、今度は優しく、ゆっくりとだ、と里は心の中で念じながら快感に耐えた。
完全に入ってしまうと上に座った千年の重みが一点に集中されて、鼓動にあわせてぞわぞわと疼く。
動いたらすぐ終わってしまいそうで、背中やわき腹、お尻や太股まで撫でるように触りまくる。
「まだ痛む?」
「奥がじぃんとするけど、痛いわけじゃないから平気。里はどう?」
「千年の中って気持ちよすぎてダメダメになりそうだよ」
「じゃあ抜いちゃおうか」
くすくす笑って口ではそう言いながら下の口はより里をきゅん、と離れないように締めつけてくる。
里の脳裏には、今まで自分を叩き、睨み、呆れ、馬鹿にしていた千年の姿が浮かぶ。
いや、馬鹿にされたりしていない。だって千年が今までぼくを見放した時があったか?
「女の子につらい思いをさせてごめんよ。ずっとそばにいるから。大好きだ、千年」
「里、僕ね……今、ものすごく嬉しいんだ。こうして抱き合うのって、……幸せ」
頭をとろけさせるようなうっとりとした熱い呟きが、ぼやける視界の里の感覚を一層研ぎすました。
こんなに柔らかくて温かな思いが詰まっていたのに、どうして今まで気づかなかったんだろう。
微笑みを交わしながら頬を寄せ合い唇を舐めて頭を撫でる。充足感が全身に回っていく。
片手にすっぽり収まってしまう胸の膨らみを持ち上げるように揉みほぐす。
腰同士の繋がった一体感とはまた別に、無条件で引き寄せられる女の子特有の心地よさは
まるでお風呂につかっているような温かみがあった。
「あふ、ぅん……ぁ、あんん……」
まだ柔らかい乳首の先を指の腹で軽くつぶしながら、手のひら全体でなめらかさと弾力を楽しむ。
「千年のおっぱいも柔らかくて気持ちいいよ」
「んっ……、気を使わなくてもいいんだ。小さいのは分かってるから」
耳元の少しむくれた声に、あの千年がこんな殊勝なことを言うなんてと無性にいじらしく思える。
「ぼくがいっぱい触って大きくしてあげるよ。……っ痛いっっ!」
「エッチなこと言うからっ、や、……あん! ああぁ、それだめぇ、あ!」
背中をひっかっかれたので固くなった乳首を指ではさんでこすると、固定された腰をもどかしく揺らし
根元からぐりぐりとかき回すことになって、かえって翻弄されてしまう。
「うわ、そんなにすると、まずいよ、出ちゃう……」
「ぁんっ、出して、僕の中に、ねぇもっと深く、僕に突き立てて……ぇ」
のけぞる千年を引き寄せると立ち上がった乳首が里の胸でこすれ、更にびくびく跳ねながら
恋人を求めて涎を垂らし汗と熱にまみれた淫らな姿をさらけ出して喘いだ。
ずっとこのままでいたいと思う。離れるのが名残惜しい。
でも、もう限界だった。
「もっとつよくっ、あ、っ、ぁんいいっっ!あっあっあっ、あふっ、ぁあっあっ!」
ぎゅっと押し込むと勢いで何度もソファが軋んで、奥をこつこつ突くごとに千年は一層甘く声をあげた。
抜いて空いた隙間を埋めるためにより動きは強く激しくなっていく。腰同士がぶつかるといやらしい音が響いて、
よがる千年の襞はますます絡み付いて、そのたびに背筋を走る電流は高まる射精感と合わせて里の頭を灼き、
何も考えられなくしていった。
真っ白に溶けていきながらお互いだけを求めて絶頂へ向かう。
「里ぃ、あぁぁあんんっ、あ、だいすきぃっ、好きよ、好きぃっーーーっ!!」
「ちとせっ大好きだぁっ!」
必死にしがみつく千年が里の腰を脚で押さえつけ、最奥へと引きずり込んできつく締め上げる。
再び彼女を襲う痙攣が伝わる間もなく、里も込めた思いを迸らせて果てた。
「ごめん。また中に出しちゃった……大丈夫だった?」
「うん。心配しないで。……………………ちせには、…………負けたくなかったんだ……もん。
もう少し、そのままで……、抱きしめて」
鼻を鳴らして可愛く拗ねるのは本当の本当にあの千年?! まだ慣れずに切なく訴える黒い瞳にどぎまぎした瞬間、
お腹がぐぅと鳴って、顔を見合わせ一緒に吹き出した。
「お母さんの作り置きのカレーならあるけど、食べる?」
「んー、頑張って帰るよ。駅まで送って」
かなり後ろ髪を引かれる思いだったが、そのまま泊まってしまいそうなのでそれはやっぱりまだ早い。
もう一度、お互いの体温を確かめ合って離れた。
翌朝、マンションから出てきた千年は里を見つけて目を見張った。
「良かった間に合ったんだー。おはよう、千年」
「里……どうして?」
「ちゃんと学校に来るかどうか気になったから。みんなも心配してたんだよ」
「連絡くれればせめて駅で待つとかしただろ、迷うくせに自分が遅れたり、僕とすれ違ったりしたら
どうするつもりだったんだよ!」
「会えさえすれば千年が連れて行ってくれるから信じてた。それに……彼女と登校するって夢だったんだ」
さあっと千年の顔が朱に染まる。
彼女、と何のためらいもなく言葉にすることができる。自分の気持ちを素直に出す喜びを
里は一晩経って改めてかみしめていた。
「……まったく、僕がついてないと何も出来ないんだから」
「うん。ぼくは一生、千年の子分だよ」
「開き直るんじゃないっ」
「素直になるっていいことだよね。千年、今日も可愛い」
「さ、里。調子に乗るなよ、この……」
振り上げた手に、いよいよ殴られるかと里は目をつぶるが、意外にも待ち構えた頬の痛みは
優しく柔らかく、ちゅっと音を立てた。
「……迎えに来てくれてありがとう」
頬を染めてあわてて離れる一瞬、夏の夜に、自分を見つめてくれたあのおだやかでひたむきな、
女の子の姿が重なる。笑顔で返そうとしたところにごつんと後ろ頭へ衝撃が来た。
やっぱり叩くのかよ、と言いながらキスよりも顔がゆるむ気がした。
「体育祭で3200M走に立候補しようと思うんだ。千年、練習に付き合ってほしいんだけど」
「せいぜい頑張れば。……ちせも、応援に来るかもしれないし」
向こうを向いて、切りそろえたおかっぱの髪の先だけが揺れている。
「明るくないと感覚がつかみにくいから公園で朝とか夕方に走ってみたいんだ」
「調子がよければ来るかもね。里が一生懸命走ってる姿、…………好きだって言ってた」
言い終わるか否や駆け出して行ってしまう千年を見ながら、里は少し考えた。
すぐに追いついて返事をするか、しばらく後を付いて行ってみるか、どうしようか。
とりあえず、走り始めながら声をかける。
「ま、待ってくれよ、千年!」